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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第16話 選択の責任

 ドロドロに溶けた黒い“何か”。

 つい数日前にも似たような物を見たばかりであるため思い当たる物があった。


「あのキマイラと同じなの?」


 故郷であるデイトン村を含んだ3つの村を崩壊させた原因であるキマイラも最期には黒い“何か”――瘴気を振り撒いて消滅した。

 あの時の光景を見ていたアイラには同じ物に見えた。


 たしかに黒い“何か”は瘴気である。

 瘴気が寄り集まり、猿の形になっていた。

 瘴気から生まれた化け物、という点では数日前のキマイラと同じように思える。


「いいや、ちょっと違う」


 まず、今回の猿はキマイラほどの完成度はなかった。その証拠に体は瘴気によって真っ黒に染め上げられており、生物への変化……進化が成されていなかった。


 それでも、猿は安定していた。

 もしも、与えられた瘴気が異常だった場合にはキマイラの最後のようにドロドロに溶けて消えていたはずである。

 そうなっていなかったというのは不完全な状態でありながら安定していた、という事である。


「その安定させていたものが神気だよ」


 神気を内側に張り巡らせ、瘴気を鎧のように纏っていた。

 内側にある神気が身に纏う瘴気を安定させる。それが安定していた理由だ。


「厄介なのは魔力や瘴気と違って普通の人間には神気に対抗する手段がない事だ」


 魔力や瘴気ならば魔法などのエネルギー性の強い攻撃を当てれば弾くことができる。

 だが、神気は神が振り撒いたエネルギー。魔力では干渉することができず、対処する方法が限られている。


「でも、弾けたから安定しなくなったのよね」


 アイラが言うように俺とノエルは魔物の神気を剥ぎ取った。

 結果、安定させることができなくなり瘴気が霧散することになった。


「魔力では干渉することができない。けど、同じ神気なら干渉することができるんだよ」


 今は、【加護】を持っているからこそ可能な対処方法だ。

 これなら少量の消費で済ませることができる。


「ま、あたしには難しい事は分からないからいいわ」

「お前だって斬ろうと思えば斬れるだろ」


 アイラには【明鏡止水】がある。

 スキルさえ使えれば神気を斬ることも可能だ。


「おい、大丈夫なのか?」


 恐る恐るといった様子でこちらへ近付いて来る冒険者たち。

 これまでの数十日間で対抗しようのない魔物から襲われ、逃げるしかなかった彼らでは目の前で起こった光景が信じられないのだろう。


「問題ないですよ」

「あの化物を倒せたのか?」

「はい。と言っても死体が残っていないので証拠を見せることはできないです」

「いや、何も残っていないところを見られるだけでも十分だ」


 既に魔物が落ちた穴には何も残っていない。

 冒険者たちからは見えないよう俺とアイラで壁を作っている間に迷宮から虚ろ喰を召喚(サモン)して瘴気を回収している。そのままだと虚ろ喰が穴の中に残ってしまうのでイリスに召喚してもらっている。この場に残しておくよりはマシだろう。


「俺たちがどれだけ攻撃しても傷一つつけられなかった……いや、どれだけ斬っても立ち上がったアイツを苦もなく倒すなんて……」


 それでも大きく斬れば多少の時間は稼げる。彼らのパーティにはいないが、強力な魔法を使える者がいればさらに時間を稼ぐことはできたはずだ。

 俺たちが倒せたのは相性がよかった。


「何者だ?」


 一人がボソッと呟いた。

 尋ねた訳ではなく、本当に疑問が口から零れてしまったのだろう。


「そうですね。皆さんに分かり易く言うなら巨大海魔を討伐した冒険者、と言えばいいですかね」

「……! お前たちがそうなのか!」


 巨大海魔の討伐。これ以上の実績はないだろう。

 自分たちではどうしようもなかった魔物を討伐した相手。


「あまり深く追及しないでくれると助かります」

「そうだな……冒険者にとって相手の素性を探るのはご法度だ」



 ☆ ☆ ☆



 瘴気の魔物から逃げていた冒険者たちからも話を聞く。

 残念ながら、先に遭遇した冒険者たちと同程度の情報しか得られなかった。彼らも逃げているだけで精一杯であり、気になる情報も瘴気の魔物と『島』の中心にあると思われる台座ぐらいしかなかった。


 二組のパーティには海岸まで案内して避難してもらった。

 足手纏いがいながら探索できる余裕はない『島』だった。


「見つけた」

「何を見つけたんですか?」

「『島』の中心にある台座だよ」


 エルマーの質問に答える。

 上空から台座に狙いを絞ってサファイアイーグルに探索をさせれば、たしかに森の開けた場所がある。


「ただし、台座は見えない」

「見えない?」

「何か不思議な力が働いているのか上空から見ただけだと霧が立ち込めたようになって見ることができないんだ」


 サファイアイーグルの見ている光景を共有することができる俺や眷属たちには、その光景をはっきりと理解することができる。

 だが、不思議な力と言われてもエルマーやディアにはどういったものなのか分からない。


「さて、エルマーならどうする?」

「そうですね。未知の場所へ踏み込むなら可能な限りの情報を集めてから向かうべきです」

「そうだ。これから向かう場所にはどんな危険が待っているのか分からない。だから不安材料は少しでも排除するべきだ。けど、妨害があるせいで使い魔を使った探索はできない」


 使い魔による探索ができなくても色々と教え込んでいるエルマーには色々な事ができる。

 こういった状況においても選択肢は他にもある。

 けれども、そういった他の選択肢も通用しなかった時にどうするか。


「屋敷に連れてきた3人で自然とパーティを組んだ。仲もいいし、連携も取れているみたいだから問題はない。けど、3人の中で誰がリーダーをするか、と言ったらお前しかいないだろう」


 ジェムとジリーの二人は、自分よりも教養があって賢いエルマーのことを信頼している。

 そのため自然とリーダーになっていた。

 仮にディアがパーティに加入したとしても彼女の態度を見ていれば同じようにエルマーの事を信頼して行動するようになるだろう。


「お前が望んだ立場じゃないのかもしれない。けど、今の関係を続けるならお前がパーティのリーダーだ」

「何が言いたいんです?」

「探索依頼を引き受けた。けど、離れた場所からの探索方法は悉くが通用しない。調査の為には危険な事が分かっている場所へ踏み込む必要がある。こういう時にお前ならどうする?」


 リーダーとして責任の伴う選択をさせられることがある。

 パーティリーダーを俺も務めているが、俺の場合は主と眷属といった関係。それに男としての責任がある。自分の――自分たちの選択には責任を持たなければならない。


「僕たちの戦力ではどうしようも無くなる可能性があるんですよね」

「そうだな。可能性なら十分に考えられる」

「だったら、この場では退きます」

「いいのか? 依頼に失敗すれば冒険者の経歴に傷がつくことになるぞ」

「それはないでしょう。探索場所で何があったのかを正確に報告し、さらなる戦力が必要なことを相手に伝える。それが、自分たちの安全も可能な限り確保して依頼も完遂する選択です」

「それでいい。冒険者でなかったとしても自分と仲間を優先させろ。色々な事を教えてはいるけど、自分や大切な存在を守る為だ。どこまでが大切な存在なのかは自分で決めていい」


 エルマーが大きく頷く。

 真面目なエルマーの事だから重たく受け止めているのだろう。


「エルマー!」

「うわっ」


 横からエルマーに抱き着くディア。

 その様子は嬉しさから感極まっていた。


「守ってくれる、って言ってくれて嬉しい」

「え、ディアは含まれていな……」


 満面の笑みを浮かべながら抱き着くディアの表情を見ているとエルマーの言葉が次第に小さくなっていく。

 おそらく、エルマーが陥落するのに時間は掛からない。気付けばジェムやジリーと同じように守るべき人間に含まれている。


「俺も仲間を信頼している。だから危険な状態にあっても彼女たちのことを信じている」

「それって……」


 その時、爆発音と共に火柱が森の中に立ち上る。

 さらには連続して爆発が起こる。


「どうやら向こうの方が本命だったみたいだ」

「助けに行った方がいいんじゃ……」


 爆発が続いている、ということは現在も戦闘が継続中ということだ。

 爆発はメリッサの魔法によるもので、何人で戦っているのかは分からないが苦戦させられているのは間違いないとエルマーは分析する。


「問題ない。あいつらは『自分たちに任せてほしい』と連絡してきた。俺たちは俺たちで『島』の中心を目指すぞ」

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