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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第5章 賞金稼ぎ
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第6話 迷宮レベリング

「やっと着いた~」


 シルビアが地下11階に広がる草原の上に体を投げ出す。


 地下1階で双刃術を封印してから転ぶこと82回。回避できずにゴブリンやファングバットの攻撃を受けること21回。あらぬ方向へナイフを投げてしまい、それを回収する為に奔走すること4回。


 ようやく洞窟フィールドを抜けて地下11階へと辿り着いた。


「ううっ……ちゃんと課題はクリアしたんですから双刃術を元に戻して下さい」

「ああ、頑張ったな」

「わっ、体が軽くなった気がします」


 そのまま俺に抱き付いてきたので、頭を撫でて落ち着かせる。


 双刃術がないので苦戦しながら魔物を倒していった。双刃術がないせいで体の動かし方が分からないだけで圧倒的なステータスはそのままなので、攻撃が当たりさえすれば一撃で倒すことができる。

 潜れば潜るほど転ぶ回数も減ってきたので、地下10階で1度も転ばずに地下11階まで辿り着くことができれば双刃術を戻すと約束し、シルビアは見事にその課題をやり遂げた。

 やがて、落ち着きを取り戻したシルビアが立ち上がる。


「それにしても地下11階へ下りる方法はこれまでと大分違うんですね」


 と言いながら後ろにある魔法陣を見つめる。


 地下1階から地下9階までは石造りの階段を下りることで次の階層へと進んでいたが、地下11階へは地下10階の最奥にあるボス部屋でボスを倒すことによって起動する魔法陣に乗ることで地下11階にある魔法陣の上に転移することができる。

 さすがに双刃術を封じた状態でボスの相手をさせるのは無理がありそうだったので、牛の頭を持つ巨人――ミノタウロスは俺が倒した。


「そうだな……天井を見てみろ」

「天井?」


 上を指差すと、そこには広大な青空が広がっていた。


「え、ここって地下ですよね?」


 そこでようやく太陽まであることに気が付いたのか地下11階の様子を確認する。

 地下11階は草原フィールドと呼ばれる場所で、様々な薬草や花が咲き誇っており、足元には土の地面が広がっている。まさしく採取に適した階層になっていた。


「元々は、食物なんかの生産プラントとして造られた階層だからこういう場所になったんだ。で、この地下11階だけど、すぐ上の階層になる地下10階は20メートル上にある」

「20メートル!?」


 洞窟フィールドの時は、階段をあるいて7メートルほどの高さを下りていた。

 その時に比べればかなりの高さがある。


「そんな高さをいちいち歩いて移動していたんじゃ疲れるし、ここのどこに階段なんて用意するんだ?」


 見渡す限り広がっている草原。

 どこにも階段などなかった。


「さ、行くぞ」


 今度はシルビアと一緒に俺も歩く。

 下の階層への移動手段が魔法陣である以上、洞窟フィールドでしていた風の流れを読んでの探知方法は使えない。地道にマッピングしながら探すしかない。


「あの……ここでは魔物は出てくるんですか?」

「出てくるぞ」

「じゃあ、やっぱりこの気配は魔物のものなんですね」


 草原フィールドには草木が多いため隠れる場所が多く、昆虫や動物の魔物が姿を隠していることが多い。

 俺に言われる前に気が付いたのか。


 シルビアは足を止めて一点を見つめており、その先には茂みに隠れたモグラのような魔物が穴から顔だけ出してこちらを窺っていた。


 モグラの魔物としては、迷宮主である俺が現れたので挨拶に訪れたようなものなのだろうが、攻撃してきてくれないとシルビアの訓練にならない。

 仕方なく攻撃するよう命令するとモグラが穴から這い出して鋭い爪をシルビアの足に突き立てようとする。


 攻撃されたシルビアは咄嗟に跳び上がると折り畳んでいた足を伸ばして踵でモグラの頭を思いっ切り叩き付ける。踵落としを受けたモグラが脳震盪でも起こしてしまったのかフラフラとしている間に背中に刃を突き立てて絶命させる。

 やっぱり双刃術があると動きが違うな。


 挨拶に来ただけの彼には悪いが、しっかりとシルビアの糧にはなってくれた。


「どうだった?」

「やっぱり体を簡単に動かせるというのはいいですね。上の階層である程度慣れましたけど、やっぱりこのステータスを動かすには双刃術が必要になりそうです」


 まあ、普通は訓練してレベルを上げることによって得られるステータスを一気に上げたからな。ステータスの扱い方がなっていないのも仕方ない。双刃術は、その欠点を補う為にあるようなものだし。


「これなら獣系の魔物も大丈夫そうだな」


 そう言って歩き出した瞬間、2メートルほど先にある茂みの中から蔓のような物が鞭のようにシルビア目掛けて打ち出される。モグラの魔物を囮にした植物型の魔物による攻撃だが、右手に持った短剣を器用に使って伸びてきた蔓を斬り裂く。

 自分の体である蔓を斬られた植物型の魔物が怒って再び別の蔓を伸ばそうとするが、その前に投げられた左手に持っていた短剣が植物型の魔物の体に突き刺さって絶命する。


「この魔物は何ですか?」

「植物型の魔物で、ハイドクリーパーとかいう名前だったはずだ。特徴としては、茂みの中に隠れて近付いて来た旅人や商人を襲うらしい。迷宮の外だと中には首を絞め殺された商人もいるらしいぞ」


 とはいえ、鍛えている冒険者なら拘束されても抜け出すのも難しくなく、迷宮の中では冒険者が絞め殺されたということもない。

 地下11階まで到達できるだけの実力があるなら対処は簡単だ。


「地下11階からはこういった植物型や獣型の魔物が出てくるようになるから環境の変化に戸惑わないようにするんだぞ」


 迷宮は階層が変わると一気に環境が変化する場所もある。

 そういった変化に慣れないと突然変わった魔物に襲われたり、天然の罠に嵌ったりして怪我を負うこともある。最悪の場合には、そのまま命を落としてしまうこともある。


 稼ぐことのできる場所ではあるが、同時に危険な場所であるということをシルビアにも分かってもらいたい。


「さて、地下11階に出てくる魔物だと相手にならないことが分かったし、さっさと次の階へ向かうことにするぞ」

「え、今倒した魔物の素材はそのままでいいのですか?」


 モグラ型の魔物――グレイモールは体が小さく、肉は食用には適さなく、爪などの部分も武器などの素材にはならないので倒しても冒険者は放置していく。


 ハイドクリーパーも体が草であり、薬草にもならない雑草なので放置だ。


「冒険者っていうのは慈善事業で魔物を倒しているわけじゃない。自分の稼ぎになるように魔物を綺麗な状態で倒して、それを売って得られた報酬で生活しているんだ。その点で言えばお前が倒したファングバットとかの中には使えない物があったぞ」


 洞窟フィールドでは、スキルなしでも動けるようにすることが目的だったため指摘しなかったが、襲い掛かってきたファングバットを短剣でズタズタに斬り裂いてしまった。ファングバットの血は薬の原料となるので、生き血が素材なのだが回収できた頃には地面に大量の血が流れた後だった。

 あれでは、素材の価値が下がってしまう。


「ご、ごめんなさい……」

「今日のところは気にする必要はないさ」


 その後、地下12階へ続く魔法陣を目指して一直線に進み、途中で出てくる魔物にはシルビアに対処させ、30分ほど歩いたところで魔法陣に辿り着いた。

 やはり、途中で出てきた魔物には問題なく対処できた。


「じゃあ、次はちょっとした試練を用意しようか」

「え、まさかまたスキルを封印しての探索ですか?」

「いや、次はちょっと強い魔物を用意してみた」


 地下11階の最奥にある魔法陣に乗った瞬間、魔法陣が強い光を放って俺とシルビアを地下12階へと転移させる。

 地下12階の光景は、地下11階とそれほど変わらずどこまでも草原が広がっていた。


 ただ、目の前にいるのは少しばかり想定外だ。


 ――グオオォォォォ!


 体長4メートルある巨大な猪が魔法陣から出てきたばかりの俺たちに向かって突進してくる。本来なら地下18階以降で出てくるファングボアという名前の魔物で、遭遇した時には数人がかりで退治する必要がある強力な魔物だ。ちょっとシルビアの実力を確かめてみたかったので地下12階の適当な場所に呼び出してみたのだが、まさか出てきたばかりのところを襲われるとは思っていなかった。


「行きます!」


 戦闘はシルビア1人に任せていたため1人でファングボアに向かって行く。

 自分に向かって突進してくる猪に対して臆することなくシルビアは両手に持っていた短剣を投げる。投擲された短剣は、ファングボアの目に突き刺さり、視覚を奪われたファングボアが血を流しながら倒れる。


 ファングボアがどうにか立ち上がろうとしている間にファングボアの懐に潜り込んだシルビアがファングボアの腹にナイフを持った手を当てている。何をしているんだ?


「はぁっ!」


 気合と共にシルビアが手を突き出すと、ファングボアの腹部を傷つけることなく手がファングボアの体内へと潜り込んだ。


 え?


 そのまま潜り込んだ先にあった心臓を斬り裂かれたファングボアが絶命する。


「勝ちました!」


 ファングボアを一撃で倒したシルビアが満面の笑みで近付いてくる。


「しかも見て下さい! 素材の状態もいいですよ」


 心臓を直接斬り裂いているため、手を潜り込ませた腹部にも傷のない完全に綺麗な状態の死体だ。

 ファングボアの肉はそのまま猪肉となるので大きさもあって売れば大金になるし、牙も武器の素材として扱われる。

 普通は、大きいせいで持ち帰るのに苦労するが、俺たちには収納リングという便利アイテムがあることになっている。ただし、収納リングでは2メートル四方程度しか広さがない。収納リングの制限などは知られていないはずなので、こっそり道具箱(アイテムボックス)で持ち帰ろう。


 問題は、シルビアがファングボアを倒した方法だ。


「一体、何をやったんだ?」

「父から受け継いだ『壁抜け』です」


 壁抜けは、壁などの『障害物』をすり抜けるスキルだ。それを応用させてファングボアの心臓までの間にある障害物の肉をすり抜けさせ、心臓を直接斬った。


 よく、こんな方法思いついたな……。


「あ、この方法は迷宮核(ダンジョンコア)に相談したら教えてくれました」

『何か有用な方法はないかって相談されたから試しに教えてみたんだよ』


 それが、急所への防御を無視した一撃必殺か。


 これほど強力な攻撃は他にはない。

 なにせ、どれだけ強固な盾を用意してもそれをすり抜けて攻撃される。普通なら魔力が足りずに失敗する壁抜けの使い方だが、眷属契約で増えた魔力のおかげでシルビアは失敗することなく使えている。


 ただ、多用できるような使い方ではないな。

 シルビアのステータスを確認させてもらったが、魔力が半分近く減っている。


 これでは、次の壁抜けが成功するかどうか怪しい。


「こいつは俺が持って帰るよ」


 道具箱を出現させてファングボアの死体を収納する。解体作業については後でやろう。


「それと、わたしにはあれが気になっているんですけど……」

「あれ?」


 俺以上の探知能力を持ったシルビアが何かに気付いたらしく、ファングボアが走って来た方向を指差していた。


 その先には、1人の女の子が俯せに倒れていた。


「おいおい、ファングボアに吹き飛ばされでもしたか」


 こんな階層にいない魔物を呼び寄せたせいで犠牲者が出たりすれば間違いなく俺の責任だ。

 急いで倒れている女の子に近付くと抱き上げて状態を確認する。


「おい、大丈夫か!」


 頭を打っているかもしれないので体を揺らさずに呼び掛ける。


「うっ……」


 すると女の子に反応があった。

 良かった。死んでいるわけではない。


「おなか……へった……」

「へっ?」


 女の子が力なく答える。

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