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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第1話 うみ

「これ、お弁当になります」

「ありがとう」


 玄関で出掛ける準備をしているとシルビアがお弁当を手渡してくれた。

 受け取った弁当箱を収納リングに入れる。お昼になったら休憩して食べることにしよう。今日は、かなりの強行軍になるはずだから疲れるのは予想できる。


「じゃあ、行って――」

「ふみゅぅ……おはにょう」


 目を擦りながらシエラが玄関へやって来てしまった。

 時刻は早朝。日が上ったばかりで、外は薄らと明るくなり始めた時間。


「……どこ、いくの?」


 どうやら不穏な気配を察して目を覚ましてしまったらしい。

 せっかく長期間の依頼から帰って来たのに魔物騒動があって一緒にいられなかった。そうして解決した翌日にはどこかへ行こうとしている。

 シエラとしては不安になるだろう。


「ちょっと出掛けてくるからな」

「やぁ!」


 我儘を言うシエラ。

 まあ、子供はこれぐらいの方がいい。


「夕方には会えるよ」

「ゆーがた?」


 さすがに分からないか。


「夜、ごはんを食べる前には会えるよ」

「……どこ、いくの?」


 再度、同じ質問。

 どうせ夕方前には分かるのだから先に伝えてしまおう。


「海へ行くんだ」



 ☆ ☆ ☆



 昨日の話し合い。


「シエラの事はどんな風に受け止められていますか?」


 母に尋ねる。

 屋敷は、シエラが戦った南側の兵舎から離れた場所にある。それでも噂というものはあっという間に広がるもので、わずか1歳の子供が魔物を殺した、という事実は正確に伝わった。

 正確に伝わらなかったのは、倒し方や倒した魔物の数などだ。


 正直言って正確に伝わらなかった方はどうでもいい。

 俺たちにとって問題なのは、幼子が魔物を倒せる力を持っている、という事実だ。


 善悪の判断も覚束ない子供が強力な力を有している。シエラにその気はないが、もしもその力が自分たちへ向けられたら……そんな風に思ってしまう大人は大勢いる訳で、シエラを見る大人たちの視線には恐怖が含まれていた。

 唯一の救いは屋敷へ帰ってきたシエラがその視線に気付かなかったことだ。


「人の噂なんてものはしばらくすれば薄れる。けど、そのしばらくが大変だよ」


 ルイーズさんから人の世界で生きてきた年長者らしい言葉が聞けた。

 彼女もエルフでありながら人の世界で生きてきたので色々と苦労をしてきたのは想像できる。


「とはいえ、噂の内容が内容だからね。間違った情報だと思って噂が立ち消えるまでそれほど時間は掛からないだろうね」


 それでも数日は要することになる。

 その間、シエラは近所の人たちから畏怖の籠った目で見られることになり、不快な思いをさせてしまう。

 正直、好ましくない。


「しばらくは離れておいた方がいいだろうね」


 ルイーズさんの助言に従って1週間ほどアリスターを離れることにする。


「目的地はどうするんだい?」

「そうですね……」


 どうせなら旅行にでも行こう。

 行き先は、そろそろ暑くなるので海なんかがいいだろう。


「いいんじゃない?」

「そうですね」

「海へ行くといつも騒動に巻き込まれますが、今回は大丈夫でしょうか?」

「さすがにないと信じたい」

「水着、大丈夫かな……」


 少々的外れな方向へ心配している者がいるものの眷属に反対意見はない。


 問題は出発時期だ。

 出来ることなら早々に離れたいところなので明日には出発する。しかし、急な出発なので都合のつく人物は少ない。


「俺は無理だな」

「ズルいですよ、お兄様」

「わたしも海に行きたい」

「そうですね。以前に行ったリゾートは楽しかったです」


 まず、兄や妹たちは今回の騒動の後片付けがあるため離れることができない。妹たちにとっても今が大事な時期なので遠出できるほどの余裕はない。


 そして、仕事をしている面々も融通を効かせるのは難しい。

 という訳で連れて行けるのは、眷属と子供たち、それに冒険者であるエルマーたちも時間に都合をつけ易い。さすがに年少組でノキアちゃんだけ連れて行かないのは可哀想なのでノエルの家族も招待する。


「あと、母さんたちにもついて来てほしいところなんですけど……」

「私も仕事があるはずだけど、そっちに着いて行くわ」

「私も大丈夫です」


 母とオリビアさんも同行してくれることになった。

 子供が7人もいるので大人が同数いても物理的に手が足りなくなってしまうことがある。


「……レウスもいいのか?」

「もちろんですよ」


 連れて行く子供の中には、兄の息子であるレウス君も含まれている。

 大人しい子供で目立たないが、生まれた時から自分の事を可愛がってくれたシエラの事を本当の姉のように思っている。屋敷にいる子供の中で自分だけが旅行へ連れて行ってもらえないのは可哀想だ。


「あの子も俺にとっては自分の子供同然です」


 厳密には甥なので、そこまで間違っているとも思えない。


「頼む。俺は仕事が忙しくてそっちへ行くことができない」

「本当にいいんでしょうか?」


 さすがに親のどちらもついて来ない、という訳にはいかない。

 母親であるアリアンナさんが不安そうな目を向けてくる。旅行というのは金が掛かる。辺境に住んでいる一般庶民が体験できるような代物ではない。


「大丈夫ですよ。資金的な心配はしないで下さい」


 色々とズルをすれば節約は可能だ。


「本当なら最大戦力であるアンタたちにはアリスターにいてほしいところなんだけど、キマイラを討伐して十分に働いたから今回は大目に見ることにしてあげるよ」

「そっちはお願いします」


 冒険者関係の手続きに関してはルイーズさんに頼るしかない。



 ☆ ☆ ☆



 それが昨日の夜の出来事。

 そして、夕方になる前に目的地であるサボナへと辿り着いた。


「ついたぁ―――!」


 さすがに疲れたため声を挙げた。


 サボナ――以前に巨大海魔が暴れたため討伐してほしいと依頼を引き受けたことがあり、その時に訪れたリゾート地。メティス王国の西にあり、広大な海に面していることで有名だ。

 海へ行こう、と決めた時に俺たちの中で真っ先に目的地として思い浮かんだのがサボナだった。


 移動に要した時間は半日。

 巨大海魔討伐の為に訪れた時は、移動に5日も掛かってしまっていた事を考えると異様だと言える。

 今回はアリスターに残してきたシエラたちが心配なので全力を出し、自重もせずに【跳躍(ジャンプ)】を繰り返して長距離を一瞬で移動し続けた。視界内ならば、どこへでも一瞬での移動を可能にする【跳躍】。これを多用すれば馬車で何十日と掛かる道のりも一瞬で移動することができる。

 あれから2年以上も経過している。ステータスだって向上しているので、全力を出した時に成果がきちんと出る。


 魔力には少し余裕がある。

 それでも一瞬で変わり続ける景色を見続けたことで精神的に疲労が溜まっていた。


「【召喚(サモン)】」


 まず、メリッサとイリスを喚び寄せる。

 急な旅行ということで、これから交渉が必要になる。


「……後は任せた」

「だ、大丈夫ですか?」


 二人の姿を見て安心してしまったのかふらついてしまった。

 そのせいで傍にいたメリッサを心配させてしまった。


「疲れているのは分かるけど、傍にはいて」

「当然だ」


 一応はパーティのリーダー。

 そして、一家の大黒柱である俺が矢面に立つ必要がある。


「まずは、冒険者ギルドへ行こう」

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