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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
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第14話 酒造り

 屋敷でソファに座ってのんびりと読書をしていると廊下を奇妙な物体が浮かんで移動しているのが見えた。

 思わず本を置いて廊下へ出る。

 そこには、魔法で米俵を浮かせたメリッサがいた。


「何をやっているんだ?」

「お米を買って来たのはいいのですが、器具の方を用意していなかったのでシルビアさんからお借りしようと思ったのです」


 米を使って何か作るつもりらしい。

 メリッサは【空間魔法】を使ってあちこち自由に飛び回ることができるので使おうとしている米もどこか遠く離れた場所から格安で手に入れた物なのだろう。


「何を作るつもりなんだ?」


 しばらく時間が空くということで自由に行動していいという風に伝えていた。

 今朝から姿が見えないと思えば米を買い付けに行っていたらしい。

 ……米俵を5つも。


 まるでお手玉のように軽々と浮かばせている光景を見ると本当に重たいのか疑わしくなってくる。


「お酒を作ろうと思います」

「酒?」

「はい。農作業中に発酵させていた時に気付いたのですが、もしかしたらお酒にも利用できるのではないかと思ったのです」


 その為の材料を買って来た。


「ちょっと見せてもらおうか」


 興味が出て来たので同行させてもらう。

 まず、迷宮の地下81階へ転移すると廃墟となっている都市内へ移動する。


「これぐらいでいいですかね」


 手頃な大きさの建物を見つけると杖で壁を叩く。

 次の瞬間、建物の下から眩い光の膜に包まれて建物が新品へと生まれ変わる。とても数秒前まで廃墟だったとは思えない。


「【空間魔法】の一種です。対象の時間を巻き戻す効果があります」


 最初から廃墟として設置されていた建物だが、メリッサの認識次第で新築の状態にまで巻き戻すことができるらしい。

 とても便利な魔法だが、今の魔法だけでメリッサの持つ膨大な魔力の8割近くを消費してしまったようだ。とても他人に真似できるような事ではない。


「これからお酒を作ることを考えれば不衛生なままにする訳にはいきませんから」


 さらに風と火、水の3属性を複合させた魔法によって滅菌させる。


「次に――」


 ドン! と鉄の塊が何もなかった場所に出現する。

 【空間魔法】を利用すれば【道具箱】の真似事など簡単だ。


 杖で鉄の塊を軽く叩く。すると、鉄の塊が液体――スライムのようにウネウネと蠢く粘体の鉄へと変化する。そのまま形を大きなコップのような物に変えてしまった。

 相変わらず見事なまでの精密操作だ。


「さすがに菌まで作ることはできないので実家の伝手を利用して貰って来ました」


 現在、メリッサの実家は屋敷の近くにある店で酒の販売を行っている。

 もちろん仕入れ先に酒蔵がある。

 そこから酵母菌を貰って来たらしい。


 予め用意しておいた容器にお米と酵母菌を入れて蓋をする。

 通常なら密閉状態にしてから1日に1回ぐらい掻き混ぜて数日待つ必要がある。


 俺の知識はその程度しかない。

 それでも、目の前の光景がおかしい事は理解できる。


「……もう少しでしょうか?」


 蓋を閉めてから数秒しか経っていないにも関わらずメリッサが蓋を開けて中の状態を確認していた。

 普通は何も変化など起きているはずがない。

 だが、完全ではないものの変化が起きているらしい。


「まさか……」

「数日も待っている余裕はないので魔法を使わせてもらいました」

「またか」


 肥料を作った時と同じように密閉された空間内の時間を速め、発酵に必要な時間を短縮させていた。

 再度、蓋を閉めて魔法を使用する。


「どうやら良さそうですね」


 メリッサが満足したようなので覗かせてもらうと白く濁った液体のようにドロドロになっていた。


「これが醪らしいですね」


 容器から離れる。

 安全を確認したところでメリッサが指をパチンと鳴らす。


「……!」


 容器から強い力を感じて振り返る。

 重力によって圧力が掛けられており、醪を絞っているようだ。


 メリッサが魔法で作った容器は二重の構造になっていて上の方で発酵や濾過がされるようになっている。

 そして、濾過された液体が下の方に溜まる。


 気付けば濾過された液体――酒が溜まっていた。


 と言ってもコップ1杯程度の量。

 しかも白く濁っている。

 どう見ても成功したようには見えない。


「まずは試しに飲んでみます」


 まさか主である俺に試飲させる訳にもいかず、メリッサが飲み干す。


「……失敗ですね」


 味が弱く、アルコールとしては不足していた。

 気に入らないメリッサは再度チャレンジする。


「まだ、やるのか?」

「お父様から簡単にお酒の作り方は学んでいましたから試してみたのですが……」


 魔法を使えば時間を短縮させることができる。


「私は味にはそこまで拘りがないので飲めればそれでいいのですが、今のままでは飲むのも難しいですから」


 俺たちの中で一番酒に強いメリッサ。

 あっという間に酔ってしまう俺と違ってメリッサの場合はどれだけ飲んでも酔うことがない。

 生まれついての体質なのでこればかりは仕方ない。


 ただ、普段から飲んでいるメリッサは量に不満を持っていた。

 味に拘りはないみたいなので量を求めているらしい。


「店で買って来た方が早いんじゃないか?」


 十分な報酬は得ているので買って来た方が早い。


「何を言っているのですか。私が本当に満足する量を用意しようと思うのなら水と同じくらいの量が必要になりますよ」

「え~……」


 今まですら我慢していたらしい。


 結局、3度チャレンジしても満足の行く結果にならなかっため、その日は終了となった。



 ☆ ☆ ☆



「できました!」


 畑でパラディンゴブリンたちの様子を確認しているとメリッサが駆け込んで来た。

 手には透き通った液体の入ったコップが握られている。


「まさか……」


 酒の試作から5日が経過している。

 どこへ行っていたのか知らないが、食事時以外は姿を見せていないと思ったら酒造りにずっと没頭していたらしい。


「見て下さい!」


 興奮した様子のメリッサが酒の入ったコップを近付けてくる。


「う……!」


 思わず顔を反らしてしまった。

 近くにいたパラディンゴブリンたちも鼻を押さえている。人間よりも魔物の方が嗅覚に優れているため匂いにやられてしまったのだろう。


 これはマズい……


「おい、ちょっと近付けただけでアルコールの強烈な臭いが伝わって来たぞ」

「はい。ここまで強くするのに苦労しました」


 酒に強いメリッサはとにかく度数の高い酒を求めた。

 結果、納得の行く物が出来上がった。


「とはいえ、これを売りに出すのは難しいかと思われます」

「だろうな」


 蟒蛇でもなければ飲めないレベルだ。


「いえ、かなり繊細な魔法操作を要求されてしまったので大量生産には向かない品物になってしまったのです」


 精々が家族で飲む分だけ。

 まあ、自分たちが楽しむには問題ないだろう。

 もっとも酒を飲めない俺では楽しめないが。


「では、飲んでみてください」

「え?」


 俺が酒を飲めないことをメリッサは知っている。

 だが、今は満足の行く飲み物ができたことで興奮しているせいか、俺に飲んで欲しいという欲求が前に出てしまっている。


 正直言って匂いだけで飲めば倒れてしまうことが分かる。

 けれども、目の前で飲んでくれることを楽しみにしているメリッサの笑顔を見ていると無碍に扱うことはできない。


 ……はぁ。


「いただきます」


 コップを受け取って一気に口の中へ入れる。


 ――バタン!


「え、ど、どうしましたか!?」


 そこで意識が完全に途切れてしまった。

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