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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
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第31話 VSキマイラ―前―

 キマイラ。

 獅子の胴体、狼と山羊の頭、大蛇の尾を持つ魔物。


「アタシも見るのは初めてだね」


 ルイーズさんが離れた場所から言う。


「おい!」


 手招きしてルイーズさんの近くにいた男女二人組の冒険者にこっちまで来るよう伝える。

 彼らにはヒースさんとシャリアさんの回収を頼む。アイラとイリスが引き付けてくれているおかげで距離はあるが、相手の力を考えるとまだ近い。


「二人を連れたらここから離れな」

「あの魔物は……」

「Aランク冒険者と対等に戦えるなら一緒に戦ってもいい。けど、その程度の自信もないようならいるだけ邪魔だ」

「……」


 何かを言いたそうにしている冒険者。

 既にベガロさんが殺されてしまっている。慕っていた者としては仇を討ちたいと考えているのだろう。だが、自分の命が大切なのも真実。


「奴は俺が倒してやるよ」


 そう言うと二人は黙ってヒースさんとシャリアさんを連れて行く。


「本当に大丈夫なんだろうな!」


 離れた場所から声を張り上げてブレイズさんが確認してくる。


「村の防衛をお願いします。拠点の確保は必要です」

「……分かった」


 ここへ辿り着くまで魔物の姿は全く見掛けなかった。

 デイトン村に魔物の姿が全くなかったのは、村を縄張りにしていたオルトロスが連れ出してしまったためだ。


 それを差し引いても、森に魔物がいないのは異常だ。

 その理由は、キマイラの放つ瘴気にある。

 現在、キマイラの体からは大量の瘴気が駄々漏れになっている。少量なら魔物にとっては何の問題もない瘴気だが、キマイラから漏れている瘴気を浴びれば無事では済まない量だ。


 こうして近くにいるのも危険だ。

 できることなら長時間は近くにいたくない。

 そのため魔物たちも逃げ出してしまっている。


「アイラ、イリス。可能なら短期で決着をつけるぞ」

「そうしたいところなんだけど……」


 キマイラに対して攻めあぐねていた二人。

 すると、キマイラの二つの頭にある口に力が集まる。

 狼の口には炎、山羊の口には電撃。


 咆哮と共に放たれる。


「二人とも、下がれ!」


 アイラとイリスがキマイラから離れる。


 5メートルほど離れたところで【迷宮操作:壁】を使用する。キマイラを閉じ込めるように周囲に高さ10メートルの壁が形成される。巨大なキマイラを封じ込めるには、これぐらいの高さが必要になる。

 まだ、冒険者たちが俺たちの戦いを見える位置にいる。なるべくなら変なスキルは使いたくない。なので、見た目は土魔法で作り出した壁に似せている。もっとも、似せているだけで耐久力は迷宮の壁と同様。普通の攻撃では破壊することなどできない。


 壁の内側で炎と電撃が荒れ狂い、上へと逃される。

 内部にいる者は蒸し焼きにされている威力だ。


「さて……」


 普通なら生きていられないような衝撃。

 だが、決して油断してはいけないと勘が囁いている。


「ご主人様!」


 シルビアに横から突き飛ばされる。

 咄嗟にシルビアの方を見れば大蛇が突っ込んでくるところだ。


「シルビア!」


 思わず叫ぶ。

 最初は俺を狙っていた攻撃を無理矢理割り込んだため、さらに回避できるような状態ではない。


 ――シャア!


 噛み付いた、と思われた直後、大蛇の体が地面に落ちる。

 そのまま短剣を大蛇の体に突き刺して身動きができないようにする。ジタバタと暴れているが、短剣はしっかりと突き刺さっている。


 それよりもシルビアの方だ。


「大丈夫なのか?」

「問題ありません。攻撃される瞬間に【壁抜け】をしました。それよりも気になるのは……」


 無事だったシルビアが大蛇の先を見る。

 大蛇の先は壁の向こう側に続いていた。ただし、壁の上を跳び越えている訳ではなく、壁などないように擦り抜けている。


「敵に擦り抜けを使われるとこれほど厄介だったんですね」

「まったくだ」


 せっかく閉じ込めたというのに大蛇は壁を物ともせず擦り抜けてしまった。

 なによりも……


「どういう長さをしているんですか?」


 先ほど体の後ろにあった時は1メートルほどの長さしかなかった。

 しかし、壁からここまでで10メートルある。

 とても1メートルの尾が届くような距離ではない。


「何か長くするカラクリがあるんだろうな」


 それが分かるまでは非常に危険だ。


「お前らはどうだった?」

「ダメね。得体が知れないっていうことしか分からなかった」

「どういう事だ?」

「剣で斬る事はできる。けど、深く斬ろうとすると異様な手応えと共に剣が弾き返される」

「おまけに浅く斬った部分はどういう訳かすぐに癒えるのよ」


 頭部について話を聞いていると足元からブチィ、という音が聞こえる。

 下を見れば蛇が無理矢理脱出しようとしたせいで体を引き千切られていた。


「……いいえ、違います!」


 上下に分かれた体。

 てっきり死んだと思っていたが、シルビアが慌てて追撃に入る。しかし、突き刺そうとした短剣は何もない地面に突き刺さる。


 短剣を逃れた大蛇が頭部を失ったまま戻っていく。

 壁の中に消えたキマイラ。


「全員、伏せて!」

「はぁ!?」


 シルビアが逸早く伏せながら跳ぶ。

 俺やアイラ、イリスも慌てて伏せると頭上を爪が通り過ぎ、斬撃によって地面が抉られる。服にも当たった斬撃だが、飛ばされた斬撃に傷付けられるような装備品ではない。


「メェ!」


 山羊の頭を突き出しながら突っ込んでくる。

 その額には鋭い角がある。


「「「跳躍(ジャンプ)」」」


 回避する為に適当な場所へ咄嗟に跳ぶ。

 キマイラのいる後方へ移動すると突進するキマイラが森の中へと入って木を薙ぎ倒していく光景が見える。


「うわぁ……あれって電撃も溜め込んでいるのよね」

「だろうな」


 そのまま木を薙ぎ倒しながら突進していく。


「音が……止んだ?」


 少しすると薙ぎ倒す音が聞こえなくなる。

 異様な気配を頭上から感じ取って見上げるとキマイラがいた。狼の口から炎を吐き出そうとしていたので【迷宮結界】を展開させて防御する。


「マジかよ……」


 もう分かった。


「あいつは、体を瘴気だけに変えることができる。そのうえ、好きな場所で実体化できる能力まである。どういうレベルだよ……」


 閉じ込められても瘴気化して脱出。

 さらに背後へ回り込むことまで自由自在。


「対処法は……!」

「ない」

「ない!?」


 アイラから縋るような目を向けられる。が、分からないものは答えようがない。

 大抵の魔物については対処法が分かる。しかし、目の前にいるキマイラについては全く参考になる情報がない。


 魔物に対する知識の大半が迷宮から得られたものだ。

 迷宮には様々な魔物が生息している。生産可能な魔物も含めれば数え切れないほどだ。とはいえ、それらは過去にいた魔物に限定される。

 目の前にいるキマイラは迷宮では生産が不可能。

 そのため役に立ちそうな情報は全くない。


「で、どうする?」

「何が何でも倒すしかない。こんな神出鬼没な魔物が相手なら強固な外壁があっても意味がない」


 アリスターまで辿り着かれる訳にはいかない。

 このまま結界で耐え続けていれば力尽きてくれる。そんな甘い期待を抱いていると結界の向こう側に大蛇の姿が見える。


「回復までありかよ!」


 アイラとイリスを横へ突き飛ばす。

 結界を広めたため炎の範囲内からは逃れる。

 大蛇が結界を擦り抜けて襲い掛かってくる。


「やっぱり結界は意味がなかったか」


 剣を振るう。

 大蛇が硬い頭を打ち付けてくる。剣に対して的確に動かれているせいで斬ることができない。


 膠着状態が続いていると結界が割れた。

 大蛇の相手をしていたせいで維持に綻びが生じてしまった。


 そこへキマイラが突っ込んでくる。邪魔な壁がなくなったおかげで自由に突っ込むことができる。

 狼の頭がぶつかり、吹き飛ばされて体が浮き上がる。

 それでも鼻先をしっかりと掴んでしがみ付く。


「掴んだぜ……第2ラウンドといこうか」


 ワイルドコングにしたように【転移(ワープ)】を発動させる。

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