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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第22話 エスターブール迷宮―海底―

 翌日。

 『黄金狐商会』の会長と会う、そして『構造変化』が起こる日は明日。

 今日は最後ということで気合を入れている冒険者が多い。


 俺たちも今日は地下26階の探索から始める。


「うわぁ、綺麗な場所」


 昨日は地下26階へ転移してすぐ近くにあった転移結晶で地上へ戻ったから地下26階の様子を確認するほどの時間的余裕はなかった。

 だから、初めて地下26階から続く『海底フィールド』の光景を見たアイラは感動していた。他のメンバーも言葉を失っている。もちろん俺だって目の前……頭上の綺麗な景色に感激していた。


 海底フィールド。

 その名の通り海底にある洞窟だ。ただし、天井が透明で光が差し込んで来るようになっているおかげで明るい。それに、道が広いこともあって洞窟特有の狭さによる難しさは存在しない。


 このフィールドで得られるのは蟹や蝦といった甲殻類の魔物。

 上の『大海原フィールド』にも蟹や蝦はいたが、それらは普通の生き物ばかりで魔物もいない訳ではないが、温厚で弱い魔物ばかりだったため戦闘力の低い冒険者でも狩りができる。

 だが、ここから先はそういう訳にはいかない。

 そういう情報を事前に得ていた。


「地図は確認したな」


 全員が頷く。


 基本的には地下1階から10階までの『洞窟フィールド』と変わらない。

 複雑に入り組んだ岩壁の道を歩いて出口を目指す。

 いや、探索だけを考えるなら足場が平らで歩き易い事を考えたら難易度は『海底フィールド』の方が低いかもしれない。


 最も違うのは通路の左右にある広い水路。

 幅が20メートルもあり、左右の両方を合わせれば水路の方が広いぐらいだ。

 水路の中には魔物が潜んでいる。気配の探知は水中だと薄れてしまうため、水中からの奇襲を受け易い。


「で、ここでは何を目指すの?」


 ノエルが尋ねて来る。

 基本的に彼女は俺たちに付いて来るスタイルだ。


 宝石や金貨、高級肉、真珠。

 ここまで色々と高値で取引される物を目指してきた。

 『海底フィールド』でも同様に目当てにしている代物があると考えているのだろう。


「いや、ここでは目当てにしている物はない」

「そうなの?」


 首を傾げるノエル。

 実際、『海底フィールド』に挑んでいる多くの冒険者が特定の物を狙って活動している訳ではない。


「ここで得られる肉はかなりの値段で取引されるんだよ」


 水路に近付く。

 直後、こちらの気配を察知したのか水中から鮫が飛び出してくる。

 体長1メートルほどの小さな鮫型の魔物。非常に好戦的で、人に襲い掛かると鋭い牙でバリバリと食べ尽くしてしまう。おまけにザラザラとした肌は攻撃を弾き易く打撃系の武器によって圧し潰す必要がある……のだが、その場合には肉が傷んでしまうため、冒険者にとってはあまり戦いたくない敵。


 グサッ!

 一直線に突き出した剣が鮫型の魔物――小鮫(リトルシャーク)を貫く。

 剣で貫かれても死んでいないらしく、串刺しにされた状態でビチビチと跳ねている。


「シルビア、鮫肉は調理できるか?」

「……さすがに調理した事がないので試してみない事には分かりません」

「そうか」


 リトルシャークにトドメを差して解体する。

 そのまま持って帰ってもいいが、解体した時に流れた血に有効利用する使い道がある。


「総じて、このフィールドにいる敵は強い。そいつらは普通の食べ物よりも美味しく、高額で取引されるからどれを狙ってもいいんだよ。適当に進みながら魔物を討伐して素材を回収して行こう」


 今日は急ぐ必要もない。

 適当に魔物を倒しているだけでいい。


「……分かった!」


 少し考えている時間があったが、ノエルも分かってくれた。


「来たわよ」


 水路から何かが飛び出してくる。

 それは通路の方に着地すると持っていた銛を構えてこちらへ向けて来た。


「チッ、ハズレか」

「ハズレ?」

「さっき血を流していただろ。このフィールドにいる魔物は基本的に好戦的だから血の匂いに惹かれて集まって来るんだよ」


 だから離れた場所にも血の跡が多い。

 これらも『構造変化』が起これば消えてなくなる。今日は最終日ということで血の跡が大量に残されていた。


「ただし、目の前にいるのはハズレだ」


 水路から飛び出して来たのは魚の鱗や鰭、水かきを持った人型の魔物――半魚人(サハギン)だ。

 残念ながらサハギンの肉は、食用には適しておらず、体の方にも素材として使える部位がない。売れるのは精々が魔石ぐらいだ。ただ、魔石の方は戦闘力が高いおかげでそれなりの値段で売ることができる。


 そんな、あまり価値のないサハギンが5体。

 基本的に集団で行動するため一人でいる時は危険だ。

 とはいえ、俺たちよりも少ない人数。

 おまけにこちらと強さを比較した場合弱いためやる気は出ない。


「ギャッ!」

「グギャッ!」


 地面に着地した瞬間、メリッサの魔法によって隆起させられた腕の形の土に拘束され、動けなくなったところをアイラとイリスの剣によって斬られている。

 二人とも魔石以外は売れないからと斬り方が適当だ。


「解体したら先へ進む、か……ん?」


 通路の先からキンキンという金属を打ち合わせる音が聞こえる。

 それも一人や二人が戦っている音ではなく、もっと多く……十人近い人数が同時に戦っている。


「見に行ってみるか?」

「そうですね。解体なら後でもできますから」


 歩いて行くと1体の大きな魔物を12人の冒険者が取り囲んでいた。

 中心にいる魔物は体長3メートルの大きな蟹型の魔物――紅蟹(クリムゾンクラブ)。普段は朱色の体をしているのだが、戦闘中のように興奮状態になると体が紅く染まり戦闘能力が高くなる。とはいえ、興奮状態になるまでは時間が掛かるため、しっかりと準備をしたうえで討伐するのがクリムゾンクラブへの正しい対処方法。

 しかし、目の前で戦っているクリムゾンクラブは真っ赤に染まっている。

 既に戦闘が始まってからかなりの時間が経過しているのだろう。


「おい、まだ魔法の準備は終わらねぇのか!?」

「もう少しだけ待ってくれ!」


 冒険者たちの後方では二人の魔法使いが魔法を準備している。

 高威力の魔法を以てクリムゾンクラブを討伐するつもりでいるみたいだ。

 ただ、見てみると少しばかり消耗した様子が見られる。最初に同じような方法で攻撃しようとしたが、失敗してしまったために再度攻撃を試みようとしているのだろう。


「ぐぅ!!」


 前線で大盾を構えていた冒険者が吹き飛ばされる。

 彼らのレベルではそろそろ限界だ。


「よし、離れろ!」


 二人の魔法使いの準備が整う。


 声を掛けるとクリムゾンクラブの前で戦っていた剣や槌、斧を装備した6人の冒険者たちが一斉に左右へ分かれる。

 その動きに淀みはなく、綺麗に左右へ分かれている。と言うよりも装備のバランスが取れている。これは、おそらく元々は二つのパーティが合同で討伐に当たっており、自分たちのパーティの方へ集まっている。


「燃やし尽くせ、炎獄(インフェルノ)

「行け――炎槍(フレイムランス)


 一人の魔法使いが魔法を使用すると紅蟹の足元から炎が吹き上がる。

 広範囲を燃やすことができる『炎獄』。この魔法は効果範囲が広く、持続時間も長い。ただし、魔力消費量が多いため探索時の扱いには注意が必要になる。だが、扱いの難しい魔法を使ったおかげで紅蟹に確実にダメージを蓄積して行っている。


 だが、紅蟹もただダメージを受けているばかりではない。必死に炎の海から逃れようとしている。

 そこへ、もう一人の魔法使いが放った炎の槍が襲い掛かる。その槍は、紅蟹を倒す為ではなく、その場に踏み止まらせる為の物で時間を置いて1本ずつ当たると爆発を起こして逃げられないようにしている。


「ギ、ギ、ギィ……」


 やがて力尽きたのか紅蟹は呻き声を上げながら倒れてしまった。


「ふぅ……」


 討伐が成功したことで誰からともなく溜息を吐いていた。


「これで依頼も完了だな」

「貴族の奴、紅蟹を使ったパーティをやりたいとか無茶な依頼を言いやがって」

「それでも割に合うだけの報酬を貰えるからいいじゃねぇか」

「まあ、な……」


 やっぱり二つのパーティが合同で討伐に当たっていたらしく、お互いのパーティのリーダーらしき人物が話し合っていた。

 他のメンバーは解体だ。収納リングを持っているかもしれないが、紅蟹ほど大きな魔物を収納するとなると、かなり高価な物が必要になる。解体して小さくすることによって持ち帰れるようにしている。


「いいなぁ、蟹か……」


 アイラが羨ましそうに小さくなっていく紅蟹を見ていた。

 気持ちは分からなくもない。港町へ行った時に初めて食べたが、辺境で生活している俺たちにとっては忘れられない味だった。


「アレはダメだぞ。彼らが討伐した魔物なんだから」

「それぐらい分かっているわよ」


 プイッとそっぽを向くと歩き出してしまった。


「そんなに美味しいの?」


 アイラの羨ましそうな様子からノエルも食べてみたくなってしまった。


「今度、食べてみるか?」

「本当!?」


 アリスターの迷宮でも紅蟹は出現させることができる。

 ただし、結構な魔力を消費してしまうため簡単に出すことができないため食用として用意するのは躊躇っていた。


 これまで『巫女』として節制を続けていたノエルは海へ行かなければ食べることのできない蟹を食べたことがなかった。ウチに来てから1年が経過するというのに蟹を食べたことがないのは由々しき事態だ。彼女が望むならそれぐらいの負担はする。


「いえ、どうやら負担する必要はないみたいです」


 新たな魔物の気配を察知したシルビアが通路の先を指差す。

 すぐに俺たちの耳にもドシン、ドシンという重たい足音が届く。


「チッ、こいつは……」

「おいおい……マジかよ」


 先ほどまで紅蟹と戦っていた冒険者が呟く。

 通路の先から姿を現したのは新たな紅蟹。仲間が討伐された事を何らかの方法で察知したのか迫って来た。


「クソッ、一昨日から探し回ってようやく見つけた奴を討伐したばかりだっていうのにどうして新しい奴がすぐに来るんだよ」

「そんな文句を言っている場合か!? 今の俺たちにコイツを相手にするような余裕はない。持って帰れる部位だけ持って撤退するぞ」

「……それしかないか」


 男たちが切った蟹の足などを回収する。

 その横をアイラが通り抜けて行く。


「は? おいおい、嬢ちゃん。何を考えているんだ!?」


 12人でたった1体の紅蟹に苦戦していた男たちから見ればたった一人で紅蟹に挑むのは自殺行為に見える。


 だが、挑んでいるのはアイラ。

 紅蟹の横をあっという間に駆け抜けた直後、紅蟹が崩れ落ちる。


 近くには根元から切断された足が2本転がっている。


『は?』


 自分たちが苦戦させられたクリムゾンクラブが簡単に崩れ落ちる様を見て冒険者たちが呆然とした声を出す。


 紅蟹には足が10本ある。

 それでも走っている最中に2本を失えばバランスを崩す。


「ノエルが食べたことないって言うし、帰ったら蟹鍋をする為の準備ね」

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