第11話 完全攻略地図
――【迷宮操作:地図】。
自らの周囲の地形を探査し、記憶することができるスキル。
……が、それは迷宮の外で使用した場合の話。
迷宮内で使用すれば階層全てを把握できる地図が手に入る。
そこに表示されるのは出口までの道順、地形、罠の位置、魔物の現在位置。
スキルを使用するだけの迷宮内の現在の様子が手に取るように分かる破格のスキルと言っていい。
もちろん、一定以上の財宝の位置も表示されるようになっている。
つまり……
「お前、経験なんかじゃなくてスキルで宝石の位置を割り出していたな」
こちらから視線を逸らすイリス。
キラキラと憧れるような視線を向けていた子供たちに申し訳ない。
「まあ、楽できるからいいじゃない」
迷宮操作を使えるのは俺とイリスのみ。
だが、【迷宮同調】で得られた情報を共有すれば全員が見られる。
アイラも早速地図を見て手近な場所にあった壁を剣で叩く。
叩かれた壁は脆く、薄くなっていたために少しばかりの衝撃を与えただけで崩れてしまった。
壁の向こう側には小さいが確かに空洞がある。
「あ、宝箱発見」
地面の上にちょこんと置かれた小さな箱。
中を開けると金貨が10枚入っていた。
俺たちにしてみれば僅かな金額だが、地下1階を探索するような初心者にとっては十分すぎるほどの大金だ。
「おい、アイラ」
「なによ」
「この辺で取って行くのは止めろ」
先ほどの子供たちが狙っているのは、こういった宝箱だ。
自重するつもりはないが、子供たちの狙っている物まで奪ってしまうのは可哀想だ。
「地下1階ですと岩と岩の間に金貨が挟まっているのが4箇所。似たような宝箱が1箇所あるだけですね」
「結構大盤振る舞いね」
「仕方ないわよ。ウチの迷宮よりも広いんだから」
メリッサ、ノエル、シルビアも地図を確認している。
シルビアが言うようにエスターブールの迷宮は、アリスターよりも広めに作られている。実際に地下にある訳ではなく、亜空間内に作られているため広く作ること自体は可能なのだが、広く作れば作るほど消費する魔力の量が多くなる。
何事にも適切な量という物がある。
「これだけの広さで作っても問題ないだけの魔力量が得られるっていうのか」
地図を作ったおかげで、その辺りの事情も把握することができた。
階層を一つクリアするだけでもかなりの時間を使うことになる。が、それは探索をまともにした場合の話だ。
地図を確認しながら数十分歩いているだけで地下2階へ続く階段に辿り着いた。
「地図に問題はないみたいだ」
とりあえず出口まで辿り着けたのなら問題ない。
地下2階へ下りると階段のすぐ傍に転移結晶がある。
これに触れて階層を移動した登録を行う。今後は一瞬で地上から地下2階まで移動することができるようになった。
だが、こんなところで今日の探索を終えるつもりはない。
「どうしますか?」
「さっき会った子供たちの実力を考えるなら地下3階ぐらいまでは残してあげよう」
地下3階までの攻略を一気に進める。
☆ ☆ ☆
――迷宮地下4階。
天井から棘のように突き出た岩。
その間に挟まるようにして小さな宝箱があった。
「こんな階層にある宝箱なんだから初心者向けなんだろうけど、あんな場所にある宝箱子供には絶対に無理だぞ」
天井までは5メートル。
洞窟は楕円形になっているため左右の端の方なら子供たちでも肩車などして協力すれば手が届かない訳ではない。
だが、中央部分は大人でも手が届かない。
俺たちはジャンプして取らせてもらった。
「しかも地図でもないと宝箱があるのは分からない」
岩の棘は最初から隠すのが目的だったみたいにある角度から見る事によってギリギリ見つけることができる場所にあった。
おまけに宝箱はきちんと支えられていたために落ちて来ることもない。
【地図】があって初めて見つけることができる。
「それが……そうでもないみたいです」
ギルドで購入した迷宮の地図を見ながらシルビアが訂正した。
「ここを見て下さい」
地下4階の地図。
端の方に宝箱がいくつ残されているのか書かれていた。
「どうやら【財宝感知】というスキルを持った冒険者がいるようです」
その冒険者が持つ【財宝感知】のスキルを使えば階層内に一定以上の価値を持つ財宝がいくつ残されているのか知る事ができる。
その情報は、細かく更新されて公開されている。
「迷宮の事情を知らなければ凄いスキルを持った人がいる、と感心するところですが……」
「ま、足止めするのが目的だろうな」
見つけるのが困難な宝箱を探させる為に公開させている情報。
「問題は【財宝感知】のスキルを持った冒険者が何者なのかっていう事だな」
迷宮の管理者側にとって有利な冒険者。
迷宮主に関係している者だった場合には接触する必要がある。
「その辺りは地上へ戻ってから確認することにしましょう」
「そうだな」
歩いている内に地下4階も半分ほど進む。
何もない場所。
そこで足元を足で思いっ切り踏み付ける。
岩が粉々に吹き飛ばされ穴が開く。
中から……
「わぁ、きれい」
ルビーが出て来た。
しかも指輪に付けるのにちょうどいいぐらいの大きさと純度を持っている。
これは高値で売れそうだ。
――迷宮地下6階。
壁をガン! と叩く。
すると壁の中から音に驚いた土竜型の魔物が飛び出してくる。
体長は1メートルにも満たない魔物で、戦闘能力も乏しいため、臆病な性格をしている。
「ていっ」
剣の腹で叩いてやると宝石をいくつも口から吐き出しながら地面を転がる。
臆病な魔物だが、地中で精製された宝石を体内に溜め込むという性質を持っているために多くの冒険者から狙われる魔物だった。こうして強い衝撃を受けて倒されると溜め込んでいた宝石を吐き出す。
転がった宝石も回収する。
「いやぁ、大量大量!」
大きな宝箱を抱えたアイラが合流する。
ちょっと離れた場所にあったためノエルと一緒に別行動をしてもらっていた。
宝箱の中にはナイフや短剣、銀貨や金貨が大量にしまい込まれていた。
「大丈夫だったか?」
「宝箱を守っていたコボルトの事? あの程度の魔物にあたしが負けるはずないでしょ」
「それもそうだな」
コボルトには光物を集める習性があった。
地下6階と言えど、油断していたために死んでしまったり、装備品を落としてしまったりする冒険者がいない訳ではない。
そういった冒険者から光物を奪って蒐集する習性がコボルトにはある。
その習性は、アリスターの迷宮にいるコボルトも同じなので特に疑問に思うこともなく、コボルトが光物を溜め込んでおいた宝箱をアイラに回収してもらった。
コボルトが宝箱を守る為に宝箱の前に陣取っていたらしいけど、問答無用で斬り捨てている。
一つ一つは大した価値はないものの、誰にも見つけられなかった宝箱を見つけられた時の優越感は格別だ。
「これも持って帰るんでしょ」
「当然だ」
何よりも見つけられなかった物を見つけられた、という事に意味がある。
「でも、いいのかな……?」
アイラに同行したノエルがボソッと呟いた。
「皆は一生懸命探しても見つけられないんだよね。それを地図を見て簡単に見つけて来るなんて、ちょっとズルしていない?」
たしかにズルをしていると言えなくもない。
が……
「悪いが、そういう議論は今回ナシだ。俺たちの最優先目標はこの迷宮の迷宮主と接触する事だ。その為なら多少のズルには目を瞑ってでも目立つ」
見つけられていなかった物を見つけて戻る。
しかも、それが大量ともなれば注目せずにはいられないはずだ。