表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
682/1458

第4話 エスタリアの身分

 街道で盗賊退治をした夜。

 その日は、見えていた町に泊まってしまうと無用な面倒事に巻き込まれると思い報酬だけを貰って次の街へと移動していた。


 目立つ必要はあるが、あの町の住民相手に目立つ必要はない。

 残念ながら、町と呼べる規模にまで発展しているとはいえ、あのように寂れた場所では迷宮主の目も届いていないだろう。


 今いる街――メーネスも都市には遠く及ばない。

 宿屋で部屋を借りる。

 二人部屋を二つ。

 俺とイリスが寝泊まりする部屋にメリッサとノエルも集める。


 あと……


「二人も喚ばないと拗ねるから合流」


 そう言って【眷属召喚】を使用するイリス。

 二人部屋に6人が集まる……狭い!


「じゃあ、さっそく今日の成果から報告」

「はい」


 まずはイリスが盗賊団のアジトから押収した財宝を宝箱から取り出してくれる。

 宝石の付いた指輪やネックレスのような貴金属を中心とした金銀財宝。それから食糧がかなりの日数分あった。


「盗賊団は結構な人数だったし、馬も養わないといけない。あの町を中心に活動していたなら食糧の方が多くなる」


 収穫した作物を他の場所へ売りに行く。

 他にも自分たちでは得ることのできない食材を持ち帰って来る必要がある。

 その際に盗賊に襲われれば食料品が中心になるのも仕方ない。


 が……


「ほとんどはあの町に置いて来た」


 町に到着すると人々が詰め掛けて来た。

 盗賊たちに奪われた財宝を取り戻す為だ。

 彼らは思い出の品やなけなしの金で買った宝石を取り戻そうと必死だったため、値を釣り上げるような真似をせず売った。


 ほとんどの人は、取り戻したいが手元にお金がない人ばかりだったため分割での支払いを許可した。

 逃げられる心配もない。

 冒険者ギルドに間に入ってもらって契約を交わしたため返済が滞るようなことになればギルドから捕縛命令が出るようになっている。世界各地に存在する冒険者ギルドから逃れるのはほぼ不可能だ。


「即時の換金はできなかったから短期的に見れば損をしたように見える」


 が、この国へ来た目的を達成する為の投資の一環だと考えれば安い物だ。


「冒険者ギルドを通して私たちが元騎士の盗賊を簡単に倒せる実力者だという事は遠く離れた街にも伝わっているはず。かなり注目されることになった」


 しかも分割とはいえ支払いを待った。

 これにより金には執着していないと思わせる事ができた。


 そもそも……


「こんなはした金は必要としていないんだよ」


 こういう言い方を本人たちに聞かれてしまうと気分を害されてしまうから言えないが、迷宮を保有している俺たちにとっては買い取り額など微々たる金額でしかない。

 今は、金よりも名声の方が必要になる。


「で、『平民・下』について調べて来たんだろ」

「はい」


 ゴックさんがポロッと口を滑らせてしまった『平民・下』。

 これについてはメリッサに頼んで冒険者ギルドで調べてもらっていた。


「ただ、調べたと言っても外国から来た人向けに説明されている事を聞いて来ただけですが」


 エスタリア王国での決まり事。

 最低限の常識を知らなかった為にトラブルを引き起こさないようにする為の措置らしい。

 特に冒険者ギルドは熱心だった。冒険者には荒くれ者の方が多いため、常識を知らずにトラブルを引き起こしてしまう事が多い。そのため初めてエスタリア王国を訪れた人を見つけた場合には絶対に教えるようにしている。


「まず、『貴族』と『平民』に分かれている。これはメティス王国でも言える事です。ですが、エスタリア王国の場合は『貴族』の中でも『上級』と『下級』に分けられます」


 メティス王国でも暗黙の了解として認識されている。

 伯爵以上を本物の貴族である上級貴族。

 男爵以下は、そんな本物の貴族から見れば貴族ではない貴族――下級貴族になる。


 とはいえ、貴族は全員が国王から叙爵されているため分別など本来ならない。だからこそ表立って言葉にするような事はない。


 だが、エスタリア王国は明確に分けられている。


「とはいえ、基本的に『平民』が『貴族』に対する態度としてはメティス王国とあまり変わりはありません」


 基本的に逆らってはいけない存在。

 その程度の認識で構わないだろう。


「問題は『平民』の中にも『上』、『中』、『下』の区分があることです」


 上――大商人や領主の家臣のように国へ貢献している者。

 中――職人のように技術を持っている者や土地を持っている者。

 下――小作農民や商会で下働きしている者。


「そんな分ける必要があるのか?」

「はい。分けているからこそ厄介なのです」


 『上』、『中』については問題ない。

 だが、『下』の烙印を押されてしまった者は奴隷よりもマシ程度の扱いになる。

 職人のような仕事に就こうと思ってもハンデを負った状態から始まり、最悪の場合には下働きで一生を終えることもある。また、金を貯めても土地を買うことも信用がないために拒否される場合がある。


「あの町にいた人々は、ほとんどが『下』に該当します」


 ゴックさんのような一部の人間のみが『中』に該当する。

 そして、他国へ逃げない理由が『下』である事にあった。


「この国では、『平民・下』は労働力にしか考えられていません。だからこそ国は労働力が外へ逃げ出さないように国境線を見張っています」


 たとえ逃げ出したところで『平民・下』である内は国を出ることができない。

 国内での自由は認められているものの非常に少ない権利がしか与えられておらず、逃げることすら許されていない。

 だから、あの町の人たちは諦めて生きて行くしかなかった、という訳だ。


「あの元騎士の連中が盗賊になった理由も分かった」


 ただの労働力としか考えられなくなる。

 それは、元貴族の家族だった者たちには耐えられなかったのだろう。

 だから盗賊になってでも再起を図ろうとした。もっとも盗賊として得た金などで身分を上げられるとは思えない。単純にあいつらが馬鹿だっただけだ。


「ただ、この国の『奴隷』はもっと扱いが悪いです」


 完全な道具として扱う。

 そこに人権などなく、たとえ死んだとしても邪魔にならないところでゴミのように打ち捨てられるだけだ。

 そして、一度でも奴隷に堕ちてしまった者はどれだけ努力したところで身分を上げることはできない。もちろん生まれた時から奴隷である者も同様だ。


「あいつらは盗賊として捕まった事で一生を奴隷として過ごすことになった訳だ」


 既に人としての生は終えていると言っていい。


「わたしたちみたいな外国人はどういう扱いになるの?」

「身分制度は適用されません。ですが、扱い的には『平民・中』として扱われるみたいです」


 シルビアの質問にメリッサが答える。

 可もなく不可もなく。


 ただ、現状よりも今後が問題になって来る。


「当初の予定だと何らかの目立つ行動を起こして向こうから接触してもらうつもりだったんだけど……」


 エスタリア王国で迷宮主を見つける方法。

 手掛かりが少なすぎる。だから、発想を転換して迷宮主の方から接触してもらうよう仕向けるつもりでいた。怪しい者がいれば【鑑定】を使用する。そうすれば俺たちのステータスに記載された『迷宮主』や『迷宮眷属』を見つけてくれる。


 その後、様子見をするか接触するのかは分からない。

 だけど、【鑑定】が自分たちに使われた事は分かる。その瞬間が最大のチャンスだと思っていた。


 その為に目立つ。


「盗賊から商人を助けたことで注目を集めることには成功した」


 その程度の善行と言える行動なら問題ない。

 だが、悪行によって目立つのはマズい。


「外国人である私たちに身分制度は適用されない。けど、明らかに面倒事に巻き込まれる。そうなれば迷宮主を探すところじゃなくなる」


 イリスが言うように行動を制限されるような真似は避けなくてはならない。

 そうなると功績を上げることでしか目立つことができない。


「うん。知っておいて良かった」


 今後の方針を絞ることができた。


「じゃあ、次はあたしの番ね」


 と、最後にアイラが掌に収まる程度の大きさの卵みたいな魔法道具を取り出す。

 魔法道具を縦に割る。


『ぉかあ、さん……』


 魔法道具から聞こえて来るシエラの声。

 この魔法道具は、周囲の音を記録することができる。

 アイラは、シエラが自分の事を呼んだ時に備えて買い込んでいた。


「おお、ようやく呼んでくれたのか!?」


 なかなか「おかあさん」とは呼んでくれなかったシエラ。

 待ち望んでいた言葉を聞いてアイラは喜んでいた。


「いえ……」


 ところがシルビアが訂正する。


「これは、わたしに向かって言った言葉です」

「ちょっと!!」

「わたしの作ったご飯をアイラが隣で食べさせていたのですが、思いっ切りわたしに向かって『おいしい、おかあさん』と言っていました」


 崩れ落ちるアイラ。

 たしかに留守番をしていたせいでシルビアの方が母親として傍にいた期間は長い。それに食事を作ってくれるのだってシルビアだし、服もシルビアのお手製だ。

 どちらかと言えばシルビアの方が母親っぽい。


「あ~」


 何と声を掛けたらいいのか分からない。


「アイラについては明日までにわたしの方で行動可能にしておきます。朝の内に子供たちと別れたら、わたしたちも合流します」


 エスタリア王国へ来た以上は、周囲が全て敵だと思うぐらいでいい。

 ここからは全員が一丸となって挑む必要がある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 変な国を巡るキノの旅の雰囲気がしてきた。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ