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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第1話 ドラゴンの報せ

 冒険者ギルドからの呼び出し。

 高ランク冒険者である俺たちには指名依頼が入ることがある。

 掲示板に貼り出して誰が受けるのか分からない通常依頼と違って特定の冒険者を指定して引き受けてもらえるというメリットがある。特定の相手に依頼しているため、どうしても通常より依頼人の立場が低くなってしまうため報酬が高めになってしまうというデメリットがある。


 俺たちのパーティは、頻繁に指名依頼を受けることがない。

 と言うのもAランク冒険者が5人もいるパーティなので依頼の達成率を考慮して指名したい依頼人は多い。だが、あまりに多いため報酬が莫大になる。そのため依頼を出す為には上級貴族ぐらいの経済力が必要になる。


 サボナから戻ってきた1カ月後。

 冒険者ギルドから呼び出しを受けた。


 どうやら指名依頼らしい。使いの職員は詳しい事情を知らなかったが、どうやら冒険者ギルドの方で頼みたいことがあるらしい。

 高ランク冒険者は、拠点登録したギルドから様々な恩恵を受けている。そのため緊急性がある、ギルドが判断した依頼は必ず引き受けなければならない。それが強制依頼だ。

 1カ月前にあったキマイラ討伐も強制依頼だったためアリスターにいた高ランク冒険者は全員が引き受けざるを得なかった。

 簡単に聞くと指名依頼とはいえ、強制依頼に近いらしい。


「失礼します」

「いらっしゃいマルス君、イリスさん」


 冒険者ギルドへ入ると担当のルーティさんが真っ先に出迎えてくれる。

 今回、冒険者ギルドでの用事ということでイリスについて来てもらった。というか他のメンバーは屋敷で色々とやる事があるため来られない。最近は、家庭の事情からイリスが傍についている。


「指名依頼の件ですね。ついて来てくれますか」


 ルーティさんに案内されたのはギルドの奥にある個室。

 依頼人と個別に相談したり、機密の依頼を引き受けてもらったりする時など他者に聞かれると困る話をする時に利用する部屋だ。


「今回マルス君たちのパーティに依頼したい事は、王国の北端にあるノーズウェル山脈である魔物を討伐してほしい、というものです」


 王国の北には巨大な山脈がある。

 岩肌の多い山々で人が生活するには向かないうえ、山脈の向こう側にある海から凍て付いた風が吹きつけてくるため植物もほとんどが枯れてしまう。不毛の大地とされていた。


「たしか、あそこは魔物の巣窟になっていたはず」


 パーティ内でノーズウェル山脈へ唯一行ったことのあるイリスが呟く。

 山脈は、大昔から何百種類という魔物の巣窟になっている。常に魔物の縄張り争いが起こっており、弱い魔物は強い魔物によって淘汰されている。


 そして、そんな場所にしかいない魔物もいる。そんな魔物は貴重なため狩って大金を得ようとする冒険者が僅かにだがいる。


「私がノーズウェル山脈を訪れたのは、山脈にいる魔物の数が溢れ過ぎたせいで近くにある村が襲われそうになって冒険者ギルドに依頼が出されたから。まさか、また魔物の氾濫(スタンピード)でも起こったの?」

「いえ……」


 ルーティさんが口を噤む。

 それだけ今の状況が逼迫している、という事だ。


「まだ、目撃情報だけですが、ある魔物が山脈に現れた可能性があります」

「ある魔物?」

「はい。(ドラゴン)です」

「……!?」


 ドラゴン、と聞いてイリスが驚いていた。

 一方で俺はどう反応すればいいのか分からないでいた。


 ――ドラゴンって、あのドラゴンだよな。


 巨大な蜥蜴に翼が生えた姿をイメージする。

 強いだけでなく、知能も高いため迷宮でもボスクラスの魔物として階層の統括を任せていることがある。


「でも、ドラゴンはノーズウェル山脈にもいたはず」


 かなり奥の方になるが、ドラゴンが住んでいるのをイリスは確認していた。


「はい。ドラゴンの姿が目撃されたのが冒険者でも滅多に訪れないような奥地だったら何も問題がなかったんです」

「もしかして……」

「はい。麓にある村にまで来ました」


 目撃したのは普通の村人。

 山脈から出てきたドラゴンは、村の上空をグルッと一周すると何もせずに山脈へと引き返してしまった。


 その時には村に被害がなかった。

 だが、ドラゴンを恐怖の対象としか見ていなかった村人は「何らかの凶兆では……」と不安になってしまった。


 そこで、冒険者ギルドへ偵察の依頼が出された。


「俺たちに偵察して来い、と?」


 たしかに相手がドラゴンならばAランク冒険者の力が必要になる、というのは頷ける。

 ただし、態々メティス王国の反対側にあるアリスターの冒険者にまで依頼を出すかと言えば疑問が残る。


「もちろん違います。偵察は既に現地の冒険者によって行われます」


 問題になっていたのは偵察によって得られた情報の方だった。


「偵察した冒険者によると山脈で数十体のドラゴンが確認できた、との事です」


 数十体。

 それは異様な数だ。

 単体で強力なドラゴンは、討伐する為には最も弱いドラゴンでもAランク冒険者なら十人近く必要になる。それだけドラゴンは強い。


 そんなに強いドラゴンが数十体といる。

 もはや、一つの冒険者ギルドだけでは手に負えなくなってしまった。


「数も問題なのですが、それ以上に厄介な事があります」


 山脈にいるドラゴンたちは麓にある村へ向けて飛び出した。

 隣にある村の住む人が見たのは、軍隊のように統率された飛び方をするドラゴンたちだった。

 ドラゴンは、数十体で村を取り囲むと村人が逃げられないように……逃げても即座に殺せるようにして数体のドラゴンで村の中を逃げ回るだけだった村人を次々に虐殺していった。


 そして、数分もすればドラゴンは去って行った。


 その後、冒険者の手によって村の調査が行われたが、夥しい血で建物が染め上げられており、誰一人の姿も確認することができなかった。村で平穏に過ごしていた人たちはドラゴンの腹の中へ収まることになった。


 デイトン村と似たような状況だが、それ以上に厄介だった。

 ドラゴンは誰も逃がすつもりがなく、村を取り囲んでから襲撃していた。しかも、村の調査をして分かった事だが、足跡から村人を襲ったドラゴンは取り込んでいたドラゴンよりも小さな個体である事が推測された。

 どうやら、子供のドラゴンもしくは力の弱いドラゴンに狩りの練習をさせていたらしい。


 ドラゴンを指揮している者には群れ全体の力を底上げしようという知性がある。

 それだけで厄介な存在だ。


「事態を重く見た冒険者ギルドは、高ランクの冒険者へ緊急依頼を出しました」


 ドラゴンの討伐。

 どのような方法でも構わない。他のパーティと組んでもいいから少しでも多くのドラゴンを討伐してほしく、通常よりも高い金額でドラゴンの素材を買い取ると通達を出していた。

 その依頼は、近隣にも出された。


 それでも戦力が足りないと判断した冒険者ギルドは、遠く離れた場所であってもAランク冒険者に声を掛けることにした。

 そうして、俺たちの所へも依頼が届いた。


「引き受けてくれますか?」

「もちろん構いません」


 俺たちには強制依頼という訳ではない。

 そのため断ってもペナルティは発生しないが、ドラゴンの討伐というところに惹かれた。ドラゴンは肉体そのものが非常に多くの魔力を秘めている。売れば大金が手に入るのだろうが、それ以上の価値を【魔力変換】すれば得られる。

 なによりもドラゴンを統率できる存在だけは確実に手に入れたい。


「ただし、ちょっと仲間と相談してから決める」


 今回も危険な依頼である事には変わりない。

 そのため眷属の皆もついてくる気満々なので、イリスが少しだけ答えを保留にするよう要求した。


「もちろん大丈夫です。ただし、依頼を引き受けるつもりなら急いだ方がいいですよ」


 既に近場の冒険者たちは現地で待機している。

 俺たちの場合は、ここから現地までの移動時間も必要としているため到着した頃には現地の冒険者の手によって全て狩られた後、という事も考えられる。

 遅くとも明日の朝には出発した方がいいだろう。


 依頼内容は聞いたのでルーティさんと一緒に個室を後にする。


「だから、マルスさんのいる場所を教えてほしいの!」

「……ん?」


 冒険者ギルドの入口――受付カウンターの方から怒鳴り声が聞こえる。

 それに俺の名前が聞いたことのある声で呼ばれたことによって思わず意識がそちらへと引き寄せられてしまう。


「……ディア?」

「マルスさん!」


 俺の姿を見つけた少女が駆け寄ってくる。

 サボナの近郊で生活しているシオドア族の少女であるディアがいないはずのアリスターで俺を探していた。

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