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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第3話 時間と期間

 今までのメリッサは妊娠している、と言われても変化が分からない容姿をしていた。

 時期的な事もあって疑うことはなかった。

 だが、触ってみて感じられたのは獣人と同じくらいに成長した子供だ。

 そして、そんな様子を見ながらディアが「幻術を使っている」と言った。


「よく分かったわね」

「はい。何となく違和感があったので目を凝らして見てみたんです。そうしたら、本当の姿が見えてきた、という感じで……」


 ディアにもよく分かっていないようだ。


「私たちが狩り場にしていた森には幻術を使って姿を変える魔物もいたんです。その魔物は気付いたら逸れた仲間と入れ替わっていて、油断したところをバッサリやるので幻術を見破る訓練は全員が受けますよ」


 訓練と言っても単純だ。

 そんな魔物を相手にしている内にシオドア族にも幻術が得意な者が現れるようになった。

 その人物が掛けた幻術をひたすら観察するだけ。

 訓練している内に本物と幻覚を見分けられるようになる、らしい。


「なるほど」


 ディアがメリッサの幻術を見破れた理由は分かった。


「あの……」

「あ、悪い」


 ずっと触れたままだったメリッサから離れる。


「俺たちに状態異常は通用しないはずなんだけどな」


 幻覚を見せられている状態は、状態異常として見做される。

 迷宮主と眷属には【迷宮適応】のスキルがある。それを使えば迷宮内なら、どんな状態異常にも掛からない。正確には迷宮内ではないが、屋敷でも迷宮と同じ効果が得られるため掛からないはずだ。


『それは敵から受けた時の話だね』


 迷宮核が教えてくれるが、味方が掛けてくれた状態異常はステータスを上昇してくれる魔法として見做されるため何もしていなければ普通に掛かる。状態異常を解除する為には個別に指定する必要があった。

 まさか、俺もメリッサが味方に幻術を掛けるなど思っていなかったので受け入れる設定のままにしておいた。


 ちょちょっと操作して掛からないようにする。


「ああ……!」


 メリッサも俺に気付かれたことが分かったのか声を挙げていた。

 はっきり言って今のメリッサは普段からは想像もつかないほど隙だらけだ……その理由が分かった。


「どうして獣人のノエルと同じくらい大きくなっているんだよ」

「これは、その……」


 言葉もしどろもどろになって言い訳すら出てこない。


「……白状します」



 ☆ ☆ ☆



「時空魔法!?」

「はい。その通りです」


 妊娠期間の間は当然のように冒険について来ることができない。

 初期段階の内は大丈夫だろうと海へ行くことは許可した。だが、ノエルはそろそろ【転移】による長距離の移動を止めるつもりでいた。空間の移動が与える影響がどれくらいあるのか分からないためだ。


 それに妊娠中では思うように体を動かすことができない。

 そんな生活が1年近くも続くのがメリッサにとっては問題だった。


 そして、同日に妊娠したノエルは獣人だから、というだけで復帰まで半年で済ませることができると知った。

 焦ったメリッサの考えた方法が、自分も妊娠期間を短縮させる、だった。


「そんな事が可能なのか?」


 10カ月を6カ月への短縮。

 魔法を使っても可能だとは思えない。


「それは大丈夫です。既に実証済みです」

「……何をした?」


 尋ねるとメリッサの顔がアイラとシルビアへ向けられる。


「あたしたち?」


 アイラには何かをされた覚えは全くなかった。

 今回の一件に関しては誰も知らなかったため全員で事情聴取を行っている。


「最初は出産の少し前に体調を崩したアイラさんでした」

「ああ、どうしても我慢できない時があってメリッサを頼って回復魔法を掛けてもらったことがあったわ」


 仲間想いなメリッサは頼られたため応えようとした。

 しかし、つわりは体に異常を来しているのとは少し違うので回復魔法による効果がなかった。できたのは、体力を回復させることぐらいだった。


 その後、色々と試しても駄目だったメリッサが見つけた方法が時空魔法だった。


「簡単に言いますと体調が悪い状態を脱する為に時間を速めたのです」


 その影響を受けて胎児が少し成長。

 その結果、体調の悪い時期を脱することができた。


「同じようにシルビアさんからも頼られましたので、今度は計画的に行いました」


 早い時期から体調を崩していたシルビア。

 しばらくすると乗り切れるようになっていたが、それにはメリッサが手を貸していた。


「3人とも普通よりも早く生まれてきたでしょう」


 早産だと言われて不安になっていた。

 だが、生まれてきた子供は3人とも未熟児という訳でもない、普通の健康な子供だった。


「それはそうですよ。きちんと母親の胎内で10カ月過ごしたのと変わらない状態まで成長してから生まれてきたのですから」


 メリッサの時空魔法を受けた結果、1カ月早く生まれてきた。


「まあ、そのことには感謝しているけど」


 本当に辛かったシルビアは文句を言えずにいた。


「何をしているのかは分かった」


 アイラとシルビアにしていた事を今度は自分にしていた。

 既に3人目なため慣れたものなのだろう。


 だが、全く同じという訳でもない。


「アイラとシルビアにした1カ月の短縮とは違って、お前は4カ月も短縮するつもりなんだろ。大丈夫なのか?」


 母であるメリッサに与える影響。

 それに無理な成長をしたことで子供にどんな影響があるのか分からない。


「それなら大丈夫です。ノエルさんを参考にしていますから」

「え、わたし……!?」


 ノエルを、というよりも獣人の成長速度を参考にしながら成長を促している。

 同日に妊娠したからこそ参考にすることができた。


「それで、影響は?」

「子供にはありません」

「……には?」

「既に体調が悪いため近場での依頼を引き受けるのも困難な状態です」


 辺境なので強力な魔物が出現することもあるため討伐してほしい、という依頼もある。

 強い魔物を相手にする時は基本的に全員で赴くのだが、最近のメリッサは常に屋敷で休んでいたし、ノエルも前回は体調を崩して休んでいた。


 ノエルの体調悪化は一時的だ。

 しかし、メリッサは体調がいい日の方が少ない。


「そんなに辛いのか?」

「知られてしまいましたから正直に言いますが、体調のいい日は回復魔法で体を維持しているようなものです」


 つまり、回復魔法がなければ満足に動く事もままならない。


「本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫です」


 そこだけはキッパリと言い切るメリッサ。

 彼女なりの思惑があるのだろうが、こちらも聞いておかなければならない。


「今の状態は私の我儘みたいなものですから迷惑を掛けてしまっています」

「そんなこと……」

「そうそう。メリッサだってあたしたちの時は協力してくれたんだから」

「少しは頼ってくれてもいいのに」

「そうかもしれません。ですが、あまり時間を掛けたくないのです」


 ある思惑があった。

 残った居所の分かっている迷宮主。その人物が管理している迷宮はガルディス帝国にあり、現在は国境を接しているグレンヴァルガ帝国と小競り合いをしている。常に戦っているような国々で、今は落ち着いているものの国境周辺の警備は非常に厳しくなっている。


 行くのは不可能ではないが危険を伴うことになる。

 それよりも戦争が難しくなる冬にタイミングを見計らって行く、という計画を立てていた。


 ガルディス帝国への潜入に同行するつもりなら普通なら絶対に間に合わない。

 出産後のリハビリなどもあるので獣人と同じペースで成長させる必要があった。


「……本当に大丈夫なんだな」

「ちょっとマルス!?」


 メリッサの行動を認めるような言葉にアイラが声を挙げる。


「お前だってメリッサが賢いのを分かっているだろ。こいつが、やろうとしている事の危険性も理解したうえで実行している最中なら絶対に止めない」


 止められるとしたら理路整然と説くぐらいだが、メリッサを説き伏せられる自信はない。後は、主としての強権を使用するぐらいだが、それだけは絶対にやりたくない。強権を使用するぐらいならメリッサの好きにさせる。


「やりたいなら止めないけど、体を最優先に考えろよ」

「分かりました。ただ、こういった事情から山脈での活動は難しいと思われます」


 メリッサとノエルの留守番が決定した。


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