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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第39話 思考

「あんなのをノエルに任せて平気だったの!?」


 暗いエスターブールの街を走りながらノエルが後ろを向く。

 走っている最中、何度も建物が無残に破壊される音が聞こえてくる。が、今でも聞こえてくるということは戦闘中だという証拠でもある。


 今はノエルを信頼して先へ進むことにする。


「ノエルのことが心配か?」

「それはそうでしょう。敵は間違いなく迷宮眷属。あたしたちの中で一番後で眷属になったことを考えると敵わないかもしれない」


 自分たち以外で知っている迷宮眷属となるとリオの眷属ぐらいだ。

 以前に迷宮の攻略競争をし、最後にリオの眷属の中で最も強いカトレアさんと戦うことになったが、けっこうギリギリな戦いを強いられることになった。もしも、カトレアさんの体調が万全だったなら危なかったかもしれない。

 その時のことを思えば不安になるのかもしれない。


「大丈夫だ」

「そう?」

「あいつだって眷属になってからの1年間に何もしていなかった訳じゃない。レベルだって十分に上がっただろ」

「うん……」


 それでも不安に思ってしまうのは仕方ない。


「二人とも後ろを気にするのはいいけど、こっちだって油断ならない状態なのは気が付いているでしょ」

「もちろん」


 俺たちの移動は既にベントラーたちによって監視されている。

 監視から逃れる為の【迷宮結界】だが、さすがに走りながらでは上手く展開することができない。おまけに魔力の効率が悪すぎる。だから、今はどこへ向かっているのか知られるのを承知のうえで走っている。


 どのみちファラを通して迷宮核を目指していることは伝わっているはずだ。

 迷宮核は常に迷宮の最下層に安置されている。

 これは迷宮主なら誰もが知っている絶対のルールだ。


 どこかへ持ち運べるような物ではない。

 従って、迷宮核を目指すなら迷宮を攻略する必要がある。


 ……もっとも、通常の話だ。


「でも、そんな方法で最下層まで行けるの?」

「分かりません。試したことがありませんし、試すことができないのでぶっつけ本番で挑戦するしかありません」

「それは、分かっているんだけど……」

「――その方法是非とも教えてほしいですね」

「!?」


 住民の憩いの場となっている噴水のある広場まで走って来ると眷属の一人であるパティが待ち構えていた。


「……やはり、あの子では一人を足止めするのが精一杯でしたか」


 この場にノエルだけがいないことから彼女の足止めには成功したことを悟る。

 だが、彼女にしてみれば、それでは全く足りない。


「まあ、いいでしょう。本来ならファラを抜けて来たあなたたち全員の足止めが私の役目ですが、それ以上に気になる話がありました」


 そう言ってこちらを睨み付けてくる。

 彼女が言っているのは、普通ではない方法での最下層までの到達方法だ。

 これを知られてしまうと通常通りの方法での迷宮攻略をしなければならなくなるので面倒なことになる。


 サッとメリッサが俺の前に立ちはだかる。


「その方法については考えないようにしてください」

「どういうことだ?」

「貴女もですよ、アイラさん」

「あ、あたし?」

「貴女が一番危険ですからね」

「……」


 黙り込んでしまうアイラ。

 たぶん口に出さなければいい、という訳でもないと思う。


 アイラの姿を隠すようにイリスが立つ。


「私の予想が正しければ、こちらの思考は読まれています」

「なに?」

「彼女は、私たちが迷宮主だと分かっていてギルドで接触しました。それが危険なことであるのも理解していたはずです。ですが、ごく普通に接触してきました。もちろん、軽視していた、ギルドマスターの秘書として断ることができなかった、といった理由も考えられます」


 たとえ理由があったとしても自分の素性を晒してしまうのだから危険なことには違いない。

 現にロンヴェルト子爵家だけでなく、ギルドマスターの秘書も危険だと言い回ることができるようになってしまっている。


 それでも接触した理由。


「おそらく、彼女のスキルに理由があります」


 ファラが【迷宮魂縛】という特殊なスキルを手に入れていたようにパティもまた何かしら特殊なスキルを手にしていてもおかしくない。

 そして、思い当たる節があった。


「ギルドマスター……いいえ、ベントラーと話をしていた時に彼女たちはこちらの話を意外なほどすんなりと受け入れていましたよね」


 たしかに、もっと色々と突っ込まれるかと思っていた。

 たとえば巨大魔物に関しても実在することを証明する物が必要になる、リュゼとの戦闘記録、同じように例の迷宮眷属と遭遇したことのあるリオとの接触。

 が、それら全ての提案が何もされなかった。

 そんなことをする必要がないほど確固たる根拠が彼らにはあった。


「あら? そんな簡単に決めつけてしまっていいのですか?」

「根拠ならあります」

「何を言って……っ!」


 咄嗟にパティが飛び退く。

 だが、気付いた時点で手遅れだ。


「やっぱり――【読込(リーディング)】というスキルをお持ちでしたね」

「どうして……貴女たちを見倣って、こっちも【鑑定】対策の魔法道具を用意していたっていうのに!」

「簡単な話です。こちらに手の内を見せ過ぎましたね」


 向こうが用意した魔法道具もたしかに優秀だ。こちらの【鑑定】を防げるだけの確たる力がある。


 だが、それ以上にメリッサが優秀だった。

 魔法道具は、【鑑定】に対して妨害する為の力を波のように発し、上手く見えなくさせてしまう力があった。だから、メリッサは波の形を記憶し、隙間を縫うようにして【鑑定】を使用することで成功させた。

 もっとも、見えたのはごく一部だけ。


「スキルが分かれば十分です」


 【読込(リーディング)】の効果は、物や人に関する詳しい情報を読み取ることができるようになる。【鑑定(アナライズ)】と似たような効果だが、迷宮に関する物や人に対してしか読み取ることのできない【鑑定(アナライズ)】と違って、【読込(リーディング)】には制限が存在しない。おまけに人に対して使用した場合には思考を読み取ることまでできてしまう。


 もっとも弱点が存在しない訳ではない。


「これで2度も姿を現した理由が分かりました」


 ギルドマスターとの面会。

 さらに今回だって止める為に姿を現した。

 彼女には、危険を冒してまで姿を晒す必要があった。


「射程、ですか」


 【読込】の有効射程範囲は30メートル。

 さすがにそこまで近付かれれば走っている最中でも気付く。だからこそ姿を現して足を止めてもらうことにした。


 とはいえ、弱点をカバーする方法がない訳ではない。これまでは【迷宮同調】で迷宮と同調させ、【地図】と組み合わせることによって迷宮を自分自身として認識することによってエスターブール内にいる全ての人を必要があれば思考まで読み取っていた。

 だが、それをする為には相手との間にレベル差が必要だった。


「彼女たちのスキルは迷宮内で戦うには破格のスキルです。ですが、私たちと違い外へ興味を持たず、自分の迷宮内で可能な範囲でしかレベルを上げていなかったせいで私たちよりもレベルが低いです。私たちの方が強かった。ただ、それだけの話です」


 メリッサの言葉を聞いてパティが拍手をする。


「全て正解です。貴女たちの思考を読む為には、どうしても近距離まで接触する必要がありました。貴女は色々な事を考えすぎていて思考を読むのが難しいですが、そちらにいる剣士さんなどは思考が非常に読み易かったですよ」

「あんたね……!」

「黙っていて下さい。絶対に例の件は考えないようにして下さい」


 思考を読む為の条件はもう一つある。

 相手を視界内に収めていなければならない。今、アイラの前にはイリスが立っている。アイラの思考を読もうとしてもイリスが邪魔をして読み取ることができるのはイリスの思考になってしまっている。


「残念。けど、私が相手の思考を読むだけの人間だと本気で思っているの?」

「……思っていません」


 メリッサが見ることができたスキルは【迷宮操作】と【読込】のみ。他にも特殊なスキルを持っている可能性は捨て切れない。


「私が相手を……」

「ちょっと待って!」


 対人戦において相手の思考を読み取れるというのは脅威だ。

 パティ自身がメリッサの思考は読み難いと言っていた。だからこそパティするとしたらメリッサが最適ではある。

 だが、メリッサにはやってもらわなければならないことがある。


 だからこそシルビアが待ったをかけた。


「私が相手をする」

「相手は思考を読めます。不意打ちの類は通用しませんよ」

「大丈夫。策は考えてある」

「これは……」


 シルビアの姿を視界に捉えて訝しむパティ。

 彼女にはシルビアの思考が読み取れていない。


「やっぱり……」


 対処は可能みたいだ。

 メリッサとイリスには役割がある。最高戦力である俺が最下層へ向かわない訳にはいかないので俺が残る訳にはいかない。

 そうなると、シルビアかアイラしか選択肢が残されていなかった。


「秘書さん。あなたの相手はわたしがしてあげる」

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