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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第30話 神の恩恵―前―

 『島』が沈み始めてから他の冒険者たちと一緒に離れる。

 合流して脱出することができたのは3組。他の3組のパーティについては『島』を探索している最中に脱出が不可能な状態になってしまったのだろう。


 どれだけ心配しても、もう助けるのは無理な話だ。

 まだ『島』に残って生きていたとしても結界から抜け出ることは普通の人間なら問題なくできるが、ニコラスと違って抜け出た先からが大変になる。なにせ『島』の外は既に海中。結界を出た瞬間から決死の脱出劇が始まることになる。

 俺たちにできるのは「頑張って」と祈ることぐらいだ。


 そうして『珊瑚亭』の近くにある砂浜へと辿り着くとギルドマスターであるジェフリーがポカンと口を開けて待っていた。後ろにいるギルドの職員たちも同様だ。


「ただいま、戻りました」

「それは、分かっています。ですが……」


 彼の視線は海の向こうにある『島』へと向けられている。

 海の底へと引きずり込まれるように沈む島などそうそう見られるものではない。


「あの『島』は明日の朝には跡形もなく沈んでいることでしょう」


 完全に沈没するには数時間を必要としている。

 とはいえ、明日からは以前と同じように営業できるはずである。


「一体、何があったのか説明していただけますか?」


 さて、どこまで話すべきか?

 もちろん詳細など話せるはずがない。『島』にあった迷宮の事もそうだが、神に関する諸々は説明したところで理解されるはずもない。何よりも俺たちが神と関係していると知られたくない。


 なので要点だけを伝える。


「あの『島』にはリゴール教の幹部が来ていました。そいつが持っていた魔法道具には『島』を浮上させる力があったらしいです。結局、戦闘になってしまったのでどうにかしたところ『島』も沈むことになりました」


 ニコラスの姿は3組のパーティが見ている。

 見た、と言っても海の上から遠くにいる人間とは思えない気配を放つニコラスの姿を確認しただけ。それでも『島』に異様な気配を放つ“何か”がいたという証言はしてくれる。

 まあ、詳細をごっそりと省いているので信じてもらえるかは怪しい。


 そして、ジェフリーが何かを定めるような視線を俺へ向けてくる。女性陣や子供たちをそんな視線に晒す訳にはいかない。俺が率先して前に立っているためジェフリーは俺へ向けるしかない。


 やがて、ジェフリーから溜息が漏れる。


「分かりました。ギルドとしては、そのように処理します」

「ですが、ギルドマスター」

「貴方の言いたい事はよく分かります。ですが、問題は解決されました。過程に何らかの問題があったとしても、この事実が覆ることありません」


 不満そうな表情を露わにするギルドの職員を窘めるジェフリー。

 これから帰ってリゴール教について調べることになる。そうすれば、数日前にアリスターで起きた出来事について簡単に行き着くことができる。

 そこからリゴール教の異様さに気付き、勝手に解釈してくれるはずだ。



 ☆ ☆ ☆



「それじゃあ、問題の解決を祝って――乾杯!」

『乾杯』


 酒の入ったグラスを手に乾杯の音頭を取ると全員がグラスを掲げる。

 場所は、『珊瑚亭』の前にある砂浜。テーブルを並べて立ったまま食べられる料理と酒を置けば、簡単に宴会場へと様変わりする。


 打ち上げには『島』へ行った俺と眷属、それからエルマーたちが参加している。


「俺たちまでいいのか?」

「気にしないでください。あ、費用も気にする必要はありませんよ」


 そう言ってベテラン冒険者を安心させる。

 今回の依頼の報酬に『珊瑚亭の宿泊料金無料』がある。

 依頼人が想定していた人数を超えることになるが、こちらから「冒険者たちも招待して派手に騒ぎたい」と言えば無碍に断られるようなこともなかった。


 女将さんたちも『島』には本気で困っていた。

 だからこそ、こちらの要望には黙々と従ってしまう。


「費用の事じゃ……いや、助かるのは事実なんだが……俺たちは『島』で何もやっていないぞ」


 たしかに『島』で数日を過ごし、ニコラスや瘴気の魔物に対しては何もすることができなかった。


「けど、貴重な情報を貰うことができました」


 彼らが先に探索してくれていたからこそ『島』の中心に怪しい場所――迷宮核が安置されていた場所――を知ることができ、瘴気の魔物についても事前に最低限の情報を得ることができた。

 これは非常に助かった。

 もしも、彼らがいなかった場合には『島』を自分たちの足で探索しなくてはならなかった。

 そうなると、探索にどれだけの時間が掛かったのか分からない。


「俺たちからのちょっとしたお礼ですよ。今回の依頼では、それほど多くの報酬は出ないんでしょう」


 依頼に参加するだけでも報酬は出る。

 しかし、冒険者ギルドの要望に沿った結果が得られなかったため最低限の報酬しか出ない。その報酬も『島』で何週間も過ごしてしまった事を考えると赤字になってしまう。

 俺からのささやかなプレゼントだった。


「そういう事ならありがたく受け取らせてもらう」


 仲間と一緒にワイワイと騒ぎ出す冒険者たち。

 俺もグラスを……そっと置いた。

 もう匂いだけで限界だ。


「マルスさん」


 俺を呼ぶ声に振り返るとエルマーたち4人がいた。

 手にはグラスがあるが、中身はジュースになっている。さすがに子供に酒は飲ませられない。


「よっ、楽しんでいるか?」

「はい。やっぱり皆で騒ぐのは楽しいです」


 ニッコリと笑うエルマー。

 まだまだ幼さは残っているものの俺と違って宴会で騒げる気概があるのなら今後も冒険者として十分活躍することができる。

 ちょうどいいタイミングなので報酬を渡すことにする。


「今日、働いてくれた分の報酬だ」


 『島』の調査依頼を引き受けたことで様々な報酬が得られた。

 が、それらは基本的に俺へと支払われた。エルマーたちも調査に参加したが、ギルドなどから報酬が支払われることはなく、あくまでも俺たちの雇った冒険者、という立ち位置だった。

 だから、依頼が終わった後で報酬が支払われるとしたら俺からになる。

 俺が報酬を渡すことには何もおかしなところはない。


「……!?」

「これは……」

「ちょっと貰い過ぎでは?」

「私は街の事とか詳しくないけど、さすがに貰い過ぎだということは分かる」


 エルマーへ渡した皮袋の中には金貨が40枚入っていた。

 一人当たり金貨10枚。

 貰い過ぎだと4人は思っているようだが、妥当な金額だと俺は思っている。


「こんなに貰えません……!」


 突き返してくるエルマー。

 しかし、俺に受け取るつもりはない。


「今回、お前たちの活躍がなかったらここまでスムーズに事は進まなかった」


 4人が護衛に就いてくれたからこそ眷属の4人に消耗を強いることができた。

 もしも、護衛に就いてくれる者がいない状況だったなら俺はあんな無理矢理な方法で再封印をするような真似はしなかった。そうした場合、全く異なる方法を模索する必要があったため時間が掛かったのは間違いない。それよりも、事態を解決する術が他にはなかったかもしれない。

 そう考えると彼らがいてくれたのは本当に助かった。


 無理矢理に納得させる。


「……分かりました」


 渋々といった様子で受け取る。

 とはいえ、大部分は俺への返済に充てられることになるので、大金を渡したという感覚にはならない。


「そのお金は自分たちで考えて使うように」

「考えて……」

「今回、瘴気の魔物とも十分に戦うことができていたけど、それはティシュア様の【祝福】があったから、っていうのは理解できているな」


 俺の言葉に4人とも頷く。


「そうだな。最終的な目標としては【祝福】なしで、あの時と同じように戦えるようになること」


 さすがに【祝福】なしだと瘴気の魔物を倒すことはできない。

 それでも、あの時と同じように戦えるぐらいには強くなってほしい。装備を整えるなり、レベルアップの為に魔物と戦う為の道具を買い揃えるなりと金の使い道は色々とある。

 賢いエルマーは俺の言いたい事が分かっているらしく考え込んでいた。


「ま、難しく考える必要はないさ」


 そう言って安心させようとした。

 しかし、納得していない、と言うよりも申し訳なさそうな表情をした少女がいた。


「あの、私まで貰ってもいいのでしょうか?」


 ディアだ。


「どうして?」

「だって、私は仲間という訳ではありませんし」

「ディアだって協力してくれたんだ。どう使うかは自由に決めればいい」


 まず、4人は金貨を均等に分ける。

 そこから自分なりに使い道を考えるようにしていた。


 俺は4人から離れる。

 どうしても確認しなければならない事があったからだ。


「どういう事なのか説明してもらいましょうか」

「ふぁい?」


 串焼きを頬張ったティシュア様が声を掛けられてキョトンとしていた。

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