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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
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第25話 空っぽの村

 今日やる事はシンプルだ。

 デイトン村の確保。そして、可能なら森の中にいる魔物の討伐。


「大丈夫だったかい?」

「はっ、問題ありません!」


 ルイーズさんの質問にアリスターの兵士が応える。

 今いる場所はセージュ村の広場。魔物によって塀が使い物にならなくなったことが昨日の内に報告されていたため兵士たちの手によって馬車で必要な物資が運び込まれ、警備や構築に必要な人材も連れて来られていた。

 1日振りに見るセージュ村は、魔物の襲撃に最低限は耐えられるだけの設備が整っていた。


「1日ならこんなものだね。少し、休んだら次の村も奪還するよ」


 そうして、俺たちの手で護衛してきた馬車から荷物を下ろす。

 荷物は、大量の弁当だ。


「おぉ!」

「美味そうじゃねぇか」

「さっさと腹ごなししな。体を動かせるようになったらデイトン村へ向かうよ」


 弁当は昨日からセージュ村に留まって警備をしてくれた者たちへの差し入れ。

 セージュ村の奪還が成ったのが昨日の昼過ぎの事。その直後に周囲の魔物が一気に押し寄せて来る事態になり、その後では散発的に襲撃がある程度に留まっていた。もっとも、規模が小さくても襲撃があったことには変わりない。それも昼夜を問わず襲われていたので精神的に疲れている。

 夜間の警備は低・中ランクの冒険者の仕事だ。

 その間に高ランクの冒険者は体を休めておき、今日の奪還作業に専念する。


「さて、目的地はデイトン村だ。この中でデイトン村まで行ったことのある奴は?」


 多くの冒険者がルイーズさんの言葉に反応できないでいた。

 デイトン村の先には森が広がっているだけで何もない。しかも、森から出てくるのは縄張り争いに負けた弱い魔物ばかりで入口付近で狩りをするなら低ランクの冒険者でもギリギリどうにかなる。実際、森での依頼を引き受けていたのはDランクやEランクの冒険者が中心だった。


「アタシも1度行ったことがあるだけだ。とはいえ、道中に難しい物がある訳でもない」


 セージュ村からデイトン村までは街道がある。

 街道に沿って歩くだけで辿り着くことができる。


「問題は辿り着いた後だよ」

「と言うと?」

「セージュ村での事を思い出してごらん。あいつらは人の住んでいた村を自分の縄張りにしていたんだ。もしかしたら、デイトン村も縄張りにされている可能性があるんだよ」

「それは……」


 デイトン村もセージュ村と同じようになっている可能性がある。

 そうなっていた時にデイトン村に『何』がいるのか、そして『どうするのか』考えておく必要がある。


「安心しろ。デイトン村にいるボスは俺たちが倒してやるさ」


 ヒースさんが拳を突き合わせて不敵な笑みを浮かべる。


「いいのかい? 昨日のワイルドコングを考えるとかなり危険だよ」

「危険が何だって言うんだ? 俺は強い奴と戦えれば、それで満足だ。昨日は、あまりの急展開についていけなかったから悔しかったところだ。それに――」


 ヒースさんの視線が俺へ向けられる。


「悔しいがマルスの方が強い。なら、森にいる奴はマルスに任せた方がいいだろ」

「温存させるつもりだね」

「まあ、な」


 俺が消耗しないよう考えてくれていた。


「もっとも、余力があるようなら俺も森の方へ向かうぜ」


 やっぱり戦闘を楽しみにしているヒースさんだ。自分が敵わないような相手でも敵対心を失うようなことはない。


「少しでも稼ぎが欲しいところだから俺も戦うぜ」

「アリスターの事を思えば、そいつは排除しておいた方がいいでしょうね」


 二人のAランク冒険者も賛同してくれる。


「みんな、お前の力に期待しているみたいだな」

「プレッシャーになるから止めてほしいんですけどね」


 アリスターにいる冒険者の中でも最も親しいブレイズさん。

 彼もBランクなので戦力として期待されていた。


「じゃあ、頼むよ。アンタらの活躍にアリスターの明日は掛かっていると思いな」

『はい!』



 ☆ ☆ ☆



「……どういう事だ?」


 先ほど勇んでセージュ村を出てデイトン村まで辿り着いたというのに出鼻を完全に挫かれてしまった。


 二つの村の間にはそれなりの距離がある。

 モルト村からセージュ村までの間を考えれば魔物の襲撃があってもおかしくない。


 ところが、襲撃は全くなかった。


「襲撃どころか魔物の姿を見掛けることすらなかったぞ」


 誰かが呟いたが、誰も答えを返すことができなかった。


「とりあえず村の中へ入ってみるよ」


 ルイーズさんを先頭の中心。

 さらにAランク冒険者二人が横を護衛する。


「やっぱり魔物の姿は見掛けないな」

「これは、おかしいわね……」


 護衛の二人が深刻そうに周囲を警戒する。


「どうだ?」

「全く魔物の気配を感じません。これは気配を消している、とかではなく魔物が全くいません」


 隣にいるシルビアに確認する。

 俺も彼女と同じ意見だ。

 てっきりデイトン村で待ち伏せされていると思っていたが、魔物は1体もいなかった。


「……って、面倒臭いわね!」


 アイラが近くの建物に向かって斬撃を飛ばす。

 斬撃によって建物の壁が吹き飛ばされて中が見えるようになったが、無人となった村では空っぽだった。


「何やっているの?」

「建物の中に隠れたりしていないかと思って」

「そんな単純じゃない」

「ごめんごめん」


 イリスとアイラが言い合っている。

 シルビアの探知から逃れられるような魔物が潜んでいる訳でもない。

 本当に村には魔物がいない。


「……何かがいたのは間違いないよ」


 ルイーズさんは使い魔を派遣していた。

 その時、村や森の様子を探っていたけど、戦闘力がそれほど高くない使い魔だったため中からゴブリンレベルが相手だったとしても魔物が出てくれば逃げるしかない。

 そのため中にどんな魔物がいるのか確認できていなかった。


 魔物がいるのは確実。しかし、それがワイルドコング並みの魔物なのかは分からない。


 俺もデイトン村付近までサファイアイーグルを派遣していたけど、森から出てきたヒッポグリフによって討伐されてしまうため『魔物がいた』事しか分からない。


「じゃあ、そいつらはどこへ行ったの?」


 アイラの言葉にAランク冒険者全員が首を傾げる。


「あの……」

「どうしたんだい?」

「ちょっと見て頂きたい物があります」


 村の周囲を偵察していた冒険者がルイーズさんに提案する。

 たしか、どこかのパーティに所属する偵察が得意な斥候役の冒険者だ。


「これなんです」


 そう言って冒険者が見せたのは、村の南側だ。

 そこは、村の内側から柵が突き破られた形跡があり、何体もの魔物の足跡が南西側へと続いていた。

 足跡からして村にいた魔物はどこかへ移動している。


「どこか……この先には何があるんだい?」


 俺も外には詳しくない。

 方角的にはエルフの里がある。

 が、今の状況で行く必要性を感じられない。


「――魔物たちがどこへ行ったのか分かりました」


 連絡を受けたことで俺だけでなくシルビアたちも顔を顰めている。


「……どうやら最悪のパターンみたいだね」

「ええ、魔物たちはアリスターの真南から姿を現して襲撃を仕掛けようとしているみたいです」


 報告をくれたのはアリスターにいるノエル。

 昨日、無駄に得てしまったカロリーを消費する為に魔物退治で体を動かすことを禁じられてしまったので外壁の上を走り込んでいた時に発見した、との事だ。


「クッ、俺たちがいない間に……!」

「戻った方がいいんじゃないかい!?」


 アリスターが襲われると聞いて慌てふためいている。


「大人しくしな。今から戻ったところで間に合うはずがないよ。近付いてきている奴の中に強い魔物は含まれているのかい?」

「そうですね――」


 外壁の上から魔物の大群を見ているノエルの視界を借りる。

 大半がフォレストウルフ、それよりも少し強い狼型の魔物で構成されている一団の中心にボスと思われる魔物がいる。


「中心に頭が二つある狼……というよりも犬の魔物がいる。前に見たことあるのよりも弱そうだけど、間違いなくオルトロス」

「オ、オルトロスだって!?」


 俺の代わりに答えたイリスの言葉に冒険者たちが驚いている。

 オルトロスもヒッポグリフと同様で滅多に見られるような魔物ではない。


「くっ、もってくれよ……!」


 今すぐにでも走って戻ろうとする冒険者。


「待ちな」


 それをルイーズさんは止めた。


「たしかに間に合わないかもしれない。けど、あの街には俺の家族がいるんだ。騎士がいるかもしれないけど、冒険者はほとんどをこっちへ連れて来ている。オルトロスを含む魔物の大群が相手なら低ランクの連中ばかりで街が守れるとは思えない! 俺はすぐにでも戻らせてもらう」

「大丈夫だよ」

「な、何が……」

「あの街に残してきた冒険者は低ランクばかりだよ。けど、Aランク冒険者が二人もいるんだからどうにかなるよ」


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