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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第5章 賞金稼ぎ
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第9話 夜間警備

「ははっ、それは災難だったな」

「まったくですよ……」


 兄が俺の近況を聞いて笑っていた。

 だが、当事者である俺にとっては笑い事ではない。


「模擬戦で負けてからシルビアの奴意地になって強くなろうとしているんですよ」


 俺が相手では眷属という立場が邪魔してシルビアでは感情的に本気になることができず、とはいえ街にいる冒険者には模擬戦を頼めるほど親しくなれていない。


 そこで仕方なく模擬戦をしてからの3日間は近場で狩れる魔物を討伐しまくって戦闘力の底上げをしていた。しかもギルドで討伐依頼を受けたうえで行っているので上手くすれば今日中にランクアップができるかもしれない。

 そんなに急いでいるのも俺が今受けている依頼を一緒に受ける為だ。


「見ているだけのこっちは無茶のし過ぎで倒れるんじゃないかとヒヤヒヤしているっていうのに俺に手伝わせることもしない」


 一緒に行くように言っても「わたしの訓練ですから、ご主人様の手を煩わせるまでもありません」と言って同行を断ってくる。

 1度だけ使い魔に後を付けさせたが、シルビアに察知されてしまい、尾行させることができなかった。


「主人として一言だけでも注意をした方がいいんじゃないか?」

「あいつは俺に過保護なところがあって、俺の為になるなら無茶なことでも平気でしそうなんです」


 討伐に出て疲れているはずなのに俺の世話は止めずに食事の用意は家に帰れば毎日のように用意してくれる。

 しかも依頼で得られた報酬も全て家に入れてくれるので、正直申し訳ない気持ちになっていた。


「今回の訓練だって『自分が強くなれば、それだけ俺が安全になる』とか考えているんだろうけど、心の奥底では……」


 アイラに負けたことが悔しいのだ。

 どれだけ澄まして従者のように付き従っていても数日前までは勝気な村娘だった少女だ。


「そういう意味でも今回の依頼はさっさと終わらせたいところです」


 シルビアなら本当に1週間以内にDランクになりそうだ。

 そうなれば俺が今ギルドから受けている『夜間警備』をシルビアも受けられるようになる。


 普段の万全な状態ならそこまで心配することはないが、今のシルビアは非常に疲れている。そんな状態で常に警戒していなければならない警備の依頼を受けさせるのは危険だ。


 もっとも、俺は警戒しているわけではない。


「それで、街の様子はどうだ?」

「全部を把握しているわけじゃないからなんとも言えないけど、普段と変わらないように思える」


 家には家族が待っているので俺も兄も夜の街には付き合い程度でしか出歩いたことがないが、繁華街は普段と変わらずに賑やかだ。逆に住宅街の方は、辻斬の噂を聞いて恐れているのか夜の街を出歩く人はいない。


「それにしても本当に便利な能力だな」

「とはいえ『使い魔』である以上、どうしても限界がありますけどね」


 俺たちの仕事は不審者がいないか歩きながら警戒することだ。もしも見つけた場合には話を聞いて、相手の出方次第では捕縛することもある。


 辻斬は、相手の立場が一般人や騎士に関係なく襲い掛かり、既に5人もの人間を殺してしまっている。


 そんな人間を探すのにいちいち足で歩いて探す必要などない。

 街の中に100体の使い魔――野ネズミにしか見えない迷宮生まれの魔物であるサンドラットを放って監視に当たらせている。


 使い魔の数が100体しかいないのは、それしか用意できなかったとか、1度に制御できる使い魔の数が100体までとかいうわけではない。あまりに大量の野ネズミが街中を動き回れば、それだけで騒ぎになる。正体を隠しておきたい身としては騒がれるのは避けたかった。

 その気になれば1000体ぐらいなら同時に制御することが可能だ。


 今も建物の陰や排水溝の隙間から外を覗いているサンドラットからの報告を受け取り、不審者がいないことを確認する。それでも100体では、広大な街の全てを監視することはできず確認漏れは必ずある。


「しかし、辻斬が出てきてくれない方が治安を守る者としては助かるんだが、こう2日も出てこないと退屈で仕方ないな」

「それは仕方ないです。こうして見回りをしているだけでも犯人が犯行に及ぶのを防げていると考えましょう」


 そう言うものの本当に見回りが防犯になっているのか怪しい。


 犯人は既に4人目と5人目の犠牲者に騎士を殺している。犯人にとって相手の戦力など関係ないのではないのか?


 そうなると治安の維持に努めるよりも一刻も早い犯人の逮捕が優先される。


 こうして俺が迷宮主としての力を使ってまで犯人逮捕に協力しているのも昨日の朝に兄から頼み込まれてしまったからである。


 ――6人目の犠牲者が出た。

 迷宮から帰って来た日の夜はのんびりと過ごしていたのだが、その間に見回りをしていた騎士がまた殺されてしまったらしい。


 殺された騎士は兄より数カ月早く入団した若者で、年齢が近いこともあって兄とも仲良くしていた。

 そんな騎士が無残に殺されたとあっては黙っていられるはずがなかった。


 兄は、俺が目立つことをしたくないことを知っていたが、それでも特殊な力を持つ俺に頼るほかなかった。


 殺された騎士には戦った形跡はあったが、戦闘があった場所に犯人らしき人物の痕跡は残されていなかった。そこから考えられるのは犯人が騎士よりも強かったという事実。

 兄の実力は殺された騎士よりも少し弱いぐらいで、模擬戦の結果は僅かに負け越していた。そんな自分が犯人と対峙したところで敵うはずがない、と冷静に判断を下したうえで、恥を忍んで俺に頼みこんで来た。


 もちろんギルドの『夜間警備』を受けるうえで俺の力を十全に使えるようにする為に兄の手伝いということにさせてもらった。


「しかし、俺たち以外にも警備依頼を受けている人はいるんですね」


 使い魔の目を通して、使い魔たちが見ている光景が俺の脳内に再現される。

 そこには、俺たちと同じように騎士とペアになって警戒している冒険者の姿が映し出された。


「この街は、辺境ということで近くに迷宮があったり、魔物が活発になりやすい場所があったりするから冒険者にとっては稼ぎやすい場所なんだ。そんな場所で辻斬なんて事件が起これば冒険者の方も気が気じゃないんだろ」

「ま、辻斬を放置できないっていう意見には賛成かな」


 街には母や妹、オリビアさんたちだって生活しているのだ。

 もしも、彼女たちが犠牲になった場合には能力を隠すことなく使用して犯人を追い詰めてやる。


 ……ん?


「どうした?」


 思わず足が止まってしまい、兄が声を掛けてくる。


 だが、俺にも何が起こったのか分からない。

 急に使い魔の1体とのリンクが切れた。

 いや、正確には使い魔の1体が何者かによって殺された。


「一番、近くにいる奴は行け!」

『チュウ』


 リンクの切れた使い魔の一番近くにいた別の使い魔に向かうように伝える。

 今回使用している使い魔は見た目を重視して野ネズミにしか見えないサンドラットを使用している。もしも、街の住民が野ネズミと間違えて処分してしまったのなら、その時はサンドラットには申し訳ないが、問題なかったと判断することになる。


 だが、殺したのが辻斬の犯人なら……。


『チュウ!』


 サンドラットを殺した犯人について考えていると殺されたサンドラットがいた裏路地の交錯する場所へ辿り着いたことを知らせてくれた。

 そこには、刃物によって体を斬り裂かれたサンドラットの死体が無残に転がされていた。


『チュウ……!』


 殺害場所へ向かわせたサンドラットの怒りがこちらまで伝わってくる。


『チュッ!』


 サンドラットが大きく前へと跳ぶ。

 だが、それだけでは回避するには足りず後ろ足を切断されてしまう。


 足を切断されながらもサンドラットが自分を攻撃してきた犯人を見る。

 そこには、夜の闇に紛れるように真っ黒なローブを着込んだ男がいた。


『さっさと来い』


 ローブを着た男が足を切断されたサンドラットに向かって剣を突き刺す。

 剣を引き抜かれると、サンドラットは大量の血を流しながらガクッと力なく倒れる。


 間違いない――奴が辻斬の犯人だ。


 そして、『さっさと来い』という言葉。

 奴は、サンドラットが俺の使い魔だということを分かったうえで、サンドラットを殺すことによって主人である俺を挑発している。


 いいだろう、その挑発に乗ってやる。


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