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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第5章 賞金稼ぎ
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第12話 怒れる迷宮主

 アイラに致命傷を負わせた辻斬が止めを刺そうと――より多くの血を吸い取ろうと剣をアイラの胸に突き刺そうとする。


 だが、突き出された刃は空振り、既にアイラはそこにいなかった。

 辻斬がキョロキョロと視線を彷徨わせてアイラを探している。奴には俺が動いたことすら認識できなかったはずだ。


「おい、しっかりしろ」


 離れた場所で戦闘を見ていた兄の傍までアイラを運び、意識を手放さないように呼び掛けるが、わずかにか細い反応があるだけで今にも死にそうだった。


「わたし、は……まだ……」


 そんな言葉を聞いているとイライラしてくる。


 勝てなかったアイラにでもなく、斬った辻斬に対してでもない。俺自身に、だ。

 辻斬の再生能力の凄まじさをもっと分かっていれば、もしくは警戒していればアイラがこんな風になることもなく、2人で攻撃することもできたはずだ。


 だが、アイラが抱えているだろう事情を優先して1人で戦わせてしまった。


 致命傷を負っているアイラだが、まだ救う方法はある。


『迷宮魔法:宝箱(トレジャーボックス)


 地面に魔法陣が出現し、中心に宝箱が出現する。

 宝箱の中身をイメージし、アイラの傷を治療することができるポーションを手に入れられるようにする。


 だが、そこへ待ったが掛かる。


『分かっているの? 彼女の傷を治せるようなレベルのポーションを取り出せば今月は魔力が足りるのか微妙なところだよ』


 今月は、シルビアに色々な装備品を渡したりして迷宮に貯蓄された魔力も少なくなっていたからな。


 けど、躊躇していてはアイラを助けることはできない。

 宝箱の中に手を突っ込み、ポーションの入った瓶を取り出す。


「これをアイラの傷口に掛けた後で、口に飲ませて」

「分かった」


 それだけでも傷は治るはずだ。

 アイラの治療を兄に任せると完全に殺すべく近寄ってきている辻斬の方を向き、辻斬を蹴り飛ばす。辻斬は俺の方へ突っ込んで来た姿勢のまま後ろへと吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドしながら路地裏に置かれたゴミ箱に突っ込むことでようやく止まった。あの傷もすぐに回復するんだろうな。


 アイラの方を見ると血に濡れた服はそのままだが、脇腹と胸の傷はポーションがかけられたことにより煙を上げながら塞がり、飲まされたことによって傷ついた内臓も修復されているはずだ。


「兄さん、その子を連れて家に帰っていてください!」

「病院じゃなくていいのか?」


 さっき飲ませたポーションで手の施しようがないのなら医者ではどうにもならない。そうなれば彼女を生かすためには迷宮主として力を使うしかなくなる。

 それなら事情を隠しておける家の方がマシだ。


「お前はどうするんだ?」

「奴に追って来られても困るから心を折っておくことにする」

「……しっかりやれよ」


 兄が駆け出すと同時に辻斬がゴミ箱の中から出てくる。


「まテ」

「いいや、お前には俺に付き合ってもらう」

「……!」


 辻斬が驚いているが、構わずに蹴り飛ばして建物よりも高い場所へと吹き飛ばす。月の明るい夜空に辻斬が高く舞い上がっていた。

 そんな情緒ある光景を気にせずに同じ高さまで跳び上がると騒ぎを聞きつけたのか路地裏を走る何人かの人影が見える。アイラが駆け付けた段階で、これ以上の人が来ないように周囲には迷宮操作による『進路誘導』の罠を仕込ませてもらった。これにより入り組んだ路地裏は天然の迷路となり、俺たちの下へは簡単に辿り着けないようになった。


「グ……」


 蹴り飛ばされた時に砕かれた肋骨を再生しながら辻斬が呻き声を上げる。


「吹っ飛べ」


 そのまま再生が完全に終わる前に西区にある空き地へと再び蹴り飛ばす。

 地面に叩き付けられたことによって土煙が上がる。その場所へと俺もゆっくりと降りる。

 辻斬が立ち上がると目の前にいる俺のことを睨み付けてくる。


「無駄ダ。どんな攻撃をしようトモ、オレを倒すことはデキナイ」

「そうだな。どれだけお前を傷つけたところで再生されてしまっては意味がない」

「ソウダロウ」

「だけど、その魔剣は違うだろ」

「……!」


 表情の乏しかった辻斬が驚いている。

 いや、この場合は魔剣が怯えているのかな?


「魔剣が持っている無限再生は、使用者に死からも再生を約束する絶対的な力だけど、魔剣そのものにまで及ぶわけじゃない」

「そうだガ、この剣は簡単に破壊できるような代物ではないゾ」

「そうでもないさ」


 両手を左右に広げると手を覆うように炎の球体が出現する。


「それハ……」

「レベル500の魔物が使う最強レベルの炎魔法――イグニスフレイム。この炎なら魔剣を溶かす(・・・)ことができる」


 無限の再生能力を持つ所有者を倒すより簡単とはいえ、魔剣はランクSという評価に相応しい硬度を持っている。生半可な攻撃では折ることが可能かどうかすら分からない。ならば確実に俺が使える最強の炎によって溶かすことを選択した。

 夜の街においては目立ちすぎる魔法だが、分かり易く強力な魔法を選んだ。


「ただ、街中で使うせいでギリギリまで威力を抑えているから操作性に不安があるんだ。だから、剣じゃなくてお前自身を溶かしても文句を言うなよ」


 もしも、本当に溶かされたとしてもすぐに再生するんだろうな。

 だから躊躇せずに撃てる。


 炎の球体を辻斬に向かって投げつける。が、辻斬の手前で突然ガクンと地面に落ちる。

 地面に衝突した瞬間、爆発が起こり、熱が近くにいた辻斬へと迫り体を焼き焦がしていく。俺の視界には炎の中へと呑み込まれた瞬間までしか見えなかった。


 これでも迷宮で使える威力の1%近くにまで抑えたのにこれだけの威力があるのか。さすがは規格外のレベルを持つ魔物が使う魔法だ。


「さて、これでいいかな」


 爆発が止むと炎が消えて辻斬がいた場所が見えるようになるが、そこには何も残されていなかった。爆発によって跡形もなく溶かされたわけではなく、火傷を負いながらも再生を続けつつ走って逃げだしていた。


 辻斬も俺の炎の前では本当に溶かされてしまうと危機感を覚えたらしく真っ先に逃げることを選択した。だが、それでいい。


 最初から俺には辻斬を倒すつもりはなかった。

 アイラのあの目を見た瞬間から辻斬を倒す役目は彼女に譲るつもりでいた。

 操作性に不安があるというのも嘘だ。その気があれば魔剣に当てて溶かすこともできた。だが、操作性に不安があるのだと思い込んだ辻斬は、外れたことを偶然だと思い込んで、この隙に逃げることを優先した。


 とにかく逃がしたアイラが心配だ。

 ポーションが効いて体が回復してくれているといいんだけど……。とりあえずイグニスフレイムで溶解してしまった地面を土魔法で修復すると俺も家へと急ぐことにする。



 ☆ ☆ ☆



「ご主人様!」


 家に帰ってくるとシルビアが俺の胸に飛び込んできた。

 その目は涙で濡れている。


「どうした?」

「アイラさんが……」


 涙を拭うとアイラを寝かせている場所へと案内される。

 空き部屋だったその部屋は日頃からオリビアさんの手によって綺麗にされていたため客室としても使えるようにベッドも置かれ、敷かれているシーツも新品のように綺麗だった、はずだ。

 はず、というのは寝かされているアイラの血によって赤く染まっていたからだ。


「悪い。走っている間に傷口が開いたのか出血が酷くなったんだ」


 ここまで運んでくれた兄が謝ってくるが、間違っても兄のせいではない。


「ご主人様。どうにか助けることができませんか? 必要なことがあればわたしが何でもします」

「いいのか? アイラは1度会っただけの相手だぞ」

「それでもです。わたしはアイラさんのことを友達だと思っています。友達を助けるのに理由なんて必要でしょうか?」


 部屋の中を見るとアイラの手当てをしていたオリビアさんも娘の意見に同調するように俺を見ていた。兄も見ず知らずの少女を助けてほしそうにしていた。

 ただ、俺としても迷宮魔法では回復が苦手なので、先ほど使ったポーションをもう用意ができない以上、方法としては1つぐらいしか思い浮かばない。


「すみません。オリビアさんと兄さんは出て行ってくれますか?」

「何か方法があるのですね。分かりました」


 オリビアさんと兄が部屋から出て行ったのを確認すると改めてシルビアに確認する。

 いや、眷属であるシルビアにいちいち確認を取る必要などない。

 だが俺の心境は、まるで浮気した夫が必死に妻へ弁解しているような気まずさがあった。そういう関係じゃないんだけどな。


「これからアイラにも確認するけど、お前は何も文句はないな」

「……? はい、アイラさんを助けてあげて下さい」


 よく分かっていないようだが、言質はいただいた。

 アイラの寝ているベッドの傍まで近付くと血を流し過ぎて血の気の失せた顔を見る。これは、人命救助みたいなものだ。何も問題はない。


「それで、どうやって助けるんですか?」

「――『眷属契約』だ」


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