表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
733/1458

第4話 隠せない嘘

「うわっ、どうしたの!?」


 シエラを抱えたアイラがリビングにやって来た途端、驚いていた。

 その言葉を聞いてテーブルに突っ伏していた顔を半分だけ上げる。


「……もう、今日は仕事しない」

「ちょっと!」


 アイラのキッと鋭い視線がメリッサに向けられる。

 一方、睨まれたメリッサは普段通りに紅茶を飲んで流していた。

 その姿にイリスもシルビアも苦笑している。


「……どうしたの、ノエル?」

「え?」

「なんだか緊張しているような気がするけど」

「そんなことは……」


 言われて初めて気付いたけど、ノエルの反応が普段と違う。


「……何か隠しているな」

「だから、そんなことは――」

「お前は忘れたのか? 巫女であるお前は、俺の内心を感じ取れるようになっている。けど、その逆だって可能なんだ。その気になれば、お前の内心を主である俺が感じ取ることは可能だ」


 とはいえ、ノエルほどの精度はない。

 せいぜいが平気な振りをしていても内心では落ち込んでいる、普段通りにしていても何か隠し事をしている。

 その程度の精度でしかない。それでも感じられる。


「だから、本当に隠し事なんてしていないの。メリッサの凄さにちょっと圧倒されただけなの」

「なんだ、そういうこと」


 ノエルの言葉にアイラは納得してしまった。

 メリッサの凄さをノエルが間近で体験したのは昨日が初めてだった。他の眷属は最低でも1回は見たことがあるので呆れたような視線を元凶であるメリッサへと向けていた。


 が――


「ダウト」

「え……?」

「今、一瞬だけメリッサに視線が固定されていたぞ」


 事情を釈明する為にあちこちへ視線が泳いでいたノエル。

 が、メリッサの方を向いた時だけ止まっている時間が長かった。何よりも、その瞬間だけ安心しているように感じられた。


「なるほど。自分を犠牲にしてアドバイスを送ったわけ」


 イリスが気付いた。


「仕方ないですね」


 そうなればメリッサも観念するしかない。

 ノエルが何かを隠しているのは間違いない。そして、隠し事の内容をメリッサも知っている。


「何を隠している?」

「……言えない」


 サッと視線を逸らすノエル。

 今度こそ隠し事をしていることは認めた。

 ……できれば使いたくなかったんだけどな。


「――『言え』」

「ちょ……!」


 眷属への【絶対命令権】を行使。

 こうなってしまった以上、ノエルは隠し事を告白しなければならない。


 しかし、唇を噛み締めて抵抗してしまった。


「そこまで言いたくないのか……」


 だが、いつまでも抵抗できるようなものではない。

 普段なら、そこまで抵抗されれば解放してあげてもいいと思う。が、ノエルから伝わってくる思いのせいか聞き出さなければならない気にさせられる。


 やがて観念した。

 ただし、テーブルの上に空っぽの瓶を置くことで示した。


「あちゃあ~」


 以前に黙って使用したことのあるシルビアが額に手を当てていた。


「どうするの? 条件は全て満たしているんでしょ」

「話を聞く限り、満たしているのは間違いない」


 アイラとイリスも呆れている。

 秘薬は飲んだだけでは効果を発揮しないが、必要な手順は済ませてしまっている。


「メリッサ、お前は自分に注意を向けることでノエルの嘘を隠そうとしたな」

「その通りです。念話を使って指示を出させてもらいました」


 どうして、メリッサが知っていたのかは分からない。

 が、メリッサなりにノエルのことを思っての行動なのだろう、と感心しているとメリッサもノエルと同じように空っぽの瓶をテーブルに置いた。


「はあ!?」

「これが秘薬をノエルさんが使用してしまったのを私が知っていた理由です」


 つまり、メリッサまで秘薬を使用してしまっている。

 当然、ノエルと同様に条件は満たしてしまっている。


「どうして……」

「隠していたところでいずれは知られてしまう嘘です。昨日は、お母様たちとの話で勢いに任せて使用してしまいましたが、今朝になって冷静に考えてみると凄まじいことをしていました。ですが、後に引く訳にはいかないのです」


 メリッサの口からミッシェルさんの体験を聞かされる。

 そんな話を聞かされれば、堕ろせなんてことを言えるはずがない。


「……いいのか?」


 既に俺から言えることは、それぐらいしかない。


「しばらく戦線を離脱しなければならないことは後悔していますが、相手としては後悔していないので問題ありません」

「わたしも他に心当たりなんていないし」


 二人からの言葉は嬉しい。

 ただし、二人同時の離脱は厳しい。


「1年近くも二人が抜けることになるのか」

「あれ? 1年ではないですよ」


 どういう事なのか?

 女性陣は全員が知っていたらしいのだが、獣人の妊娠期間は6カ月から8カ月と人間よりも短く、種族によって差があるらしい。ノエルの狐獣人なら早ければ6カ月、どれだけ遅かったとしても7カ月以内には生まれてくるらしい。


「なら、ノエルは半年ちょっとで復帰できるわけだ」


 眷属はステータスが高い。

 出産を終えてしまえばリハビリも兼ねて体を動かしている内に妊娠前の状態を取り戻すことができる。

 現にアイラとシルビアも気付けば復帰している。

 もしかしたら、二人とも体型を妊娠前に戻そうと躍起になっていただけかもしれないが……


「いえ、私も半年ぐらいで産むつもりです」

「は!? お前はいつから獣人になったんだ?」


 メリッサがとんでもない事を言い出した。

 少なくとも俺が知っている限りでは純粋な人間だったはずだ。


「御心配には及びません。純粋な人間です」

「じゃあ……」

「このぐらいの問題は魔法を使えば解決できます」

「えぇ……」


 以前から妊娠期間の戦線離脱を問題視しており、どうにかできないかと考えていたためシルビアが妊娠中に検証し、理論は既に完成させているらしい。後は無事に成功するか試さなければならないが、それは自分の体で行わなければならない。


「できれば俺としては無事に産むことを最優先にしてほしいところだけど……」

「もちろん無事に出産することが最優先であることは間違いありません。ですが、私の力を欠いた状態で冒険を続けられるのは問題です」


 結局、押し切られる形でメリッサに任せることになってしまった。


「……ったく、使うなとは言わない。けど、使う時は事前に申告するよう言っておいたはずだろ」


 シルビアが無断で使ってしまったので『お願い』をしていた。

 本当なら命令なんてしたくなかったからだ。


「すみません、今回ばかりは少し反省しています。お母様の話を聞いて、いざ使ってみたところ自分で自分を制御することができなかったのです」

「たぶん、あの薬の副作用みたいなもの、なんだと思う」


 メリッサもノエルも申し訳なさそうにしている。

 強力な媚薬効果でもあるのか制御できなくなってしまうらしい。


「今度からは控えろよ」


 危険な薬ではないはずなのだが、使用には注意が必要となる。


「残りは何本だ?」

「そうですね。昨日、3本使用しましたので――」

「ちょっと待て、3本?」

「……その通りです」


 メリッサとノエルが使用した。

 では、残りの1本は誰が使用した。


 シルビア、アイラ、イリスが自分ではないと首を横に振っている。

 そもそも、そのことは俺が一番理解している。


 では、誰が?


「……お母さんです」


 ノエルが気まずそうに手を挙げながら言った。


 え、ノンさん!?

 あの人、見た目がかなり若いからノエルの母親っていうよりも7歳のノキアちゃんの母親っていう方がしっくりくるぐらいだ。

 18歳の子を持つ母が妊娠したというよりは、7歳の子を持つ母が妊娠した。


「うわ~」


 それでもノエルにとっては自分の母が妊娠したことには変わりない。

 なによりも……


「わたしとお母さんが産んだ子供の関係性はどうなるの?」


 うん、すごく微妙な関係性になるのは間違いない。

 これで、ノエルが先に出産するようなことになったらさらに面倒なことになる。


「まあ、そんな先の話を論じたところで意味ないだろ」


 もしかしたら、妊娠していないかもしれない。

 あの秘薬は、あくまでも確率を高めてくれるだけであって絶対に妊娠させてくれる薬ではないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ