表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
758/1458

第29話 VSオルトロス―後―

 シエラが犬に跨って戦っている。

 経緯は全く分からないけど、あれは使える。


「【召喚(サモン)】」


 契約状態にある特定の相手を喚び寄せることができる迷宮魔法。

 わたしが喚び出す魔物は決まっている。


『状況は理解しておる』


 さすがは神獣とまで呼ばれた魔物。

 いきなり、わたしの目の前へ喚び出されたにも関わらず、即座にオルトロスを敵と認識して臨戦態勢へ移る。まあ、神獣たちほどの知性があれば【迷宮同調】を利用して状況を知ることはできる。


 わたしの事を孫娘のように可愛がってくれる雷獣様。

 そんなわたしに対して敵意を向けてくるオルトロスは敵以外の何者でもない。


『乗れ』

「ありがとうございます」


 人よりも圧倒的に大きな雷獣様に乗る。

 大きさが違い過ぎて跨っている、というよりは乗っている。


『行くぞ!』

「はい!」


 雷獣様が平原を駆ける。

 空は晴れている。それでも雷獣の走る周囲には雷が落ちてくる。

 これが災厄を呼ぶ雷獣様の能力。本人の意図しないところで落雷を発生させてしまう。本人は嫌っている能力だけど、今は協力してもらおう。


『お前は平気だな』

「お願いします」


 雷獣様の体に雷が落ちる。

 当然、乗っているわたしにも影響がある。


 けど、【天候操作(ウェザーコントロール)】を持っているわたしには雷撃なんかによるダメージは通用しない。むしろ、自分の力に変えてしまう。


『攻撃に専念しろ』


 オルトロスが咆哮を放つ。

 魔力を含んだ叫びは衝撃波となって砲弾のように襲い掛かる。


 雷獣様が跳んで回避する。

 そして、着地するタイミングに合わせて錫杖から雷撃を槍のようにして放つ。

 雷槍の直撃を受けて仰け反るオルトロス。そのまま何度も撃つ。雷獣様に乗っているおかげでわたしは攻撃に専念できて当てることができる。自分で走りながらだとここまで上手くはできなかった。


『終わりだ』


 雷獣様が駆けながらオルトロスの体を爪でズタズタに斬り裂く。ただの爪じゃない。雷撃を纏った爪は斬り裂くと同時に灼いている。


 いくつもに斬り分けられたオルトロスが地面に倒れる。

 普通なら絶対に生きていられない状態。


『さっさと起き上がるんじゃな』


 オルトロスの体が霧のような物になると2体の犬に分裂する。


 2体の犬がわたしと雷獣様の周囲をグルグルと回る。

 さっきは狙いをつけられたから狙わせないようにしよう、という魂胆なんだと思う。


『なんという愚策』


 雷獣様が吼える。

 オルトロスの咆哮と違って攻撃の為ではない。

 けれども、まるで雷獣様に応えるように空からいくつもの雷がさっきよりも規模を大きくして落ちてくる。


 逃げ場なんてないぐらい周囲に落ちる雷。

 落ちる度に穴が地面に空く。


 ――ガガガガガガガガッッッッッ!


 あ、穴に躓いたオルトロスが転んだ。


『そこか』


 転んで足を止めたオルトロスに雷が直撃する。

 すぐには死なない程度に弱められた攻撃。


 片方のオルトロスが弱々しい声を挙げる。

 その声を聞いた残りのオルトロスが足を止める。


「いっけぇぇぇ!」


 足を止めてしまったオルトロスに向かって錫杖を投げる。ただの錫杖じゃない。雷撃をたっぷりと溜め込んだ錫杖だ。

 そんな事に気付かずオルトロスが錫杖を噛み砕こうとする。


 犬の本能から噛み付いてしまった。

 わたしの使う錫杖はマルスからもらったSランクの錫杖――審杖テミスタッフ。ランクに見合うだけの頑丈さがあって、いくらオルトロスでも噛み砕くなんて不可能。逆に想像以上の硬さに顔を一瞬だけ顰める。


 一瞬だけで済んだのは止めることに失敗したせいで口の中に錫杖が飛び込んで歯の痛みなんて気にしていられなくなったから。


解放(リリース)


 溜め込んでいた電撃を錫杖から解放する。

 すると、オルトロスは体の内側から雷撃に灼かれて為す術もなく倒される。


『ガァッ!』


 もう片方のオルトロスも雷獣様の手によってズタズタに斬り裂かれていた。

 両方が同時に倒された。

 これで、復活するようなこともないはず。


「ふぅ……」


 想像以上に疲れた。

 息を吐いていると雷獣様が傍によって心配そうに見つめてくる。


「大丈夫ですよ」

『そうか』


 大きな体から放たれる威圧感からは想像もできないほど優しい声。

 わたしの事を心配してくれるのが分かる。


『だが、今はお前一人の体ではない。獣人の赤子は成長が速い。気を付けた方がいいぞ』

「やっぱり楽しみですか?」

『……そうだな』


 顔を背ける雷獣様。

 紳士であろうとしている雷獣様にとって子供を楽しみにしている姿は恥ずかしいみたい。


『今は、あの子の方が大切ではないか?』


 雷獣様が見る方向にはシエラを抱いたメリッサがいた。


「お疲れ様です」

「本当よ。けど、いい運動になったんじゃない」


 カロリーも十分に消費できたはず。

 これで昨日食べ過ぎた分はチャラ。


「しゅごいの!」


 興奮した様子のシエラ。

 どうやら、自分が犬に跨って戦っていた時の姿とわたしの姿を見比べたことで改めて母親の凄さを実感したみたい。


 そんな興奮しているシエラの額を弾く。


「……いたい」

「みんな心配していたんだからね」


 シエラがこの場に来ていると聞かされた時は気が気でなかった。

 けど、メリッサが傍にいる以上は大丈夫だっていう信頼もあった。


「反省はしているの?」

「……ごめんなしゃい」

「どうして、こんな事をしたの?」

「おてつだい、したかった」


 魔物が暴れて忙しかった。

 街に冒険者が残ってくれていたけど、戦力不足なのは否めない。


「お手伝いは嬉しいよ。けど、お母さんたちを心配させるのは悪い事。悪い事をしちゃう悪い子は嫌いになっちゃうよ」

「シー、わるいこじゃないもん!」


 いやいや、と首を何度も振っている。

 ちょっと長女としていい子になりなさいと教育し過ぎたかもしれない。いい子であろうとして悪い子になる事を極端に嫌っている。


「でも、お手伝いしてくれたのは嬉しいから。いい子かな?」

「ほんとぅ?」

「本当」

「わ~い!」


 手を挙げて喜んでいるシエラ。

 その姿を見ていた雷獣様が穏やかな表情になって背を向ける。


『すまないが、しばらくは姿を隠す』

「ごめんなさい。すぐに喚び戻すようにします」


 迷宮へ戻す為には迷宮で【召喚】する必要がある。

 色々と忙しくて迷宮へはまだ戻れないため雷獣様にはしばらく外で待機してもらう必要がある。アリスターへ迫っていた魔物は全て退治したけど、魔物の襲撃で住人が怯えてしまっているのは事実。いくら無害とはいえ、魔物である雷獣様が近くにいるのは問題だ。

 という訳で、しばらくは離れた森にでも身を隠してもらうことにする。

 雷獣様なら他の魔物を相手に後れを取るようなことはない。


『久しぶりの外じゃ。ワシも楽しませてもらうことにする』

「ばいばい」


 離れていく雷獣様に手を振っているシエラ。

 心なしか寂しそうに見える。


 うん、そろそろいいニュースを伝えようかな。


「お父さんなら、もうすぐ帰ってくるよ」

「ほんとぅ?」

「さっき、悪い魔物さんに会ったって連絡があったからすぐだよ」

「わ~い!」


 本当に喜んでいるシエラ。


「ギルドへの報告とかはわたしがやっておくからメリッサはシエラを連れ帰ってくれない」

「お願いします。私も魔力がギリギリなんです」


 戦いが始まった時点でメリッサは魔力の9割を失っていた。

 というのも昨日、【天癒】を使って空に近い状態まで魔力を消費してしまったイリスの為に最低限だけ残して譲渡してしまったからだ。方法は、手を握って行われた。あまり効率のいい方法じゃなかったせいでロスが大きくてメリッサの魔力をほとんど消耗することになった。効率のいい方法は、今は使うことができない。


「疲れているんだから仕方ないわよ」


 それに、シエラがいなくなってお母さんたちが心配している。

 一刻も早く無事な姿を見せる必要がある。


「ただ、向こうは大丈夫でしょうか?」

「大丈夫じゃない。いくら相手が不意打ちとはいえ、Aランク冒険者3名を簡単に倒すような魔物でもマルスが負けるはずないじゃない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ