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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第47話 ベントラー

 迷宮核(ダンジョンコア)のある神殿から出てきたのは銀髪の男。目付きが鋭く、神経質そうな顔をした男がこちらを睨み付けている。


 同じ迷宮主(ダンジョンマスター)として気持ちは分からなくもない。

 迷宮主にとって迷宮核は命と同等に大切な物。もしも、迷宮核を失ってしまうような事態になれば迷宮主でいられる権利を失ってしまう。その時に起こる急激なステータスの減少により迷宮主の命も失われてしまう。

 ……やはり、命と同等に失う訳にはいかない代物だ。


 そんな大切な物が安置されている場所へ敵が侵入してきた。

 これ以上に気掛かりな事などない。


「まさか、こんな方法で侵入してくるとは……」


 ベントラーも迷宮主。

 直前まで俺たちが何をやろうとしているのか分からなかったが、こうして少しばかり時間を置けば冷静に判断することができる。


「お前は引き籠る為に色々とやり過ぎていたんだよ」


 たとえばエスターブールを覆うように展開されている結界。あれは街の外へと出てしまった魔物の存在を知らせる為の結界だが、その通知先はエスターブールの騎士団だけでなく、迷宮核も含まれていた。

 これは、表に出られないベントラーが騎士団の人間を信用しておらず、自分でも情報を直に入手しようと考えた為の方法だ。実際、ベントラーは新鮮な情報を入手することができていた。


 そんなことをしていても迷宮核の存在を誰も把握していないのだからこれまでは問題にならなかったし、今後も問題になるようなことはないはずだった……俺たちが来るまでは。

 イリスはエスターブールにいる間、時間さえ空けば結界の解析を行っていた。結界そのものの解析は完了しなかったが、迷宮が生み出す魔法道具のクセみたいなものは掴んでいたらしく、そのおかげもあって転移結晶の解析にかかる時間を短縮することができていた。


「ちょっと休む……」

「私も……魔力は問題ないのですが、体への負担が……」


 少しばかり慣れていたとしても解析は負担になっていた。

 メリッサは【魔力解放】さえ使用すれば魔力量は限界を超えた数値になるし、消費も0にすることができるのだが、空間魔法と迷宮魔法の併用は体に大きな負担を強いることになってしまった。頭を押さえた状態で戦闘を行うのは厳しい。

 尤も、ここからは俺の仕事だ。


「ちょっと行ってくるから、後は任せた」


 その場に二人を残して神殿の方へと向かう。

 すると、ベントラーの方からこっちへ近付いてきた。


「悪いが、お前をこれ以上先へ進ませる訳にはいかない」

「だろうな。他の迷宮の主である俺が目の前にある迷宮核に対してできるのは破壊ぐらいだからな」


 そんなことを迷宮主が許容できるはずがない。

 なら、今のベントラーにできるのは迷宮核を守る為に前へ出ることぐらいだ。


「で、アンタがベントラー・ロンヴェルト――ここの迷宮主でいいんだよな」

「いかにも。俺がベントラーだ」


 やはり、目の前の男が迷宮主で間違いないみたいだ。

 ベントラーのスキルを考えれば影武者を用意することも可能だろうが、性格を考えるなら自分の最も大切な場所に信用できない人間を配置するはずがない。


「何が目的だ?」

「は?」

「危険を冒してまでこのような場所へ来るなど信じられない……」

「こっちの目的は昼間も伝えたようにお前が巨大魔物を生み出したりしているような迷宮主じゃないっていうことを確認することだ。この期に及んで他の眷属が出てこないところを見ると本当に3人しかいないみたいだけど、ちょっと迷宮核を調べれば済むぞ」


 神殿へ向けて1歩踏み出す。

 次の瞬間、ベントラーの手に長剣が握られていた。


「悪いが、進ませる訳にはいかない」

「信用ならないから、か?」

「当然だ。誓約を交わしたとしても相手は迷宮主。あの程度で信用されると思わないことだ」


 実際、あの程度の誓約を擦り抜ける方法なんていくつもあった。

 けど、ベントラーとの信頼関係を考えて全て却下することにした。


「俺は信用していたんだけどな……」


 本当に残念だ。

 鞘から剣を抜く。


「結局は戦う羽目になるのか」

「それは、お前の自業自得だ」


 俺に敵対する意思なんてなかった。

 敵でないと分かったのなら帰るつもりだった。


「俺は、お前たちが何をしようと全く興味がなかった。この国いる人間を自由気ままに支配したいなら続けていればいい」


 迷宮の力をどのように使おうと迷宮主の自由だ。

 俺だって借金を返済する為に【宝箱(トレジャーボックス)】から金貨を用意した。他にも必要があれば魔法道具を用意したり、上げてくれたステータスで冒険者生活を楽しんだりしている。そのおかげで、お金に苦労することなく生活している。

 だからこそ譲れない部分がある。


「テメェら、俺の家族を潰すつもりでもいるらしいな」


 ファラは、「故郷ごとあんたたちを滅ぼしてあげてもいい」と言っていた。

 それは、アリスターを滅ぼすということだ。


「悪いが、あそこには長女だけじゃなくて生まれたばかりの双子だっているんだ。俺の静かな生活を脅かす者は誰であろうと許す訳にはいかない」


 せめて手出しができないようにしなければ安心することができない。

 既に向こうから敵対してきているのだ。話し合いによる解決などという生温い手段を選んでいられる状況ではない。


「そうか。俺は少しばかり選択を間違えてしまったのかもしれない。だが、それを事前に知っていたところで同じ決断をしていた」

「……信用できないか?」

「それもある。だが、俺は……ここの迷宮主は、誰を信用することなく他人を支配し続けてきた人間だ」


 スキルによって支配された人間。

 そんな連中としか接していなければ支配されていない人間との間に信頼関係など築けるはずもない。


「どうして、そこまで支配することに拘る」

「楽しいからだ」

「楽しい……?」


 予想外な答えに言葉を失ってしまう。

 もっと、それらしい答えがあるとばかり思っていた。


「この国はロンヴェルト家の創始者――俺の先祖だな。その人が迷宮主になって今みたいなシステムを作り上げる前から身分格差に煩い国だった」


 その当時は、上の者による下の者への酷い搾取が行われていた。

 貴族は平民から搾り取るように富を毟り取る。そして、毟り取られた平民もただ黙っているわけもなく、自分よりも身分の低い者――『上』の者は『中』の者から搾取し、『中』の者は『下』の者から搾取するという負の連鎖が続けられていた。

 その連鎖は、最終的に『奴隷』が引き受けることになり、エスタリア王国では消耗品として捨てられていった。


 そんな時に迷宮を攻略することに成功したのがロンヴェルト家の創始者だった。

 その人物は、迷宮の力を使って経済的な手段で人々を支配していき、身分間による貧富の差を少しでもなくそうとしていた。


「その時にどんなことをその人は思っていたと思う? もちろん、人々を見下していることに対する優越感だ。あれは、実にいい。迷宮主になった時に追体験させてもらったけど、凄く気分がよかった。実際、やってみると想像以上に気分がいい。誰も自分に逆らえない状況というのは清々しい」


 恍惚とした笑みを浮かべながら話すベントラーはちょっと気持ち悪い。


「その割には子爵なんだな」

「当然だ。爵位を賜れば、その分だけ表の面倒事も増える。ただ、爵位が低すぎて表の世界で見下されるのは気分が悪い。上にも下にも対応できる子爵ぐらいがちょうどいい」


 本当に支配することにしか興味がないらしく、爵位を上げることには全く興味がないように見える。

 平民の俺からすれば貴族なんて全員が同じように思えてしまうが、彼らの中には少しでも爵位を上げようと躍起になる者もいる。そんな連中とは全く異なる異質な奴だ。


「だが、そんな生活をお前たちが壊した。これまで俺たちを探ろうとした連中は何人もいた。だが、全員が調べ始めた段階で潰された。その理由は、お前なら分かるよな」


 調査をするならエスターブールで行われる。

 残念ながら、エスターブールはベントラーの腹の中みたいなものなので、全てのことが筒抜けになってしまうし、リズベットがいるせいで暗殺は簡単に行うことができる。


「この場で、お前を排除する――」

「やってみろ、引き籠り野郎! 再起不能になるまでボコボコにしてやる」


 お互いに剣を手にしながら駆ける。


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