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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第15話 草原の疾走者

 ――エスターブール迷宮地下19階。

 11階から『大草原フィールド』が続いているのは変わらない。が、上の方では大人しい魔物が多かったのに対して後半は凶暴な魔物が多くなっている。

 それら全てを薙ぎ倒しながら迷宮を進む。

 魔物の強さは問題ではない。


「問題は迷宮が広い事なんだよな」


 アリスター以上に広いせいで無駄に走らされているような気がする。

 尤も攻略地図があるおかげで迷う心配がないため通常よりも圧倒的な早さで進めることができている。


「仕方ない。迷宮の広さはエスターブールよりも広いと聞いている」

「げ、マジで!?」


 数十万人が暮らしている大都市。

 都市の外で遠くから見た時でさえ大き過ぎると感じたぐらいだ。

 そんな都市よりも広い迷宮。


「まあ、実際に地下にある訳じゃないし」


 迷宮内は亜空間になっている。

 現実として存在しているのは地上の入口ぐらいで、あとは魔法に似た力によって作られた亜空間だ。


 地下19階の入口にあった転移結晶に触れて登録を済ませる。


「さて、どっちだ?」


 迷宮の地図を確認する。


「……東側へと進んだ場所みたい」

「了解」


 地下19階へ転移して来た場所は階層の中心。

 太陽がちょうど中心の真上にあるため勝手に東側と呼称しているだけなのだが、地図によればそちらの方向に出口がある。


「ここには何がいるんだっけ?」

「たしか――熊肉」


 尋ねるとイリスが教えてくれた。

 獰猛な熊型の魔物が階層の至る所に潜んでおり、向こう側が見えない茂みや岩の陰などには注意が必要となっている。

 獣型の魔物の中では最強クラスの魔物として分類される。


 ただ、残念な事にイリスは熊『肉』と言った。

 既に彼女の中でも獰猛な魔物が相手でも食肉として扱われている。


「熊肉、ですか……任せて下さい」


 シルビアも既に調理する気満々だ。


「一つだけ懸念があるとすれば『金の狐亭』なんだよな」


 屋敷へ帰ることができないため調理するとなると宿で厨房を借りる必要がある。ところが、あの宿の女将さんのご主人と娘さんは熊型の獣人。自分の家族と同じ熊型の魔物が食材として捌かれる姿を見て気分を害されないか不安になる。


「それ、絶対に獣人の前では言わないでね」


 と、ノエルが注意して来る。

 獣人である彼女に言わせると、同じ獣としての特徴を肉体に持っていたとしても獣人と魔物は全くの別物。耐え難い侮辱に当たるとの事。


「わたしだって、さっき狐を平然と仕留めていたでしょ」

「……言われるとそうだな」


 同じ狐型の獣人であるノエルは地下14階で遭遇した狐を瞬殺していた。

 火を自在に操り、時には幻覚まで見せて来る魔物なのだが、何かをさせることなく離れた場所から投げた錫杖で貫いていた。

 その魔物は今、道具箱の中で保管されている。

 ノエルに言わせるとそんな魔物と同じように考えられるのは屈辱らしい。


「分かった。絶対にそんな事は言わない」

「よろしい」


 ノエルの機嫌を直してから地図を確認する。

 リアルタイムな情報が表示されているため熊を見つけるのは簡単だ。

 こっちに向かって走っている熊がいる。


「魔物が私たちに気付いた。だから襲ってきている。そんな簡単な事だったら面倒がなくて良かったんだけど……」

「そこまで単純じゃないみたいだ」


 駆ける熊。

 その前には5人の冒険者がいる。装備からして戦士が二人に盗賊、弓士、魔法使いといった典型的なパーティだ。

 熊から必死に逃げている5人の冒険者。


「大方、灰色熊(グレイグリズリー)の討伐に失敗して追われているんでしょ」


 追っている熊は灰色の毛を持つ熊型の魔物。

 毛はフサフサなのだが、その下にある皮膚は鱗のように硬く、防御力に優れた魔物なので戦闘を行う際には事前に十分な準備が必要だ。

 その事を知らずに手を出してしまうと痛い目を見ることになる。


「その代わり美味いんだよな」


 熊の手なんかは高級食材の一つとして扱われるぐらいだ。

 肉もその強さに見合っただけの味を持っている。


「で、どうするの?」

「当然、仕留める」


 そうこうしている内に逃げている冒険者の姿がはっきりと認識できるようになる。

 こちらから認識できるようになった、ということは向こうからもある程度は認識できるようになっているはずだ。


「クソッ、しつこいんだよ!」

「はぁはぁ……逃げろ!」

「もう少しの辛抱だ」


 仲間を励ましながら必死に逃げている。

 どうやら階層の入口まで逃げて転移結晶で地上まで脱出するみたいだ。よほどの事がない限り迷宮の階層を移動して追って来るようなことはないため最も確実な方法と言えるかもしれない。ただ、その際には全員の転移が間に合わなくて襲われるかもしれない。

 その場合、襲われた者に待っているのは死だ。


「助けてあげようか?」


 逃げている冒険者たちに向かって叫ぶ。

 たとえ善意からであったとしても助けを必要としているのか確認せずに他の冒険者が戦っている魔物との戦闘に乱入した場合は、横取りされたと文句を言われることがある。

 だからどんな状況でも確認する必要がある。


「あ、ああ! 助けてくれ!」


 先頭を走っていた戦士の男が声を張り上げる。

 これで言質は得た。仲間が何を言ったところで無意味で。


「アイラ」

「りょうかい」


 すぐにアイラが駆け抜ける。

 灰色熊の雄叫びと共に重たい物が地面に落ちる音が響く。


『え……?』


 思わず逃げていた冒険者たちが振り返っている。

 そこには切断された左腕を抑えて苦しんでいる灰色熊。その前で剣を抜いて立っているアイラの姿があった。

 防御力に自慢のある灰色熊だったが、アイラの前では紙同然だった。


「ただいま」


 1分もせずに討伐を終えてしまった。

 とりあえず血抜きなどの後処理だけを終えて持ち帰ることにする。


「こいつは全部もらっていいな」

「あ、ああ……」


 戦士の男に確認する。


「俺たちは他の魔物と戦っていたら流れ弾を灰色熊に当ててしまっただけだからな。こいつに与えられたダメージなんて微々たるものだよ」


 その与えられたダメージも逃げている最中に撃った攻撃。

 威力がかなり落ちているため大したダメージにはならなかった。

 結局は、アイラの剣によって斬られたダメージだけだ。


「そっか」


 なら、全てを持ち帰ることに文句はないだろう。

 新鮮な熊肉が手に入ると分かって喜々とした顔で解体を続けるシルビアに今さら持って帰られないなど言えるはずがない。


「あんたたちはこれからどうするんだ?」

「俺たちはもう帰ることにするよ。今日稼いだ分は逃げている最中に放り捨てて来てしまったし、怪我もしている。この間、Cランク冒険者になったばかりで浮かれていたのが原因だ。少し気を引き締める必要があるだろうな」

「Cランク……」


 昨日いちゃもんを付けて来た男と同じランクだ。

 どうやら戦士の男がパーティリーダーみたいだ。おそらくパーティの中では最もランクが高い。装備の質からも判断できる。

 男たちがこちらに背を向けて歩き出した。


「ああ、ちょっと……」

「……ん、どうした? 助けてくれた事には礼を言うが、謝礼まで出すつもりはないぞ」

「……いや、転移結晶はすぐそこだから問題ないと思うけど、装備品をいくつか使えなくしているみたいだし、気を付けて帰ってくれよ」

「心配してくれてありがとう」


 男たちが今度こそ離れて行く。

 しばらくすれば転移結晶で地上へ戻った事が地図を見ていたおかげで分かった。


「何かあったの?」


 解体を終えたアイラが近付いて来る。

 その手は血で真っ赤に染まっている。


「いや、彼らが迷宮関係者じゃない事を確認しただけだ」


 タイミングよく俺たちが助ける。

 どうにも出来過ぎていたように感じたため確認させてもらった。


「どうやって?」


 アイラも遠くからだったが、俺と彼らのやり取りは見ていた。

 だが、どこからどう見ても会話をしているようにしか見えない。


「あいつらのステータスを確認すればいいだけだろ」

「ああ――」


 今までに出会った迷宮関係者は、全員が『迷宮主』もしくは『迷宮眷属』の称号を持っていた。

 どちらの称号も持っていない彼らは迷宮関係者ではない。


「【迷宮魔法:鑑定】――迷宮産の財宝や魔物の情報を確認することができるスキルだけど、相手のステータスを確認することもできる」


 迷宮内で使用することによって対象の制限を取り払うことができる。

 相手がどんな人間であれステータスを覗くことができる。

 最も確率の高い迷宮主の見分け方だ。


「あいつらは普通の冒険者だ。放置していても問題ない」


 鑑定した結果には『冒険者』としか書かれていなかった。


「それよりもそろそろ日暮れだし、熊肉の解体を終えたら俺たちも戻ることにしようか」


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