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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第16話 高級食材

 『黄金弧商会』の会館は冒険者ギルドの近くにあった。

 冒険者ギルドと同様に迷宮から出て来て疲れている冒険者から少しでも早く素材を受け取る為らしい。


 土地が広く、いくつもの倉庫が敷地内にある。


「失礼します」


 中央にある会館に入る。

 質素な調度品が置かれたエントランスに古めかしいデスク。


「あの……ご用件は何でしょうか?」


 デスクの前に座っていた兎耳の受付嬢が尋ねて来る。

 買取を頼むのなら専用の倉庫を利用する。

 中には懇意にしている高ランクの冒険者が依頼の話をする為に会館を訪れることはある。が、受付嬢の知らない人間が誰にも連れられずに来るのは珍しい。


「ランディさんをお願いします」

「ランディ、ですか……?」


 まあ、下っ端の人間は統括の名前まで把握していない。

 メリッサがランディさんから受け取った紹介状を差し出す。


「……っ!? 少々お待ちください」


 慌てた様子で手元の魔法道具を操作する。

 魔力を流し操作することによって対象に合図を送ることができる魔法道具だ。


「やあ、待っていましたよ」


 合図を送ってから数分後、エントランスにランディさんが姿を現した。

 初老でありながらピシッと伸ばした背筋。しっかりとした人だ。


「昨日の今日で来てくれるとは思っていませんでしたよ」

「こっちもこんなに早く来るつもりはなかったんですけど、面白い物が手に入ったので来た次第です」

「ほぅ……」


 ランディさんの目付きが鋭くなる。


「では、奥にある私の部屋へと行きましょう」

「……!?」


 受付嬢が驚いている。

 その証拠に頭の上にある兎耳がピンッと立っている。


 これは、期待されているみたいだ。

 受付嬢の反応からしてランディさんが自分の部屋に客人を招くのは珍しい。


「お仕事、頑張って下さいね」

「は、はい!?」


 受付嬢に微笑む。

 労っているが、これは忠告だ。

 受付嬢が反応してしまったせいでこちらに要らぬ情報を与えてしまった。


「では、行きましょう」


 会館の奥へと案内される。

 会館の中では様々な人が忙しそうに働いており、外からも色々な声が聞こえて来る。


「すみません。この時間はいつもこんな感じなんですよ」

「それは、ギルドでも慣れているから分かります」


 時刻は夕方。

 朝から迷宮に入っていた冒険者たちが地上に出て来て換金する時間だ。

 冒険者ギルドと同じように『黄金狐商会』もこの時間が最も忙しい。


「どうぞ」


 案内された部屋は濃い赤で統一された家具が置かれた部屋だ。どれもが高級品で稼げている事が一目見ただけで分かる。

 その後、女性使用人の手によって人数分の紅茶が運ばれて来る。


「これは……!?」

「分かりますか?」

「ええ、貴族でも入手が難しいと言われている紅茶です。私も王都の高級喫茶店に朝から並んでようやく1杯だけ飲むことができました。まさか、このようなところで飲めるとは……」


 メリッサが出された紅茶に感動していた。

 俺には味の善し悪しは分からないので美味しいという事しか分からない。


「そう言って頂けるとありがたいです」


 ランディさんは朗らかに笑っている。


「できれば入手ルートを教えていただけませんか?」

「そう簡単にお教えすることはできません。こちらも信用があって初めて得る事ができた代物です。お教えしたところで手に入れるのは不可能ですが、情報を簡単に渡してしまった事が知られてしまうとこちらの信用を失ってしまうことになります」

「残念です……」


 しょんぼりと落ち込むメリッサ。

 だが、すぐに真剣な目付きに変える。


「ほぅ……」


 ランディさんもメリッサの中で雰囲気が変わった事を察したのか息を吐いている。


「貴方方は迷宮探索二日目。さすがに私でも特定個人がどこまで探索を進めているのか正確な情報を得るのは無理でした。ただし、宝石を大量に持ち込まれたことから洞窟フィールドを制覇に近い形で探索を終えられているのは予想できます。同じように今日も探索を進めたのではないですか?」


 洞窟も大草原もギルドが地図を製作してくれているおかげで出口が既に分かっており、探索に時間を掛ける必要はない。

 昨日10階層攻略できたのなら今日も10階層攻略できた。

 そのように予想されたみたいだ。


「残念ながら今日は8階層しか攻略できませんでした」

「おや、そうですか」


 それでも破格の攻略速度であるのは間違いない。


「やはり、寄り道をしていたのが痛かったですね」


 最短ルートを通りつつ途中にある宝石の入った宝箱のみを回収していた洞窟フィールド。寄り道をしても僅かな物だ。

 だが、大草原フィールドでは珍しい物があればそちらの回収を優先させた。


「おかげでいい物が手に入りました」

「いい物、ですか……」


 収納リングから布に包まれた肉を取り出す。


「これは……!」


 知っているのかランディさんは一目見ただけで気付いた。

 俺たちは【鑑定】が使えるおかげで一目見ただけで知ることができた。


「『高級黒牛の肉』!?」


 地下15階にいた黒い肌をしたミノタウロス――黒雷牛人(ブラックサンダーミノタウロス)

 パワー自慢であるのは通常のミノタウロスと変わらないが、遠距離から黒い雷を放つ、という変則的な攻撃方法を持つ魔物で苦戦させられる。階層内に1体しかいない魔物でボスではないのだが、特殊な強さからボスに近い魔物として扱われる。

 遠距離から攻撃するのも厄介だ。


 なので、気付かれないようシルビアに接近してもらって首を狩り取った。


 そこまでは問題なかった。

 珍しい魔物だったためデータが欲しく倒した。


 問題は倒した後だった。

 ブラックサンダーミノタウロスが倒れた場所に宝箱が落ちていた。中を開けてみるとランディさんの前に出した牛肉が入っていた。


「驚きましたよ。ちょっとした知識があって高級肉だと気付きましたが、まさか魔物を倒すと手に入るなんて」


 ちょっとしたボーナスとして倒すと『高級牛肉』が手に入るようになっていた。

 ただし、普通の冒険者だと倒すのが非常に難しく、ドロップ率は非常に低いため労力に見合うだけの成果が得られるのかと言えば……ない。


「こちらとしては最初の1回でこのような代物を手に入れられたのが不思議でなりません」

「運が良かったんですよ」

「さすがに、そんな一言で片付けるのは……」


 本当に運が良かった。

 たまたまシルビアに仕留めてもらったおかげで彼女の【神の運】が発動した。おかげで低確率でしか手に入らない物を手にすることができた。


「その後、何度か挑むことにした訳です」


 攻略地図があるおかげで、すぐにブラックサンダーミノタウロスが階層内に再出現した事と再出現場所に気付くことができたが、全く違う場所だったため出現場所まで全速力で移動する必要があった。誰かに横取りされる訳にはいかない。


 一つは『黄金狐商会』に卸す。

 もう一つはお世話になっている『金の狐亭』に譲るつもりだ。

 そして、残りの3つは自分たちで消費する。シルビアなら美味しく調理できるだろう。


「他にも色々と高級素材を手に入れましたが、どうしますか?」


 メリッサの収納リングからポンポンと出て来る魔物。


 疾風狼、鋼角犀、三角猪。

 疾風狼は風のように速く走る魔物で、耐久力が低く攻撃を一発当てることができれば討伐できる魔物なのだが、その一発を当てるのが非常に難しい。その毛皮はフサフサしていて高級衣類の素材として使われる。

 鋼角犀は、鎧すら貫通してしまう鋭く硬い角を持っている魔物だ。武器である角は非常に硬いため武器の素材として高値で取引される。

 三角猪は、左右だけでなく中央も牙が鋭く伸びた魔物で、猪らしく一度興奮状態になると相手をどこまでも追い続けて来る。討伐の難しい強力な魔物になっているだけにその肉は格別だ。


 サンプルとして1体ずつ出す。

 だが、道具箱の中にはもっと多くの魔物が詰め込まれている。珍しい魔物で魔力を使って生み出そうとするとコストのせいで利益にならないため自分たちの迷宮では生み出してはいない。なので積極的に狩らせてもらった。


「分かりました。とりあえず倉庫の方へ来てくれますか? 手ぶらなのでそこまで大量に持ち込まれているとは考えていなかったのです」


 ランディさんに連れられて会館の外にある倉庫へと赴く。

 そこでは、既に別の冒険者が狩って来た素材を持ち込んでおり、ポーターと思われる猫耳少年が必死に重たいバッグを運んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >誰かに横取りされる訳にはいかない。 沸いただけのMOBの占有権まで主張するようになってしまった。 この章で随分傲慢に。
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