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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
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第26話 VSオルトロス―前―

メリッサ視点です

 汗だくになったノエルさんが私の下まで辿り着く。


「そろそろ止めたらどうですか?」

「……」


 ノエルさんは、そのまま私の足元に置かれた鞄から水筒を取り出して水を一気に飲み干す。

 見るからに疲れた様子のノエルさん。


「だいじょうぶ?」


 その姿をシエラが心配そうに見ていました。

 昨日、主に置いていかれ、今朝も自分が起きる前に出掛けられてしまったせいで駄々をこねられて大変な事になってしまいました。次善策として私とノエルさんが一緒にいることで納得してもらえました。


「うん、大丈夫よ」

「ほんとう?」


 大丈夫だと言っても心配しているシエラ。

 安心させる為にポーズを取ったり、頭を撫でたりしていますね。


 今朝から走り込んでいるノエルさんですけど、一昨日から無駄に食事量を多くしてしまったせいで体重を気にして走っていました。気にするようなプロポーションではないのですが、本人が納得しているのならいいのでしょう。


「あ、わんちゃん!」

「わんちゃん?」


 シエラが外壁の向こう側を見て叫びました。

 たしかに大量の犬がいますね。


「あれは犬じゃなくてコボルトやフォレストウルフじゃない?」

「子供にとってはどちらでも構わない、という事ですよ」


 嬉しそうにアリスターへと近付いて来るコボルトたちを見るシエラ。

 この場にいるのは危険。そして、魔物が近付いて来た時には逃げる必要がある、ということを教える為にシエラを抱えます。


「帰りますよ」

「……わんちゃん、もっとちかくでみたい」

「あのわんちゃんたちは凄く危険なの。だから逃げる必要があるの」

「う~~~!」

「いい子は魔物が近くへ行っちゃいけないの」

「……分かった」


 少々不満ながらも納得してくれたみたいなのでシエラを連れて屋敷まで転移。

 その時、魔物の襲来を知らせる鐘が鳴り響きました。


「只今、戻りました」

「メリッサ!?」


 鐘が聞こえたのでしょう。顔色を悪くしたお義母様が駆け寄って来ます。


「アリスターへ魔物が迫っています」

「大丈夫なの?」

「冒険者は魔物を討伐する為にほとんどが出払っていますが、外壁がありますし騎士がいますので防衛は問題ありません。それに、私たちが行きます」

「……そう。あなたたち二人を信じるわ」

「この屋敷は主が徹底的に防衛機構を整えてあります。どこかの避難施設へ行くよりも安全ですから絶対に外へ出ないで下さい」


 そう言ってシエラを預けます。

 不安そうにこちらを見るシエラ。


「約束守れなくてごめんね」


 泣きたいのを我慢しているのか目に涙が溜まっています。

 シエラとはアリスターにいない父親に代わって私たちが一緒にいてあげると約束していただけに申し訳ないです。


「シーもてつだう。いいこは、おてつだいするの!」


 それは子供なりに気遣った結果でした。

 常々いい子であろうとしているシエラ。今は弟と妹の面倒を見るぐらいしかできませんが、それでも大人たちの役に立っていることには変わりありません。


「まほーもつかえるもん!」

「今のシエラじゃちょっと無理かな」

「うー」

「もっと大きくなって強くなったら手伝ってね」

「……わかった」


 ててて、と屋敷の奥へ駆けていくシエラ。

 と、10メートルほど離れたところで振り向きます。


「……いってらっしゃい」

「いってきます」


 挨拶を交わして転移。

 行き先は外壁の上。


「状況はどうですか?」


 ノエルさんに尋ねます。

 先ほどまでの彼女の姿は動きやすい服装ではあったものの戦闘向きではなかったので、シエラを預けに戻っている間にいつもの服に着替えてもらいました。


「犬系の魔物が大量に押し寄せているわ」


 中心にいるのは頭を二つ持つ犬型の魔物――オルトロス。


「オルトロスですか。本気で暴れていいのなら何の問題もありませんね」


 あれはイリスさんが仲間になったばかりの頃です。迷宮の地下77階にある部屋にいたレベル400の魔物――ツインヘッドドッグを討伐した経験があります。

 こちらへ迫っているのは、ツインヘッドドッグよりも弱い魔物。さらに、あの頃は4人で討伐するのが精一杯でしたが、今はあの頃よりも格段に強くなっているので私一人でも問題ないぐらいです。


 ただ、残念なことに本気で戦うのは難しいです。


「移動しますよ」


 ノエルさんと一緒に南門の近くへ転移(ワープ)します。

 こんな時に備えて昨日からアリスター全体を迷宮と再接続しておいた甲斐がありました。


「メリッサ!? それにノエルまで!」


 近付く私たちに気付いたお義兄さんが驚いています。


「状況はどうなっていますか?」

「手伝います」

「……二人に手伝ってもらう必要はない」


 お義兄さんは私たちの状態について知っているので無理をさせたくないのでしょう。

 ただ、一言だけ言わせてもらうなら……


「今日が何日目なのか覚えていますよね」

「……分かった。正直言って手を貸してほしいところだった。数は多いけど、コボルトたちはどうにでもなる。問題は、真ん中にいる強そうな魔物だ」


 いくら騎士でも頭が二つある巨大な犬の魔物には恐怖してしまうみたいです。


「いえ、どうせなら私たちの手で全滅させます」

「何を……」


 魔物のいる場所まで2キロ弱。

 普通の魔法使いでは届かない距離ですが、私の魔法なら射程圏内です。

 指先に魔力を集めて魔法へと変換。解き放たれた魔力が2キロ先にいるコボルトたちのいる場所へ閃となって飛び、地面に大きな爆発を起こしていきます。自分の周囲で爆発が起こるのを見ているだけのコボルトたちは戸惑い、足を止めている間に次々と爆発を起こさせます。


 ――GUOOOOO!


 中央にいたオルトロスが吼えるとコボルトたちを爆殺していた光が消えます。魔力を含んだ叫びによって散らされてしまったようです。

 けれども、あまりに遅い行動です。


「一刀両断・風刃切断(ウィンドエッジセイバー)


 横薙ぎに振るわれた杖から飛び出した風の刃が扇状に広がり、爆発から生き残っていたコボルトたちをまとめて切断させます。


 ただ、これで全ての魔物を倒せた訳ではありません。

 風の刃が到達する直前、上へ跳び上がったためオルトロスが切断されていません。


「さすがに攻撃が大雑把過ぎましたね」


 威力の大きな魔法を使ってしまうと土地に深刻な被害を齎すことになります。それは私の望むところではありません。なので、地面を3メートルほど抉る程度に抑えた爆発と魔物のいた場所の周囲まで草が吹き飛ばされる威力に抑えさせてもらいました。

 ここまで抑えた魔法でも今回は見られているので目立っていますね。


「後は、お任せします」

「りょうかい」


 私の代わりにノエルさんが前へ出ます。


 一気に加速すると錫杖を引き抜き、片方の頭の額を叩きます。額に感じた痛みに片方が目を瞑っています。どうやら頭は独立しているようで、もう片方の頭が叩かれた方の頭へ向きます。

 そうしている間にオルトロスの背へ飛び移ると錫杖を首へ突き入れます。

 魔力でコーティングされた錫杖はオルトロスの硬い肉を突き抜けて致命傷を負わせます。


「ふぅ」


 ノエルさんが息を吐きながらオルトロスから下りると巨体が大きな音を立てて倒れます。


「おお、スゲェ!」

「あのデカい魔物を倒しやがった」

「何者だ、あのねぇちゃん!?」


 ノエルさんもアリスターに住んで1年が経過しますが、多くの人に知られている訳ではありません。

 手招きしてノエルさんを呼び寄せます。駆けてこちらまで来てくれます。


「お疲れ様です」


 ルイーズさんも都市へ迫っていた魔物が何の被害も出さずに討伐されたことで安心しています。

 一番の強敵であったオルトロスは討伐され、動く様子もなく生きている気配もないので誰もが『死んだ』と判断したのでしょう。


 今回は、魔物の接近を多くの人が目撃してしまったために安心させる必要があり、迷宮へ連れて行くような真似はせず脅威が去ったことを伝える為に討伐された事を明確に伝える必要がありました。


 そして、この場には昨日のワイルドコングとの戦闘で負傷し、アリスターに残っていた冒険者もいます。

 だからこそ……


「来ます!」


 強化されたオルトロスを倒す必要があります。

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