表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
720/1458

第42話 強制改宗

 愚者髑髏の体を吹き飛ばすように叩くと愚者髑髏の足が半分くらいから先が消失する。

 さらに返す錫杖で叩いていくと右足が完全に消失する。


 ドシ―――ン!


 右足がなくなったことで愚者髑髏の体が傾く。


「ちょ、ちょ……どうして!」


 すぐに予備の魂を補充して右足を構成していた。

 けど、ある事に気付いたみたい。


「足に使っていた分の魂が……!」

「もう、あなたの支配下にはない」


 錫杖に特別に調律した魔力を纏わせる。

 すると白い光に包まれる。


「なに、それは……」

「自分で確かめて」


 右足を再生させている間に左足へと回り込むと再び錫杖を叩き付けて吹き飛ばす。


「やっぱり、あたしの支配下にない」


 吹き飛ばされた直後は、足のすぐ傍に魂があるのを感じているはず。

 けど、数秒もしない内にファラの支配下から逃れてわたしの……ティシュア様の元へと向かう。


「まさか、あたしの支配下から奪っているの!?」

「正確にはわたしじゃないけどね」


 愚者髑髏から離れて距離を取る。

 風を身に纏って加速すると跳び上がって胸を全力で叩く。

 胸に大きな穴が開いて向こう側が見えるようになる。それだけファラの支配下にあった大量の魂が支配から解放された。


『いいですね!』


 穴を通り抜けて向こう側の地面に着地する。

 振り向くと胸に空いた大きな穴が塞がった愚者髑髏の姿があった。けど、直前に見た姿よりも小さくなっている。


『体を小さくすることで失った分を取り戻したってところかしら』


 喜々とした様子でこちらを見ているティシュア様。

 ティシュア様が言うように体を小さくすることで巨人の形を維持しているんだと思う。


『さあ、ガンガン削って』


 本当に大喜びしているティシュア様。

 それもそのはず。【ティシュア神の加護】を纏った状態で叩いたことによって巨人を形作る為に使われていた魂は神であるティシュア様の元へと旅立っている。


 巫女の役割は神の声を聞き、神の言葉を人々に届けること。

 そして、人々の言葉、想いや魂を神の元へ届けることも含まれている。


 ファラに縛られている魂を強制的にティシュア様の元へと送る。生きている人間や病気とか怪我によって普通に死んだだけの魂には通用しないけど、アンデッドになってしまったような魂には通用する。

 まあ、ファラに支配されている魂を相手にしても通用するかどうかは怪しいところだったけど……


「成功するみたいね」

「何をしたの!?」


 振り向きながら口の大砲にエネルギーを溜めている。

 わたしに照準を合わせると両手を地面に突き刺して発射する。


 【ティシュア神の加護】をさらに強く発動させて錫杖だけじゃなくて全身を覆うように魔力を纏う。

 すると、あら不思議!


「どうして……」

「どうしてかしらね」


 周囲にあった物は綺麗サッパリなくなっているのにわたしだけは無傷な状態でいられる。

 ファラの使う【魂縛砲】は愚者髑髏と同じように迷宮で捕らえた魂をエネルギーに変換して発射することができるスキル。少ない魂で大規模な破壊を引き起こすことができるため強力なスキルを言える。


 もっとも、それはわたしには通用しない。

 こうして【ティシュア様の加護】を纏った状態で砲撃を受け止めれば、砲撃に使われている魂をファラの支配から解放させることができる。


『ああ、久しぶりに神の力が満ちてきます』


 ティシュア様は神罰を下した影響で信者の大多数を失ってしまいました。

 それでも、ティシュア様を信仰してくれる数少ない人がいてくれるからこそ神としての力を失わずにいることができていた。

 ただ、全盛期に比べれば微々たるものらしい。


『現世に囚われた魂たちよ。天へと還り、再び地上へと舞い戻ってくる日が来ることを願っています』


 ティシュア様の元へと導かれた魂たちは生まれ変わる為に天へと昇って行く。

 昇天する魂に祈りを捧げる姿は、まさに神と呼ぶに相応しい神々しさがあった。


 ……その後の言葉がなければ完璧だった。


『願わくば、来世でも私ティシュアを信仰するように』


 神の元へと旅立った魂は、すぐに昇天させなければならない。

 いつまでも神の御許にいたままだと神の管理不足を問われ、神へ悪影響を及ぼしてしまうからだと本人から聞いた。


「よろしいですか、ティシュア様」

『ええ、構いません』

「この後はどうすればいいですか?」

『いえ、特に特別なことはする必要がありません』

「え――?」

『今ので分かったと思いますが、巫女は彼女にとっての天敵とも言えます』


 支配下に置いた魂では攻撃が通用せず、軽く一撃を入れられただけで崩壊してしまう。攻撃も防御も通用しない相手。


『向こうがどれだけの魂をストックしているのか私には分かりません。先ほどの攻撃で100人分の魂がこちらへと送られて来ました。数十万人分の魂を解放するつもりなら先ほどの攻撃を数千回と繰り返せばいいだけです』


 もっとも、その前に決着はつく。

 魔法陣を愚者髑髏の周囲にばら撒いて跳ぶ。魔法陣には、触れた物を弾き飛ばす【反発】と移動速度を増すことができる【加速】の効果を付与させている。


「ちょ……!」


 魔法陣を蹴って反対側へ跳ぶ。

 その途中、愚者髑髏の体を叩いて魂を次々と剥がして行く。


「あくまでも、その姿に拘っているということは何か理由があるんでしょう」

『こういうのは術者のイメージに左右されますから、死者の魂を扱っていることからあのような姿になったのでしょう』


 周囲を跳びながら何度も叩くと愚者髑髏の体が人の2倍程度の大きさまで縮む。


「返してよ、わたしの魂たちを!」

『無理ですね。既に私が昇天させています』


 小さくなった体から跳び下りると残った魂を集めて右腕に纏うと剣を持つ鎧を右腕だけ形作る。

 そのまま斬り掛かってくると……


「そんな!」


 錫杖と衝突した瞬間にポッキリと吹き飛ばされてしまう。

 剣先半分が地面に突き刺さって呆然としたファラが立ち竦む。


 すかさず後ろへ回り込んでも反応しない。けど、スキルだけはしっかりと反応して残っていた愚者髑髏がファラの体に纏わりついて鎧を形成する。


「ぐふっ」


 どれだけ強固な形を作っても【ティシュア神の加護】の前では無力だ。

 鎧を吹き飛ばしてファラの体を錫杖が貫通している。


「で、できれば……どうやって、あたしの魂を解放したのか、最後に教えてくれないかな?」

「わたしは【ティシュア神の加護】っていうスキルを持っている。それを使えば他者に囚われている魂を強制的にティシュア様の元へ送り届けることができるの」

「なに、それ……まるで『強制改宗』じゃない」

『……神としては気に入りませんが、やっているのは似たようなものですね』


 強制改宗。

 他の神を信仰している者に対して自らの信仰している神を信仰するよう脅して無理矢理改宗させてしまうこと。


 今回は、相手が他者に囚われている魂だったし、悪用することなく昇天させたのだから扱いとしてはまともな方じゃないかな。


「なるほど。そういうカラクリがあるならあたしの【迷宮魂縛】は通用しないかな」

「あれ?」


 怪我なんて一切負っていないような冷静な声が下から聞こえてくる。

 そんなはずはない。錫杖は胸を貫いているし、血だって大量に流しているんだから無事なはずがない。


 次の瞬間、ファラの体が青白い光になって消える。


「これは……」

「こっちよ」


 声のした方を見ると青白い光から肉体を再構成しているファラの姿が離れた場所に見える。

 しかも周囲から僅かに残しておいた魂が集まって貫かれた傷もあっという間に修復してしまっている。


「あたしの最後の手段。あたし自身の体を魂だけの状態にして捕えている魂を消費することで肉体を再構成する」


 すぐさま錫杖を構える。


「安心して。この方法で逃れた場合、すぐに肉体を再構成しないと本当に魂だけの状態になっちゃうし、再構成した体に魂を馴染ませないといけないから戦闘を続行するような真似は不可能よ」

「どうするつもり?」

「あたしは十分に楽しませてもらったから帰らせてもらうわ」


 ファラの姿が一瞬で消える。

 ここは彼女たちの迷宮なのだから、どこへ行くのも自由。おそらく向かった先は迷宮の最下層――彼女たちにとって最も安全な場所。


「果たして、そこは今でも安全な場所かな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ