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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第12話 迷いの島

 上陸した場所には船やボートが何隻も停泊していた。

 全員が考えることは同じだ。先に来た者が使用した乗り物が無事だということは安全が確保されているようなもの。未知の場所へ赴いた人が最も気にするのが帰還手段だ。この場所では、停泊させておいた乗り物を失ってしまうのが最も痛い。


 俺たちもこの場に潜水艇を残す。

 いつもなら道具箱(アイテムボックス)に放り込むところなのだが、今回は避難施設としても活用することになるので俺かイリスのどちらかがいない場合でも使えるようにしておく必要がある。


「もしも、危なくなった場合にはここへ逃げ込むこと」

『はい』


 潜水艇の強度は下手な鎧を圧倒できるレベル。

 たとえ魔物に追われていたとしても逃げ込んでしまえば大抵の攻撃には耐えられるようになっている。さすがに操縦はできないので引き籠るしか選択肢がないのが不安ではある。


 探索する準備は特別には何もしていない。

 いつもの服装に装備を整えているだけ。とはいえ、必要な物があれば道具箱から取り出せばいいだけの話だ。


 砂浜を出ると地面が硬くなる。

 こういったところは普通の土地と変わらない。


「まずは、目的地について確認しようか。ディア」

「はい」


 せっかくいるのでシオドア族の意見も取り入れよう。


「この『島』が聖地って呼ばれているなら何かしらの聖具なんかがあってもおかしくないんだけど、どこにあるのか知らないか?」

「すみません。私たちは『島』そのものが“特別”であると教えられてきたので、どうして“特別”なのかは教えられていないんです」

「そうか」


 しょんぼりと落ち込むディア。

 シオドア族も聖具の在り処については知らない。


「知らなかった事を気に病む必要はないよ」

「ですが……」

「手掛かりなら別にある」


 先に『島』へ探索に来ていた冒険者たちだ。


 あの後、ジェフリーを問い詰めたところ分かっているだけでも『島』へは6組のパーティが訪れている。

 砂浜には4隻の船と3隻のボート。

 1隻多いが、ギルドが把握していない冒険者が訪れているのだろう。


 合計で7組のパーティ。

 既に探索を続けている彼らと接触することができれば新しい情報が得られる。


「けど、けっこう広い島ですよ」

「その点も問題ない」


 『島』の上空をサファイアイーグルが飛んでいる。

 距離があるため細かく観察することができる訳ではないが、大凡の位置を把握することに成功している。

 近くにいるのは二組。それぞれ西と東にいる。


「ここから二組に分かれて探索しよう」

「そうですね。10人で一緒に行動するのも非効率ですね」


 メリッサから了承が得られ、特に反対意見も出なかったため二組に分かれる。

 グループについてはこちらで指定させてもらった。

 俺がアイラとノエルを連れて行き、イリスがシルビアとメリッサを連れて行くことになった。今回は探索からなので、効率を優先させるなら俺は迷宮操作を使えるイリス、【探知】のできるシルビアとは分かれた方がいい。


 そして、エルマーたちについてなのだが……


「あの、本当にこの分かれ方でないとダメですか?」

「ダメ。連携を考えるとジェムとジリーは一緒にいた方がいい」


 ジリーを守ることに特化しているジェムの二人を別行動させるのは得策ではない。結果、エルマーとディアが一緒に行動することになる。

 中衛でオールラウンダーに戦えるエルマーなので突出気味なディアをサポートしてくれるだろう。

 まあ、そういった戦略的な理由は無視して実際のところはエルマーがディアと一緒に行動することで仲良くさせようという魂胆がある。それぐらいのお節介をした方が面白いことになりそうだ。


「……ん?」


 エルマーたちの様子を見ているとジリーが額に汗を浮かべていた。


「大丈夫か?」

「大丈夫です。ちょっと息苦しいだけですから」


 あまり見た目は体調が良さそうには見えない。


「ちょっとごめんね」


 ノエルが胸を押さえているジリーの後ろへ行き、背中に手を当てる。


「自分の体内にある魔力をイメージしながら落ち着いて息を整えて」

「すぅ、はぁ」


 深呼吸を何度か繰り返して魔力を整える。

 体内にある魔力が乱れてしまうと先ほどのジリーのように息が乱れてしまうことがある。場合によっては倒れてしまうこともあるが、こうして誰かの助けを借りて落ち着くことができれば体調を整えることができる。


「どう?」

「少し楽になりました」


 初心者の魔法使いが魔力制御に失敗して今のような発作を起こすことがある。しかし、アリスターに来てからのジリーはメリッサの簡単な指導もあって発作を起こすようなことはなかった。

 何か原因があるのかもしれない。


「原因は『島』にあるの」

「『島』?」

「そう。まだ発生源を特定できた訳じゃないけど、この『島』には神気が充満している。そのせいで『島』全体がエルフの里にあるっていう『迷いの森』みたいな感じになっているんじゃないかなって思うの」


 神、もしくは神の遺産に関わる物が生み出すエネルギー――神気。

 かつて訪れたことのあるエルフの里には中心に巨大な樹――神樹があり、周囲の環境を浄化してくれていたのだが、周囲の瘴気を吸い取って特殊な魔力を拡散させるという厄介な特性があった。


 神気を吸った人間は感覚を狂わされてしまう。

 少量だと方向感覚を失って神樹のある里まで辿り着けなくさせる。


 神気を吸っても問題ないのは、生まれた頃から神気の満ちる空間で育ってきたエルフたちのみ。他は例外なく狂わされてしまうため、道案内のエルフか迷わない為の魔法道具が必要になる。


 『島』へ侵入した冒険者が迷っているのは神気が原因。

 神と関わりの深いノエルは神気に気付くことができた。


「言われると神気を感じるな」

「けど、今までに感じたものに比べれば大したことがありませんよ」


 俺とシルビアも感知能力を上げることで神気に気付くことができた。


「たぶんだけど、大元の神気が少ないんじゃないかな」


 最後にジリーの体へノエルが魔力を叩き込む。普通の魔力ではなく、【ティシュア神の加護】を利用して特別に調整した魔力だ。この特別な魔力があるおかげで外から神気の影響を受けにくくすることができる。


「だから俺たちも気付かなかったのか」


 ノエルは加護によって神気の影響を受けにくくなっている。

 さらに【迷宮同調】によって俺たちにも似たような影響が及んでいた。


「僕たちは何も感じないですけど」

「だよな」


 エルマーとジェムは首を傾げている。

 その様子から本当に影響はないようだ。


「ジリーが感じたのは魔法使いだからじゃないかな。魔力に敏感だから神気に慣れたせいで神気にも過剰に反応するようになっているのよ」


 もう、すっかり体内に取り込んでしまった神気は消えたようでジリーも落ち着いている。


「けど、神気に慣れているって……」

「シエラの事を忘れたの?」

「あ」


 生まれた頃から神と接していたことで【加護】を貰えてしまうほど神に慣れてしまったシエラ。

 そして、神が度々現れる屋敷でエルマーたちも生活している。さすがに生まれた時から一緒にいる訳ではないのでシエラほどの影響はない。それでも多感な成長期に神と接していたことで少なからず影響が出ている。


「え、神様……?」


 神とは全く縁のなかったディアは困惑している。


「とにかく、この『島』に神もしくは神の遺産があるのは間違いない訳だ」


 神気がある以上は間違いない。

 エルマーとジェムにも神気を叩き込む。二人ともティシュア様と接していたおかげで慣れているのか、すんなりと受け入れていた。


 これは『島』の探索を行う為に必要な事。

 しかし、ディアは神気に慣れていない。


「ぁ、ん……うぅ」


 神気を与えたところディアの口から艶めかしい声が漏れる。おまけに苦しさから顔を赤らめて、胸を押さえて蹲ってしまう。

 そんな体勢になると胸が強調されることになり、エルマーの顔を赤く染めていた。

 普段は冷静なエルマーでも13歳の子供であることには変わりない。


「素直になってもいいんだぞ」

「何を言っているんですか……」


 なんとなく覚えのある感情に同情せずにはいられない。


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