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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第43話 見透かされる思考

 全く人気のない広場に対峙するわたしとパティ。


「普段ならこのような夜でもカップルとかで賑わう場所なのですが、今は全く人がいませんね」


 広場だけでなく、周囲からも人がいなくなったことで静かすぎるくらいだ。

 それと言うのも、いるべき人たちを向こうが連れ去ってしまっているから。


「さて、どうすればいいのか……」


 改めてパティの能力を思うと厄介だ。人の思考すら読んでしまう【読込(リーディング)】。直接対峙する戦闘において相手の思考を読めるというのはわたしにとって不利にしかならない。


「ええ、その通りですよ」


 今だって、わたしの考えていることが読まれている。


「本当にわたしの考えが読めているのね」

「当然です。ですが、今は読める、ということは先ほど読めていなかったのは、何らかの方法で回避していただけなのですね。そして、長時間持続させられるようなものでもない」


 うう、見透かされている。

 この方法で思考を読まれないようにしていると魔力をダラダラと消費し続けることになるから長時間の運用は不可能になっている。


「とはいえ、貴女自身がしっかりと制御しているようですね。現に、今は考えを読むことができません」


 こうして対策を考えている間も【読込】対策をしないといけない。

 正直言って長時間の戦闘ができるような相手じゃない。


「あら」


 ――キン!


「話をしている間に隙を狙ってナイフを投げるなんて手癖の悪い方ですね」

「思考を読まれていないから大丈夫だと思ったんだけど……」

「そこまで単純な相手なつもりはありませんよ」


 ナイフを防がれることは相手が迷宮眷属なのだからあるかと思っていた。

 けど、防いだ方法が彼女には似合わない。


「このガントレットが気になりますか?」


 パティの両腕にはガントレットが装備されている。

 わたしが投げたただのナイフ程度なら簡単に弾くことができるだけの耐久力を持っている。


 冒険者ギルドでギルドマスターの秘書を務め、知的な女性として振る舞っていた彼女らしくない武器。


「私は、たしかに組織の運営とか小難しいことを考えるのは得意ですが、どうにも戦闘は苦手なのです。特に武器の扱いがとにかく下手で剣を持った時には全く見当違いな場所へ放り投げてしまう自信があるぐらいです」


 それは、極端すぎる……と言いたいところだけど、クスクス笑いながら話しているパティに嘘を言っているような様子はない。

 本当に不器用な人なんだ。


「いいえ、そのようなことはありませんよ」

「……!」


 いつの間にか懐まで潜り込まれており、振り抜いた拳を突き出してくる。

 短剣を交差させて防御すると大きく後ろへ吹き飛ばされる。


「私の攻撃で曲がることすらせず耐えますか。よほどいい武器を与えられたみたいですね」


 短剣は耐えてくれた。

 けど、刃先が僅かに欠けてしまっている。


「武器の心配をしている場合ですか」


 今度は目を離していなかった。

 けど、短剣の状態を確認したほんの一瞬の間に懐へ潜り込まれている。


 しまった……!


「気付いたところで無意味ですよ」


 拳が横から振り抜かれる。

 パティの攻撃は迷宮眷属になったことで強化されており、直撃を受ければ同じ眷属でも無事では済まされない。


 当たる訳にはいかない!


 ドゴォォォン!


「擦り抜けた!?」


 【壁抜け】を使用して攻撃を擦り抜けさせる。

 すると、わたしの後ろにあった屋台が粉々に砕け散った。


 砕かれた屋台の破片が近くにいたわたしとパティを襲う。先端が鋭く尖った木の破片などは当たれば怪我をする。


 回避できない破片が迫った時に備えて【壁抜け】をいつでも使用できるように準備する。

 けど、わたしの方へ向かってくるのは半分くらい。

 ほとんどは、わたしよりも屋台に近い場所にいるパティが引き受けてくれる。


「え……」


 ところが、実際には破片の全てがわたしへと向かって飛んで来た。

 歯を噛み締めながら飛んで来る破片を回避して、どうしても回避できない物だけに対して【壁抜け】を発動させる。


「本当に障害物を擦り抜けることができるのですね」


 全ての破片を回避した直後、パティが殴り掛かってきた。

 タイミングを合わせて【壁抜け】を発動させる……直前、パティが振り抜いていた拳を引っ込めてしまった。


「思考が読めるのですから、このまま攻撃していれば私は無防備な姿を晒してしまうだけです」

「くっ……」


 せっかく隙を晒した瞬間を狙って攻撃してやろうと思っていたのに。

 追撃されないようパティから離れる。


「その程度の距離は、私にとってはあってないようなものです」


 パティの魔力が地面を走る。

 直後、固められていた地面が変形して弾丸へと姿を変えると襲い掛かってくる。


『全部、叩き落として!』


 頭の中に迷宮核の声が響き渡る。

 これだけの量を【壁抜け】で回避していればあっという間に魔力切れになってしまう。


 短剣を使って弾丸を叩き落とす。


「……っ!」


 叩き落としている最中、腕に鋭い痛みを感じて顔を顰める。

 それでも腕を振り続けて弾丸を落とす。


 と、全ての弾丸を落としたところで収納リングから爆弾を取り出して導火線に引火させると投げる。

 爆発による白い煙が周囲に充満する。


「これは……」


 相手を倒す為の爆発じゃなくて、煙を周囲に充満させる為の爆弾。

 白い煙がパティの視界を塞いでいる内に建物の陰へと隠れる。


『今回は協力してくれるのね』


 咄嗟にアドバイスしてくれた迷宮核に訊ねる。


『うん。ノエルの方はティシュアが味方するみたいだし、君とアイラの方は僕が担当することにするよ。それに、今回はちょっと厳しい相手みたいだしね』

『アドバイスがあるなら手短にお願い。会話している内容は聞かれないと思うけど、聞いたことをわたしが頭で考えてしまうと彼女に読み取られてしまう。今から対策を行うわね』


 これで、パティはわたしの思考を読むことができなくなった。


『彼女が屋台の破片や地面を弾丸に変えたのは、迷宮の形を変える【形状変化】のスキルだろうね』


 ここが迷宮の地上部分だっていうことをすっかり忘れていた。

 地面はもちろん迷宮の一部だし、屋台も構造物の一つだと認識することが可能と言えば可能。


『そして、叩き落としている途中で攻撃してきたのは水の形状を鋭く変えて刃の要領で攻撃してきたんだよ』

『じゃあ【形状変化】のスキルを持つ彼女にとって街にある物全ての形を自由自在に変えることができるっていうこと?』

『本来ならそこまで自由自在じゃない……はずだったんだけど、彼女の場合は制限が一切ない状態だからね』


 迷宮眷属でも使える迷宮の形状を変えることができる【形状変化】。

 そのスキルを扱う為には変えようとしている物質の性質までは変えることができず、元の性質と形状について正しく認識していなければスキルは発動しない。

 けれども、パティの場合は【読込】があるため瞬時に対象の性質と形状について理解し、自由自在に形を変えることが可能になっている。


『詳しいですね』

『まあ、ね。以前の迷宮眷属に【形状変化】を持っていたのがいたんだよ。その子は、【読込】なんて持っていなかったから決められた大きさに切った金属の形を自由自在に変えて剣とか槍みたいな武器を造っていたんだよ。ちょっとした鍛冶師の真似事をしていたね』


 その時のことを思い出しているのか懐かしそうに語ってくれる。

 単体だと戦闘に使えるほどではない【形状変化】。けど、パティが手にしたことで強力なスキルへと変貌してしまっている。


『どうすればいい?』

『隠れるのはおススメしないね。向こうには【地図】があるんだからノエルと同じように隠れている場所はすぐに見破られる』


 迷宮核の言葉は正しかったみたいで、すぐに隠れていた建物の壁から柱が突き出てわたしの体を押し飛ばす。さらに屋上付近の形が降って来て建材が塊になって雨のように落ちて来る。


『それを先に教えてよ』


 【跳躍】でその場から避難する。

 迷宮の中にいる以上は、どこにも安全な場所なんてない。


 敢えて言うなら周囲に何もない場所の方が対処はし易い。

 広場の方へ再び戻ってくる。


『あのスキルは他者が触れている物とかには通用しないから近距離にある物にまで警戒する必要はないよ』

『対処はないですか?』

『ないよ』


 わたしの質問をバッサリと切り捨てる。


『この状況を切り抜けたいんなら敵を倒すのが最も確実で手っ取り早い方法だろうね』

『やはり、そうですか』


 アドバイスも聞き終えたため魔力を節約する。


「作戦はできましたか?」

「大丈夫。当初の作戦通りにいくわ」


 さて、上手く騙せることができるのか。

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