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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第24話 神からの送りもの

ディア視点です。

 力を失ったらしいノエルさんが倒れる。

 さっきまで全身を強い光が包み込んでいたのに地面へ流し込んだように消えてしまっている。

 そんな光景を見せられれば力の喪失が倒れた原因なのは予想できる。


「大丈夫ですか?」


 光の収まったノエルさんに駆け寄って抱きしめる。


「大丈夫。ちょっと疲れただけだから」


 不安そうにしている私を安心させる為に優しく言ってくれる。


 だけ、と言いつつもノエルさんの消耗は激しい。

 私よりも強いはずなのに呼吸が荒く、私の体を掴んでいるノエルさんの力は非常に弱々しい。

 消耗しているのは間違いない。


「ここにいるのは危ないんじゃ……」


 この『島』には危険な魔物が多くいる。

 特に厄介なのが途中で遭遇した黒い魔物。ノエルさんたちは難なく倒していたけど、私たちだと対抗する術がない。それぐらいの事は一目見ただけで理解できた。理解できないような人間はシオドア族の戦士になれない。


「そうね。けど、ここから動く方が危ないわ」


 黒い魔物がウロウロしている。

 そんな場所を消耗したノエルさんが動けば瞬く間に襲われてしまうことになる。


「でも、留まったままだと危機から抜け出すことができないですよ」

「問題ないわ。時間が来れば迎えが来ることになっているから」


 消耗したノエルさんと動ける仲間が他にいる。

 ここに留まっても、ここから動いても襲われることになるなら少しでもリスクを減らせる場所にいた方がいい。


 この場所は『島』の北西。後ろは海に面した崖になっていて背後からの襲撃を気にする必要はない。周囲は、不思議な力を流した影響で開けている。開けた場所の向こう側は森が広がっていて近付けば木の枝や葉を踏み締めた音が鳴る。気付かれずに接近するのは不可能。


 たしかに救援が望める状況にあるなら待ってから行動を起こした方がいい。

 けれども、問題なのは黒い魔物に対してどうすればいいのか、という事。


「来た!」


 私の【気配探知】に引っ掛かる存在がある。

 そして、こっちへ駆けてくる音も聞こえる。

 振り向くけど、ノエルさんは動けるような状態にない。


 剣を抜いて迎撃する為に構える。


「あなただけでも逃げていいのよ」

「そういう訳にはいきません。シオドア族の戦士として弱っている人を見捨てるような真似はできません。弱者を守る強き刃であれ――それがシオドア族の戦士に与えられる教えです」


 幼い頃から聞いていた教え。

 家族は、私が女だから戦士にさせるつもりはなかった。だけど、強い魔物から部族の人たちを守る父の戦士としての姿に憧れた。だから、誰にも知られないようにこっそりと訓練をした。

 女でありながら強くなろうとする事に不安を覚えることだってあった。

 けど、ノエルさんたちを見て考えが変わった。


「女だとか関係ない。私は、私の家族を守る為に戦います」


 エルマーの態度を見ていれば、彼がノエルさんたちの事を家族として大切に想っているのはすぐに理解できた。

 もちろん大切に想われていることに少しばかり嫉妬もした。私たちとノエルさんたちの年齢を考えれば、『お姉さん』と呼ぶ関係が正しい。けど、見ていれば気付いたけど、エルマーやジェムが彼らに向ける想いは、親に向ける想いに近い。

 親を自分から見捨てるような子供はいない。


「誰かが来るまで守ればいいんです」


 姿を現した黒い魔物。

 形は猿だけど、今までに遭遇した黒い魔物と同じなら厄介な特性を備えている。


 たった一人で『島』の中心へ向かっている最中に現れた黒い魔物を蹴散らすノエルさんを助ける為に私も戦うことを提案した。けど、ノエルさんから無理だと言われた。私たちの強さがどうこうよりも黒い魔物が備えている特性のせいでノエルさんでないとダメージが与えることができない。

 さすがに、そんな相手を倒す術は持っていない。


 けど、時間を稼ぐぐらいなら問題ない。


「斬って斬って斬りまくる」


 ノエルさんに注意を向ける暇なんてないぐらいに斬り続ける。

 戦士の私にできることはそれぐらいしかない。


 意を決して猿の魔物が接近してくるのを待つ。


「では、いいものをあげましょう」


 そんな時、後ろから声が掛けられた。

 聞いたことのない。こんな場所に私たち以外の誰かがいるはずがない。『島』へ来た冒険者たちにしては気配がおかしい。


 猿の魔物へ体を向けたまま首だけを動かして後ろを見る。

 そこにいたのは白いスーツを着た女性。髪まで真っ白で黒い魔物とは対照的な姿をしている。


「出てきていいんですか?」

「ええ、今回は特別です」


 ノエルさんは女性の事を知っているみたいで落ち着いた雰囲気で話をしていた。


「味方よ」


 ノエルさんが言うなら信用する。


「あまり余裕がないようですから用件だけ手短に済ませるようにします」


 何をするのか……

 そんなことを思っていると頬にチュッと白い女性の唇が触れた。


 え、何をされたの?


「私からの祝福です。存分に力を振るいなさい」


 女性から妙なことをされて戸惑ってしまった。

 それが、黒い魔物には隙があるように見えたのか女性の言葉と同時に襲い掛かってくる。


 魔物の攻撃を回避はできない。

 私よりも奥へ行かせればノエルさんが襲われることになる。


 飛び掛かってきた猿の手を左手の剣で受け止めながら右手の剣で斬る。

 再生に時間が掛かるようにさらに斬る……と思ったんだけど、猿の体がドロドロに溶けて消えちゃった。


 この状態には見覚えがある。

 ノエルさんが倒すとこんな風になっていた。


「あの……」

「ノエルが、その魔物を倒せるのは私が与えた【加護】を持っているからです。そして、先ほど貴女には同じように【祝福】を与えました。これで、貴女でも瘴気の魔物を倒すことができます」


 答えが得られると思っていなかったけど、白い女性から黒い魔物を倒すことができた理由が教えられた。

 教えられた理由にも納得していた。

 なんとなく私の体に感じたことのない力があるような気がする。


「もしかして、私に何らかの【加護】を?」

「【加護】ではなく【祝福】です。効果は一時的なものですし、出来る事は限られています」


 それでも、救援が来るまでの間、黒い魔物と戦うことができるのは間違いない。

 体内にある不思議な力を意識しながら剣を握る手に力を込める。すると、剣に白い光が薄らと纏われていた。


「その力を使って彼女を守りなさい」

「どうして、私にこのような力を?」


 エルマーたちにも渡すと言っていた。

 以前から知り合いかもしれないエルマーたちに渡すのは分かる。けど、私は今日ノエルさんと出会ったばかりの子供。

 白い女性が信頼してくれる何かがあったとは思えない。


「私はノエルの事を自分の娘のように思い、彼女の事を信頼しています。そんな彼女が信頼している相手……それでは、足りませんか?」

「……」

「では、こう言いましょう。現在の状況でノエルを守ることが出来るのは貴女一人だけです。だから、私に可能な範囲で手を貸す。それだけのことだけです」

「分かりました」


 【祝福】が非常に便利な力であるのは変わりない。

 今はノエルさんを助ける為にも使える力は全て使うつもりでいないといけない。

 森の奥から鹿の形をした魔物が近付いて来る。【祝福】を受けた剣を振るうと斬撃が飛んで鹿の首が飛ぶ。黒い魔物を倒す為には、ある程度のダメージを与える必要があるけど、裏を返せば最低限のダメージを与えるだけで倒すことができる。

 【祝福】を受ける前は出来なかったことが出来るようになっている。

 これは大きな出来事だ。


 女性からの送りものに感謝しながら剣を振るう。

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