表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
776/1458

第10話 調査依頼の報酬

「……ん? 『島』へ行くつもりはなかったのではないか?」


 トルロス族長の疑問はもっともだ。

 俺たちに『島』へ行くつもりはなかった。それというのも理由が二つある。


 一つは、今回サボナを訪れることになった理由がしばらくの間アリスターから離れ、それに合わせて観光地でのんびりさせてもらう為だ。家事や育児に追われている女性陣を労うはずが、仕事を入れて忙しくさせては意味がない。


 もう一つは、調査依頼の報酬の件だ。一応、『珊瑚亭』をギルドマスターから紹介してもらえたし、女将からは宿泊料金を無料にしていい、とも言われている。ただし、Aランク冒険者を5人も雇うには少ない。

 なので、なあなあで済ませ宿泊料金を支払って帰るつもりでいた。


 が、『島』について調べれば調べるほど興味を惹かれた。


「何よりも素晴らしいのは、あの『島』に神がいるという事です」


 トルロス族長の話を聞いて決心した。

 これまで様々な事情から神と相対してきたが、神が関わっている事件を解決すると迷宮に役立つ物を手に入れることができた。報酬がなかったとしても神がいる土地には何かしらの物が存在する。

 それを手に入れたい。


「取り過ぎるような真似をしませんから、あの島にある物を譲ってほしいんです」

「お前が欲しがるような物がある、という保証はできないぞ」

「それは、あり得ませんよ」


 既に侵入した人を狂わせる“何か”が『島』にあるのは間違いない。

 物によってはシオドア族も譲ってはくれない可能性はあるだろうが、その時には何か別の報酬を考えさえてもらうだけだ。

 間違いなく利益になる“何か”はある。


「……いいだろう。聖地と言っても今のシオドア族で聖地に何があるのか知っている人間はいない。何に価値があるのか分かっていないのだから、よほどの物でない限りは渡してやろう」

「ありがとうございます」


 シオドア族との間で話がまとまった。

 報酬も手に入るので『島』へ行く理由はできた。シルビアたち眷属には申し訳ないが、一緒について来てもらおう。


 だが、これで終わりではない。


「待ってください!」


 ジェフリーが待ったをかけた。


「何か?」

「私たちの依頼はどうするつもりだ? 複数の依頼を同時に引き受けるなど冒険者ギルドとして許可出来る訳がない」


 複数の依頼を引き受けたばかりに片方の依頼は完遂できたが、もう片方の依頼についてはおざなりになってしまった。

 そんな事態を防ぐ為に冒険者ギルドは冒険者が複数の依頼を同時に引き受けるのを禁止している。ただし、行き先が同じで異なる物を採取する必要がある場合などに許可をもらえば同時に引き受けることはできる。


 ただし、シオドア族から依頼を引き受けることがギルドマスターが許可するはずがない。自分たちの出した依頼を疎かにされてしまっては適わないからだ。

 もっとも、今回は関係ない。


「どうしてです?」

「なに?」

「こちらは現在、他の依頼を引き受けている訳ではありませんよ」

「……!」


 俺たちは『島』の調査依頼をギルドから引き受けた訳ではない。

 ただ、『島』に最も近い場所にある宿を紹介されて、困っている人がいるという現状を見せられ、それとなく報酬を口約束してもらっただけだ。

 決してギルドを通して依頼を引き受けた訳ではない。


「依頼を引き受けるとしたらパーティで引き受けるのでよろしくお願いします」


 依頼を引き受けさせるのは簡単だ。

 指名依頼を出せばいい。


 しかし、Aランク冒険者5人分の報酬など簡単に用意できるはずがない。そうなると俺たちが納得するような報酬を別に用意する必要があるのだが、それにしても高額な報酬が必要になるのは間違いない。


 だからこそ正義感から自主的に動いてもらうよう誘導した。

 攻め込まれた自国を助ける為に戦争へ介入したり、魔剣使いが暴れる街で報酬が出る訳でもないのに討伐したり、と報酬の乏しい依頼でも率先して動いていた俺たちなら動いてくれる、とでも思っていたのだろう。

 実際には見えない部分で報酬を頂いていただけなのだが。


「この状況がどれだけマズいのかは理解していますね」


 『島』の領有権はシオドア族にある。それは以前に交わされた取引で決められた事であるため間違いのない事実だ。

 だが、シオドア族のいる土地も含めて彼らの資産が欲しいサボナの上層部は、いずれは手に入れるつもりでおり、事実を有耶無耶なままにしておくことで掠め取ることを画策していた。


 しかし、ここにきてシオドア族が出した依頼で赴いた冒険者が『島』にある物を譲ってもらう。

 シオドア族に『島』の領有権がなければ不可能な事だ。


「俺は拠点のアリスターへ帰ったら今回の一件をしっかりと報告させてもらうつもりです。そうすれば、依頼を完遂したことで『何』を報酬として頂いたのか書類に記録として残ることでしょう」


 そうなれば有耶無耶にすることなど不可能だ。


「ただし、ギルドを介した依頼ではないので俺が報告しなければ伝わりません」

「……何を要求するつもりです?」


 さすがにここまで言えば要求される事は分かったか。

 だが、そこまで難しい事を要求するつもりはない。


「簡単な話ですよ。そちらで依頼を出してもらえばいいだけです」


 アリスターの冒険者ギルドには、サボナの冒険者ギルドで依頼を引き受けた、という体で全ての報告を行う。

 向こうも複数の依頼を同時に引き受けるのが難しい事は理解している。

 なにより今回要求されているのは、未知な『島』の調査。他の依頼を引き受ける余裕など通常ならない。


「どうしますか?」

「断る余地などありません。私もサボナからして見れば雇われたギルドマスターでしかありません。それに開発利権関係で知ってはいけない事まで知ってしまっています。私を野放しにするような真似はできないので、最悪の場合には……」


 曲げた手を首に当てて横へ動かす。

 最悪の場合には社会的にだけでなく、物理的にも首を斬られる可能性があるらしい。

 そこまで悪い状況だと分かっていなかったので申し訳ないことをした気分にさせられる。


 それでも、まずは利益優先だ。

 納得できる報酬が手に入るなら依頼を引き受ける。


「こんな事態を想定して珍しい魔法道具をいくつか持ってきました」


 ジェフリーの腕には収納リングがある。

 報酬となる物が必要な場合に備えて用意しておいたらしく、砂浜の上にシートを敷くと魔法道具をいくつも取り出していく。


 やはり、冒険者ギルドが出せる魔法道具だけあって戦闘に役立ちそうな能力を備えた武器や防具が多い。普通の冒険者なら、すぐにでも飛び付きそうな魔法道具なのだが、俺たちは迷宮のおかげで装備には困っていないので、どれも必要としていない……ん?


「これは、何ですか?」


 端の方に置かれた水晶玉。

 装備品の類以外にも水魔法が使えるメンバーがいないパーティ向けに魔力を注ぐだけで水を生み出すことができ、お湯にも自由自在に変えることができるポット型の魔法道具なんかが置かれている一角に水晶玉は置かれていた。


「ああ、この水晶玉ですか。以前に巨大海魔を倒して頂いた後に色々な物が砂浜に漂着するようになったのです。どうやら、船を襲った巨大海魔が色々な物を溜め込んでいたらしく、討伐されたことで巣の中にあった物が流れてしまったのが原因だと思われています。で、これも漂着した物の一つです」


 最低限の関心だけを向ける、フリをする。

 が、やり手のジェフリー相手では誤魔化すのは不可能だったらしく、これを報酬に話を進められる。


「漂着した物は、全て鑑定士の手によって鑑定するようにしていたのです。で、これも鑑定してもらったのですが、何も分かりませんでした」

「何も?」

「はい。魔力を多分に含んでいるのは間違いないのですが、一体どのような効果を秘めていて、どのように使用するのか分からないのです。廃棄するのも魔力を含んでいることを考えると暴発する可能性があるので危険です」

「なるほど……」

「これにしますか?」

「その水晶玉と隣にあるランプと眼鏡を下さい」

「かしこまりました」


 ダミーとして他にも二つ要求させてもらったが、俺の目的は水晶玉一つだ。

 あの水晶玉は――迷宮核(ダンジョンコア)だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ