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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第28話 エスタリア人の最も恐れる事

「俺たちはメティス王国にあるアリスターという街を拠点に活動している冒険者です。アリスターにも迷宮が都市の近くにありますので、せっかくだから迷宮都市として有名なエスターブールへ挑戦してみようと思った次第です。迷宮での活躍を隠していないのは、迷宮に詳しい者が接触して来て色々と話を聞けたらと思ったからです」


 ケープさんに偽りとも言えないエスターブールへ来た理由を語る。


「ふむ……」


 ケープさんの鋭い視線がこちらへ向けられる。

 あれは商人としての顔だ。


「嘘は言っていないね」


 一流の商人ともなれば相手の表情から語られた言葉に嘘が混ざっていないか確認することができる。

 商談において嘘の契約を交わされることを最も嫌悪する為だ。

 商人の世界においては嘘を見破れなかった方が悪い。


「それが嬢ちゃんの想いかい?」

「おや……」


 紅茶を飲んでいたメリッサの手が止まる。

 先ほどのセリフはリアルタイムで【迷宮同調】を用いて念話でメリッサに言わされた言葉だ。


「こっちの反応を伺うタイミングが適確すぎるよ。それこそ自分でセリフを考えて言わせていたからこそ先回りすることができる」

「正解です」

「さっきの意趣返しっていう訳かい?」


 こちらから一方的に情報を引き出そうとした件。

 今度は逆に最低限の情報だけで納得させようとした。


「いいえ、そのようなつもりはありません。ですが、こちらの目的は理解されたはずです」

「迷宮の関係者に会いたい、かい……」


 詳しい事情は聞かずに用件だけをくみ取ってくれた。

 それが『黄金狐商会』なりの誠意の現し方なのだろう。


「悪いけど、それはエスタリア王国にとって最大の秘密……禁忌と言っていい事だよ」

「禁忌、ですか?」

「そう。迷宮を管理しているのが誰なのか? 調べようとした連中は全員がいつの間にか姿を消した。極秘裏に調べていたはずなのに気付いた時には姿を消しちまうのさ」


 どれだけ隠密技術に優れた者が調べたところで極秘裏に調べるのは不可能だ。相手は【地図】を所有する迷宮主。自分の迷宮内で行われた会話は全てが筒抜けになっている。

 今だって特殊な方法を使わなければ、この部屋での会話が筒抜けになっているはずだ。


『抜かりはないな』

『もちろん』


 イリスには【迷宮結界】の構築を頼んでいた。

 これは迷宮の持つ『非破壊』の特性を付与された結界を展開するスキル。他者の迷宮内で使用した場合には相手の監視から逃れることができるようになる。尤も、他者の支配領域内で結界を展開させているため範囲は非常に狭い。イリスでも今いる部屋をカバーするのが精一杯みたいだ。


「それでも知りたいかい?」


 ケープさんの言葉に頷く。

 多少の危険は織り込み済みだ。


「と言ってもワタシだって何を教えればいいのか分からないよ。この国に住む人間にとってエスターブールの迷宮は昔から恵みを齎してくれる物。まあ、人間にとって都合が良過ぎる部分がある。誰かが管理しているのは間違いないんだろうけど、手掛かりが全くない状態じゃあ探しようがないよ」

「でしたら、こういうのはどうでしょうか?」


 メリッサから提示されたのは昨日の襲撃犯たち。

 チンピラたちは除くとしてザルバーニュ伯爵とスウェールズ伯爵については手掛かりが得られるかもしれない。


 だが、ケープさんは真っ先にチンピラたちの件に反応した。


「随分と馬鹿な真似をするような奴がいたもんだね」

「馬鹿な真似、ですか? たしかにお互いの実力差を考えれば襲撃を躊躇っても良さそうなものですが……」

「そういう事じゃないよ。いくら金を積んだところで身分を上げて楽ができるようになる訳じゃないのに」

「違うんですか?」


 聞いていた話と違う。

 一定額を国に納めて認められることによって階級を上げることは可能だと聞いていた。


「間違ってはいないよ。大量の税金を納めれば『平民・下』から脱することは可能だよ。ただし、国が求めているのは『金』なんかじゃなくて『金を稼ぐ能力』の方なんだよ」


 どうやら金貨10枚で身分を上げた者は定期的に金貨10枚を納め続ける必要があったようだ。そして、再度の納金が不可能になると国からの査察が入り、最初の金をどのように得たのかが問題視されることになる。

 もしも犯罪などの不当な方法によって稼いだ場合には最悪な処罰が下されることになる。

 即ち、『奴隷』落ち。

 もはや這い上がるのは不可能だ。


「あいつらは将来的には『奴隷』になる事が確定していた。この国では、そういった知識を『平民・下』が身に付けることができないせいで貴族から良いように使われた末に『奴隷』に落ちてしまう奴が多いのさ。だからこそワタシたちは最低限の知識ぐらいは無償で与えて無様に落ちないようにはしている」


 それでも騙されて『奴隷』になってしまう者が大勢いる。

 その流れは、もはや簡単に止められるものではなかった。


「だからこそ、この国の人間は自分の身分を落としてしまう事を何よりも恐れている」


 『平民・下』からでは余程の事がない限りは身分を上げることができない。

 そして、知らなかったとしても違法な手段だった場合には二度と這い上がることのできない『奴隷』へと落ちてしまう。

 貴族たちは、そんな状況を何よりも嫌悪し、恐れていた。


「二人の伯爵も同じようなものだろうね」


 脅され、従うしかなかった。


「エスタリア王国は管理された迷宮があるおかげで栄えているけど、失敗を恐れる連中が多いせいで今よりも栄えるのは難しくなっている。どうにかしたいところだけど、一介の商人の力じゃあ何も変えられないんだよ」


 敵の正体すら碌に掴めていない状況。

 ただし、これまでの行動によって敵が身分を伯爵が相手であろうとも落とすことが可能なだけの権力を持っていることが分かった。

 それに情報にも精通している。


「ザルバーニュ伯爵は現在、王都にいるはずだね。そうなると狙い目はスウェールズ伯爵だろうね」


 彼は領地経営のほとんどを部下に丸投げしていて、様々な物が新鮮な状態で簡単に手に入れられるエスターブールでのんびりと贅沢な暮らしをしているらしい。

 毎月のように催されるホームパーティー。

 これも領地から得られた税金で行われている。


「危険を承知のうえで敵の正体を探るつもりがあるなら、こんな物があるんだけどどうだい?」


 ケープさんが自分の部屋から一通の手紙を持って来る。


 内容は――スウェールズ伯爵のホームパーティーへの招待状。


「これでも大商人の端くれだからね。こういう招待状は毎日のように届く」


 御用商人でもないにも関わらずパーティーに呼ばれるのは珍しい。

 大商人の端くれ、と言っているが実際には大商人の一人として考えていい。


「参加する気はなかったけど、興味があるなら護衛として参加してみるかい?」

「いいんですか?」

「問題ないよ。招待されたのはワタシだけど、夫を連れて行くぐらいは問題ないはずだし、護衛に冒険者を雇っても問題がないはずだ。とはいえ、貴族のパーティーに冒険者をゾロゾロと連れて行く訳にもいかない。マルスとメリッサ、男女で一人ずつ連れて行くのがいいだろうね」

「は、はぁ……」


 あれよあれよという間に話が進んでしまった。

 結局、ケープさんの持つ招待状を頼りにスウェールズ伯爵に接触する。

 その後の対応は接触時の反応から決めるしかない。


「……こちらが言いたかったのは、こっちの都合に付き合ってもらって良かったのか? という事なんですけど」

「ああ、そうだね。さすがに稼がせてもらったとはいえ報酬に釣り合わない」


 そこでニヤリとした笑みを浮かべる。

 なんとも悪女という表現が似合いそうな笑みだ。


「何か珍しい物でも持っていないかい? 他の迷宮で得られる物に興味があるね」

「えっと……」


 そこからはメリッサやイリスと相談しながら価値がありそうな物を道具箱と宝箱から物色。

 いくつも提供することになったが、全く伝手のない状態からスウェールズ伯爵のパーティーに参加できるようになった費用だと考えれば安いものだ。


 やはり、相手は商人。

 珍しい物で釣り上げることができた。

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