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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第2話 ディアの突撃訪問

 シオドア族のディア。

 サボナ近郊にある森の中で生活をする狩猟民族で、戦闘に長けている。

 旅行で訪れた際にちょっとしたトラブルから衝突することになったが、それらの問題は既に解決している。


 しかし、解決したことで新たな問題が発生していた。


「来ちゃいました」


 えへへ、と申し訳なさそうな笑みを浮かべながら謝るディア。

 戦闘をしていた時は、凛々しい少女といった感じだったが、今の姿は年齢相応の少女といった柔らかい雰囲気だ。

 ……それがいけなかった。


「マルス君」


 隣にいるルーティさんからジトっとした目を向けられる。

 何を言いたいのかは理解している。


「ち、違いますよ……」


 慌てて否定するも事が起こってからでは手遅れだった。ここは荒くれ者の集まる冒険者ギルド。人の少ない昼前の時間を狙って来たとはいえ、まだ多くの人がギルドに残っていた。


「おいおい……今度は年下の少女だぞ」

「とうとう、あんな子供まであいつの所へ行くのかよ」

「年下の子はマズいだろ……」


 冒険者たちから呆れた視線を向けられる。

 彼らは俺がディアを誑かしたとでも思っている。パーティメンバーは全員が冒険者では数少ない可愛らしい少女。しかも、5人のうち2人に子供を産ませている、というのはアリスターにいる冒険者たちの間では有名な話だった。


 女性関係の話題は、あっという間に広がってしまう。

 このままだと俺とディアがそういう関係だと噂されてしまう。それは、よろしくない。


「違う! この子はエルマーに会う為に来たんだ」

『……ああ』


 何故か、その場にいた全員が納得していた。


 後から聞くと俺の保護下にある少年ということでエルマーも有名になっていた。そして、そんなエルマーまでどこか遠くへ出かけたことで女の子を連れて来るようになった。

 俺の弟子として噂が広まるようになった。



 ☆ ☆ ☆



「シオドア族のディア。本日よりお世話になります」


 屋敷のリビング。

 たまたま今日は母やエルマーたちも時間が空いていたということで屋敷にいてくれたので挨拶をすることができた。


「いらっしゃい」


 母が優しい笑みを浮かべながらディアを迎え入れる。

 もう息子のように思っているエルマーを慕う少女、ということで快く受け入れていた。


「……お世話になる、とはどういう事?」


 屋敷の中で最も困惑しているのは当事者のエルマーだった。

 サボナからアリスターへ帰る時、ディアは別れの挨拶をすることなく姿を消していた。その時にエルマーが少し寂しそうな顔をしていたのをしっかりと見ていた。


「はい。私はマルスさんに言われて仲良くなる為に『島』まで行きました。けど、それでは全く足りません」


 もっと長い時間を一緒にいることにした。

 しかし、二人がいるのはアリスターとサボナ。かなりの距離があるため簡単に会うことはできない。


 だから、ディアは自分がアリスターへ行くことを決心した。


「父と母からは、ある条件を呑むことで私がアリスターへ行く事を許可してもらいました」


 そう言って背負っていたリュックから手紙を取り出して俺へ渡す。

 差出人はディアの父親と母親。内容は、エルマーの許へ行くと頑なに譲らない娘をよろしく、というものと俺の許で生活をするのなら里を出て行くことも許可する、という事が書かれていた。


 さすがに娘を誰も頼れる人がいない状況に送り込むことはできなかった。俺なら既に人となりが分かっているから信用できた、という事だろう。


「ダメ、ですか……?」


 無言でいると不安そうにしながら尋ねてきた。

 戦闘力はあるし、はっきりと自分の考えを言える少女だけど、所々に幼さが現れている。


 そうして縋るような視線をノエルへと向ける。


「ノエルさん」


 二人は護衛した仲なので、サボナにいる間でディアが最も親密になれたのはノエルだった。


「屋敷で生活するのは、わたしたちとしては許可できるよ」

「やった!」

「けど、生活をするうえで最も大切なのはエルマーの気持ちだっていうことを忘れないで」


 ノエルの忠告にコクッと頷く。

 頑張ってエルマーにアタックしているディアだったが、当のエルマーからはっきりとした返事を貰えないでいた。

 これから二人は同じ屋敷で生活することになる。


 予想していなかった急展開にエルマーが持ち前の賢さを発揮できずに困惑していた。


 困っているエルマーの肩に手を置く。


「どんな答えを出そうとも俺はお前の考えを支持する」

「マルスさん……」

「けど、後悔するような選択だけは絶対にするな。周囲の気持ちや自分の境遇、そんな事は考慮しちゃいけない。お前の選択に介在することができるのは、『二人の気持ち』だけだ」


 俺の言葉を聞くとエルマーが悩む。

 エルマーは12歳。結婚とかそういう事を考えるには早いが、失敗しても許される子供の内には悩んで、どうするのが自分にとって最善なのか答えを選んだ方がいい。

 真面目なエルマーは自分なりの答えを出そうとする。


「それと、あの子が本気な事は考慮しろ」


 親元を離れて辺境まで来た。

 しかも、俺たちが受け入れなければ引き返さなければならない。いくら戦士として強くてもここまでの道のりをたった一人で移動して来るには相当な覚悟が必要になる。


 それに彼女が知っていたのは俺がアリスター所属の冒険者だという事のみ。

 アリスターのどこに住んでいるのかも教えていなかった。だから数少ない情報から冒険者ギルドで俺の屋敷がどこにあるのか教えてもらおうとしていた。ただし、個人情報が簡単に開示されることはないため粘ったところで教えてくれることはなかったし、困っていたところを心無い人間に騙されていたかもしれない。


「分かりました」


 少しでも参考になれば、とディアを中心にして楽しそうに談笑している女性陣を見る。女性陣は女性陣で思い切った行動に出たディアの話題で花が咲いていた。


 ただ、不穏な言葉が聞こえて体が震える。


「母からは、シオドア族の女戦士なら狙った獲物は必ず仕留めなさい、と言われました」


 この場合の獲物はエルマーの事だ。

 獲物として扱われている状況が少々不憫に思えてしまう。


「それにしてもノエルさんは妊娠していたんですね」

「まあ、ね」


 二人が出会った1カ月前は妊娠しているなど思えなかった。まあ、妊娠してから10日程度では本人も気付いていないのが普通だ。


 そして、1カ月後が経過したことで膨らみが現れ始めていた。

 獣人の子供は成長速度が速い。獣の特徴が少し影響しているようでノエルを産んだノンさんによれば半年ぐらいで生まれてくるだろう、という事だった。


 身近なところで出産したのはアイラとシルビア。どちらも一般的な妊娠期間よりも少しばかり早く産んだので不安だった。それよりも短い期間で出産する、と聞いて既に不安を隠せないでいた。

 アイラとシルビアが妊娠していた時の様子と比べると今は妊娠4カ月ぐらいだろうか。ここから成長が緩やかになって半年ぐらいで生まれてくる。ただし、二人が既に早産だったことを考えるとノエルも早目に産む可能性を考えておいた方がいいと言われた。

 いつでも対応ができるよう出産時期が近くなればアリスターにいるつもりでいる。


「触ってもいいですか?」

「どうぞ」

「ふわぁ」


 恐る恐るといった様子でノエルのお腹を触っている。まだ微かに分かる程度でも実感することができる。

 やはりディアも女の子なのだろう。新しい命を感じて感動していた。


 そうして1分近くすると満足したのか離れる。


「うん? う~~~ん……」


 満足していたディアが唸る。

 その視線がメリッサへと向けられる。


「……メリッサさんも妊娠していたんですね」

「……ッ!」

「よく分かったな」


 獣人と違って普通の人間のメリッサでは、まだ見ただけでは妊娠していることが分からない。


「それは分かりますよ。ノエルさんと同じくらいですからね」


 同じくらい。

 その言葉は正しいようでいて、正しくない。

 ノエルとメリッサの妊娠時期は同日なので『妊娠期間』が同じと言えば同じである。しかし、獣人と普通の人間では胎児の成長速度が違う。同じような『状態』には決してならない。


「え、でも……触ってもいいですか?」

「……いいですよ」


 躊躇いがちに許可を出す。

 女の子からの要望を断れるはずがなかった。


「やっぱりノエルさんと同じくらいの大きさを感じられますよ」

「え……」


 そんなはずはない。

 一言メリッサに断りを入れてから俺も触らせてもらう。いくら父親とはいえ了承を得ずに触る訳にはいかない。


 触ってみて分かった。

 たしかにはっきりと分かる。


 ……どういう事だ?


「そもそも、どうして幻術なんて使っているんですか?」


 その答えはディアから齎された。



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