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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第18話 鍵の剣

第三者視点です

 イリスは斬り合いながら得体の知れない剣に対して【迷宮魔法:鑑定(アナライズ)】を使用していた。


 得体の知れない物と遭遇した際には、まず確認する。

 そうして魔法を使用してみたところ『剣』の詳細が分かった。


 さらに吹き飛ばされたところで青年自身にも【鑑定】を使用する。手に持っている『剣』の影響を大きく受けているせいか使用することができた。


 【迷宮魔法:鑑定(アナライズ)】。

 ありとあらゆる情報を引き出すことができる魔法だが、使用対象に【迷宮と関わりのある物もしくは者】という制限がある。

 その制限が青年と剣に対しては有効になっている。

 それは、剣が迷宮に関連する物だと裏付けていた。


「そして、あれは剣じゃない」


 青年を押し潰していた大岩が下から吹き飛ばされ、周囲を燃やしていた炎も一緒に消し飛ばされる。


「いや~死ぬかと思った」


 大岩のあった場所から姿を現す青年。

 吹き飛ばす時に力を使い果たしてしまったのか感じていた威圧感が消えている。


「いいね。普通なら死ぬしかないような攻撃でも今なら耐えられる」


 全くの無傷という訳ではないはず。

 それでも無事でいられるのは青年の傷が瞬時に塞がっていたからだ。


開錠(オープン)


 青年が地面に剣を突き刺し、「ガコンッ」と回転させる。

 すると、剣の刺さった地面から瘴気、そして少量の神気が剣へと流れる。神気を扱うことのできるノエルやマルスはこの場にいないが、魔力や瘴気とは違うエネルギーが流れていることぐらいは認識でき、神にも慣れてマルスたちが遭遇した瘴気の魔物についても知っている状況なら神気だと予想できる。


「今のが『鍵』の力」

「【鑑定】したから『神櫃の鍵』の能力については分かっているわね」


 神櫃の鍵。

 【鑑定】による鑑定結果は、神の遺した物に穴を開け、綻びから神気を吸い上げる能力を持った魔法道具。


 一時、迷宮も苦戦させられたことがある。


『なにせ、この「鍵」を使えば迷宮に穴を開けることだってできる。ちょっと反則気味な方法だけど、下に穴を開けて無理矢理繋ぐことで攻略しようとした人がいるんだ。あの時は驚かされたね』


 当時の事を思い出して迷宮核が笑いながら説明する。

 本来なら不可能なはずの迷宮の開通すらも可能にする『鍵』は破格の性能を持っていると言っていい。


 が、それだけで迷宮の攻略が可能になる訳ではない。

 マルスの管理する迷宮は現在地下85階まで存在する。さすがに穴を開けて最下層まで向かうには時間が掛かり、迷宮主や迷宮眷属、迷宮の魔物を向かわせることで『鍵』を使っての攻略は阻止することができる。


「で、そんな危険な物を持っているあいつは?」

「ニコラス・トリシューラ――王国のしがない男爵家、それも跡取りなどではない人間みたいです」


 個人の秘匿情報など迷宮に関わった時点で意味を成さない。

 その人物の名前から所属、ステータスやスキルに至るまで詳らかにすることができる。とはいえ、青年――ニコラスのステータスは一般人の域を越えておらず、スキルも特別目を惹かれるようなものは所有していない。


 改めて【鑑定】の凄さに感心しながらニコラスの攻撃を回避する。

 飛んで来たのは真っ黒な弾丸。

 弾丸が触れた物は、当たった場所から粉々に風化していった。


「う~ん……攻撃力で吹き飛ばしたというよりも瘴気で端から消滅させていったってところかな?」

「キマイラやマルスさんが遭遇した猿型の魔物を思い出してください。あれらは最期にはドロドロに溶けて崩壊してしまったでしょう。あれと同じことが起きています」

「あ? 何を言っていやがる」


 ニコラスが剣を横薙ぎに振るう。振るわれた剣――鍵には瘴気がベットリとへばり付いており、剣先から刃が形成され剣と変わらない形をしたため離れた場所にある木も斬れる。

 木々が切断されて薙ぎ倒されて行く。


 シルビアが迫る剣を無視してニコラスとは反対側へ走る。

 自分へは向かってこない事を不審に思いつつもニコラスはそのまま剣を振り抜く。


 が、剣の動きが突如として止まる。

 イリスの【迷宮結界】、メリッサの障壁が剣を阻んでいた。


「邪魔だ!」


 力任せに振り抜く。

 そこに技術など存在しない。

 しかし、鍵が内包した瘴気と神気に力は凄まじく二人の防御を一撃で砕く。


「うそ……」


 特にイリスの【迷宮結界】が破壊されてしまったのは信じられない。【迷宮結界】は普通の防御壁ではなく、迷宮の壁が持つ『非破壊』特性を付与された結界。普通の方法では破壊することは不可能。

 破壊できただけで『鍵』の力が異様だということが窺える。


「死ね!」


 そのまま鍵を振り抜く。

 だが、剣がイリスたちに届くことはない。


「チッ、エネルギー切れかよ」


 真っ黒な剣は途中で霧散してしまった。

 刃がなければ離れた場所にいる相手を斬ることなどできない。


「二人とも、ちょっと移動するわよ」


 シルビアが後方で戦いを見ていたジェムとジリーを片手でそれぞれ抱いて回収する。

 二人とも早過ぎる戦いの展開についていけず、呆然としていた。そのままだったならば二人ともニコラスの剣に切断されていた。


「ケッ、ガキを守るのか、よ……」


 ニコラスの言葉が途中で遮られる。

 物理的な方法による中断。いつの間にか放たれた冷気がニコラスの口周りにのみ集中させられて凍っていた。


「いい加減にその煩い口を閉じて」


 イリスは怒っていた。

 ニコラスの言葉がいちいち癇に障る、というのもあるがジェムとジリーを巻き込むのが許せない。


「さっきから聞いていれば力を振るうのが随分と楽しいみたいね。手にした力が強くて楽しい? だったら強い力っていうのを味あわせてあげる」

「【爆発(エクスプロージョン)】」


 メリッサの魔法によって爆発がニコラスを中心に起こる。

 中心にいた人間は粉々に吹き飛ばされてしまうような爆発。


 それでも……


「ハハハッッッッッ!」


 嗤いながら爆発の中から飛び出してくるニコラス。

 炎の中にいるニコラスの体は、至るところが炎に焼かれて火傷を負っており、服は何も残っていなかった。

 だが、炎の外へ飛び出した瞬間には体も服も元の状態に再生されていた。


「神様の力っていうのは凄いな!」


 炎から脱出したニコラスが魔法を使用したばかりで動きの鈍っていたメリッサの胸を鍵で貫く。


「どんな傷を負ったとしても元に戻ることができる。どんな防御だって貫くことができる! 王都の剣術道場に通っていた頃には味わうことのできなかった快感だ」


 快感に酔いしれるニコラスは自分の気持ちをペラペラと口にする。


「……全ては、鍵の持つ力、です。貴方の力ではありません」


 胸を貫かれたメリッサが苦しそうにしながら言う。


「だったら何だって言うんだ? あの妙な商人から他のも合せて買ったのは俺たちだ。鍵の力だって俺の力だ」

「なるほど。もういいです」

「あん?」


 それまでの苦しそうな表情など一瞬で抜け落ちてニコラスの手首を掴む。


「な、なんだよ……!」

「少しばかり再生能力を計らせてもらうことにします」

「は?」

「2発目」


 その時、【爆発】が起こる。

 爆発地点はニコラス。腕を伸ばせば相手に届く程度の距離しか離れていない状態ではメリッサも巻き込まれる。だからこそニコラスは自爆のような攻撃はないだろうと予測して油断していた。


「メ、メリッサさんが……!」

「大丈夫だから」


 爆風に耐えながら爆発の起こった場所を心配そうに見つめるジェムとジリー。

 対してイリスとシルビアにメリッサを心配したような様子はない。


「どうだった?」


 イリスが【迷宮結界】を展開しながら横にいる人物へ尋ねる。


「どうやら鍵が蓄えている瘴気と神気を利用して肉体を再生しているようです。その辺りは、あまりキマイラたちと変わりありませんね」


 声を掛けた場所にはメリッサが何食わぬ顔で立っていた。

 全てはメリッサの芝居。最初の【爆発】でメリッサの姿を見失っている間に身代わりを用意し、攻撃を受けるほどの距離まで接近したところで自爆魔法を発動させニコラスの再生について確認していた。


「なら、『鍵』を破壊すれば復活は阻止できる」

「その通りですが、かなり至難ですよ」


 鍵そのものに再生能力が備わっている。

 これではエネルギーがある限り破壊は不可能に等しい。


「今は手に入れた情報を確認することから始めましょう」

「そうね」


 イリスが【召喚(サモン)】である者を喚び出す。

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