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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第17話 島の闖入者

 マルスたちが無事に冒険者たちと合流できた頃。

 シルビアたちも東側にいる冒険者を目指して進んでいた。だが、相手の方から来てくれたマルスたちと違って彼女たちの場合は冒険者たちが反対方向へ移動しているため合流することができずにいた。


 迷宮眷属である彼女たちが急げば相手が移動に慣れた冒険者であっても追いつくのは難しくない。が、今はペースを上げるのを控えていた。

 というのも……


「ちょ、ちょっと休憩させてください……」

「俺も!」


 必死について来るジェムとジリーが原因だった。

 二人とも冒険者として活動しており、故郷のパレントにいた頃みたいな使い捨てにされるような状況ではなくなったため、まともな活動をして以前よりも鍛えられている。

 それでも第一線で活躍している冒険者について行くのは苦労を強いられた。


「大丈夫。休憩しましょう」


 シルビアが水筒を差し出す。

 二人とも飲み干す勢いで全て飲んでいく。


「ありがとうございます」

「すんません。足手纏いになっていますよね」

「そうかもしれないけど、二人だって周囲の警戒をしながら進んでくれているんでしょう」

「まあ、冒険者としてこんな場所を走るなら警戒するのは当然です」


 二人とも警戒しながら走っていた。

 それが、さらに体力の消耗を促していた。


「ここは木も多いから死角が多いの。だから人数がいてくれた方が助かるな」


 助かる、と言いつつもスキルを使えば5人分以上の探知能力を発揮できるシルビア。

 今は、二人を宥める場面だと思って黙っている。


「よし、休憩終わり。そろそろ行こう……」

「シッ……黙って」


 人差し指を口元に当てて黙るよう促すイリス。

 口元に指を当てた瞬間にはシルビアも子供を相手にする時の優しい表情から真剣な表情へと変えていた。


「何かあったの?」

「叫び声、というよりも悲鳴が聞こえた」

「悲鳴……」


 イリスの目は、彼女たちが向かおうとしていた方向へと向けられている。

 この先には彼女たちが遭遇しようと考えていた冒険者しかいない。その事は、予め空から確認している。


「一応、調べてみる」


 意識を前方へ集中させる。

 そうすれば人の気配を感じ取れるようになる。


「……!」

「何があった?」

「人の気配が消えていっている」

「それって……」


 誰かが殺されている。

 だが、今から助けに向かったところで間に合うような状況ではないのだろう。シルビアに動く様子がなければ、行動を起こすよう提案することもない。


「一体、誰が?」

「どうやら考える時間は与えてくれないようです」


 メリッサが【望遠鏡(テレスコープ)】で遠くの景色を手元のレンズに映し出す。


 映し出されたのは茶髪の20歳ぐらいの男性。

 冒険者でないことは一瞬で分かった。灰色のズボンに水色のジャケット。どちらも質が良さそうだ。森の中でも動けているのだから動きを阻害されることはないのだろうが、冒険者が森の中でするような装備ではない。


 ただし、油断していいような人物ではない。

 青年の手には特殊な形をした剣が握られていた。刀身がギザギザに歪んでおり、とても斬れるようには見えない。


「敵……?」

「少なくとも友好的な相手ではないでしょう。現に誰かを斬り殺した直後みたいですから」


 青年の服には返り血がこびり付いていた。

 血の状態からして浴びてからそれほど時間は経っていない。誰の血、なのかは時間を考えれば自ずと分かる。


「会おうとしていた冒険者たちが斬られてしまった訳ですが、どうしますか?」


 メリッサがイリスに尋ねる。

 この5人パーティのリーダーは一応イリスということになっていたからだ。


「回避しよう。状況は詳しく分からないけど、躊躇なく人を斬るような相手とは関わり合いにならない方がいい」

「……もう、手遅れみたい」


 手元にあるレンズには、こちらへ向かって次第に速度を上げて走る青年の姿が映し出されていた。

 完全に5人を標的に定めていた。


 接敵まで十数秒。


「迎撃する」


 イリスが前に出て、メリッサが後ろへ下がる。メリッサのすぐ前でシルビアが待機して守り、いつでもイリスを助けに行けるよう控える。


「二人はそこで待機していて」

「俺たちだって戦えます!」

「悪いけど、二人が相手にできるような敵じゃないかもしれない」

「……そんなに強いんですか?」


 ジェムの目には迫る青年が強そうには見えない。

 装備の問題もそうだが、走る姿勢がドタバタと素人臭く、体も鍛えられているようには見えない。ごく普通の青年にしか見えなかった。


「それは私も同感」


 剣を鞘から抜きながらイリスが頷く。


「私が問題にしているのは、あいつが持っている剣の方」

「剣?」


 凹凸があって斬れるようには造られていない。

 何があるのか……ジェムが必死に目を凝らす。


 ――ドクン!!


「……!?」


 剣を見ていたジェムの全身に悪寒が走る。


「ど、どうしたの?」

「なんともないのか……」

「何が?」


 一方、剣を注視していた訳でもないジリーには何があったのか分からない。


「あの剣がどうかしたの?」


 ジリーも同じように剣を見ようとする。


「止めろ!」


 それをジェムが必死に止めていた。

 一瞬の出来事だったが、今でも体が震えている。


「あれは、おそらくだけど魔剣の類。二人だって魔剣については知っているでしょう」


 故郷パレントで起こった事件。

 とくにジェムは以前に魔剣を手にしてしまったことがあるため魔剣による恐怖が骨身に染みていた。

 そのせいもあって剣から感じる威圧感に怯えてしまった。


「もっとも、普通の魔剣じゃないことは確実」

「えっと、それはどういう……」

「話はここまで。来る」


 魔剣を持った青年の姿が捉えられる。

 なるべく魔剣を見ないようにしながらジェムは青年を見ている。が、イリスたちは魔剣のことなど気にしている様子はない。3人とも【迷宮適応】のおかげで状態異常には強くなっている。


 イリスが剣で地面を叩く。

 あっという間に冷気が正面へ広がり、地面から氷柱が飛び出す。


 相手を殺すつもりの先端が鋭くなった氷柱。

 青年が剣を振るうと黒い靄による斬撃が飛び、難なく両断する。

 両断した氷柱を吹き飛ばし前へ駆け出した直後、イリスと青年の剣が衝突する。


「新しい侵入者が来たのを知って襲い掛かってみれば随分と強そうじゃないか。女だっていうのはちょっと残念だけどな」

「女だからって舐めてかかっていると痛い目見ることになるよ」


 イリスが青年の持つ剣に沿って自分の剣を走らせる。

 やはり、最初に感じたように青年の剣は素人だ。力任せに振られた剣は、少し力を流してあげるだけで流される。


 が、男の持つ剣は普通ではなかった。

 刃にある凹凸にイリスの剣が挟まる。こんな状態からでは受け流せない。


「吹き飛んでいろ」

「わっ!」


 青年が剣を振り上げるとイリスの体も上へ飛ばされる。

 いくらイリスの体が女性らしく華奢だったとしても戦闘中に飛ばされてしまうような事態は考えにくい。

 原因はイリスではなく青年の方にある。

 見た目とは違って何らかの方法で強化されている。


「……! メリッサ!」

「手加減なしで放ちます」


 頭上に炎を纏った大岩が出現する。

 溶岩を思わせるような攻撃は、そのまま落下して下にいた青年を巻き込む。当初の予定では軽い魔法で牽制を行い、少しずつダメージを与えて青年の素性を問い質すつもりでいた。

 だが、そんな必要がなくなったため容赦無用で攻撃した。


『あいつのステータスは見た?』

『見ました。内容もそうですが、見られた事自体が問題です』


 青年には聞かれないよう念話で会話を行う。


『どうやら「鍵」の使い手らしいけど、どうするの?』

「とりあえず追撃です」


 大岩の落下した場所から火柱が上がり、青年を押し潰した大岩を粉々に吹き飛ばす。

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