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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
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第17話 香辛料

 迷宮での農業を初めて2カ月。

 気候を安定させることができるおかげで色々な物が収穫できるようになって来た。


 中でも最も恩恵を受けていたのがシルビアの育てていたハーブだ。元々趣味として屋敷の庭で栽培していたが、それを迷宮に作った畑に移していた。


 ハーブを育てるうえで最も大変なのが環境の維持だ。

 植物にはそれぞれ適した温度や湿度があり、ハーブのように繊細な植物の場合には細心の注意が必要になる。

 大々的に育てている場所では専用の小屋を作り、そこで育てていることもあるらしい。


 ただし、迷宮を使える俺たちはそんな事をする必要はない。

 常に一定に保たれた環境がハーブを育てる。


 さすがに多くの冒険者が訪れる草原フィールドを自分たちの都合で勝手気ままに調整することはできないが、廃都市フィールドなら身内以外では訪れないから自由自在だ。


「お待たせしました」


 料理をしていたシルビアが鍋を持ってリビングに姿を現す。


 シルビアが育てていたのはハーブだけではない。

 香辛料も育てていた。


 自家製の香辛料を使った料理。

 幸い、香辛料の使い方に関してはメリッサが【調合】について勉強した時に学んでいてくれたおかげで難なく調合することができた。


「初めてなのでちょっと拙いところがありますが、食べてみてください」


 鍋の中に入っていたドロッとしたスープのような物を皿によそったご飯の上に掛けて行く。

 普段から何度も食べている料理だが、香辛料から自分たちで育てた物で食べるのは初めてなので興味をそそられる。


「匂いは……うん、問題ないな」


 グツグツと煮えたぎる鍋から匂いが漂って来る。


「うわ、辛そう」


 同じように皿を出されたアイラが楽しみにしている。

 シルビアが作ったのはカレー。以前に温泉街のフェルエスへ行った時に食べてから気に入って自分でも何度も作っている。


 ただ、カレーは香辛料を何種類も使っているせいで高価になっている。

 辺境では香辛料を育てるのも困難で、迷宮や外に自生している物を採取するには量が足りていないので儲けが出し難いため冒険者にも不人気となっていた。

 だが、こうして自分たちで育てることができるのなら気安く食べられる。


「いただきます」


 カレーライスを口に運ぶ。

 一応、俺が家長であるため俺が最初に食べることになっている。


「……!」


 普段食べているカレーよりも強烈な辛さが口の中に広がる。

 匂いも味も問題ない。


 ただ、気になるところがあるとすれば……


「わたしはカレー大好きよ」


 目の前に置かれたカレーをパクパクと食べるノエル。

 『巫女』時代には、こんな匂いや味の強い料理なんて食べたことがなかったため屋敷に来てから食べた料理のほとんどにはまってしまった。中でもカレーは依存性があるためお気に入りの品だ。


「へ~、美味しいみたいね」

「私たちも食べる」


 アイラとイリスもカレーを口に運ぶ。


「「……!」」


 二人ともようやく気付いたみたいだ。


「「辛っ……!」」


 想像以上の辛さに舌が火傷しそうになっている。

 思わずコップへ手を伸ばして水を飲み干している。


「「ははっ……」」


 対してカレーを作ったシルビアとメリッサは、こうなる事が予め予想できていたのか苦笑いだ。


「実はちょっと香辛料が強かったみたいで辛過ぎたんです」


 途中までは味見もしながら作っていたのだが、少し目を離した隙に辛さが増してしまったとの事。

 だが、作ってしまったものは仕方ない。


「子供たちには食べさせられないですし、頑張って食べましょう」


 作ってしまった者の責任としてシルビアが他の者よりも多くよそう。

 アイラとイリスは一口食べただけで既にギブアップ気味。俺も本当ならギブアップしてしまいたいほど辛い。が、シルビアが頑張ろうとしているのに男の俺が逃げる訳にはいかない。


「あ、これをどうぞ」


 カレーに合う漬物が用意されていた。

 真っ赤な漬物で辛さがさらに刺激されるような気がしたが、カレーと一緒に食べてみると辛さが緩和されていた。


「あと、こっちもどうぞ」


 シルビア特製のお茶。

 刺激物による衝撃を和らげる効果がある。


「おいしい♪」


 唯一、本当に美味しそうに食べているノエルが羨ましい。



 ☆ ☆ ☆



 1時間掛けてどうにか完食できた。

 頑張ったが、ほとんどをノエルが食べている。


「ううっ、体重が……!」


 途中からテーブルの雰囲気を察したノエルが人一倍食べた。

 結果、体重を心配しなければならない事態になってしまった。

 味や辛さは問題にしていなかったが、量は問題視せずにはいられなかった。


「大丈夫。ちょっと太ったぐらいは気にしないから」


 むしろノエルの場合は昔の節制した生活のせいで体が細いくらいだ。少しぐらい太った方がいいように思える。が、それは男の目線から見た時の話。ノエルから睨まれてしまった。

 女性に体重の話題は禁句だ。


「……で、香辛料の方はどうなんだ?」


 話題を逸らす為の本題に切り込む。


「そうですね。今回は促成栽培でしたので品質の方が少し落ちてしまいましたが、迷宮でも十分な栽培が可能だと判明しました」

「そうか」


 次は草原フィールドでも採取が可能なようにしよう。適切な環境条件は分かったので、構造変化のタイミングに合わせて環境も変える。

 そうすればアリスターにも十分な量の香辛料が行き渡るようになる。


「これもアルケイン商会に売ってもらうとしようか」


 残念ながら香辛料の販売ルートなど持っていなかった。

 多少の中抜きがされてしまうが、アルケイン商会に販売を任せてしまった方がいい。


「とはいえ、アルケイン商会でしたら理解していると思いますが、流通量に関しては抑えた方がいいでしょう」


 今のところ南方にあるエルフの里に大部分を頼っている。

 もしも、迷宮で簡単に手に入れられるようにしてしまうとエルフの里からの購入量が減ってしまい大混乱が巻き起こる可能性がある。

 そんな事態は避けたい。


「何事もほどほどがよろしいです」

「分かった」


 迷宮の草原フィールド。

 ちょっと環境を弄って至る所に種類別に香辛料が自生するようにしておけばいいだろう。


「自分たちで消費する分については今後も廃都市フィールドで育ててパラディンゴブリンたちに育てさせることにしましょう」


 残念ながら収穫まではできても乾燥作業については理解させることができなかった。その辺については、暇を見つけて自分たちでやるしかないみたいだ。

 だが、高価な香辛料が自分たちの手で入手できるようになったのは嬉しい。


「これで香辛料の販売利益にも期待ができそうだな」


 元々は自分たちの食生活を少しでも豊かにする為に始めた事だったが今のところは成功していると言っていい。


「あまりやり過ぎるのもいかがなものかと思います」


 メリッサが言っているのは俺たちが死んだ後の事だ。

 当然ながら俺が死ねば迷宮主はいなくなる事になる。すぐにでも迷宮核が新しい主を定めてくれれば問題ないのだが、新しい主が現れなければ香辛料の調整などが一切されないことになる。

 それでは社会のニーズに対応できない。

 迷宮の力に頼った生活は、主がいなくなった後で問題が起こる。


「どうせしばらくはエスタリア王国へ行かないといけないんだから迷宮に構っているような余裕はなくなるさ」


 来月から迷宮で香辛料も得られるように調整して出発しなければならない。

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