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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
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第11話 救援物資

 用事があったのでエリオットと一緒に屋外にある訓練場へと向かう。

 もちろん次期領主であるエリオットに護衛がつかないはずがない。兄を始めとした3人の騎士がついて来ている。


 隊舎の外には訓練ができる場所がある。

 村から避難してきた人たちは一時的にそこへ身を寄せることになった。


 そこでは兵士たちが救援物資を用意していた。

 何日ここにいることになるのか分からないが、外でも寝泊まりができるようにテントが張られ、回復魔法が使える者や医療に心得のある者によって治療が行われている。


 避難してきた人たちに何よりも必要とされているのは食事だ。彼らは、ほとんど休むことなくアリスターまで逃げてきたので、この二日間の間は碌な食事すらできていない。

 疲れているので消化に良い温かいスープが用意されている。


 ただし、その食事を用意している人物を無視できない。


「リアーナちゃん!?」


 そこにいたのはシルビアの妹であるリアーナちゃんだった。

 もちろん彼女一人で用意している訳ではなく、騎士団の隊舎で給仕を担当している何人もの女性の中の一人として活躍している。もっとも、シルビア仕込みの教育が行き届いているおかげで一番活躍することができている。


「あっち……」


 アイラが別の少女に気付いた。


「そっちの資材は奥の方へ持って行って下さい。それからテントはもう少し向こう側に設置して下さい。いえ、まずは怪我人の治療から優先的に進めて下さい」


 現場で働く兵士や治癒師にテキパキと指示を出す少女。

 他ならぬ俺の妹のクリスだった。


 さらに――


「何か必要な物はないですか?」

「できれば子供を休ませたいところなんだけど……」

「でしたら優先的に休めるよう手配しますね」


 避難してきた人から話を聞いて必要な物を纏めているのはメリッサの妹であるメリルちゃんだった。


「3人ともどこかへ出掛けているとは聞いていたけど……」

「まさか、こんなところにいるとは思わなかったわね」


 将来に備えて色々と動いているとは聞いていた。

 それが、こんな避難場所で遭遇するとは思わなかった。


「ん、お前たちは知らないのか?」

「何をですか?」

「あの3人は、今年の学校の卒業生の中でも飛び抜けて優秀だ」


 3人の中でリーダー的な立場に何年もいたためか指揮能力に優れたクリス。

 率先して家事を手伝っていたおかげでメイドとして十分に働けるリアーナ。

 幼い頃から厳しい教育の甲斐もあって優秀で人当たりの好いメリル。


 何よりも三人とも戦闘能力が最低限必要とされるレベルを満たしておかげで、ある進路が見えていた。


「三人とも我が家で引き取ることにした」

「我が家……というとアリスター家?」

「無論だ」


 辺境を統治する大貴族の領主家に仕える。

 田舎に生まれた平民として、これ以上の出世はないだろう。


「お役に立てるようなら構いません」


 もっとも、気にならない部分がない訳ではない。


「……3人を引き取るのは俺の事を考えて、ですね」

「そうだ」


 自分の妹と義理の妹が領主の家で仕えている。

 そんな状況でアリスターを飛び出すような真似はしないだろう、という魂胆だ。


「そんなことをしなくても簡単に出て行ったりはしませんよ」

「もちろんアリスターに愛着を持ってくれていることは分かっている。それでも貴族として信頼できる根拠が必要になるんだ」

「はぁ……」


 11歳にして色々と考えている。

 これが貴族というものなんだろう。


「よろしいでしょうか?」


 訓練場の様子を眺めているとクリスが話し掛けてきた。

 クリスの方は俺がこの場にいることは気にしていないみたいだったが、腕の中に眠っているシエラがいることに気が付くとキッと鋭い視線を向けてきた。

 それでも今は仕事を優先させる。


「何だ?」

「救援物資が圧倒的に足りません」

「足りない? 避難してきたのは100人ちょっとだ。その程度の人数ぐらいなら養えない訳ではない」

「たしかにアリスターのキャパを考えれば養うことは不可能ではありません。ですが、南側の隊舎にある物資だけでは足りていない、ということです」

「……そういうことか」


 アリスターには有事の際に備えて東西南北にある門の近くに騎士団の隊舎が存在する。

 その内、南側にある隊舎は主に魔物討伐の待機所として使用される。

 そういった目的に利用される理由は、南側の門から先にあるのが3つの村とエルフの住んでいる森ぐらいしかないからだ。デイトン村までの距離と人口を考えて最低限の物資しか保管されていない。エルフたちに対しては向こうから来るのを待つしかないため物資を必要としていない。


 もちろん、アリスター全体で考えれば足りている。

 北側や西側は多くの人が出入りするため、今回のように魔物に襲われて逃げてきた人を受け入れる為の物資が保管されている。

 そういった物資を集めることができれば足りる。


「どうしますか?」


 北側や西側から物資を運んでくる。

 ただし、反対方向から運ぶ必要があるため街中を横断すると通行に規制を掛けるなどしなければ時間が掛かってしまう。一旦、都市の外へ出てから迂回する方法も時間が掛かってしまう。

 それでは夜になってしまう。


 魔物が大量に発生している現在の状況で夜に活動するのは危険だ。

 何よりも遅くなると暴動が起きる可能性がある。ようやく都市まで逃げてきたのに最低限の救援すらない。その不満はアリスターへと向くことになる。


「物資が必要なことには変わりない。急いで運ぶよう手配するしか――」

「貸しましょうか?」

「なに……?」


 少々困っているようなので手を貸すことにする。


「私が収納系のスキルを使えることは知っていますね」


 エリオットの前では何度か道具箱(アイテムボックス)を見せたことがある。

 それに次期領主の立場を利用すれば、俺が何かしら収納系のスキルを持っていることは冒険者ギルドに問い合わせるなりすれば簡単に分かる。


「この中にはテントを始めとした救援物資がいくつも入っていますよ」

「本当か」

「ええ」


 全て迷宮で死んでいった冒険者が遺した物だ。

 誰も使うことがなくなった物資は迷宮核が率先して回収していた。時には宝石のように価値のある物が含まれていることがあるので【魔力変換】すれば利益になることがあった。


「ただし、レンタル料はいただきます」

「むぅ……」


 それぐらいの役得がほしいところだ。


「お前! 領主が困っているのだから手を貸すのは当然のことだろう!」


 騎士の一人が声を荒げていた。

 その声のせいでシエラが起きてしまったみたいで目を擦っていた。


「そうは言っても、こっちだってタダで手に入れた訳ではないので、少しぐらいは欲しいところなんですよ」

「くっ、そう言われると……!」

「もちろん状況が状況なので割引はさせてもらいますよ」


 結局、多少の交渉をしただけでテント一式が1日で銀貨1枚になった。

 訓練場にいる人数を考えて20セットを提供する。


「じゃあ、出していきますね」


 訓練場の中心に道具箱を出現させて手を翳すと木箱の周囲に次々とテント道具の一式が出てくる。

 その光景を初めて見る人たちは驚きながら眺めていた。


「じゃあ、後はよろしく」


 死蔵していたテントを出すだけで銀貨が20枚も貰える。

 実に簡単な仕事だ。


 報酬に胸を弾ませていると腕の中にいたシエラが道具箱を気にしているようなので近付いてみる。


「う……?」

「不思議か? こんな小っちゃな箱だけど、中には色んな物が入っているんだぞ」

「いろんな、もの……?」

「そう。シルビアお母さんが作ってくれたお菓子とかジュースも入っているぞ」

「おかし!」


 お菓子を食べている姿を想像したのか嬉しそうにしている。

 そうして手にしようと道具箱へ向かって手を伸ばす。


「箱の中見えないだろ」


 箱の中は黒い“何か”で覆われたように見えないようになっていた。その中に手を突っ込んだとしても何かがある訳ではない。俺が出そうという意思を持つことによって箱の周囲に物が出現する。


「ジュース!」


 ポンッ!


 そんな音が聞こえそうな感じがした直後、ジュースの入った容器がシエラの手の中に出現する。これは、シルビアがいつでも飲ませられるよう作り置きしておいたものだ。

 残念ながら容器は子供が持つことを想定しなかったためシエラの手では持つことができずに落としてしまう。


「うぅ……」

「ああ、ごめんね。お腹空いたんだ」


 泣き出しそうになるシエラをアイラが慌てて抱えるとすぐさま容器の蓋を開けてコップとしても使える蓋にジュースを注ぐとシエラに飲ませる。

 お腹が空いていたシエラはあっという間に飲んでしまう。


 一体、どうして道具箱を使用することができたんだ……?


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