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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第15話 黒い猿

「奇妙な物?」


 冒険者に『島』でおかしな物を見なかったか尋ねる。

 彼らは『島』が浮上してすぐに上陸しており、既に20日以上もの間ここにいる。空からでは分からない事なら彼らの方が詳しいかもしれない。


 そこで、『島』を探索している間に気になった事がないか尋ねた。


「この『島』そのものが奇妙な場所だろ」


 いきなり海中から浮上してきた島。

 奇妙、以外の何物でもない。


「そういう事を言いたいんじゃなくて」

「もちろん分かっているさ」


 相手も冒険者。

 調査依頼に来た冒険者が何を求めているかなど分かっている。


「こっちとしては、こんな島をさっさと脱出したいところなんだが、どういうわけかボートのある海岸まで辿り着くことすらできない。予想でしかないが、手っ取り早い方法は『島』の異常を取り除くことだろうな」


 相手もそれが分かっているからこそ協力してくれる。

 ただし、彼らを『島』の外へ脱出させるだけなら簡単だ。『島』で迷わない俺たちが海岸まで連れて行けばいい。今の俺たちならルイーズさんがエルフの里まで案内してくれた時のように彼らを導くことができる。

 が、可能なら手札は伏せておきたい。

 『島』へ足を踏み入れた誰もが迷ってしまう状況なのに自分たちだけが迷わずにいられるなど異常だ。


「奇妙な物、か……ヤバイ物と訳の分からない場所を知っている。それで、問題ないか?」


 おや。さすがに、その二つが並んでいるのは予想できていなかった。

 それにしても『ヤバイ物』と『訳の分からない場所』か。


「それで構いません」

「まず、訳の分からない場所だが、この『島』の中心にどデカい円形の土台みたいな物があるんだ。で、土台の中心には1メートルくらいの高さの柱に石で作られた球が置かれていた。そんな怪しい代物だったから『島』を脱出するきっかけになるかもしれないと考えて調査を行った」


 が、芳しい結果は得られなかった。

 台座は綺麗に成形されていたものの石を敷き詰めただけの場所で、仕掛けらしい物や特別な物は柱以外に見つからなかった。

 そして、柱の方にも綺麗な球が置かれているだけで特別な点は見受けられなかった。


「ああ、球が置かれていること以外に不思議な点はなかった」

「球に何かあると?」

「どういう仕組みなのか分からないが、球は柱に固定されていた。窪みがある訳でもないのに動かそうとしてもビクともしないんだ」


 動かそうと3人共が試したが、上手くいかなかった。

 普段から斧を振り回している男が無理だったと言うのなら物理的な方法以外で固定されている可能性が高い。


「それが、訳の分からない場所ですか?」

「ああ。俺の勘があそこには何かあると言っている」


 目の前にいる男は冒険者になって20年のベテラン。

 これまでの経験から感じるベテランの勘は馬鹿にならない。


「分かりました。こっちでも何なのか調べてみます」

「助かるよ」

「で、ヤバイ物というのは?」

「ああ、それなんだが……っ!」


 3人の体がビクッと跳ねる。

 まるで何かに怯えているようだ。


「どうしました?」

「チッ、来やがった」


 舌打ちしながら『島』の西側を睨み付ける。

 空から監視しているサファイアイーグルと俺たちも感覚を同調させて向こう側に何があるのか確認する。


「なんだ、アレ……」


 『アレ』としか言いようのない物がいた。

 全長5メートルほどの大きな猿が森の中を走っていた。異様なのは、猿の体。全身が真っ黒な靄に包まれている……と言うよりも真っ黒な靄で作られている。実体があるのは間違いないみたいで、猿が触れた木の枝が押し曲げられていた。

 そして、猿の前には4人の冒険者が走っていた。


「どうするの?」

「状況が分からない。静観だ」


 アイラの質問に短く答えると冒険者たちを見る。


「追われていやがるのか。下手踏んだな」


 やはり、あの猿について知っていた。


「あれは何ですか?」

「あの猿がさっき言った『ヤバイモノ』だ」


 たしかに見ただけでヤバイというのが分かる。


「あれは目に付いた相手をどこまでも追い掛ける習性がある。ただし、目がそこまで良い訳ではないらしくて、こっちから接近したり、偶然遭遇したりするようなことがなければ追われることはない。あいつらだってそんな事は分かっているはずだ。おそらく、油断しているところに接近されて追われているんだろうな」


 彼らだって既に何週間も『島』の中を彷徨っていることになる。

 既に疲労は限界を迎えており、警戒が緩んでしまうこともある。


「あんな化け物を相手にすることはできない。逃げたいところなんだが、森の中だと猿の方が有利だ。迎え撃たないと逃げている連中を犠牲にすることでしか生き残ることができないぞ」


 顔見知りらしく見捨てることができないため3人とも武器を抜いていた。


「助けてくれた事には感謝する。だが、この情報だけで対価は納得してほしい。俺たちはあいつを倒す。あんたらだけでも逃げてくれ」


 俺たちだけでも生き延びるよう言う。

 きっといい人たちなのだろう。


「いや、俺たちも協力しますよ」

「あれは普通の魔物じゃないぞ」

「でしょうね」


 近付いて来たおかげではっきりと分かるようになった。


「エルマー、ディア二人は下がっていろ」

「私は戦えます」

「僕もです」

「……そういうセリフが言える時点で何も分かっていない」

「そういう事だ、ボウズ共」


 冒険者たちは既に戦っているから分かっている。

 が、経験に裏打ちされた勘があれば目の前に迫ってくる物がどれだけ異質なのか初見の時にも理解できていただろう。


「大人しくしておくんだな」

「はい……」


 返事をしてエルマーが下がる。

 ディアは不満な様子を露わにしていたが、エルマーが下がったことで不満を口にするような真似はしなかった。


「さて――」


 鞘から剣を抜く。

 すると、逃げていた冒険者たちも俺たちの存在に気付いた。


「逃げろ! こいつを倒すのは不可能だ!」

「そうだ。こいつには、どういう訳か攻撃が通用しない。向こうの攻撃には実体があるのにこっちは斬っても靄でも斬っているみたいになって意味がない」

「とりあえず試してみますよ」

「あ、おい!」


 忠告は有り難いが、彼らでは分からない事があるかもしれない。

 駆け抜け、逃げていた冒険者たちを追い越すと追っていた黒い猿を斬る。脇腹は深々と斬り抜いた。それでも、彼らが言ったように斬られた場所が数秒と経たずにくっ付いて復元された。


「なるほど。たしかに、その体なら理解できる」


 剣を鞘にしまうと黒い猿の懐に飛び込む。

 猿も飛び込んできた俺を捕まえようと広げた手を向けてくるが、その前に俺の攻撃が届く。


「悪いが、黒い猿なんてのは、この間のワイルドコングで十分だ」


 掌底と同時に魔力を叩き込む。

 ただの魔力ではない。ノエルから借りた【ティシュア神の加護】で調整した神気の性質を僅かながら持った魔力。


 直撃を受けた黒い猿が宙に浮かぶ。

 浮かび上がった猿の体から黒い靄が剥がされる。こんな危険な生物のいる『島』で生活していた冒険者たちからしてみれば、すぐにでも元通りになるはず。

 だが、復元はされず、黒い靄はどこかへと飛んで行って戻ってくることはない。それどころか苦しみからジタバタ暴れている。


「トドメをさせ、ノエル」

「了解」


 浮かび上がった黒い猿の背をノエルが錫杖で叩く。

 もちろん神の力を帯びた状態での攻撃。

 防御すらできずに背を叩かれた黒い猿が地面に叩き付けられる。地面に大きな穴を開け、土埃が周囲に立ち込める。


「う~ん、これがさっきの黒い猿?」

「そうだ。もっとも猿の形をしているだけで猿なんかじゃなかったみたいだな」


 黒い猿が落ちた場所……そこにある物を見て呟いたアイラの疑問を肯定する。

 落下地点にはドロドロに溶け、蒸発している黒い液体だけが残され、猿の原形などどこにも残されていなかった。

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