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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
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第9話 ケーキ

 卵が手に入ったことでシルビアが自家製のお菓子作りに挑戦するようになった。


 他に必要になったのが小麦粉とバター。

 小麦粉については自然豊かな辺境であるため小麦を生産している農家がいくつもあったため比較的簡単に手に入れることができる。むしろ輸入に頼っている王都よりも安価に手に入れることができる。


 バターは残念ながら高い。辺境では魔物が多く出没するため家畜の放し飼いが難しく、出来たとしても狭い厩舎に押し込めての飼育になるうえ、施設の警備などでお金が掛かるため高価になっている。

 他の地域で買って来た方が安いぐらいだ。


「買って来ました」


 出掛けていたメリッサが戻って来る。

 キッチンへ赴くと収納リングから容器をいくつも取り出す。

 中身は、シルビアが必要としていたバターだ。


「ありがとう」

「私も楽しみですからこの程度の買い出しは構いませんよ」


 物価に違いがあるのなら安い場所で買えばいい。

 空間魔法によって国の西部にある農場で大量のミルクを買い付けて来たメリッサ。馬鹿みたいな量の魔力と【空間魔法】の適性を持っているメリッサがいるからこそできる芸当だ。


「じゃあ、使わせてもらうわね」


 ボウルの中に卵と砂糖を入れて掻き混ぜる。混ぜる作業は、この間のチョコと同じようにメリッサが魔法で短縮させる。


「あ、けっこう泡立って来ましたね」


 メリッサもさらに器用になったらしく風で巻き上げて状態を確認している。


「どうですか?」

「いいんじゃない」


 シルビアからも了承が得られたので、事前に湯煎して溶かしておいたバターにミルクを加えたものを入れて行く。

 そこへバニラを混ぜる。このバニラも迷宮の環境を整えて自生するようにしておいたため原価は全く掛かっていない。

 小麦粉に重曹を加え篩いながら混ぜ合わせる。


「これで生地が完成ね」


 型に流し込んでオーブンに入れる。


「むっ……」


 オーブンの前に立ったメリッサが唸る。

 今の彼女は、炎の調整に苦戦していた。微妙な調整をすることによって焼き上がり時間を短縮している。


「もう、大丈夫よ」


 生地が十分に膨らんだところでシルビアが止めた。


「できました」


 焼き上がったスポンジケーキを俺の前に持って来る。


「まあ、ここまでは今までにも何度か作ったことがあるし、問題ないよな」


 家族の誰かが誕生日の度にシルビアはケーキを作って振る舞っていた。

 ただ、その時は朝から色々と準備をしながら作っている。今日のように魔法で作成時間を短縮するようなやり方はしたことがない。


 ケーキの作成はとにかく時間が掛かる。

 アリスターにもあるケーキ店では専用のオーブンを用意したり、長年の経験から短時間で作れる方法を編み出したり、事前に複数人で作ったりしているおかげで需要を満たせる大量のケーキを用意することができる。


 今回、似たような事に挑戦した。

 結果は上々。


 最後に用意しておいたホイップクリームを塗る。


「後はこれ」


 チョコレートをプレート状にした物をケーキの上に乗せる。

 プレートには『ありがとう』と描かれている。

 特に意味はないが、何も描かれていないと味気ないという事でシルビアが描いた。


「あ、美味しそうな物発見」

「あぃ!」


 シエラを抱いたアイラがキッチンに顔を出した。

 今日は朝からシエラと一緒に遊んでいたはずなのだが、甘い匂いに釣られて顔を出してしまったらしい。


「違うわよ。気付いたのはシエラの方よ」


 昨日と同じように甘いに匂いに気付いたシエラは自力でキッチンの方へ来ようとしていた。

 赤ん坊が独りで動き回るのは危険、ということでアイラがここまで連れて来ていた。


「なになに?」

「美味しそう」


 気付けば出掛けていたノエルとイリスもキッチンに来てしまった。


「本当はもう少し冷やしてから食べさせてあげたいんだけど……」


 焼き立ての生地では赤ん坊には危険だ。

 そんな想いも赤ん坊のシエラには伝わっていないらしく、シルビアの顔を見てもらえないと思ったのか不満を露わにしている。

 そんな顔に抵抗できるはずがない。


 メリッサが冷気で冷たくする。ちょうどいい温度まで冷やされたことでシエラでも食べられるようになった。


「はい」


 一口……一欠片サイズのケーキをフォークの上に乗せてシエラの口元へ運ぶ。

 パクッと食い付いてしまう。昨日のチョコレートと同じように甘くて美味しい食べ物だと理解しているため躊躇がない。


「あぃ!」

「そう、美味しかった」


 満足そうな笑みを浮かべてニコニコしている。


「あたしにもちょうだい」

「いいけど」


 シエラと同じようにアイラの口にもケーキを一口分運ぶ。


「うん、美味しいじゃない」


 アイラからも満足そうな評価を頂けた。

 昔、あちこちを旅していた時には報酬が手に入ったら美味しい物を食べてストレスを発散させるようにしていた。そのせいか味には煩かった。


「これを量産できるのよね」

「それでも手間は掛かりますので限界があります」


 とはいえ自分たちで量産できるのは魅力的だ。

 それに同じ要領でクッキーやチョコレートも用意できる。

 料理が得意なシルビアはお菓子作りにも妥協しないから材料さえ手に入れば次から次へと作ってしまう。


「これでお店を出すんでしょ」

「将来、だけどな」


 今回の試作に関しては将来への布石だった。

 冒険者ができるのは20代や30代が限界、40代以降もできなくはないが引退後の事を考えた活動になるし、肉体のピークはとっくに過ぎているので若い頃のような無茶はできなくなっている。

 というよりも一定以上に稼いだ冒険者は引退後の事を考えるようになる。

 俺たちのようにAランクにまでなれば引退後の事を考えてもおかしくない。

 もっとも、若いという事を考慮すれば早過ぎる話だ。


 とはいえ、40歳になる頃にはアルフは20歳を過ぎているはずだが、これから生まれて来る子供たちを育てる事を考えなければならない。

 従って安定した収入が必要になる。


 そこで考えた方法が自家製のお菓子を売る、もしくは喫茶店のような店を開く方法だった。

 材料は迷宮から採ってくれば費用を限りなく抑えることができる。お店を開くには店舗を用意するのにお金が掛かるが、開店資金に必要な資金は既に冒険で稼いでいる。


 迷宮があるおかげで収入には困らないが、お金を稼ぐ手段がなければ周囲の人々から不審に思われてしまう。

 試しにチャレンジしてみたが、問題なさそうだ。


「まあ、将来的な話だ。しばらくは冒険者として稼いだ方が実入りがいいんだよ」

「その時はあたしたちもウェイトレスをしてあげるわね」

「期待せずにいるよ」


 その頃にはアイラたちも30代や40代になっている。

 迷宮が近くにあり、辺境で魔物が多く出没するおかげで冒険者が多い。必然的に若い男も多くなっているアリスターでそんな年齢の女性によるウェイトレスがどれだけ需要があるのか……


「斬るわよ」

「おっと」


 考えている事が筒抜けになってしまったらしく殺気が飛ばされる。

 シエラを抱いていたおかげで本当に斬られるようなことはなかった。


「わたしはやりたいな」


 ノエルはウェイトレスの仕事に想いを馳せていた。


 反面、イリスは接客の方は得意ではないので面白くなさそうな顔をしている。店を本当に開くことになったら彼女には裏方の仕事を任せた方がいいかもしれない。


「で、あんたの方はどうなの?」


 俺も個人的に食品関係の研究をしていた。

 ようやく大量生産の形が出来上がったところなのでちょうどいいだろう。


「アレの大量生産には成功した。ちょっと味見してみるか?」

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