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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第21話 『島』の核

マルス視点に戻ります。

 イリスたちが戦闘を始めた頃。

 俺たちは『島』の中心へと急いでいた。そう簡単にイリスたちがやられるようなことにはならないと信じているが、早目にこちらの用事を終わらせて救援に向かった方がいい。

 先を急ぐためエルマーとディアは俺とアイラで抱えて移動している。


 真っ黒な猪が俺たちの姿を見つけて突っ込んでくる。

 あの魔物は、『島』を巡回している。魔物を生み出している存在――ニコラスの意思は介在しておらず、一定の場所を動き回ると見つけた獲物に襲い掛かる習性だけを埋め込まれている。

 今も俺たちを獲物だと見定めて襲い掛かる。


 これまでに見つけた冒険者たちも逃がしてしまうことがあったとしても全て本能のままに襲い掛かっている。見つけた俺たちに襲い掛からない、という選択肢は存在していない。


 だが、生憎と俺たちは獲物ではない。

 一瞬だけ猪を見ると目的地のある正面を見る。


 魔物が突っ込んでくる。

 けれども、横からノエルに叩かれて消滅する。

 どの方向から襲われてもいいようノエルには戦闘を頼んでいた。


「凄い……」


 抱えているエルマーが呟いた。

 これまで『島』に来た冒険者たちは、瘴気の魔物に対して逃げるしかなかった。そんな魔物をたった一撃叩いただけで無力化できるノエルはエルマーから見て憧れを抱くに十分だった。


「ま、ノエルの場合は相性がいいだけなんだけどな」


 神気という絶対的な力を持つ魔物。

 しかし、同じように神気を持つ相手には弱かった。


 そうして襲われること3回。どうやら敵は、『島』の中心にある物の重要性を理解していない、もしくは襲撃されることを想定していないのか最低限の警戒しかされていなかった。

 どちらにしろ、この先にある物が最も重要だという事すら理解していない。


 森の中を走っていると、いきなり開けた場所に出る。これまで木が規則的に並んだ森だったにも関わらず、そこから先は木がなくて開かれた場所になっている。


 そして、最も目を引くのは中央にある台座。

 地面には石のような物が敷き詰められており、台座の周囲一帯だけがこれまでの自然な光景とは違って人工的な力を感じる場所になっている。


 抱えていたエルマーを地面に下ろして先へ進む。

 一歩、踏み出してみたものの特に変化もない。


「台座の上にあるのが何なのか分かっていればこの場所の意味にも分かるけどな」


 台座の上には石のような球体が置かれている。

 得体の知れない物を見つけた時には【迷宮魔法:鑑定】を行う。既に『島』の中で使える対象と遭遇しているため即座に使用を思い付くことができた。

 視界に入った時点で魔法は使用している。


「これが何なのかは、鑑定結果が見えるからあたしにも分かるわよ」

「けど、わたしたちが知っている物とは違わない?」


 アイラとノエルも同じ物を知っている。

 だが、あまりの違いに首を傾げていた。


「これは、一体何なんですか?」


 エルマーとディアは見当もつかずに途方も暮れていた。

 一見すると石で造られた球体にしか見えない。しかし、【鑑定】を使用した俺たちには分かる。この球体は元々がガラス球のように透き通っていた物が力を失ってしまったために石と化してしまった物だ。


「これは迷宮核(ダンジョンコア)だ」

「これが!?」


 エルマーも迷宮が近くにあるため迷宮に関する最低限の知識を保有していた。

 もっとも、知っているのは一般に知れ渡っている知識ぐらいなうえ、一般に知られている情報は迷宮主に与えられる情報に比べれば微々たるものでしかない。迷宮核に関する情報も『財宝の一つ』という認識だ。


 この迷宮核を目にした冒険者たちも迷宮核を実際に見たことがなかったし、特殊な力を機能させることができなかったために気付くことができなかった。


「ここに迷宮(ダンジョン)があるんですか?」


 周囲を見渡すエルマー。

 迷宮の入口を探しているのだが、それらしい物はどこにも見当たらない。

 それも、そのはずだ。


「ここが迷宮だ」

「この場所ですか?」


 エルマーの視線は石畳へと向けられている。


「違う。この場所は、迷宮核を安置しておく為の場所の名残みたいなものだ」


 迷宮の最下層みたいな場所。

 それが、『島』の中心にあたる場所だ。


「じゃあ……」


 エルマーの視線が遠くへと向けられる。

 ディアも自分たちが聖地だと思っていた場所の正体を知って息を呑んでいる。


「この『島』そのものが迷宮だ」


 正確には、この場所に元々あった島に迷宮の機能を持たせた――それが『島』の正体だ。

 『島』にいた魔物に【迷宮魔法:鑑定】を使用することができたのは、迷宮の力によって生み出された魔物だからであり、『島』にある植物に対して使用することができなかったのは迷宮の力で環境を維持しているだけであって迷宮の力で生み出された訳ではないからだ。


「ここが本当に迷宮なんですか?」

「話に聞いていたのと違うような」


 二人とも迷宮について話ぐらいは聞いたことがあった。

 財宝や魔物で冒険者を誘い込み、侵入してきた者を喰らう場所。

 猛毒を持った魔物や対処を誤れば苦しむことになる植物があるものの基本的には普通の島に見える。


「そうだな。この迷宮の力は、ほとんどがある目的の為に使われているから見た目は普通の島と変わらないんだよ」


 迷宮核を鑑定すれば、現在どのような事に力が使われているかも分かる。


「目的は二つ。『島の環境維持』と『神の封印』だ」


 『島』の中心――この場所のずっと地下にはある神が封じられていた。どんな神が封じられているのか知る為には時間が必要になる。が、態々面倒な手段を用いてまで封印するような神なのだから碌な神ではない。


 かなり強固な封印が施されている。それでも封印を解除する手段がない訳ではない。今回だって『鍵』の力によって封印を施している迷宮に干渉されてしまったために綻びを発生させることになってしまった。

 だからこそ、そういった事態を恐れた封印した者は、封印そのものを物理的に手の届かない場所に隠す必要があった。


「封印を施した人は、『島』全体を巨大な防御壁で覆って外からの影響を受けないようにした。そのうえで『島』を海底に沈めたんだ」


 迷宮核がある状況だから分かるが、この『島』は本当の意味で海に浮いており、浮く為に必要な力は迷宮から供給されていた。

 以前は普通の島と同じような島だったのだろうが、海底に沈める必要があった以上は海中にあって見えない部分は邪魔でしかない。


「この『島』は数週間前にいきなり浮上してきたと言っていた。けど、自然に浮上してくるはずがない。浮上するには何らかの理由がある。もしくは、誰かが手を加える必要がある」


 結果から言えば浮上した理由は後者だった。


「封印されていた神の力を手に入れようとしたバカが封印に干渉して力が弱まってしまった。その結果、海底に沈め続けることができなくなったんだ」


 沈み続けることができなくなった『島』は浮上を選んだ。

 浮上し続ける為には力を使うことになるが、それでも海底であっても環境を保つ為に必要な結界を保つよりは少なく済む。

 それが――『島』がいきなり現れた理由だ。


 石のようになった迷宮核。

 これは誰にも干渉されないようにする為の自衛だった。この状態で誰かに触られたとしても迷宮主になられることはない。

 できるのは、せいぜい俺のように【鑑定】で情報を読み取り、機能の一部に干渉するぐらいだ。


 調査は難航すると思われたが、出来事を全て記録してくれていた迷宮核を発見することで解決した。


「これから、どうするんですか?」


 頼まれたのは『島』の調査。

 可能なら『島』をどうにかしてほしい、というもの。


 後者についてはギルドマスターも本気だった訳ではない。本当に可能だったなら巨大海魔も討伐した俺たちにどうにかしてほしい、そういった願望が含まれた言葉だった。

 実際、俺たちなら……俺たちみたいな迷宮主でないと『島』をどうにかするのは難しい。


「――よし、沈めよう」

「沈める……本気ですか?」

「ああ。特殊な結界で覆って海底に何百年もあったおかげで当時のまま貴重な物が残されている『島』を再び海底に沈めるのは惜しい。けど、それ以上に封印されている神を放置するリスクの方が恐い。ここは利益よりも安全を取ることにしよう」


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