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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第10話 エスターブール迷宮―洞窟―

 エスターブールの迷宮も他の迷宮と同様に最初は洞窟になっている。

 まあ、その辺は迷宮が必要とされた背景を考えれば当然だ。


 ただし、細かい所が違う。


「随分とゴツゴツしていますね」


 歩き難そうにしているメリッサが嘆いた。

 これまでの迷宮は人が住み易いように用意された場所だったため岩に覆われた洞窟だったとしても歩き易い平坦な道だった。


 しかし、エスターブールの場合はゴツゴツとした岩の間にいくつもの溝がある。これでは歩き難い。

 特に身体能力がそこまで高い訳でもない魔法使いのメリッサには不利なフィールドだ。


 もっとも……


「あ、ゴブリン」


 先頭を歩いていたアイラがゴブリンに気付いた。

 数は2体。手に棍棒を持っているだけのノーマルなゴブリン。これは新人冒険者でも必死に戦えば倒せるレベルだ。


火矢(ファイアアロー)


 メリッサの放った火の矢がゴブリンの頭部を吹き飛ばす。

 彼女だけがフィールドに苦戦していたようなので問題ない事を確認する為にゴブリンへの対処は任せた。


 まあ、魔法使いにとって動けないことはそれほどの問題にはならない。

 結局、後ろから固定砲台になって魔法を放つだけで終わらせてしまった。


「どうしますか?」

「そうだな――」


 倒したゴブリン。

 ゴブリンは持ち帰っても魔石ぐらいしか売れる部位がない。

 それに魔石もそこまで価値がある訳ではない。いちいち足を止めてまで解体作業をする必要があるのか……


「おい、こっちだ!」

「待ってよ……」

「ん?」


 ゴブリンの処分方法について頭を悩ませていると子供の声が聞こえて来た。

 入口前にいた子供たちと同じくらい幼い子供だ。


「あ……!」


 曲がり角の向こうから3人の子供が姿を現す。

 一人目はショートソードを手にした少年。二人目は細い棒のような杖を持った少女。三人目は大きなバッグを背負った少年。

 3人とも屋敷にいるエルマーたちと同じくらいの年齢だ。


「ごめんなさい、そのゴブリンわたしたちが逃がしたゴブリンです」


 そう言って少女が謝って来る。

 迷宮探索を初めて少しした頃、3体のゴブリンに襲われてしまった。3体が相手では勝ち目がないと判断して逃げたところまではよかった。が、行き止まりまで追い詰められてしまったため死に物狂いで戦った。


 ゴブリンの方も子供たちを侮っていた。そのため1体だけを嗾けて、2体は後ろの方で観戦しているだけだった。


 だが、しばらくすると観戦していられるような状況ではなくなってしまった。

 子供たちは死に物狂いで戦っていたため傷を負いながらもゴブリンを倒すことに成功した。


 そこで、襲い掛かって来るかと思われたゴブリンたちだったが、仲間の1体がやられてしまうところを見て怯えてしまい、逃げ出してしまった。


「なるほど。その先が俺たちのいる場所だった訳だ」


 逃げた先は少女よりも遥かに強力な魔法使いがいた。

 実に運のないゴブリンたちだ。


「君たちはここで何をしているのかな?」


 ゴブリン1体に全力を尽くさなければならない子供たち。

 明らかに実力不足だ。


「おれたち、迷宮で稼いでいるんだ!」

「荷物持ちじゃあ、大人たちに付いて行くだけで精一杯でヘトヘトになるのに全然稼げないからね」


 二人の少年が揃って言った。

 稼いでいると言ってもゴブリン相手に苦戦させられている彼らにできる事は限られている。


「今日なんてこんな物を見つけたんだぜ」


 そう言って見せてくれるのは紫色の宝石――の欠片。

 残念ながら指先にちょこんと乗る程度の大きさしかない。


「サファイアの欠片ね」


 この大きさでは売れたとしても微々たる金額でしかない。

 それでも目の前にいる子供たちにとっては大金だ。


「これはどこで手に入れたの?」


 子供たちに視線を合わせてイリスが尋ねる。


「……」


 だが、子供たちは答えない。

 見せてくれていたサファイアまでしっかりと握り締めて奪われないようにしている。


 自分たちが逃がしたゴブリンが誰かを襲っていると思って(実際に襲われた)慌てて俺たちのところに来たが、彼らにとって俺たちは怯えるべき対象である大人。易々と自分たちの戦果を教えてくれるはずがなかった。


「大丈夫。取ったりしないから」

「……本当?」

「私たちは今日初めて迷宮に挑戦しているんだけど、ここではどういう物が手に入るのか知りたいだけなの」


 子供たちが目を合わせてどうするべきか相談している。

 しばらくすると女の子が代表して教えてくれた。


「あのね。この階だと岩の隙間とかに宝石が挟まっていることがあるの。もう、何十日も前に補充されたから残っているのは少ないけど、わたしたちが取れるのはこれぐらいの時期しかないから……」


 補充――【構造変化】の事だろう。定期的に資源や魔物の補充が行われているのはエスターブールでも変わらない。


 【構造変化】が起きた直後は宝石なども補充されているため、それを狙った冒険者の手によって同時に復活した魔物も討伐されている。

 後から探索すると宝石も残り物しかないが、魔物もほとんどが駆逐されているため子供たちでも探索が可能になる。


「そっか。探すのはいいけど、まだ魔物が残っているから気を付けてね」

「うん!」

「じゃあ、私から一つアドバイス」


 少女の手を引いて迷宮の奥へと進んで行く。

 壁に寄ると足元にある小さな穴を指差した。


「ここを掘ってみて」

「うん……」


 3人で協力して持って来たスコップを使って穴を掘る。

 子供の力では穴を大きく広げるだけでも時間が掛かる。


「わぁ!」

「すげぇ!」

「こんなの見たことないよ」


 目の前に広がる光景を見て3人が驚いている。

 穴を広げて崩れて来た砂の中に先ほど見せてくれたようなサファイアの欠片がいくつも混じっていた。


「これならみんなの分もメシが買えるな」

「うん!」


 この子たちは入口にいた子供たちと同じだ。

 親を亡くして自力で生きている子供たち。


「どうやって見つけたの?」

「経験、かな?」

「凄い!」


 イリスの言葉に子供たちが興奮している。


「今の君たちにできるのは、こうしてコツコツと宝石を見つけることだけ。たとえゴブリンが相手だったとしても全力で逃げることを優先させること」


 ゴブリンですらまともに戦うことができないのに無茶をしている。

 アリスターではそういった無茶を禁止する為に最低限戦えるだけの実力を持っていると認められた冒険者しか入れないように規制していた。が、エスターブールではそういった規制は一切ない。

 少し疑問に思っていたが、ここに理由があるのかもしれない。


「これってやっぱり……」

「ええ。不要になった子供たちが迷宮で処分されるようにしているのでしょう」


 メリッサも同意見だった。

 生活に困った子供たちは自然と親も挑んでいた迷宮へ挑むようになる。当然、戦う力のない子供たちではゴブリン相手でも殺されてしまう。


 孤児が多すぎるからといって処分しているようでは外聞が悪い。

 死体になれば魔力になって吸収され、苦情を回避することもできる。

 一石二鳥とも言える。


 迷宮へ挑むのは自己責任。

 とはいえ、子供が無謀に挑んで行くのを見過ごすのは違う。


「さっきの忠告分かった?」

「でも……!」

「それだけあればしばらくは十分でしょ」


 せめてゴブリンを相手に戦えるようにならないと話にならない。


「はい……」


 渋々ながら納得してくれた。


「その……ありがとうございました!」


 子供たちがお礼を言いながら迷宮の入口へと向かう。

 怪我をしていたし、これ以上の探索を許可する訳にはいかない。


「それにしても宝石のある場所がよく分かったな」


 あんな小さな穴、俺なら見逃していた。


「何を言っているの?」


 心底、不思議な物を見るような目で見て来た。


「――【地図(マップ)】」


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