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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第19話 リゴール教の資金

 ニコラスは『神櫃の鍵』を「商人から買った」と言った。

 魔法道具を商人が取り扱うのはそれほど珍しいことではないが、さすがに神へ干渉することができるSランクの魔法道具を普通の商人に扱える訳がない。


 そして、似たような話を数日前に聞いたばかり。

 その時に語ってくれた人物から話を聞くことにする。


「【召喚】」


 地面に描かれた魔法陣の上に1体の魔物が現れる。


「な、なんだ……!?」


 現れた魔物から驚いた声が漏れる。

 人としての感性を残しており、目の前の光景が一瞬にして変わる、ということに慣れていないため驚きを抑えられない。


「ひぃ!」


 正面から真っ黒な斬撃が飛んで来るのが見え悲鳴を上げてしまった。

 恐怖心から回避しようと考える。しかし、今の彼には回避する為に必要な体がない。頭部だけでは自力で動くことなど叶わない。


「こっち」


 イリスが魔物の頭部を乱雑に掴んで斬撃を回避する。


「助かった」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 もう頭部だけの体になっているので撫で下ろすような胸など存在していないのだが、体があった頃を覚えているため以前と同じような動きをしてしまい表情も釣られてしまう。


「で、アレは何者?」

「アレって……」


 持っていた頭部をニコラスへ向ける。


「あ、あの人は……!」


 頭部だけの魔物――不死者(アンデッド)化したトランは、ニコラスを知っていた。


「あの人はリゴール教のナンバー2だ」

「凄く偉いの?」

「リゴール教内では、ほぼ全員に指示が出せるぐらいには偉い。ただ、あの人の場合は金を持っていたからだ」

「それで偉くなれるの?」

「なれる。リゴール教は、宗教的な大それた目的なんて存在しない。現状に対して不満を抱いているだけの連中が集まって今の理不尽な世界を打倒する為に戦う――そんな組織だ」


 実際には何の成果も挙がらない怪しげな儀式に傾倒しているだけの集団。

 現状に対して不満を抱いている連中は探せば簡単に見つかるもので、多くの人間がリゴール教に参加していた。


 そんな組織だからこそ運営していく為には金が必要になる。

 キマイラを召喚する為に使われた玉や『神櫃の鍵』も商人から購入している。当然、購入する為には資金が必要になり、リゴール教のような何の影響力もない組織に対して資金提供するような組織はない。


 彼らは活動する為の資金を自分たちで稼いでいた。

 と言っても商売をして稼いでいる訳ではない。

 リゴール教の上層部に立つ人間は、貴族の三男や四男といった者たちが中心になっていた。家を継ぐことができない男――政治的な材料として使うには弱いが、自分の息子である事には変わりないため子供を捨てる、という世間体を気にして簡単に切り捨てることもできない。せめてもの情けとして金を渡すことで最低限の義理を果たしたことにしていた。


 そういった事情から多少なりとも金を持っている元貴族がいる。

 そして、彼らは自分の現状が認められない。家から見捨てられる、ということは貴族ではなく平民になるということ。

 プライドだけは強い彼らは決して認めない。

 そして、その想いは世界へと向けられることになる。


「なるほど。そうやって金を集めていた訳」

「ああ、そうだ。リゴール教の行動は金を持っていた連中の意見が強く反映される。さすがに根本的な意思まで変えられないけど、組織において強い影響力を持っているのは間違いな……うわっ!」


 トランの顔スレスレを黒い弾丸が通り過ぎる。


「テメェ、随分とオレたちの事に詳しいな」


 ニコラスは、トランの事を全く覚えていなかった。

 トランのリゴール教における立ち位置は雑用をするだけの末端もいいところ。キマイラを喚び出す為の生贄に選ばれていたことから考えても間違いない。

 大金を貢ぎ、組織の上層部にいたニコラスにとっては気にも留めない存在だった。


「まあ、いい。相手が誰であろうが、まとめて吹き飛ばす」


 ニコラスが剣を振り下ろすと真っ黒な斬撃が飛んでくる。


「よ、避けてくれ!」

「分かっている」


 イリスも同様に剣を振り下ろすと冷気の斬撃が生まれる。

 二つの斬撃が衝突するが、イリスの斬撃は2秒耐えただけで砕けてしまった。


「その程度の攻撃力か。弱い……ん?」


 そのままイリスへ向かって行くかに思えた斬撃の動きが少しばかり進んだだけで止まってしまった。

 黒い斬撃は氷に覆われていた。イリスの斬撃は、最初から押し返す為の物ではなく凍らせる為に必要な冷気をぶつけただけのもの。


 ニコラスの周囲に氷柱がいくつも生まれる。

 人を串刺しにできる鋭い氷柱が一斉に襲い掛かる。鍵を使って1本の氷柱を斬るものの残った氷柱が容赦なくニコラスの体を串刺しにする。


「……いてぇな」


 血を大量に流すニコラス。

 それでも自分の負傷を気にすることなく氷柱を1本ずつ抜いていく。


「やっぱり、本当に不死身なんだ」

「相手は神に等しい力を持った存在です。神気を自由に扱うことができるならこれぐらいの芸当はできるはずです」

「で、どうやって倒せばいいの?」


 イリスがメリッサに尋ねるものの芳しい答えは帰ってこない。

 さすがの彼女も不死身を相手にした場合の想定はしていなかった。


『これはご主人様とアイラが試した方法なんだけどね』


 と、シルビアがかつてマルスとアイラが所有者に不死にも等しい再生能力を与える魔剣と対峙した時の事を語る。


 その時は、最終的にアイラが【明鏡止水】で魔剣を斬ることによって事なきを得た。


「【明鏡止水】があったとして『鍵』を斬ることができる?」

「無理、でしょうね」


 弾丸状にした瘴気が飛ばされる。

 それらを回避しながらメリッサが所見を述べる。


 神に対処できる『鍵』を簡単に破壊できるはずがない。


『後は――』


 アイラが試したもう一つの方法がシルビアから教えられる。


「なるほど。そっちの方が試してみる価値はあるかもしれない」

「何をゴチャゴチャ言っていやがる」

「もちろん――あなたを倒す方法」

「……!!」


 イリスがニコラスの懐へ飛び込む。

 ニコラスの意識の隙間を突いて移動しており、力任せな攻撃しかできないニコラスにはできない芸当。

 おまけに反応できていない。


「ぐぉ!?」


 ニコラスの胸が大きく斬り裂かれる。

 すぐさま『鍵』に補充されている瘴気がニコラスの傷口を塞ぐ。


「この程度……!」


 振り向くニコラスの目に飛び込んできたのは斬り掛かってくるイリスの姿。

 斬られる直前に『鍵』で受け止める。


「ふぅ、危ねぇ」

「本当?」

「どういう……」


 イリスの言葉の意味を考える前にニコラスの体を激痛が襲う。


「がぁ、くそが……!」


 地面に『鍵』が落ちる。

 同じようにニコラスの腕も『鍵』を握った状態のまま落ちていた。


「何が……」


 ニコラスが落ちた腕の傍を見ればギロチンが落ちていた。


「迷宮の罠。【迷宮操作】を使えば、これぐらいは簡単に用意できる」

「あ、あぁ!」


 頭上にギロチンの刃を出現させ、一気に落とす。


 痛みに苦しみニコラス。

 再生が始まらない訳ではない。


「そうなったか」


 ギロチンによって肩から断たれている。

 『鍵』を握ったままの腕の切断面から肉が盛り上がり、人の形を作り上げる。


「嘘、だろ……」


 作られた形を見て腕を失ったニコラスが呆然と呟く。


「嘘じゃないさ」


 対して、腕を失ったニコラスと同じ声で『鍵』を持ったニコラスが言う。


「もう、お前は用済みだ」

「何を言って……」

「再生は『鍵』が行う。当然、再生の起点となるのは『鍵』を持っている場所からになる。腕を切断されたなら、切断された場所から全身を生やせばいい。そうなるとオレが二人いることになるんだが、どっちがオレかな?」

「オレに決まっているだろ!」

「残念。正解は『鍵』を持っている方だ」

「ま――」


 最初からいた方のニコラスの首を再生されて生まれたニコラスが斬り飛ばす。

 二人に増えたのなら協力すれば戦力増加にも繋がるが、自分だけが特別だというつまらないプライドの為に自分と同じ姿をした相手を切り捨てることにした。


「これで分かっただろ。オレを殺すなんて不可能なんだよ」

「それは、どうでしょうか?」

「あん?」


 暴風の刃がニコラスの体を細切れにする。

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