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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第49話 迷宮主同士の戦い―後―

 ボロボロに朽ちた愚者髑髏が目の前にある。体の至るところは穴が空いたように大きく欠け、右腕は既に地面に落ちてしまっている。ファラがやっていたように何度も再生したベントラーの愚者髑髏だったが、保有している魂という限界が存在する以上はいつまでも持続しない。

 再生の限界を迎えると消えてしまう。


「こんなはずでは……」


 圧倒的な力を持っていた愚者髑髏が消えてしまった。

 自信を失うには十分な出来事だった。


 ベントラーへ一歩近付くと、


「チッ……近付くな!」


 地面から鎖が4本、俺を拘束しようと飛び出してくる。

 【迷宮操作:鎖】――迷宮の侵入者を拘束する為のスキルだ。


「【吸引穴(アトラクトホール)】」


 手の中に出現する黒い球体。そこへ4本の鎖全てが吸い込まれていく。

 下層にいる蛙型の魔物が使うスキルで、とにかく何でも飲み込むことができ、吸収限界が訪れるまで決して止まらない。

 そのスキルを再現させた魔法だ。


「なっ……」

「ただデカい力を使えばいいっていうものじゃない。力っていうのは効果的に使って初めて効力を発揮する」


 鎖は出現したまま。

 拘束具を維持する為に意識が向けられている。


 その間に横から回り込むと蹴りを叩き込み、拳を叩き込んでいく。

 攻撃を当てられる度にベントラーが後ろへと飛ばされていく。


「クソッ!」


 細く長い針のような物が何百本とベントラーの傍から飛ばされる。

 まるで壁のように押し寄せてくる針。当たれば串刺しになってしまう。


「さっき見せたばかりだろ」


 針が俺の体を通り過ぎていく。


「どんな強力な攻撃だろうと【壁抜け】が使える俺に当てる為には直接攻撃する必要がある」


 生物は擦り抜けることができないため手にした武器による攻撃なら通用する。

 それぐらいのことはリオなら初見で見破れるだろうが、ベントラーにはそれだけの経験がない。


「お前の弱点は経験のなさだ。だから致命的なミスを犯す」

「……致命的なミス? たしかにお前たちをここまで入れてしまったのは致命的なことだが――」

「そんなことじゃない。もっと目先にあるミス……いいや、背後にあるミスと言い換えた方がいいだろうか」

「なに……?」


 ベントラーが振り向く。

 彼の真後ろには迷宮核の安置された神殿があった。


「俺との戦いで最も大切な事は何だ? 俺を倒すことなんかじゃないだろ――お前が最も気を付けていなければならないことは神殿を破壊されないようにすることだろ」

「――! 馬鹿が! あの神殿は、迷宮の壁と同じ材質で造られている。破壊など不可能だ」

「馬鹿はお前だ。【迷宮破壊】を持つ俺たちにその常識は通用しない」


 『非破壊』である迷宮の壁を破壊できるようになる【迷宮破壊】。

 構造物も対象にすることができるため普通の人間なら破壊不可能なはずの神殿が相手でも破壊が可能になる。


「さっき殴っている間にこの位置取りになるよう調整しておいた」


 戦場に立つ者なら最優先目標を把握しておかなければならない。

 そのうえで神殿を守る為には何をしなければならないのか考えながら行動する必要がある。

 それをベントラーは怠ってしまった。


 喋っている間に魔力を練った。

 左手に火、右手に水の魔力を纏う。


「【極寒地獄(ニヴルヘイム)】」


 炎と氷の複合魔法。

 左側を炎が埋め尽くし、右側が氷で覆われる。


 炎と氷が進む先にはベントラーが……神殿がある。


「防御を――」


 神殿を守る為に防御しようと【迷宮結界】を展開させる。

 が、結界は押し寄せる炎と氷に悲鳴を上げてヒビが入っていた。


「愚者髑髏――」


 ベントラーが最も頼れる武装を呼び出す。

 だが、保有している魂が少な過ぎて頼りにならない姿しか現せられない。


「足りなければ補充すればいい――自害しろ!」


 愚者髑髏へと魂が流れていく。

 支配した人間の認識を自由に書き換えられるベントラーにとって支配した人間を自殺させるなど簡単なことだ。

 手元にストックがなければ新たに補充すればいい。


「魂は死んだ人間のレベルが高ければ高いほど強くなる。今、死んでもらった奴らは迷宮の最前線で活躍していた冒険者の連中だ! たった30人分だが、そいつらの魂が加われば――」


 力を失っていた愚者髑髏に力が戻り、熱気と冷気を受け止められるだけの鎧を新たに生み出す。

 30人分。俺との戦闘に集中しているベントラーにとって一瞬ではその人数が限界だったのだろう。

 なら、問題ない。


 結界が壊れ、愚者髑髏が炎と氷を受け止める。


「攻撃を受け止め……消し飛ばすなんて造作もない!」


 愚者髑髏が両手を広げて炎と氷を押し潰すように手を合わせる。

 神殿は守られた。


 が、次の瞬間には愚者髑髏の手が消失する。


「決定的な対抗策があるのに頼ったらダメだろ」


 呆れるばかりでしかない。

 【極寒地獄】を消し去った手を【ティシュア神の加護】を纏った神剣で消し飛ばし、ベントラーの首元に刃を突き付ける。


「チェックメイトだ」

「……チェックメイト? まだ、俺は死んでいない! この程度で勝った気になるな!」

「俺はチェックメイトと言ったんだ。既に勝負は終わっている」


 ベントラーにも分かるように視線を神殿の入口へと向ける。

 そこには少しばかり疲れた様子のイリスが立っていた。


「俺との勝負に集中し過ぎだ。さっきも言ったようにお前の最優先目標は『迷宮核の死守』だ。そのことを指摘されたお前は、俺の攻撃から神殿を守ることに必死になったんだろうけど、こっちは【極寒地獄】を防御されることは想定済みだ」

「何を、した……」

「迷宮核に干渉させてもらった」


 イリスがネタバラシする。


「貴方がマルスとの戦闘に熱中している間に私はコッソリと神殿の中に侵入させてもらった」


 ベントラーに気付いた様子は全くない。

 俺との戦闘に熱中している、というのもあるが、疲労を感じているメリッサが魔力の消耗を抑えながら自分の隣にイリスの姿を幻影として映し出していた。ベントラーも幻影を見ていたからこそイリスのことを警戒していなかった。


 そこで、イリスには当初からの目的であった『謎の迷宮主との関係の有無』について確認してもらった。

 迷宮代理人であるイリスには難しい仕事ではなかったし、転移結晶の使用妨害を解析することに比べれば簡単だった。


「結果――彼らは無関係だった」

「そうか」


 剣を首元から離して鞘に納める。


「……どういうつもりだ?」


 戦闘態勢を解いた俺の姿はベントラーにとって奇妙に思えただろう。


「殺さないのか?」

「……と言うよりも殺せないんだよ」


 アリスター迷宮の主である俺ではエスターブール迷宮の新たな主になることはできない。それは眷属であるイリスたちも同じだ。

 そうなると俺たちにできるのは迷宮核の破壊ぐらいしかない。

 だが、迷宮を失ってしまえばエスターブールは……エスタリア王国の経済は一晩で破綻してしまう。

 それは、俺たちの望むところではない。


 他の迷宮主を用意することなどできないので、国のことを考えるならベントラーに引き続き迷宮主をやってもらうしかない。


「……甘い奴だ」

「安心しろ。タダで解放するつもりもない」


 既にイリスの方で終わっている。

 だからこそのチェックメイトだ。

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