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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
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第10話 マヨネーズ

 迷宮の地下81階。

 現在、廃都市フィールドの外には畑が作られているが、内にある廃都市にも改造を施していた。

 とはいえ、廃墟になっていた建物を使えるようにし、清潔な状態を保てるように魔法を施しただけだ。


「誰かいるの?」


 まさか、ここへ案内されるとは思っていなかったアイラが建物の中から何者かの気配を感じ取っていた。


 廃都市フィールドの廃都市内には様々な罠が仕掛けられており、非常に危険な場所となっている。

 そんな場所に人がいるとは到底信じられない。

 何よりも深過ぎて外部の人間は入れない。


「問題ない。ここにいるのは人間じゃないからな」

「人間じゃ、ない……?」


 アイラよりも強力な探知能力を持っているシルビアは建物の中にいるのが何者なのか気付いている。


「とにかく入ってみましょう」

「あ、ちょっと……」


 中がどうなっているのか気付いているシルビアが躊躇なく扉を開ける。


「オ、オーク……!」

「正解だ」


 建物の中にいたのはオーク。

 人間と近い容姿をした豚顔の魔物。人間よりも強い腕力を持ち、人々を掴むと貪り尽くしてしまう。


「だけど、ここにいる魔物たちは俺の支配下にある」


 決して主を傷付けるような真似をしない。

 もちろん眷属も同様の扱いを受ける。


「彼らには屈強な肉体を活かして肉体労働に従事してもらっている」


 建物の中にいるオークたちは中央にある大きなボールの周囲に何体もおり、手に棒を持って必死に掻き混ぜていた。


「まさか作らせているの!?」

「正解だ」


 と目の前の光景を見てイリスが驚いていた。

 人々に危害を加える魔物を狩る冒険者としては信じられない。


「ゴブゴブッ!」

「お、ちょうどいいところに持って来てくれた」


 建物の奥から今度はゴブリンが姿を現した。

 ゴブリンの手には白いドロッとした液体の入った瓶がある。


「舐めてみてくれ」


 俺が味見するよりもシルビアが味見した方が確実だ。


「では――」


 瓶の蓋を開いて人差し指で掬って舐める。


「……ちょっと酸味が足りませんね」

「そうか」


 味覚に自信がある訳ではないので落ち込んだりしない。

 が、実際に作ってくれたオークたちが落ち込んでいる。


「大丈夫だ。ここまで形にしたんだから、ここからはシルビアに頼ることにしよう」

「……!」


 オークのみんなも頷いて作業に戻ってくれる。

 酸味が足りないというのなら酢をもう少し多く足せばいいだろうか。

 大きなボールに酢を入れる。適量が分からないので少しずつ調整しながら足して行くしかない。


「あ、いえ……そのぐらいでいいです」


 結局はシルビアの指示で完成させることになった。

 後はオークたちに掻き混ぜてもらうことにしよう。


「やっぱり無理でしたか?」

「単純作業ならさせられる。けど、味の調整なんてオークやゴブリンレベルの魔物には無理だ。予め量を決めたうえで作らせるしかないな」


 調整が必要になれば今のように人の手で加える必要がある。

 とはいえ、適量を決めて掻き混ぜさせるだけならオークでも十分だ。


「ねぇ……」


 恐る恐るノエルが尋ねて来る。


「オークたちが作っているのって……」

「そうだ。マヨネーズだ」

「やっぱり……」


 ボールの中では卵黄、酢、塩、胡椒を混ぜ合わせていた。

 別にある大きな容器からは蛇口のような注ぎ口があり、油が糸のようになって少量ずつ投入されていた。

 マヨネーズの作成には根気よく攪拌していく必要がある。


 この作業がとにかく大変だ。

 近くでシルビアがチョコやケーキを作るところを見て参考にさせてもらったが、マヨネーズの場合はさらに大変だ。


「だから俺は自分で攪拌させる事を諦めたんだけどな」

「魔法でやるっていうのは?」


 残念ながら、それは不可能だった。


「マヨネーズの場合はチョコやスポンジ生地の時とは違って油が大量に入っています。そのせいか風で掻き混ぜようとしても上手く攪拌されないのです」


 その辺は目下検討中だと言われた。

 そもそも料理に魔法を使う事そのものが贅沢だったため普通は考えない。

 今できる方法では自力でやるしかなかった。


 ただし……


「自分でやるとか凄く面倒臭いだろ」

『……』

「あ、あれ……?」


 5人から冷たい視線が向けられた。

 マヨネーズ作りに関しては俺が自分から提案した。ただ、どうせなら消費量の多いマヨネーズなので大量生産を目指したい。


 で、考えに考え抜いた方法が――


「複数のオークによる大量生産ですか」

「そう!」


 簡単なように見えるかもしれないが、これがかなり大変だった。

 迷宮の魔物は、迷宮主の命令を聞くようになっている。ただし、どこまで詳細な命令に従ってくれるかは魔物の知能による。

 今も迷宮の地下40階でのんびりとした時間を過ごしている雷獣たちのように会話ができるほど知能が高ければこちらの意図を汲むような行動にも出てくれる。


 が、オークやゴブリンのように本能で生きているような魔物が相手では単純な命令しか聞いてくれない。

 〇〇を回収しろ。

 〇〇を襲え。

 こんな感じの命令だ。


 何よりも本能の方が強いため、食材を与えて料理を作らせようとしたら途中で食欲に負けて全てを貪り尽くしてしまう事になる。

 到底、料理などさせられなかった。

 そもそもが迷宮に侵入して来た冒険者を迎撃する為の魔物なのだから仕方ない。


 だからこそ頑張って本能を抑えるよう訓練した。


「こいつらを調教するのは大変なんだからな」


 当時の事を思い出したのかオークがウンウンと頷いている。

 部屋の隅の方を見ればゴブリンたちも頷いている。


「オークたちは攪拌。では、ゴブリンたちには何をさせているのですか?」

「こいつらは雑用だ」


 中央にあるボールは特別製だ。

 下部にあるレバーを引くとマヨネーズが流れ出て来るようになっており、手先が器用なゴブリンが出来上がったマヨネーズを回収している。


「さっき頷いていたけど、お前たちには同意する資格がないからな」


 そんな!? とでも言いたそうな表情をするゴブリン。

 ゴブリンたちは食欲に対して完全に打ち勝つことができなかったせいで我慢できなくなった時は味見してしまっている。

 残念ながら褒める訳にはいかない。


「お前ら! これが量産できれば大金が手に入る。今後も一生懸命作るぞ」

『がぅ!」』


 魔物たちが叫んでから作業に戻る。

 マヨネーズは非常に人気な調味料なので大量生産ができるようになれば間違いなく大金が手に入ることになる。


「それはいいのですが、知能の高い魔物は喚べなかったのですか?」

「そっちは魔力の消費が痛い。労働力にするには勿体なかったんだ」


 オークの中にも亜種があり、通常のオークと同じくらいの腕力と体力があって知能も非常に高い魔物もいないことはない。

 だが、1体当たりに数百万もする。

 そんな魔物を簡単に喚び出す訳にはいかない。


「シルビアとしてはどうだ?」

「先ほどの問題点が改善されていれば大丈夫だと思います」


 そもそも市販されているレベルには十分に達している。

 後は細かく調整して行くだけだ。


「ですが、こんな大量に作ってどうするつもりですか?」


 当初の考えでは自分たちの食生活を豊かにするのが目的だった。

 他には、色々な食材が手に入ればシルビアの料理にバリエーションが増えてストレスの方も程よく発散してくれる。

 しかし、目の前で作られている量は自分たちだけで使い切れる量ではない。


「大丈夫。ちゃんと処理する方法は考えてあるから」

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