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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第25話 【祝福】の力

エルマー視点です。

 ティシュア様が頬とはいえ僕にキスをしてくれた。

 神様からのキス。これ以上の祝福はないだろう。


 突っ込んでくる牛の形をした瘴気の魔物。突進を回避すると、擦れ違いざまに斬り捨てる。

 浅く斬っただけの攻撃。

 いつもなら、ここから魔物の心臓に剣を突き刺してトドメを差すところだけど、今日は必要ない。ちょっとの傷を付けられただけで魔物が溶ける。


「剣でこれなら、こっちもいけるかもしれない」


 迫ってくる鳥型の魔物。

 あまり大きくないし、こちらをずっと見ているだけ。おそらくだけど、こっちの監視が目的なのかもしれない。


 魔法で作り出した石の弾丸をぶつけて落とす。

 地面に落ちた瞬間、ベチャッと真っ黒なシミが出来上がった。

 【祝福】のおかげで敵を一撃で倒せるようになっているだけなんだろうけど、目の前で起こった惨状に思わず言葉を失ってしまう。


 魔法も当たるだけで倒せる一撃必殺になっている。

 と言うよりも、僕自身の力が強化されている。2倍とまではいかないけれど、それに近い強さが得られている。


 ちょっとインチキをしたような気になって申し訳なくなる。


「ティシュアさんからの送りものでしょ。ありがたく受け取っておきなさい」


 後ろにいるアイラさんが軽い調子で言ってくれる。

 かなり長い時間を一緒に過ごしたおかげで僕のことが分かっている。

 いつもは元気溌剌とした頼れる大人なんだけど、今は消耗しているせいで木に背を預けて地面に座り込んでいた。


 事情は聞いている。

 今だけは僕がアイラさんを守らないといけない。


 アイラさんに強くしてもらった剣。

 こういう時に役立てなくて、いつ役立てるのか。


 でも、随分と余裕があるんだよね。


「あ、来た」


 接近する犀の形をした瘴気の魔物を見つけてアイラさんが座ったまま剣を振るう。

 何気なく振るわれた剣からは斬撃が飛んで両断する。そのまま犀の魔物は、体を上下に分けたまま地面に倒れる。

 【祝福】を受けた僕とは違う状態だけど、アイラさんの場合は『何でも斬ることができる』からそういう風になるらしい。


 できれば僕もそういったスキルが欲しかった。

 どうやら僕は器用貧乏らしく、簡単なスキルなら色々と身に付けることが可能だけど、どれも一流と言えるレベルには及ばないし、特殊なスキルも身に付けることができないでいた。

 冒険者として一流を目指すなら特別なスキルを持っていた方がいい。その方が報酬のいい依頼も紹介してもらい易くなるし、自分の得意な事が明確な方が無茶な事をしないで済む。


 ただ、もう諦めている。

 僕は、僕でやるべき事をやる。


 鳥型の魔物が森の奥から突っ込んでくる。嘴が鋭く尖っていて、突き出した体勢のまま飛んでいるから僕を串刺しにするつもりなんだと思う。


 突き刺さるまで5秒。

 足元の地面から土の壁を生み出して盾にする。

 進路上に壁が現れても魔物は止まったり、迂回したりするようなことはない。壁を砕いて僕を串刺しにするつもりだ。


 魔物の嘴が土壁を砕く。

 あっさりと砕かれた土壁。勢いを落とすことなく突き進んでいる。


「2枚目」


 だから、砕かれた土壁のすぐ先に新しい土壁を生み出す。

 けれども、2枚目の土壁も砕かれた。


「だけど、勢いは確実に落ちた」


 突っ込んでくる魔物の体を剣で斬る。

 すると、雄叫びに似た声を挙げながら地面に落ちた。

 土壁を破壊できるだけの威力はあった。けど、威力を出す為には直進する必要があったのか真っ直ぐにしか突っ込んで来なかった。壁で一時的にでも動きを止めることができればタイミングを計るのは難しくない。


岩針(ロックニードル)


 先端が鋭く尖った岩が森の奥へ飛んで行く。

 少しすると耳障りな叫び声が聞こえてくる。

 どうやら、当たったみたいだ。


「ひゅ~」


 僕の射撃を見てアイラさんが笑顔になっている。


「……何ですか?」

「ううん、何でもない。ただ、強くなったなって思ってね」

「……」


 思わず気恥ずかしくなって顔を逸らしてしまう。

 僕とアイラさんたちは10歳も離れていない。だから年齢的には姉として慕うのが正しいんだろうけど、どうにも母親に見られたような気恥ずかしさを感じてしまう。本物の母親は、もういないんだけどね。


 居た堪れなくなって話題を変える。


「とりあえず近くにいた魔物は討伐できましたよね」

「こっちに向かっている魔物は多いけどね」


 さっきの光でアイラさんのいる場所はバレている。

 光が見えた場所にいた魔物は全速力でこっちへ来ている。

 僕の役割は、そんな襲い掛かってくる魔物からアイラさんを守ること。最初は無謀だと思っていたけど、【祝福】のおかげで対処もできそうだ。


 そして、今は少しだけ余裕ができた。


「アイラさん」

「なに?」

「魔物を喚び出すことはできますか?」


 僕が質問した瞬間、アイラさんの目付きが鋭くなる。

 こんな目になることは今までに見たことがない。

 それに明確な敵意が込められている。


「どうして、あたしが魔物を召喚できると思ったの?」

「だって――」


 足元にある影を見る。

 以前に何者かから襲われた時に助けてくれた影が人の形をした魔物が僕たちの影の中に潜んでいることは知っている。


 さすがに普通の魔物が僕たちの護衛を引き受けてくれるはずがない。なにせ非常時以外は常に僕たちの影に潜ったまま。魔物にどこまでの感情があるのか分からないけど、人間だったら常に張り付いているなんて耐えられない。

 僕たちを護衛するように命令を出していることをマルスさんから聞いて知っている。

 おそらく、マルスさんは【調教(テイム)】に似たスキル。それに離れた場所から喚び出すことが出来るスキルも持っている。


「喚べるけど、あたしが喚び出せるのはゴブリンぐらいよ」


 アイラさんが魔法を苦手にしていることは知っている。

 だから、強い魔物が喚び出せることには期待していなかった。もっとも、それでも構わない。今の僕が期待しているのは人手。


「【召喚(サモン)】」


 地面に描かれた魔法陣からゴブリンが出てくる。


「あと9体ほどお願いできますか?」

「いいわよ」


 合計で10体のゴブリンが現れる。

 現れたゴブリンたちは意思がはっきりとしているらしく、いきなり見知らぬ場所へ喚び出されてキョロキョロしていた。


 僕の知っている魔物とは違う。

 魔物は、本能のままに人を襲い、自らを成長させ、強くなって力でさらに多くの人を襲うようになる。

 そう聞いていたけど、目の前にいるゴブリンたちは違う。

 きちんと友好関係を築ける。


「ねぇ、ゴブリンさんたち」

「ゴブ!」


 僕の声にゴブリンの一体……ううん、一人が反応してくれる。


「ちょっとお願いがあるんだけど――」


 僕がお願いするのは森に生えている薬草なんかの回収。

 とはいえ、意思はあっても価値のある薬草と価値のない薬草を区別できるほどの知能は持ち合わせていない。たぶんマルスさんが喚べるゴブリンなら可能なのかもしれないけど、アイラさんには不可能だ。ないものねだりをしてはいけない。今は目の前にいるゴブリンたちにお願いするしかない。


 ゴブリンさんたちの知能を考慮して、お願いの内容を変える。


「ゴブリンさんたちの興味を惹くような物を片っ端から回収して」


 薬にできる薬草なら魔力を微量ではあるものの含んでいる。

 知能は低くても美味しい物を見分けることぐらいはできる。

 この『島』は広い。来たばかりの頃に僕とディアが頑張って回収したけど、回収できていない貴重な物はたくさんある。次に来られるのがいつ……いや、来られるかどうかすら怪しい。

 今の内に回収できるだけ回収する必要がある。


「頑張ってね」

『ゴブ!』


 10人のゴブリンさんたちが同時に頷いて周囲に散開していく。

 ゴブリンさんたちの戦闘力だと魔物と遭遇した場合には生き残れないだろうけど、上手くすれば大量の素材を持ち帰ることができるはず。

 ゴブリンさんたちに期待しながらアイラさんを守る為に迫る魔物を倒す。


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