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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第5章 賞金稼ぎ
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第1話 帰還

「お帰りなさい、お兄様!」


 買ったばかりの家に辿り着くと庭でいつの間にか作っていた家庭菜園で作業をしていた妹のクリスが抱き付いてくる。


 妹のクリスは母の次に俺に懐いていた。

 兄とは年が離れており、物心付いてしばらくすると街へと勤めに出て行ってしまったので妹の面倒は母と俺が見ていた。


 たった10日ほど会えなかったのだが、寂しい想いをさせてしまったようだ。


「ただいま」

「王都はどうでした?」

「色々とあって楽しかったよ」


 本当に色々とあった。


「それよりお土産もきちんと買ってきてあるから安心するといいよ」

「ありがとうございます。ただ……」


 クリスの目が俺の後ろにいるシルビアたちに向けられる。


 村にある家に戻って荷物をまとめると近所の人たちやお世話になっていた人たちに挨拶をしてから人目に付かない場所で『迷宮魔法:転移』を使って迷宮の地上1階である迷宮入り口の裏側まで跳んだ。

 初めての転移にオリビアさんやリアーナだけでなく、シルビアも驚いていた。


 3人を連れて迷宮からアリスターの街まで続く道を歩き、ようやく懐かしい我が家へと帰ってくることができた。


「お土産というのは後ろにいる女性たちではありませんよね」

「お土産と言えばお土産になるのかな?」

「初めまして、シルビアと申します」

「どうも……」


 それまで兄妹の再会を黙って見ていたシルビアだったが、クリスから放たれる不穏な気配を察知して自分から挨拶をしていた。それでも素っ気ない挨拶をしてシルビアを睨み続けていた。

 というか、睨み付けている視線はある一点へと向けられていた。

 まだ、成長期なんだから気にする必要ないのに。


 シルビアもクリスが何を気にしているのか分かったらしく、どう言えばいいのか分からず困った顔をしている。


 2人でどうすればいいのか顔を合わせていると、意外な人物が声を上げる。


「お姉ちゃんをいじめないで!」


 シルビアの妹であるリアーナちゃんだ。


「ええと、わたしはお姉ちゃんをいじめているわけじゃなくて……」

「でも、お姉ちゃん困った顔をしていたよ!」


 さすがに妹なだけあってクリスが何を気にしているのか分からなかったようだが、姉の顔色からどう思っているのか判断できたようだ。


 クリスも同い年の子供から怒られて困惑している。村にいた頃には同い年の子供はいなかったから同年齢の相手とどう接すればいいのか分からないうえ、大好きな姉を虐められたと誤解されてしまっている。


 ここは、兄として俺が助けるしかない。


「ごめんねリアーナちゃん。この子は俺の妹なんだけど、お姉ちゃんに大好きなお兄ちゃんを取られちゃったんじゃないかと思って嫉妬したんだ」

「べ、別にわたしは嫉妬なんて……」


 クリスが否定しようとするが、今はリアーナちゃんを宥める方が先だ。


「その気持ちはリアーナちゃんにも分かるよね」

「うん……」

「だから大好きなお姉ちゃんを虐めていたわけじゃないんだ。許してくれないかな」

「分かった。お兄さんが言うように謝ります。ごめんなさい」

「あ、こちらこそいきなり睨み付けたりしてごめんなさい……」


 2人が頭を下げて同時に上げると目と目が合い、どちらからともなく笑い出す。


「幼いあの子には環境が変わって辛い思いをさせてしまうのではないかと思っていましたが、これなら大丈夫そうですね」

「2人とも同じ10歳ですから仲良くしてほしいですね」


 ただ、リアーナは栄養不足だったのか背が低く、同い年であるはずのクリスよりも顔半分ほど低かった。おかげで2人が並ぶと友達というよりは姉妹のように見えた。


「ほら、まだ挨拶をしていないだろ」

「そうでした。クリスと言います。これから末永くよろしくお願いします」

「リアーナです。よろしくね」


 同い年の2人が仲良く握手をする。


「あらあら、帰って来ていたのね」

「お母様!」


 家の奥から母が出てきた。服が所々汚れている。今日は仕事が休みだったのか掃除をしていたようだ。4人で住むには広い屋敷だからな。


「お客さんかしら?」

「今後ウチに住んでもらうことになったオリビアさん一家です」

「では、立ち話も何ですからおあがり下さい」


 母に案内されて全員が広い食堂にあるテーブルの席に着く。


「まずはおかえりなさいマルス」

「ただいま母さん」

「それで、どういうことなのか説明してもらえるかしら?」


 事情説明を求められたが、さすがに王都であったラルドさんが巻き込まれたボーバン準男爵に関する事件については伏せて、奴隷となったシルビアを俺が買って、俺の傍で仕えることで借金を返すことにし、それに家族であるオリビアさんとリアーナも付いて来て一緒に協力すると説明した。


「事情は分かりました。どうか、この家を自分の家だと思って自由に使って下さい」

「あの……シルビアはこの家でマルスさんの身の回りの世話をさせるつもりでしたが、私たちは宿でも借りて近くで仕事をするつもりでいたのですが」

「アリスターの街はたしかに大きな街ですが、あなたのように何の伝手もない者が仕事を探すのは非常に難しいですよ」


 母も今はどこかの商店で働いているが、その仕事を見つけるまでに1カ月近い時間を要してしまった。

 オリビアさんは美人なので接客などの仕事で需要はあるだろうが、体が弱いため長時間の肉体労働は無理だろうから母以上に仕事を探すのは難しいだろう。


「それでしたら我が家の管理をお願いしたいのです」

「このお屋敷のですか?」

「私もなるべく掃除などをこまめにするようにしているのですが、仕事をしている身で広い屋敷はどうしても行き届かないので掃除や洗濯をお願いしたいのです。もちろん給料も支払います」


 やっぱり、クリスも手伝ってくれるとはいえ、母1人で屋敷を管理するのは無理があったか。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

「ええ、今後ともお願いします」


 頭を下げたオリビアさんに母が笑顔になって頷き返すと、リアーナへ視線を向ける。面識のない大人から視線を向けられて幼いリアーナがビクッと体を震わせた。


「リアーナちゃんについてはどうしましょうか?」

「最初は、この子には寂しい想いをさせてしまいますが、宿で留守番をさせるつもりでいましたが、この家で仕事をすることになると言うのなら、この子にも家事を手伝わせたいと思います。私の手伝いをしていましたので、簡単な家事ならできます」

「それでもいいですけど……リアーナちゃん、学校に行ってみない?」

「学校?」


 リアーナちゃんが首を傾げる。


「うちのクリスですけど、来月――いえ、来週から学校に通うことが決まっているんです。そこへリアーナちゃんも通わせてみるのはどうでしょうか?」


 リアーナちゃんの住んでいた村には学校がなく、街にはあったが一時的に滞在しているだけだったので学校に通わせることなど考えていなかった。

 学校に通えば色々な知識や技術が得られ、将来の役に立つことは間違いない。


「ですが、借金をしている私どもには……」


 当然、学校に通うには入学金などのお金が必要になる。

 オリビアさんの治療の為にほとんどの貯蓄を使い果たし、村で細々と生活していた人間には入学金を用意するのも難しい。現にシルビアを通わせられるような余裕はなかった。


「お金については心配しないで下さい。これもリアーナちゃんに与える仕事だと思って下さい。娘には、あまり仲のいい友達がいないので、リアーナちゃんと一緒の時間を少しでも過ごして欲しいんです。これも私の我が儘です」

「いえ、ありがとうございます。でも、どうして私たちのような見ず知らずの者にここまでしてくれるんですか?」


 俺もオリビアさんに母の手伝いをしてもらって、リアーナちゃんにはその手伝いをしてもらうことまでは考えていた。さすがに学校に通わせることまでは考えていなかったので、母の提案には俺も少々驚いている。


「私たちはこれから家族になるんですから、頼るのも甘えるのも当然のことですよ」

「家族、ですか?」


 まあ、同じ屋根の下に住むなら家族と言えなくもないかな。


「ええ、私の息子とあなたの娘が結婚すれば私たちは実の母と義理の母になります」

「「え?」」


 俺とシルビアが同時に声を上げる。


「さて、今後の話については夕食の時に続きをすることにして部屋に案内することにしましょう。幸い、使っていない部屋はあるので、オリビアさんとリアーナちゃんで一室。シルビアちゃんに一室を使ってもらうことにしましょう。部屋へはクリスに案内させますので、少し休憩して下さい。マルスはここに残って」

「は、はぁ」


 呆然としたままオリビアさんがクリスに案内されて2階へと上がって行く。

 食堂から出て行くと母が早速とばかりに俺へと聞いてくる。


「それで、あの子はマルスの嫁なのかしら? そうだとしたら私は姑ということになるんだけど」

「そういう関係じゃない。たまたま奴隷だった彼女と会って、主人になっただけの関係でしかない」

「でも、今は奴隷契約を解除しているんでしょう?」

「う……」


 奴隷契約を解除することは可能だが、普通は行わない。


「いいわ。マルスの様子を見ていれば彼女を買ったのが惚れたからとか可愛かったからとかではないのは分かるわ。何か事情があったのね」


 さすがは母だ。

 何も事情を説明しなくても分かってくれた。


「あの子も含めてご家族が一緒に住むことに私は反対しないわ。あなたはあなたの好きなようにしなさい。ただ……孫の顔は見たいところね」

「母さん!」


 色々な意味で母には勝てそうにない。


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