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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第13話 接触する金狐

「あ、お客さん!」

「今日もお願いするよ」

「はい!」


 『金の狐亭』へと戻って来る。

 宿を変えても良かったが、文句もなかったのでエスターブールに滞在している間は今後も使わせてもらうことにする。


「昨日と同じ部屋を使えるようにしてあります」

「ありがとう」


 部屋の鍵を受け取って向かう。


「今日は美味しい豚肉が手に入ったので楽しみにしていて下さい」


 夕食の時間。

 食堂に着くと運ばれてきたのは肉汁の滴る肉に特製のソースが掛けられた豚肉。それにこってりとしたシチューが出された。


 昨日と違うメニュー。

 それだけ都市にありながら豊富な食材が手に入り易いという事でもある。


「あ、ワイン追加でお願いします」


 メリッサが追加のワインを注文する。

 食事の際に提供された赤ワインも『黄金狐商会』の傘下にある店が用意した物で格安で手に入れられるということで気軽に飲むことができる。


 あまり、ガバガバ飲まないで欲しい。

 金銭的には問題ないが、酔いが回り易い酒らしくシルビアとノエルは既に酔い潰れている。アイラとイリスは一応護衛としての意識があるおかげで最初から少量しか飲んでいない。

 俺は最初から飲んでいないから酔う心配もしていない。


「大丈夫です。私は全く酔っていませんから」


 ワインを飲みながら言うメリッサ。

 その呂律は正常だし、こちらの話をしっかりと聞いているようなので嘘を言っている訳ではない。


「それに、もう来たみたいです」


 テーブルにうつ伏せになっていたシルビアが起き上がる。

 彼女の【探知】に引っ掛かった。ただし、警戒して起き上がっても酔っているせいか目はトロンとしていた。

 そしてノエルは未だに寝ている。


「大丈夫だ。この人は敵対しに来た訳じゃない。そうですよね?」


 テーブルの傍に立っていた狐獣人の男性に尋ねる。


「ええ、その通りです。ですから警戒する必要はありませんよ」

「……」


 無言でコップの水をチョロチョロ飲むシルビア。

 一応、恥ずかしい姿は見せられないと酔いを醒まそうとしている。


「ここからは私の領分です。交渉は私が引き受けましょう」


 最も酒を飲んでいるにも関わらず平然としているメリッサが狐獣人との交渉を引き受ける。

 テーブルの右側にメリッサが座り、狐獣人が左側に座る。


 狐獣人の姿を確認させてもらう。

 狐獣人は金色の毛に覆われた耳と尻尾を持った初老の男性。顔には年相応の皺があったが、オールバックにした肩まである長い髪や獣人部分の毛は綺麗な金色をしていた。正直言えば後姿だけを見たなら青年だと間違いそうなほど若々しい。


「まずは自己紹介からさせていただきます。私、『黄金狐商会』で統括をしている者でランディと申します。以後お見知りおきを」


 統括。随分と偉い人が出て来てくれた。

 『黄金狐商会』の誰かが接触してくる可能性は考えていたけど、いきなり大物が接触してくるのは考えていなかった。


「統括、ですか。そのような人物がどのようなご用件ですか?」

「おや、私が統括だと信じてくれるのですか?」

「もちろんです。理由としては2つですね」


 まず、ランディさんがこの場にいる事。

 『金の狐亭』は商人たちからの信用も篤い宿だが、『黄金狐商会』の傘下にある宿。どのような用件にしろ他の商会が自分たちの商売をする為にこのような場所で話をするはずがない。商売敵の経営する宿の食堂で商談などしようものならその商売敵に与する意思ありと見做されてしまう。


 そして、そんな簡単な事を宿の娘であるレイナちゃんが知らないはずがない。

 自分たちの所属する組織の中でもずっと偉い人物が来たことで少女の好奇心が刺激されてしまったらしく、見ないようにはしているものの意識だけは向けているせいで熊耳がこっちを向いている。


 宿の食堂を利用するのにいくら経営組織側の人間とはいえ、宿側の許可を得ていないはずがない。


「……彼女には注意が必要ですね」

「子供のしている事です。怒らないであげて下さい」


 以上の理由から『黄金狐商会』の偉い人であるのは間違いない。

 ランディさんの前に空のグラスを置き、ワインを注ぐ。


「それに自分の正体が知られてしまった事がこれから行う商談に関係ありますか?」

「……違いありませんね。私もしばらく現場を離れていたせいで衰えてしまったようです」


 ランディさんが穏やかな笑みを浮かべる。

 メリッサがワインを注いだグラスに手が伸ばされる事はない。真面目な話をするのだから酒は飲まないつもりだ。


「単刀直入に申し上げましょう。私共と契約を結びませんか?」

「『黄金狐商会』と?」

「ええ、そうです。既に本日、貴方たちがギルドに大量の宝石を持ち込んだのは把握しています」


 どうやら目論見は上手く行ったみたいだ。

 エスターブールを支配する上層部と接触したいが、全く伝手のない俺たちでは接触する機会すら得ることができない。


 そこで、目を付けたのが有力な商会を介しての接触。

 幸いにして適当に選んだ宿が『黄金狐商会』の傘下だった。

 大々的に目立つ事をすれば向こうの方から接触して来る。

 まさか、初日から接触してくるのは予想外だったが、概ねこちらの目論見通りだ。


「宝石を売って欲しいと?」

「さすがにそれは無理でしょう」


 目立つ為にギルドへほとんどを売り飛ばしてしまった。

 さらに出すことは可能だが、それは迷宮で得られた物ではない。見る人が見れば全く違う代物だと分かるはずだ。


「次に買取を希望される物を手に入れた場合には当商会で売却を行っていただきたいのです。優遇させていただきますよ」


 ランディさんの視線がチラッと寝たままのノエルへと向けられる。

 『黄金狐商会』は獣人に優しい商会として有名だ。ノエルは同じ獣人というだけでなく、同じ狐の獣人だ。彼らにしてみれば優遇するには十分な資格みたいだ。


「いえ、優遇は結構です」


 が、メリッサはキッパリと断る。


「よろしいので?」

「対等な取引関係を築くことを望みます」


 ニッコリと微笑むとワインを飲む。


「何か欲しい物の要望がありましたら遠慮せずに言って下さい。これから向かう先の階層で手に入るようでしたら取りに行って来ます」

「そうですか。では、手に入るようでしたらこちらのリストにある物を探して来て下さい」


 スッと懐から取り出した紙をテーブルの上に置く。


 更にもう1枚。

 こちらには『黄金狐商会』の位置を記した地図とランディさんへの個人的な連絡手段が記載されていた。


「今日は挨拶だけのつもりでしたので帰らせていただきます。貴女たちの活躍を期待しておりますよ」


 立ち上がると食堂を後にするランディさん。


「すみません。お代わりを下さい」

「は、はい!」


 ランディさんが現れてから気を張り詰めていたレイナちゃんにワインの追加注文を頼む。既に3本のボトルを開けているのによく飲めるな。


「あれで、良かったのか?」

「ええ、構いません」


 レイナちゃんからボトルを受け取るとワインをグラスに注いでいく。


「私たちの目的は『黄金狐商会』と仲良くする事ではありません。『黄金狐商会』を通してエスターブールの有力者と接触する事です。このような簡単な場とはいえ、『黄金狐商会』に借りを作ってしまうと私たちが手を伸ばせるのはそこで終わってしまいます。『黄金狐商会』を利用するぐらいでなければなりません」


 単純に注目されるだけではダメ。

 メリッサには何か考えがあるので任せよう。


「ですが、一つのルートに頼っているだけではダメです。もう一つのルートについてはイリスさんに任せます」

「そっちは私の本分だから任せて」

「え、何……?」


 どうやら俺の知らないところでイリスとメリッサの間で作戦が練られているみたいだ。


「それよりも、できればノエルさんとシルビアさんの二人を部屋に連れて行ってあげて下さい。明日も早いのですから酔い潰れている二人は部屋で寝かせてあげた方がいいでしょう」

「おっと」


 テーブルに突っ伏しているノエル。

 シルビアも椅子には座っているものの既に瞼がトロンと垂れていて今にも眠ってしまいそうだ。

 アイラに手伝ってもらって部屋に二人を運ぶ。

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