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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第29話 スウェールズ伯爵邸

 夜。

 ケープさんとランディさんに連れられる形でスウェールズ伯爵の屋敷へと赴く。

 スウェールズ伯爵の屋敷は、伯爵という身分に相応しく、都市の中央にある貴族街にあり、大きな屋敷と広い庭、白く染められた壁が綺麗な屋敷だ。


 屋敷までの移動は『黄金弧商会』の所有する馬車を利用する。馬車には『黄金狐商会』の所属である事を示す紋章が描かれており、今日のパーティー出席者の一人だと事前に分かっていると屋敷の門前の検査は簡単に済まされた。


「随分と影響力が大きいですね」

「そう見えるかい?」

「はい。いくら招待客とはいえ、御者が招待状を見せるだけで馬車の中を検査することもなく貴族の屋敷の中へ招き入れられるのは異常です」

「規模は問題じゃないんだよ。ワタシたちは獣人とか立場の弱い冒険者を相手に商売しているからね。ワタシたちを敵に回すっていうことはソイツらを敵に回す事と同じなんだよ。いくら立場の弱い獣人が中心とはいえ、冒険者を敵に回すのはこの国の貴族にとって得策じゃないんだよ」


 メリッサの質問にケープさんが答えてくれる。

 メリッサも納得したらしく頷いている。


 そうしている内に屋敷の前まで馬車が辿り着いたので降りる。

 まずは俺から降り、降りて来るメリッサに手を差し出す。


「ありがとうございます」


 笑みを浮かべながら馬車から降りるメリッサ。

 彼女の身体能力を考えれば馬車から降りる程度に補助など必要ないのだが、こういう場では女性をエスコートする必要がある。こうすることで周囲に相手は自分のパートナーである、ということをアピールすることに繋がる。


「ありがとう」


 ケープさんもランディさんの手を借りて降りる。

 普段は貴族のパーティーに参加しないランディさんだが、今回は色々とありそうなためついて来てもらった。


「お待ちしておりました。『黄金狐商会』のケープ様とランディ様でいらっしゃいますね」


 馬車から降りると屋敷の中から執事が現れた。

 黒い執事服を着た初老の男性。物腰が落ち着いていながら、そこそこ戦えるだけの戦闘力を持っていることが体や立ち方、何よりもステータスから窺い知ることができる。

 とはいえ、迷宮眷属には遠く及ばない。


「そちらのお二人は……」

「ああ、最近懇意にさせてもらっている冒険者でね。彼らに対するちょっとしたお礼と伯爵へも紹介してあげようと思って連れて来たんだよ。招待状には希望があれば他にも連れて来ていいと書かれていたから問題ないはずだよ」

「そうでしたか。では、パーティー会場へご案内いたします」


 急な来客に困惑していた執事だったが、それでも表情には出さずに落ち着いて対応している。

 招待の方も問題ないみたいだ。


「ま、ただの冒険者を連れて来たんなら問題だったろうね」

「俺たちは普通の冒険者ではない、と?」

「強さとか、そういう意味で言ったんじゃないよ。アンタたちの服装だよ」


 さすがに貴族のパーティーに参加するのにいつもの冒険者服という訳にはいかない。

 そこで、帝都で開かれたパーティーに参加した際のスーツとドレスを引っ張り出すことにした。俺は白いスーツ、メリッサは黒のロングタイプのドレス。冒険者だと言わなければ貴族として招待客に見えないこともない。

 こんな服を持ち歩いている冒険者はいないだろう。


「最初はアタシの持っているスーツやドレスを貸してあげようかと思っていたんだけど、よく持っていたね」

「前に着る機会があっただけですよ」


 もう着る機会はないだろうと思っていたけど、意外と簡単に訪れてくれた。


「じゃあ行くよ。ここからは本当に腹黒い連中の巣窟だからね」


 ガヤガヤ……!

 執事に案内されたのは大きなホール。天井は高く、部屋も広々としているおかげで料理の乗った大きな丸いテーブルをいくつも並べても余裕があった。

 そして、招待客の人数。既に100人以上が集まっており、これから先も増えて行く予定だと聞いている。


「ごゆっくりどうぞ」


 執事が離れて行く。

 パーティーは立食形式で自由に料理を食べ、会場内にいる人と歓談を楽しんでいいようになっている。


 もっとも、本気で楽しんでいる人は少ない。

 パーティーに招待された人は主催者であるスウェールズ伯爵よりも身分の低い子爵や男爵が中心、他にはケープさんのような大商人だ。


 スウェールズ伯爵の主催するパーティーは定期的に開かれているが、目的は自分の派閥を強固にすることにあるらしい。自分の派閥に所属する者を集め、加えられそうな者を集める。そういった趣旨のため上級貴族は少ない。

 ケープさんは、逆に『黄金狐商会』を自派閥に取り込みたい為に呼ばれている。


「ふん。奴は臆病者さ」

「臆病者?」

「少しでも自分の身分を上げたい。けど、自分の身分を落とすような事だけは絶対に避けたい。そんな風に考えているせいで自分の派閥から離反者が出ることを恐れて税のほとんどを懐柔する為に使っている。本当に上げるつもりがあるなら多少のリスクは承知でデカい事をしないといけない。けど、それができない臆病者なのさ」


 ケープさんの辛辣な評価。

 凄腕の商人であるケープさんだからこそ貴族を相手にそんな評価が下せる。一介の冒険者でしかない俺が同じ事を言った場合には反感を買ってしまっていた。尤も、貴族の影響も外国にまで及ばないので目的を達成した暁にはさっさと撤収すればいい。


「これは、手厳しいですな」


 そんな評価を聞いていた人物がいた。

 声のした後ろを振り向くとチョビ髭を生やし、少しお腹の出たぽっちゃりとした40代ぐらいの男性が立っていた。

 一目見ただけで分かった。

 この人がスウェールズ伯爵だ。


「なんだい。主催者自ら足を運んでくれたのかい?」

「ええ、『黄金狐商会』にはいつもお世話になっています。招待した会長様がご夫婦でいらっしゃっただけでなく、冒険者まで連れている、という報告を聞きまして。どのような方なのか気になった次第ですよ」


 チョビ髭を触りながらニタニタとした笑みを浮かべながら見て来るスウェールズ伯爵。


 いや、訂正した方がいい。

 伯爵が見ているのはメリッサのみで、俺にはほとんど注目していない。

 今のメリッサは胸元と背中の開いたドレスを着ており、彼女のスタイルの良さと綺麗な肌を際立たせていた。おまけにパーティメンバーの中では最もスタイルがいいので、こういった格好をしていると生まれが貴族なんだという事を思わせるほど注目を集めてしまう。

 何よりもメリッサの姿勢だ。このような場にいながら緊張した様子を一切見せていない。スウェールズ伯爵から嫌悪感を抱きそうな目で見られているにも関わらず受け流している。


「彼らは優秀だよ。旦那が目を付けて接触したんだけど、予想以上に優秀だったんで招待させてもらったんだよ」

「そうでしたか」

「ああ、本当に優秀だよ。なにせ『アンタがパーティーの為に求めていた紅蟹(クリムゾンクラブ)を自分たちのパーティだけで仕留めることができるぐらいには優秀』だよ」

「今、なんと……」


 ケープさんの言葉を聞いた瞬間、スウェールズ伯爵の顔から笑みが消えた。

 貴族として色々な人と相対して自分の内心を悟られないよう対応するのは彼らにとって普通の事。だから、どれだけ動揺していても動揺している事を悟られないよう取り繕う事ぐらいはできる。

 だが、残念な事に取り繕えないほどの動揺を受けてしまった。

 ようやく、彼も自分と俺たちとの接点に気付いた。


「昨日、何者か知らないけど襲撃を受けたみたいでね。どこのバカだか知らないけど最悪な事をしてくれたものだよ。この街に対して悪影響を持ったままでいられないようにする為にも招待させてもらったよ。急な話ですまないね」

「いえ……」


 既に表情を取り繕えなくなっていた。

 顔面は蒼白で、汗がダラダラと流れ始めていた。

 自分の部下は襲撃する事すら失敗に終わってしまっているが、同時に何者かが動いており襲撃があった事は報告で聞いていた。

 もはや、本来はどのような理由があってパーティーに参加したのかは明白であろう。


「どうしたんだい? 少し顔色が悪いみたいだけど」

「申し訳ありません。パーティーに向けて立て込んでいた仕事を片付けたため体調を悪くしてしまったみたいです。全ての招待客が集まるまで時間があります。それまでの間、自室で休ませてもらうことにします」

「気を付けておくれよ」


 ふらついた足取りで離れて行くスウェールズ伯爵。

 俺たちとの接触により本当に体調を悪くしてしまったみたいなので、このまま自室に戻ることにするのだろう。


 俺とメリッサは頷くと伯爵の後を追う。

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