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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第3話 珊瑚亭

 珊瑚亭。

 サボナの西側にある5階建ての旅館で、開放的なビーチがすぐ目の前にあり、静かなひと時を求めてやって来た人たちに人気の宿だ。


 今日も多くの人で賑わっている。

 それでも、予想されていたほどの混雑はないみたいで大人数であっても受け入れてくれた。

 最初は繁忙期ではないので好意的だったが、話を進めていくと人数の事もあって渋られたが、ギルドマスターからの紹介状を見せると笑顔で通してくれた。


 まず、全員が案内されたのはベッドが8つある広い部屋。


「こちらは貴族の方が泊まれる部屋となっております」


 貴族ともなれば自分の給仕や護衛を連れている。

 隣の部屋をそういった人物の為に使わせてもいいが、同じ部屋で行動していた方が給仕も護衛もし易い。

 そういった意味での大部屋。

 金のない大人数を一つの部屋に閉じ込めておくような部屋ではない。その証拠に部屋には高価な壺や絵が置かれており、窓からは綺麗な海が一望できるようになっていた。

 明らかに高価な部屋。


「こんな部屋いいんですか?」


 先ほども貴族に使わせる部屋だと言っていた。

 値段が高い事も問題だが、そんな部屋を冒険者の平民が使用した、という事が宿にとって問題にならないか不安だ。


「はい。皆さんは、この街にとって恩人にも等しい人物です。これぐらいは私たちからの礼だと思って受け取ってください」


 そういう事なら受け取らせてもらおう。



 ☆ ☆ ☆



 真っ先に案内された8人用の部屋には俺と眷属、そして3人の子供たちが使うことになった。

 他にも4人部屋を3つ用意してもらっている。母やアリアンナさん、それにノエルの家族、エルマーたち3人にもそれぞれの部屋が与えられている。


 今日は、もうすぐ夕方なので夕食の時間まで自由時間となった。

 子供たち3人は一つのベッドで寄りそって眠っている。アルフとソフィアはこちらへ来る前から眠っていてシルビアに抱かれており、シエラも海を目にしたことで興奮していたが、ベッドで横になった途端に疲れて眠ってしまったようだ。


 俺も眠りたい衝動に駆られた。さすがに半日で移動するのは疲れた。

 シルビアは俺のそんな想いを察したらしく、ベッドに腰掛けると自分の膝の上をポンポンと叩く。どうやら膝枕をしてくれるみたいだ。数カ月前に子供を産んだとは思えないほどスタイルは以前の状態を取り戻している。


 思わずベッドに身を投げ出そうとしたところで……


「失礼します」


 『珊瑚亭』を取り仕切る女将が部屋にやって来た。

 他の従業員と一緒になって宿へ到着した客にお菓子とお茶を運んでいる。


「どうぞ、ごゆっくりしてくださって結構ですよ」


 バッとシルビアから離れる。

 シルビアの方も慌てて俺から離れた。

 旅館の女将というだけあって、客の反応にも慣れている。


「ええと、一つよろしいですか?」

「はい」


 少しでも恥ずかしさを誤魔化そうと女将に話し掛ける。

 女将は俺たちの母親よりも少し年上で長い髪を後ろで団子状にまとめた落ち着きのある女性だ。これまでにいくつもの宿には泊まった経験があるが、冒険者が利用し易い場所を選んでいたため親しみやすい人の方が多かった。


 これまでにない雰囲気の人に少し緊張する。


「今の『珊瑚亭』は問題を抱えている、とギルドマスターから聞きました。それは海の向こうにある島が関係していますか?」


 シエラが見つけてしまった島。

 距離はそれなりに離れているので関係ないと言われれば関係ないように見える。

 だが、メリッサが事前に調べたところによれば『珊瑚亭』は海が一望できる宿。たしかに海を眺めることはできる。それでも、正面に大きな島があるせいで景観を損なっていることには違いない。


「その通りです。あの島は突如として浮上してきたのです」


 女将が語ってくれる。


 事の起こりは、今から20日前。

 いつものように宿泊していた客の送り出しをしていたところ、突如として島が海の中から浮上してきて居座るようになった。


 島については、女将も詳しいことは知らない。

 どうやって浮上してきたのかも不明。


「あの島のせいで宿泊客が減っているのです」

「何か害があるのですか?」


 女将が頬に手を当てて憂いを帯びた表情をする。

 景観が損なわれる以外で何か問題があるのかもしれない。


「最初は全員が警戒をしていました。いきなり、姿を現した謎の孤島。そんな物から何が飛び出してくるのか分かりませんでしたから」


 当然だ。

 孤島が姿を現すところを見ていた人によれば、孤島は海中から浮上してきた、との事。


 木が生え、土に覆われた山。

 そんな物が普通に海中で存在できるはずがない。

 もしも、そんな状態でも何十年……何百年という歳月を海中で過ごしていたというのなら生態系がどのようになっているのか分からない。


「ですが、あの島はあそこにあるだけで危害を加えられるようなことはありませんし、何かがこちらへ来るような事もありません」

「調査はされないんですか?」


 未知の場所を探索するのも冒険者の仕事だ。

 ギルドマスターは孤島の存在について知っていた。これまでに冒険者の手が入っている可能性がある。


「はい。最初の頃にされました」

「まるで、今はされていないみたいですね」

「……問題が二つ起こりました」


 一つは、船を使って孤島の調査に乗り出した冒険者たちが誰一人として帰ってこない事。

 何らかの危険な魔物が潜んでいて襲われ死んでしまった、というのが冒険者たちの見解だった。巨大海魔の時と同様に調査に対して消極的になっていた。あの時以上に消極的になっているが、巨大海魔の時と違って相手の姿が見られていない。そのせいで冒険者たちの恐怖心を煽っていた。


 そして、問題はこれだけでは済まされない。


「ですが、何も分かっていない訳ではありません」

「調査へ赴いた人は誰も帰って来ていないのでは?」

「その通りです。ですが、あの島について知っている者たちがいたのです」


 それは、この地に住んでいた先住民だった。


「元々のサボナはここよりも東側の地域を指していました」


 ところが、その地域は昔から港や漁場として開発しており、リゾートとして開発するには不向きな場所だった。

 そこでジェフリーたち開発担当が採った手段が全く違う場所の開発だった。


 今、『珊瑚亭』が建っている一帯は狩猟や船を使わずに自力で海に潜って海産物を手に入れる少数部族が暮らす地域だった。


 そこをサボナ側が買い取った。

 話し合いは補償金を払い、ある条件を呑むことで済まされた。


「ある条件?」

「取り決めにより部族の方たちは海側での活動を抑え、北にある山側での生活が中心となりました。ですが、海底には部族の方々が信仰する神が眠る聖地がある、という伝説が残されているらしく、その場所へ祈りを捧げる事。さらに聖地へは不干渉でいることを約束させられました」


 これまでは何の問題もない条件だった。

 ところが、島が浮上してしまったことで状況が一変してしまった。


「浮上した島の事はすぐに部族の方々に伝わりました。あれこそが自分たちの聖地である、と宣言しました」


 かつての契約から聖地へ干渉してはいけない。

 サボナとしては調査に乗り出したいところだが、契約があるせいで調査に人を派遣することができなくなってしまった。


「でも、冒険者が勝手に行くことはないの?」


 冒険者が目の前に未知の島があるにも関わらず、調査を我慢できるはずがない。もしも、運がよければ手付かずの金銀財宝が手に入るかもしれないのだから。


「そうですね。街の意思を無視して乗り込もうとする方々はいました。ですが、そういった方々は部族の手によって葬られています」


 もちろん殺されている訳ではなく、怪我をさせられているだけ。それでも全治に1カ月は掛かりそうな怪我をさせられるので再度の挑戦は難しい。


「で、あなたは調査も全く進まないせいで困っている、と」

「その通りです。あのような島がいつまでもあっては宿から見える景色が損なわれてしまいます。それに宿泊客の中にも怪我人が出てしまいました」


 浮上した島の噂を聞き付けた一人の貴族が乗り込もうと言い出した。

 冒険者と同じように財宝を手に入れれば実務的に助かることもそうだが、それ以上に名誉が手に入る。

 喜々として乗り込もうとした貴族だったが、船に乗る前に部族から怪我を負わされて冒険は終わってしまった。


 宿側には警備の過失ぐらいしかない。

 だが、怪我を負った貴族は宿側の責任だと抗議した。

 信頼を失ったことで客足が遠退き、部屋が空いてしまった。


「このままだと『珊瑚亭』は営業を停止するしかなくなります。事態解決に協力してくれませんか?」

「……報酬は?」


 冒険者として無報酬で依頼を引き受けるなどあり得ない。


「もちろんお支払いします。ですが、それだけでなく宿泊料金を全て無料にさせていただきます。自慢ではありませんが、サボナでも一、二位を争う人気の宿です。大人数で泊まれば相当な金額になりますよ」


 たしかに宿泊代金は懸念事項の一つではあった。

 しかし、払えるか払えないかと問われれば――払える。

 これでもAランク冒険者なのだから懐には余裕がある。


「事情は分かりました」

「ありがとうございます」

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― 新着の感想 ―
[一言] 島があると景観が損なわれるという感覚がよくわからない。 そんな異様な島なのだろうか。
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