第3話 冒険者登録
「ようこそ冒険者ギルドへ」
引っ越しをした翌日、久しぶりの冒険者ギルドへシルビアを伴って入る。
ちなみにシルビアの格好は、俺が渡した冒険者スタイルの服装だ。あんなメイド服を着て街中を歩いていたら注目を集めて仕方ない。本人はメイド服で同行したそうにしていたが、どうにか外出する時はメイド服を諦めさせることができた。
シルビアがキョロキョロと冒険者ギルドの中を見ている。
故郷である村には冒険者ギルドはなかったが、一時的に滞在していた街にはあったので冒険者ギルドを見たことはあるが、そこよりも大きな規模に驚いていた。基本的に辺境であるアリスターには薬に使える薬草や武器や防具にもなる魔物がたくさんいる。そのため、それらに対処する冒険者が多く、自然とギルドの規模も大きくなった。
「久しぶりですね、マルス君」
俺の担当でもあるルーティさんがギルドに入って来た俺の姿を見つけるとすぐに挨拶をしてくれる。
シルビアと2人でルーティさんのいるカウンターの前に行く。
「こちらの方は?」
ルーティさんが俺の隣にいるシルビアのことを訝しく見る。
今まではギルドの中にいるパーティに混じって依頼を受けたことはあるのでギルド内で誰かと一緒にいる光景はおかしくないが、今日は最初からシルビアを連れてギルドへ入っている。
装備はしているものの冒険者らしく厳つい雰囲気のないシルビアのことを依頼人か何かだと考えているのだろう。
「王都に行った時にちょっと知り合いになりまして、今日は彼女の冒険者登録と依頼完了の報告に来ました」
そう、今日の目的はシルビアの冒険者登録とアリスター伯爵から受けた魔法道具の配達依頼の報告である。
シルビアはメイドとして身の回りの世話をするつもりでいたようだが、はっきり言って家事だけならオリビアさんもいることだし、専属でいる必要もない。それよりもせっかく高いステータスを手に入れたのだから、それを活かす仕事をした方がいい。
それに迷宮に関係する理由から最低限のランクを持った冒険者である必要がある。
「分かりました。では、こちらに必要事項を記入して下さい」
以前に俺が書いた物と同じ書類を取り出して名前や年齢などを書かせる。
「マルス君は狙い目だったんですけど、残念ですね」
「狙い目ってなんですか?」
「マルス君の成長速度が異常だって言っているんです。冒険者になった時にステータスを見せてもらいましたけど、その時のステータスでこんなに早くBランクの冒険者になって、領主様から依頼を任されるほどですから将来的にはSランク冒険者になれるんじゃないかって考えていたんです」
「そこまでは……」
「ギルドマスターからも私が担当ですからSランク冒険者になれる者をアリスターに留めておく為に色仕掛けしてでも留めておけって言われていたんですけど、特定の女性がいるのでは効果が薄そうですね」
「「え……?」」
思わず俺と記入の終わったシルビアの言葉がハモってしまった。
たしかに自分がギルドマスターを務めるギルドにSランクのような強い力を持った冒険者がいれば不測の事態にも対応することができる。そのため、大都市である王都に流れるのを防ごうということなのだろう。
彼女や結婚していない男性冒険者を引き留めておく為に職員が誘惑するというのは有効な手段だ。まあ、ルーティさんは美人だし、誘惑されていなかったかと言えば嘘になる。別に担当が決まっているわけでもないのにルーティさんの手が空いていれば、ほぼルーティさんの前に並んでいたからな。
「ええと、俺とシルビアは別に男女の関係っていうわけではないですよ」
「そうですよ。わたしとマルスさんはたまたま知り合っただけです」
シルビアにはメイド服を脱いでもらうのと同時にご主人様呼びを止めてもらった。貴族でもないのに人前で「ご主人様」はハードルが高いです。
「でも、奴隷だった彼女を解放しているということは、それなりに親しい関係なのでしょう?」
「どうして、彼女が奴隷だったと?」
今のシルビアは奴隷の証である首輪をしていない。
見た目では分からないはずだ。
「首に薄らとですけど、首輪の跡が残っていますよ」
首輪の跡!?
たしかに残っているけど、目を凝らさないと分からないレベルだし、服でほとんどの部分が隠れているので正面か傍から見ないと分からない。
それにルーティさんは気付いたのか。
首輪をしていたのは数日間だけだが、俺も命令して首輪を絞めてしまっているし、傷跡が残ってしまうのも仕方ないのか。
「傷跡から考えて、解放されてから日が浅いのでしょう。だから幼い頃に奴隷だった者ではなく、つい最近まで奴隷だと考えました。そして、2人の距離感からシルビアさんが随分と信頼を寄せているようでしたので、マルス君が主人で解放したのだと思いました」
さすがは冒険者ギルドの受付嬢。
普通の人が見逃すような僅かな痕跡から、相手の関係まで見抜いていた。
「解放した後もこうして付き従って冒険者登録にまで来たんですから、これからはマルス君とパーティを組むつもりでいるのでしょう?」
「はい。そうです」
「さっきは否定していたようだけど、2人が男女の関係になるのは時間の問題だと思うから私が無理に割り込むような真似は避けるわ」
「ど、どうしてそう思うんですか?」
シルビアがルーティさんの言葉に食い付いた。
「これは勘とかじゃなくて実際にある話だけど、冒険者っていうのは拠点にしている街から遠出することも多くて、お金の節約に野営するパーティが多いんだけど、そうなると男女でパーティを組んでいた場合は必然的に同じテントで寝泊まりしたりすることになるわけでしょう。2人の間には既に信頼もあるようだし、そうなれば一線を越えるなんて時間の問題よ」
「そ、そうですか……」
そこ、そんな懇願するような目で見ないでくれ。
今のところシルビアとそういう関係になるつもりはないので、後でテントを買って2つ使うつもりでいる。普通のパーティは荷物になるので男女別で分けたりしないだろうが、幸い俺たちには道具箱があるから荷物が苦になるようなことはない。
決してヘタレているわけではない。そういう知識が乏しいので、踏ん切りが付いていないだけである。興味がないわけではない。
「ま、今の様子ですとしばらく時間が掛かりそうですね」
お互いに顔が赤くなっている俺とシルビアをそのままにして、シルビアが書いた用紙を受け取ると冒険者登録をさっさと済ませていく。
「最後にスキップ制度についてはどうしますか?」
「スキップ制度?」
「冒険者になる時から実力があるのに一番下のランクから始めるのは非効率的でしょう。そこで、実力があると判断できた時には一番下のランクであるGランクやFランクを飛ばすことができるんです」
「実力はどうやって確かめるんですか?」
「ステータスカードでステータスを確認します。中には見せたくない人もいますので、そういった方は最低ランクのGランクからスタートすることになります」
「でも……」
シルビアがステータスカードを見せることを渋っている。
ああ、眷属契約で俺のステータスの1割分だけシルビアのステータスも上昇しているから1割とはいえ、1000以上は上昇している。そんな数値を見せたらAランクかBランクからのスタートになる。もちろん冒険者として活動していくうえで必要になる力は、戦闘能力だけでなく素材の剥ぎ取り方や採取依頼に必須な薬草の知識など他にもたくさんある。それでも冒険者として戦闘力は認められたことになる。
だが、シルビアに必要なのは最低限の戦闘力があると認められたFランクで十分である。
「大丈夫。ステータスカードを見せてやれ」
「はい」
奴隷からの解放と同時にステータスカードはシルビアに返している。
一般人として生活していくうえで身分証となるステータスカードはどこかで必要になるし、常に俺が傍にいるわけではないのだから自分で持つ必要がある。
ルーティさんがシルビアのステータスを確認している。
「なるほど。少し足りない気はしますが、マルス君も一緒にいることですし、最低限の戦闘力を持った冒険者と認めましょう」
「は、はぁ」
この様子だと返してからステータスカードの確認をしていないな。
当然の如く、シルビアのステータスカードは偽装済みだ。変更後の数値に関しては、俺と違ってどれだけ上昇しているのか分かり易かったので、シルビアの素のステータスに戻している。
暗殺者デイビスとの戦闘を経てレベルも3上がっていたので、それなりのステータスになっている。
「では、Fランクからのスタートということで冒険者登録をします」




