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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第27話 砕けたプレゼント

シルビア視点です。

「この……!」


 ピョンピョンと飛び跳ねる魔物に向かってジェムが剣を振り下ろす。

 けど、人よりも大きな巨体に似合わない俊敏さを持ち合わせている魔物が軽々と回避する。


 そして、拳を構えて突き出してくる。

 ジェムが剣で受け止める。普段なら耐えられないような攻撃だけど、ティシュア様から受け取った【祝福】のおかげで互角に戦うことができている。


 魔物――たしかカンガルーという名前の獣を模した魔物。

 実際にカンガルーを見たことはないけど、本で読んだことがあって知っていた。


 カンガルー型の魔物から浴びせられる拳の連打。

 それを自分の武器である大剣で受け止めるジェム。


 対応は出来ている。

 けど、致命的な事を忘れていた。


 ――ピキッ!


 その場にいる誰にも聞こえた。

 次の一撃を剣で受けた瞬間、ジェムの使っていた剣が攻撃に耐え切れずに砕けてしまった。


「そんな……!」


 ジェムの剣は、アリスターに来たばかりの頃は自分たちで貯めたお金で買った安物の剣だった。ただ、上を目指すなら上質な物を使った方がいい。

 そこでジリーの杖と一緒に誕生日プレゼントに渡してあげた剣。


 二人とも誕生日プレゼントを凄く喜んでくれていたのを本当に覚えている。


 誕生日、と言ってもジェムとジリーの二人が勝手に決めた日。物心ついた頃から街のスラムにいて、自分の誕生日はおろか親の顔すら知らない二人。誕生日を祝ってくれる親がいる街の子供の姿を羨ましく思いながら、その日を自分たちの誕生日にしようと決めた。

 けれど、誕生日を決めただけで自分たち以外の誰かが祝ってくれることはなかった。

 だから、生まれて初めて祝われた日に誕生日プレゼントを手にしながら涙を流していた。


「よくもやったな……!」


 ジェムにとっては人生で初めてのプレゼント。

 それが、粉々に砕けてしまった光景を見て砕けた剣で殴り掛かる。砕けていても根元の部分はまだ残っている。殴り掛かれば鈍器として使用することはできる。


 けど、それには危険が付き纏う。

 そんな危険を冒せるようになる為に武器を買い与えた訳じゃない。


 ――タンッ!


 ナイフを投げてジェムと魔物の間に突き刺す。

 緊張状態にあった二人は突然の乱入者に心を乱されて動きを止める。


「ジェム」


 短く名前だけを呼ぶと収納リングにある大剣を投げ渡す。

 わたしの見た目から到底持てないような重たく大きな剣だけど、ステータスのおかげで軽々と投げることができる。


「わ、わっ」


 危なっかしくもありながら新しい大剣をジェムが手にする。


「これは?」

「もう少し大きくなったら新しい剣をプレゼントしよう、ってみんなと話をしていたの」


 今ジェムが使っている大剣は、ジェムの今の身長に合わせて買った物。

 けど、成長期真っ盛りのジェムはこれからどんどん伸びる。おそらく、そう遠くない内にわたしたち女性陣の身長は越すんじゃないかっていうぐらい伸びている。

 そうなれば買ってあげた剣は大剣として使うには不十分になる。


 その日が、いつ来てもいいようにこっそりと用意しておいた物。

 今、使うには大きすぎる気がするけど、わたしが持っている大剣はこれぐらいしかない。


「事情は、分かりました、けど! どうして、シルビアさん、が、持っている、んですか?」


 尋ねながらも手にした剣で魔物の連打を捌いていくジェム。防戦一方だけど、対応することができている。

 うん、問題なく使えているみたい。


「だって、最近はわたしが面倒を見てあげていたでしょ」


 力任せな攻撃しか出来ていなかったジェムの為に手が空いていた……と言うよりも時間のあったわたしが色々と指導することになった。

 そういった事から一緒にいる時間が長い。

 単純にわたしが預かっていただけなんだよね。


「くぅ」


 家族の中でわたしが一番付き合いが深いと言われてジェムが照れている。

 ほうほう……随分と可愛らしい反応をするわね。


「ほら、そんな無駄に力んでいると」

「あ……」


 剣を振り上げた瞬間、慣れない重心の移動によって後ろへ倒れそうになる。

 無防備に胸を晒すジェム。そこへ魔物が拳を突き出してくる。

 今のジェムは無防備にしか見えないから仕方ない。


「よっ」


 倒れる勢いのまま地面を蹴り上げると突っ込んできた魔物の顎を蹴り上げる。体の動かし方なんかは、わたしが丁寧に教えてあげたからこういった緊急事態にも対応できる。


 魔物が一歩後ろへ下がる。

 けど、ダメージとしては微量。現に【祝福】を受けたジェムの攻撃なのに魔物が消えるようなことはない。


 お互いに体勢を直して対峙する。

 動くに動くことができない。近接戦闘を得意としている者同士なため迂闊な行動をして隙を晒した瞬間に決着がつくことを分かっている。


 けれども、何もしていなかったとしても隙は生まれてしまう。


 ――ズゥゥゥゥン!


 『島』が大きく揺れる。


「ちょ……」


 剣を支えにどうにか留まるジェム。

 けど、カンガルー型の魔物は突然の事態に揺れている。


「隙あり」


 あ……あっさりと斬っちゃった。

 さすがに深く斬られてしまうと【祝福】の力には抗えなかった。


 ただ、いいのかな?


「今の明らかに揺れたから勝てたようなものだけど、よかったの?」

「いいんですよ。俺にとって最も優先させるべきは、シルビアさんを守り通すことです。シルビアさんがいなくなればアルフが悲しむことになります。それに比べたら個人的なプライドによる勝敗なんて大したことありませんよ」

「もう……」

「わっ」


 一瞬でジェムの背後へ回り込むと抱き寄せて頭をグリグリする。

 気恥ずかしさから逃れようとしているけど、今はわたしがジェムを放したくないから逃がしたりはしない。


「まだ敵が来るかもしれませんよ」

「大丈夫よ」


 きちんと付近に敵の反応がないことを確認してからスキンシップを取っている。

 なにせカンガルーに戦力の大半を集中させていたうえ、残っていた瘴気で作った複数の魔物は全てわたしが排除してある。ジェムの訓練相手には、カンガルー型の魔物が最適だったので他にも登場することなく排除させてもらっている。


 もしも、ジェムが戦っている最中に他の魔物が襲撃を仕掛けていたら、ジェムは確実に負けていた。

 もちろん、そんな事をジェムが知る必要はない。


 苦戦し、勝利していた記憶さえあればいい。


「いえ、それよりもさっきの揺れの詳細を確認しないと」

「揺れ?」


 たしかに揺れた。

 けど、揺れた原因についてはジェムに説明していたはず。あ、本当にそんな風になるとは思っていなくて話半分に聞き流したのかもしれない。

 じゃあ、もう1回説明してあげよう。


「この『島』は沈んでいるのよ」

「いえ、それは聞きましたけど」


 どうやら、よく分かっていない様子のジェムを連れて崖へ近付く。

 崖からは遥か下にある海が見える。断崖に波が押し寄せて飛沫をあげている。


「……っ!」


 海の様子を見ていてジェムもようやく理解してくれたみたい。


「あそこに海面からちょこんと顔だけだしている岩が見えているでしょ」

「はい」

「さっきまでは1メートル以上は海面から姿を晒していたのよ」


 けれども、時間経過と共に海へ沈んで行っている。

 ゆっくりとしたペースだけど、『島』全部が完全に海の中へ沈んでしまうまでそれほど時間は掛からない。


「どうするんですか!? 本当に沈んでいるなら脱出の方法を考えないと」

「大丈夫よ」

「でも――」


 その時、念話が届いた。


「さ、脱出するわよ」


 ジェムを抱き寄せると『島』の入口まで転移する。

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