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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
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第7話 避難

 城壁の上は騒然としていた。

 高い場所から見れば大勢の人が走って来ているのはすぐに分かった。あれだけの人間が都市を目指して全速力で走るのは異常だ。

 巻き込まれないよう都市の中心へと避難している。


 そして、騒然としているのは城壁の下でも同じだった。

 状況を把握できていないせいで何人もの兵士が走り回っている。


「静まれ!」


 階段を下りてきたところで慌てる兵士を見ていると叱る声が響く。


「あ、おじちゃん」


 シエラが笑顔で兵士を一喝した人物に向かって手を振っている。

 相手は、シエラが言ったように伯父である俺の兄だった。

 騎士である兄は、こういった状況で兵士をまとめる立場にいる。


「ちょっと待っていてね」


 手を振られた兄は一瞬だけシエラへ笑顔を向けると兵士たちの方へすぐに顔を向ける。


「あの、騎士様……」

「状況はこちらでも判明していない。だが、走って来る人々の中にこの道の先にある村の住人の姿がある。何かあったのは間違いないのだろう。こちらとしては緊急事態故に受け入れる次第だ。兵士の諸君には駆け込んできた人々の受け入れをお願いしたい」

『了解です!』


 兄の命令を受けて兵士たちが次々と準備に取り掛かる。

 アリスターの東西南北にはそれぞれ馬車でも出入りできる大きな門がある。門の近くには、いざという時に対応できるよう騎士や兵士の為の詰め所や宿舎、訓練場が用意されている。

 これから駆け込んでくる人々の為に訓練場を解放するみたいだ。


「おい、マルス」


 命令が行き渡ったところで兄が俺の傍へやって来た。


「どうして、こんなところにいる?」

「いえ、偶然です。家族3人で城壁の上へ行ってのんびりと景色を楽しんでいたら騒ぎが起こったんです」

「……そういうことならいい」


 これから何かが起こるのは間違いない。

 そんな場所へ子供を連れてきているのを不謹慎に思ったのだろう。

 実際には子供を連れてきたところに騒ぎが起こってしまったので俺を咎められても困る。


「シエラちゃんを連れているなら、お前は避難していろ」

「そういう訳にはいかないと思いますよ」


 街の危機だった場合にはAランク冒険者として招集される可能性が高い。

 現に――


「はぁはぁ……マルス君は、もう来ていたんですね!」


 騒ぎを聞き付けてルーティさんが門までやって来ていた。


「まずは、私の方で状況を把握して冒険者たちへ命令を下すことになります。できればマルス君にはいてもらった方がいいのですが……」


 ルーティさんの視線が俺の腕に抱かれたシエラへと向けられる。

 子供がいる状況で仕事は頼み辛いだろう。


「そうですね。では、一旦戻って……」


 屋敷にいる誰かに預けて戻って来ようかと思った時、


「ま、魔物の姿が見えました!」

「何!?」


 城壁の上で見張りに立っていた兵士から届けられた報告に兄が驚く。

 慌てて走って来ている村人たちの方を見るが、砂埃が舞っているのが見えるだけで魔物の姿は確認できない。

 まだ、距離が遠すぎる。


「失礼」


 断りを入れてから魔法を発動させる。

 左手にシエラを抱いて。右手で魔法を発動させると前方に大きなレンズが出現する。


「【望遠鏡(テレスコープ)】」


 ちょっと調整してあげれば走っている人たちの姿がはっきり見えるようになる。


「これは……?」

「光属性魔法の【望遠鏡(テレスコープ)】ですけど、私の知っているものと少し違いますね」

「俺なりのアレンジを加えているので全く同じではないですね」


 横から兄とルーティさんが覗き込んでいる。

 シエラも遠くの景色が見えるようになって興奮している。


「どうやら魔物に追われているみたいですね」


 奥の方までは見えないが、走っている人のすぐ後ろに狼の魔物――フォレストウルフの群れが駆けているのが見える。群れの規模は、30体ほど。

 普段は森の中で生活しているので、外にまで人間を追い掛けてくるのは珍しい。


「なるほど。魔物に追われて逃げてきた訳ですか」

「どうしますか?」


 ルーティさんと兄に尋ねる。

 全速力で逃げている人々だが、フォレストウルフの方が圧倒的に速いため、このままでは都市に辿り着く前に追い付かれてしまう。


「救援に向かう。何人か、私について来い」


 手の空いていた10人の兵士を連れて出て行こうとする兄。

 相手はフォレストウルフなので、10人もいれば怪我をする者が出てしまうかもしれないが、討伐は可能だろう。


 だが、嫌な予感がする。


「ねぇ、あの人たちが避難しているのだとして他の人たちはどうしたの?」


 アイラの言葉にハッとさせられる。

 この方向にはデイトン村があるが、その間にも二つの村がある。規模としては、どの村も100人程度はいる。もしも、全員が魔物の襲撃により逃げているのだとしたら、もっと多くの人がいてもいいはずだ。


 残りの200人近くはどこへ行ったのか?


「兄さん、他の騎士たちは?」

「今は状況確認の段階だ。万が一の場合に備えて都市を守る為に動いている。ここは俺が任せられただけだ」


 少なくともフォレストウルフに対処する必要がある間は救援を望むのは難しい。


「手っ取り早く終わらせることにしましょう」


 迫ってきているフォレストウルフをさっさと討伐することにする。


 頭上に2メートルの魔法陣が描かれる。

 魔法陣から次々と光の線が放たれると走っている人々の頭上を山なりに越えて奥にいたフォレストウルフの体を貫いていく。大きな穴を体に開けられた魔物は倒れるとピクリともしなくなる。

 本来なら、素材の状態を考えてこんな倒し方をやりたくないのだが、今回はすぐ近くに逃げている人がいるため安心させることを優先させてはっきりと倒したことが分かる形で仕留めている。


 1分もしない内にフォレストウルフの群れは全滅していた。


「お前……」

「今回はサービスですよ」


 高ランク冒険者が依頼を引き受けた訳でもないのに魔物を倒した。

 報酬は貰えないが、状況の緊急性を考えて無料で協力してあげた。


「それよりも受け入れてあげなくていいんですか?」

「……っ、そうだ! 彼らは魔物に追われて疲れている。温かく受け入れてやれ」


 バタバタと走り回って準備をする兵士たち。

 しばらくすると門に逃げていた人々が辿り着いた。


「もう大丈夫だからな」

「都市の中は安全だぞ」

「簡単な物で申し訳ないが、宿舎の厨房で用意してもらったスープがある。これでも飲んで落ち着けてほしい」


 騎士から指示を受けた兵士たちは快く避難してきた人々を受け入れていた。

 軽い食事と飲み物を渡し、疲れた人々の肩に毛布をかけて温かくしていた。


「ありがとう……」

「助かった、んだな」


 村人たちも受け入れてもらえたおかげで、ようやく落ち着くことができていた。

 道中、本当に過酷な日々だったはずだ。


「あ、あの……」


 先頭を走っていた男が頭を下げてきた。


「あなたがフォレストウルフを討伐して下さったんですよね。あのような強力な魔法は見たことがありません。さぞや有名な魔法使いだと見受けしました」


 自分たちでは逃げることしかできなかったフォレストウルフをあっという間に討伐してくれたことに対してお礼を言っていた。

 その行動は避難していた人々を率いていた人物としては当たり前の行動。

 ただし、相手の事を知っているだけに敬語で話されると複雑な気分だ。


「……頭を上げろ」

「でも――」

「そして、相手の顔を見ろ」


 パチパチ、と目を瞬かせながら信じられないものでも見るように俺のことを凝視している。

 やがて、お礼を言っていた人物が誰なのか気付いた。


「……マルスだったのか」

「で、何があったのか説明してくれるのか?」


 頭を下げていたのは、デイトン村の現村長であるリューだった。

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