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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第23話 引き籠りの神

前半はノエル視点。

後半はイリス視点です。

 『島』の北西へと辿り着いた。

 腕には訳の分からないディアを抱えている。


「ちょっと待っていてね」

「それは、いいですけど……何をするつもりですか?」

「もちろん『島』を沈めるの」


 錫杖を地面に突き刺して立てると両手を合わせる。


「【加護】を借ります」


 ――ええ、思い切りやりなさい。


 体内で練り上げた魔力に【ティシュア神の加護】から得た魔力を混ぜる。


 神の力が宿った魔力。それは、神気に近しい力を持っていた。

 使える量は僅か。必要な量に足りない分はわたしの魔力で補う。【加護】を持つ者の魔力と【加護】によって得られた魔力は非常に混ざり易い性質を持つことができる。


 そして、二つの魔力が混ざり合ったことでわたしの魔力が【加護】による魔力へと変化していく。


「つぅ……これは、けっこう」


 だけど、リスクが生じている。

 わたしの魔力を神気へと近付ける為には体内で激しく混ぜ合わせなければならない。まるで、激しい荒波の中で浮いている舟の上にいるような錯覚に陥られ、玉のような汗を流していた。


「ノ、ノエルさん……」


 不安になったディアがわたしの名前を呼んでいる。

 けど、今のわたしに答えているような余裕はない。


 どうにか力を振り絞って仲間に声を届ける。


「こっちは準備完了。3人はどう!?」

『いつでもOK』

『配置完了よ』

『あと2秒下さい』


 先に動いていたアイラは既に到着している。

 後から移動したシルビアとメリッサ。どうしても魔法使いのステータスじゃあ速さ特化のシルビアと比べた場合、メリッサが遅くなるのは仕方ない。

 けど、些細な遅れね。


「いくわよ! ここに『神の気は満ちる』!」


 わたし、アイラ、シルビア、メリッサのいる場所から『島』の中心へ向かってわたしの練り上げた神気が流れる。


 わたしたち眷属は【迷宮同調】によって繋がることができる。

 距離が離れているとロスしてしまう量があるけど、わたしたちの間で魔力のやり取りをすることだって可能。神気に近付けた魔力だって3割近くが霧散して消えてしまっているけど、苦労した甲斐あってやり取りができている。


 それぞれ異なる場所に配置されたわたしたちの目的は、『島』の四方から中心に向かって神気を流すこと。『神櫃の鍵』によって摩耗した迷宮の力を復活させる為には、これぐらいの荒療治が必要になる。


「ぐぅ……」


 真っ直ぐに伸ばしていた神気の流れが歪む。

 練り上げるだけでも消耗していた。そこに制御までするなんて負担が大きかったんだ。


「これ、ぐらい……」

『無理をしないで下さい。手を貸します』


 メリッサが制御の何割かを負担してくれる。

 おかげで、変な場所へ向かいそうになっていた神気の流れが正常に戻る。


「メリッサ……」

『これは魔力以上の負担がありますね』


 苦しい、と言いつつもわたし以上に余裕がありそうな声をしている。

 やっぱり魔力なんかの制御ならメリッサが一番凄い。


「無理しないでね」

『この「島」へ来てから、あまり役に立てていませんから今ぐらいは役に立たせて下さい』


 四方向からの神気の流れが『島』の中心――迷宮核へと到達する。


『来た!』


 迷宮核の傍に待機していたイリスが声を挙げる。

 届いた神気が迷宮核に満ちて光り輝いている光景がイリスの目を通して見える。


『ここからは私の仕事』


 イリスの言葉が随分と頼もしく聞こえる。



 ☆ ☆ ☆



 『島』を荒れ狂う神気。

 神気が溢れたことで『島』に封印されていた獣神が解き放たれようとしている。


 何らかの理由により封印されていた神。本来なら、起き上がるような事態は絶対に避ける事態のように考えてしまう。


 けど、私たちは封印されている神についてティシュア様から聞いて知っている。


 ――獣神。かつて存在していた人間です。彼には少しばかり特殊な力があって、獣に自分の言う事を聞かせることができました。ですが、その力は非常に不完全な代物で、少しばかりの敵意を抱いてしまった隣人に対して全ての獣たちが敵意を向けてしまう、という代物でした。自分の力を恐れた彼は、自ら死を選ぶ勇気もなかったために誰もいない孤島で暮らしていくことを決めました。


 人のいない島。

 そこは一人で生きていくことを決めた彼にとっては楽園のように思えたらしい。


 けど、その島は決して楽園なんかじゃなかった。

 その島には、迷宮主のいなくなった迷宮が存在していた。


 島にある迷宮で生まれた魔物。

 島でひっそりと暮らす獣を従える男。

 二つの存在は長い時間を掛けて混ざり合い、大きな変化をもたらすことになる。


 ――彼の能力は、迷宮が蓄えた瘴気を利用することによって魔物を強化することができるようになり、いつしか『島』には強大な力を持った魔物が溢れるようになりました。


 それらは全て彼の意図していない出来事だった。

 たった一人での生活は孤独だ。故に彼は、意思の疎通ができる獣や魔物に安らぎを求めて触れ合うようになった。

 彼と触れ合っている内に獣たちは自然と強くなる術を身に付けていった。


 気付いた時には既に手遅れだった。

 強大な魔物が溢れる『島』の魔物を討伐する為に大規模な討伐隊が組まれることになった。


 『島』へ乗り込む討伐隊。

 多くの犠牲を出しながらも『島』の中心へ辿り着いた討伐隊が見つけたのは、自らの体を抱きしめて震えている男。そして、そんな彼を守るように傍で控えていた多くの獣たちだった。


 彼は、自分が殺されることに震えていた訳ではない。

 さらに言えば討伐隊が来る前からずっと震えていた。

 理由は、自らの能力のせいだ。

 ただ、いるだけで多くの人に迷惑を掛けてしまう自分の能力が恐ろしくなった。


 だからこそ『死』を討伐隊に懇願した。


 しかし、彼の願いが報われることはなかった。

 討伐隊も彼を殺せば騒動が落ち着くことは分かっていた。だが、彼の傍に控えていた獣たちがそれを許さない。


 唸り声を挙げながら討伐隊を睨み付ける獣たち。

 腕に自信のある討伐隊だったが、無理に彼を殺そうとすれば全滅する危険すらあった。

 そのため彼を傷付ける事なく事態を収束する方法を模索した。


 討伐隊に紛れ込んでいた迷宮主。彼が迷宮の力を利用して『島』を沈める方法を思い付いた。

 獣たちが外へ出られないよう特殊な結界で覆われた『島』と一緒に彼は海の底へ沈められた。


 獣を従えることができた男。

 海の底へ沈んだ後でどうなったのか誰も知らない。

 だが、そういった男がいた、という伝説から『封印された神』が顕現することになった。


 それが――獣神。


 ――そういった神は、人間だった頃の気質を持っています。自分の力に怯え、恐れていた獣神なら、力が溢れることになったところで外へ出てくるような真似はしません。


 逆に封印したままにしてくれ、と叫びながら引き籠る。

 そして、ティシュアが言ったように封印から飛び出して来てもおかしくない状態になったのに獣神が飛び出してくる気配はない。


「獣神――マルコシアス。今度こそ誰の手であっても解放されることのない封印を施してあげる」


 迷宮核を中心に『島』を駆け巡る神気。

 迷宮の管理ができる迷宮核があれば、迷宮そのものである『島』の神気を操るのも容易。


 再び『島』内にいる獣と獣を支配する神を封じる為の結界が構築される。

 さらに網目状の格子も内側に施し、干渉を難しくする。


 こういった迷宮に関する操作は、迷宮主であるマルスか私にしかできない。


「よし――」


 最後に『島』へ海の底へ沈むよう命令を出す。


「マルス、こっちの準備は終わった。全員を回収してほしいから急いで『島』から脱出して」

『了解だ』


 私の言葉を受けたマルスがニコラスに背を向けて全速力で走り出した。


 私はともかくとして神気を解き放つ為の入口となったシルビアたちには相当な負担がかかっている。何よりも神気を生み出したノエルは動けるような状態ではなくなっている。


 心配だ。

 けど、護衛まで置いてきたのだから心配は適切ではない。

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