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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
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第11話 投資

「という訳で、買い取って下さい!」


 アルケイン商会の元会長だった祖父の執務室で頭を下げる。

 既に俺の叔父でもある彼の息子に会長の座を譲り渡してしまった祖父は基本的に暇ではあるのだが、若い頃に構築した人脈を商会の為に役立てていた。


 祖父の前にはマヨネーズの入った瓶が置かれている。

 試供品として持って来た物だ。


「大量生産したマヨネーズの販売か」


 道具箱にでも入れておけば長期間に渡って使用することができるのだが、それでは大量生産できる体制を確立させた意味がなくなってしまう。

 そこで、アルケイン商会を通して販売する事を思い付いた。


 シルビアには既に考えてある、などと言ったが完全な思い付きだ。


「どうでしょうか?」


 恐る恐る尋ねてみる。

 もちろん販売を委託するのだからアルケイン商会にも利益を渡すつもりでいる。

 最初は売れればアルケイン商会の利益にもなるので、すぐに食い付いて来るかと思っていたが祖父の反応が微妙だ。


「売れませんか?」


 手で掬って舐める。


「いや、味に関しては問題ない。街で売られている物と比べても遜色ない。これなら売り出せば間違いなく売れるだろう」


 マヨネーズは人気商品だ。

 中毒ではないが依存症にも似た効果があって売りに出せば爆発的に売れる。しかし、作成の手間を考えると大量生産が難しく、辺境まで運んでくるのが非常に難しい代物なため高騰してしまっている。

 それでも買ってしまう人がいるため需要は高い。


「何か問題でも?」

「質問がある。どうやって大量生産している?」


 その質問が来ることは予測していた。

 ……俺ではなく、メリッサがだけど。


「以前関わったレンゲン一族については覚えていますか?」

「もちろん覚えている」


 祖父も自分の孫娘が犠牲になってしまうところだったので彼らの事を思い出すだけで怒りに震えている。


「そのレンゲン一族ですけど、今はある場所で監禁しています」

「ほう……」


 迷宮である事は言わない。

 ただし、監禁している、という事実から祖父は大量生産商品の出処について予想する。


 捕らえた彼らに作らせている。

 俺も敢えて肯定しない。

 勘違いしてくれたままの方がいい。


「それに併せて大きな問題がある。大量生産したマヨネーズを売り、その利益を得る。利益を上げる為には、相応の経費が必要となっているはずなのだが、その経費はどこへ流れているんだ?」

「えっと……」


 思わず答えに詰まってしまった。

 迷宮の魔力を消費してオークやゴブリンを新たに労働力として生み出している。他にもマヨネーズを作る為に必要不可欠な調理器具に材料。

 それらは経費として掛かっているもののまとまった額が必要となるのは初期費用のみ。魔物たちには給料が要らず、材料費もそこまで負担になっている訳ではない。


 そして、勘違いさせたレンゲン一族を利用した生産。

 これも彼らを奴隷のように扱き使っているのなら最低限の費用だけで済ますことができる。なにせ給料を払う必要のない相手だ。


「そこが問題なんだ」

「え……」

「経済というものは、お金を循環させることによって正常な働きをする。だが、今の状態のまま経費がかからないとお前の懐にかなりの利益が貯まってしまうことになる」


 経費を発生させずに利益だけを出してしまうと経済が停滞してしまう。

 何らかの形で使用してこそ正常に働いていると言える。


 要は、溜め込むのではなく使え、と言っている。


「とはいえ、生活費ぐらいしか使い道がないんですよね」


 冒険者なら宿代や日々の生活費、それから魔物と戦う為に必要な装備品や消耗品といった物でお金を必要とする。

 ところが、俺たちの場合は屋敷を持っているから旅先ぐらいでしか宿代を必要としないし、装備品に関しては迷宮から生み出された物がある。消耗品もそこまで負担になっている訳ではない。

 従って大家族なので生活費が多く掛かるぐらいだ。


「使い道に困るのは理解できる」


 祖父はウチの経済事情に関しても知っているので理解を示してくれた。


「だったら投資をしてみるのはどうだ?」

「投資?」


 事業の立ち上げなどで大金を必要としている人に貸し、後から少しずつでもいいから利子をつけて返してもらう。

 俺の手元に溜め込むよりはよほどいい使い道かもしれない。


「ただ、大金を必要としている人なんていますか?」


 冒険者なら日々お金を必要としている。

 だが、貸したお金返って来る保証どころか生きて帰って来る保証すらない。そんな人に大金を渡すような真似はしたくない。

 投資をするなら稼げる保証のある人でなければならない。


「それなら心当たりがある」

「本当ですか!?」

「アリスター伯爵だ」


 アリスター伯爵。

 つまり、俺たちが住んでいるアリスターを支配している領主家。


「貴族なら大金を保有しているのではないですか?」

「確かに平民とは比べるまでもない資産を所有しているし、開拓計画の為にかなりの大金を溜め込んでいるとは聞いている」


 俺の故郷であるデイトン村の先にある森を開拓する計画がある。

 開拓には大金が必要になる。開拓に必要な道具や資材の買い付け、さらには開拓作業に従事する人々を雇う資金も必要になる。開拓している最中は指示を出したアリスター家が彼らに給料を出して生活を保障しなければならない。


 開拓が成功すれば莫大な利益が発生する。

 しかし、開拓は失敗する場合の方が多く、その時には大きな損失を生み出してしまう。現に同じ場所で過去に開拓を試みた際には失敗してしまい、無視できない損失が発生してしまっている。


「開拓は資金があればあるほどいい。その方が成功率を上げられるからな」


 大金があればそれだけ優秀な人を雇える。多くの資材を購入することもできる。

 だが、失敗する可能性があるのに大金を出せる人は少ない。


「もちろん成功した際には何かしらの利権を要求する」


 大金を出されている手前、出された方も無碍にすることができない。

 なるほど。たしかにいい使い道かもしれない。


「元々は別の方法で貢献して携わらせてもらおうと思っていましたが、そういうことなら望んでいる事があります」

「ほう。金銭的な要求、ではないんだな」

「はい。可能なら開拓した場所にアルフを幹部クラスでもいいので関わることができるよう要求するつもりです」


 まだ生まれたばかりのアルフだが、親として将来の事はある程度考えておかなければならない。強制をするつもりはない。あくまでも選択肢の一つとして用意するだけ。もしも、他にやりたい事があるならそっちを優先させるだけだ。


「開拓はこれから始まります。そして、開拓には最低でも十数年は必要になる計画でいるはずです」


 それだけあの森の開拓は困難であるため長期的な計画な必要になっている。

 最低でも十数年。その頃には、アルフも成人しているはずなので開拓された後の事業に加えるつもりだ。


 元々はエルマーたちを使ってコネを作るつもりでいたけど、開拓に必要な資金を出した、という方がアリスター家への印象も強くなるはずだ。

 もちろん円滑に事業を進める為にもエルマーたちには協力してもらうつもりでいる。


「あの子たちはそういう意図があって保護したのか?」

「偶然ですよ。たまたま俺たちの庇護下にいるので働いて欲しいと思っているだけです」

「いいだろう」


 資金の使い道も決まった。

 具体的な販売方法に関しては祖父に任せることにする。商売に関しては全くの素人である俺が口を出したところで失敗するのは目に見えている。

 それなら慣れている祖父に任せた方がいい。

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