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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第14話 エスターブール迷宮―草原―

 エスターブールの地下11階。

 第2階層とも言える11階から20階までは草原が広がっている。

 アリスターや他の迷宮と同じ構造だが、迷宮が必要とされた目的を考えれば仕方ない。また、無理に変えるのも負担になるため必要がなかった。

 何よりもエスターブールの事情を考えれば必要な物だ。


「この『大草原フィールド』では獣型の魔物を狩ることができるみたい」


 事前に冒険者ギルドで迷宮の情報を調べてくれたイリスが教えてくれる。

 朝は自由時間にしていたため手の空いている者は各自で動いていた。


 そんな余裕があったのも……


「大丈夫?」

「……全然大丈夫じゃない」


 体調の悪いシルビア。

 単純に二日酔いだ。


「私が飲んでいるからと言って付き合うからですよ」

「せっかく新しい土地に来たんだから飲まずにはいられなかったの」


 好奇心が逸って飲み過ぎてしまった。

 夕食の時に出されたワインは口当たりが良く飲み易かったのだが、そのせいで止め時を誤ってしまった。


 対して酔い潰れてしまったノエルはケロッとしており、メリッサに至っては平然としている。二人ともいつも通りだ。

 シルビアだけが体調不良だったが、探索に彼女だけを連れて行かない訳にはいかないため体調が最低限回復するのを待つ必要があった。


「地下17階まで行けば昨日のワインに使われていた葡萄も採れるみたい。せっかくだから寄って行く?」


 フルフルと首を横に振るシルビア。


「探索を優先させましょう」


 葡萄は消費量が大きく需要はあるのだが、一つ一つは高価という訳でもないし、このぐらいの深さなら一般的な冒険者なら余裕で探索することができる。

 目立つには少々不利な場所だ。


「たしか『大草原フィールド』はウチと同じで食糧生産に向いているんだよな」


 多くの植物が自生し、それを食むことで成長する獣型の魔物。

 どちらも人が食すことができる。


「その通り。ただ、違いがあるとすれば……」


 イリスが視線を遠くへ向ける。

 距離があって見辛いが、何頭もの獣型の魔物が列を成している。


「違う。獣型の魔物じゃなくて正真正銘の獣」

「は?」


 思わず聞き返さずにはいられなかった。


 だが、再び見てみると列を成しているのは羊。

 そして、羊の先頭には羊飼いと思われる青年がいる。

 青年は、危険な迷宮で羊の牧畜を行っている。


「よく、そんな危険な真似をしようと思ったな。いや、どうやって維持しているんだ?」


 迷宮は、その特性上魔物を出現させるようにしなければならない。魔法道具を設置するなり、花見の時のように冒険者に護衛や間引きを頼むことによって一時的に人を襲わないようにすることは可能だが、そんな事をするだけで魔力を消費してしまう。管理を考えれば効果的ではない。


 魔物は自分よりも弱い存在を見れば襲わずにはいられない。

 羊など戦闘力を全く持たないと言っていい。

 魔物にとって羊は餌以外の何物でもない。


 だが、牧畜が行われている、ということは魔物に襲われずに済んでいるという事の証だ。


「これを見て」


 迷宮の地図を目の前の空中に広げる。

 地下11階に到達した段階で既に攻略地図は作成済みだ。


「ギルドの説明によると魔物が襲い掛かって来ない安全な区域がある。そこを牧畜の為に解放しているから可能になっていると説明を受けた」


 襲われない理由も簡単だ。

 地下11階では温厚な魔物しか出現しない。それでも人や獣を全く襲わない、という訳ではないので注意が必要になる。


 だが、温厚な魔物は避けることが可能だ。

 その魔物が嫌う匂いを振り撒いたり、その魔物にとっては毒になる植物を植えたりすることによって人は魔物を遠ざけて来た。そんな簡単な事は昔から行われて来たので珍しい事ではない。田舎の農村では普通に行われている。


「だけど、この迷宮は管理されている」


 魔物の生育を阻まない範囲で、その魔物が嫌う匂いを出す花が広範囲に渡って植えられている。

 その事が全体を地図で見渡すと見えて来る。


「これ、明らかに柵代わりだろ」


 人間にとって害はない。

 この階は大きな利益になるような魔物はいない。

 平和的に肉を得るのが目的の階層だ。


「肉は得られないけど、けっこういい代物がある」


 イリスが地図の一点を指し示す。

 その場所が拡大されると生えている植物が表示される。


 ――キキの実。

 花に付いた黄色い小さな果実で、そのまま口の中にいれると酸っぱくて食べられた代物ではないが、加工することによって非常に甘くなる。

 女性に人気の果実だ。


 ただし、入手は非常に困難になっている。

 繁殖能力が非常に高いため数はあるのだが、森の奥など特殊な環境でしか育つことができない。そして、その場所ではキキの実を好物としている魔物が多くいるため冒険者でもなければ回収が難しい。

 だが、危険に見合うだけの報酬があるのかと言えば微妙なところだ。


 アリスターの迷宮でも育てており、大金を必要としていない冒険者である俺たちは定期的に採って街に納めているため需要を満たせている。

 しかし、エスターブールが満たせているかと言えば微妙なところだ。


「強い人たちは下へ行ってしまうから」


 今はそこまで物好きな冒険者はいない。

 そのため事前に買取価格を調べたイリスはキキの実が高値で取引されていることを知っていた。


「つまり、キキの実を狩って行こうと」

「シルビアの酔いが完全に醒めるにはちょうどいい運動になる」


 出口から少し逸れた場所にあるが、寄り道ができないほどの余裕がない訳ではない。


「じゃあ、行くか」


 大草原を駆け抜ける。

 途中、草原に生えている野菜なんかを採取している新人冒険者に遭遇するが、彼らは遠巻きに見ているだけで接触して来ようとしない。

 走っているだけだが、その速度だけで自分たちよりも強いという事が分かる。


「着いた」


 地図を参考にしながら真っ直ぐに進んだため目的地は十数分で辿り着いた。

 そこには、黄色い花が一面に広がっており、花の下に黄色い実が付いていた。


 ただし、花畑の前には数十体の鹿型の魔物がいる。


角鹿(ホーンディア)か」


 温厚で争いを好まない魔物。冒険者と遭遇した場合でも逃げることを第一に考える。だが、自分のテリトリーに入り込まれた場合にはその限りではない。頭から生えた2本の角を向けて突進してくる。その威力は凄まじく、簡単な防具程度なら貫いてしまえるし、弾き飛ばされて地面に叩き付けられることもある。

 そんな角鹿が地面に転がっている。


「そう言えば『金の狐亭』に泊まった初日に鹿肉が大量に出て来たよな」

「あの日は、地下11階で魔力異常があったらしくてテリトリーからも飛び出して大変だったらしい」


 大量発生したために角鹿が好むキキの実がある奥、角鹿の嫌う草が生えている場所を越えて暴れ回るようになってしまった。

 だが、事前に冒険者ギルドから討伐依頼が出されていたおかげで牧畜に被害が出ることなく討伐することに成功した。

 以前から度々このように暴走することはあったが、その度に冒険者の手によって討伐されていた。


「で、こいつらは?」

「討伐依頼の対象になっていたのはテリトリーから出た魔物、もしくは出る危険性のある魔物だけ。討伐依頼に参加した冒険者も高値で取引される討伐依頼の角鹿以外は狩らなかったみたい」


 討伐依頼の対象になっている魔物は、肉や魔石といった素材も通常より高値で取引される。

 苦労に見合うだけの報酬ではないと判断して狩らなかったみたいだ。


「こんな簡単に狩れるんだけどな」


 突っ込んで来た角鹿の首を斬り落とす。

 横に跳ぶと胴体と首から上が地面を滑りながら倒れる。


「仕方ない。普通はこんな簡単に狩ることはできない」


 普段から群れて行動している角鹿。

 1体を相手にするのは問題なくても後ろから突進されれば無事では済まない。

 だが、俺たちは一撃で狩ることができるため危険を抑えることができる。


 イリスと協力しながらそんな作業を続けること10分。


「けっこう狩り尽くしたな」


 見える範囲に角鹿はいない。

 角鹿は自分のテリトリーに入られれば怒り狂って襲い掛かって来るはずであるため近くにはもういない。


「こっちも回収が終わりました」


 シルビアの抱える篭の中にはキキの実がぎっしりと詰め込まれている。

 これだけあれば十分だろう。


「で、俺たちは何を手に入れるんだ?」

「熊の肉が高級食材として好まれているみたい」

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